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002 海へ
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大無海岸は今日も大盛況。ビーチにはパラソルが並ぶ。色とりどりの金魚の様な可愛い水着を着た女の子達、日焼けした男の子達で一杯だ。
夏休み真っ最中で花火大会も一週間後に迫っているので、ナンパなどで新しい彼氏・彼女をゲットしようと勤しんでいる輩は多い。
羽目を外すせいか、貸し出しのボートで入ってはいけない区域や危ない遊び方をして間違って溺れてしまう人達もいる。私達ライフセーバーの出番がなければいいのだけれども。
そうではなくてもこの大無海岸は所々突然海が深くなり、流れが変わる場所がある。何年かに一度は行方不明になる人もいて油断のならない海水浴場なのだ。そこで、私達ライフセーバーも常駐している。
「休憩終わりか? お帰り。何だニヤニヤして。休憩中何か良い事あったか?」
大垣先輩という筋肉ムキムキのリーダーが、監視である高椅子に座っている。上から真っ黒に日焼けした頬に白い歯を煌めかせ、眩しい太陽をバックに私と遙ちゃんに声をかけてきた。
「なーんにも良い事なんてないですけれども。ニヤニヤしてませんよ、ニコニコって言ってくださいよ! 笑っている方がいいでしょ? 怒り顔のライフセーバーなんて怖いだけだし」
考えれば考えるほど惨めになっていく。心の触れたくない奥深くの闇に体が沈んでいくのを止めなければ。いつもの私ではいられなくなる。だから無理して笑っていなくては。
そう思う度に心が軋むけれどもどうしようもない。どれほど耐えたらこの辛さはなくなるだろうか。遙ちゃんが言う様に、お姉ちゃんと秋の二人を責めれば消えるのかな。どうしていいのか分からない今は、無理にでもこの気持ちに蓋をしなくてはならない。
「あはは。悪かった悪かった。あっ、またあいつら~! あそこはボートで出かけるのはダメだって午前中指摘したばっかりだってのに!」
双眼鏡を覗きながら、白い歯をむき出しにして大垣先輩は溜め息と共に強い力で呟いた。目視でも、沖の方まで出ている四人のカップルが乗ったゴムボートが見える。
ボートの上でイチャイチャしていたから沖まで出た事に気が付かなかったと、午前中は言っていたけれども。怖がる彼女達をからかうためにやっているフシがあると、大垣先輩は言っていた。
午前中大分お灸を据えたはずなのに結局同じ遊びをして危ない事になっている。あの辺りはよく人が行方不明になるポイントだ。数年前、行方不明なった人も確か同じ辺りだったと聞いている。
「あっホントだ。あそこはボートでも危ないからダメだって教えたばっかりなのに。私、夏見と行って来ますね」
遙ちゃんに促され、ボートで随分と遠くまで行ってしまったカップル達に向かって注意をするために沖まで出ようとした。
だが私の目に映ったのはそのボートの隣で飛沫を上げて溺れている一人の女性だった。やたら白い腕が、深い海を映し出している海の表層をたたいているのが分かる。
顔の細かい造形まで認識できないが女性の様に見える。とうてい声が聞こえる距離ではないはずなのに、私にはハッキリと『助けて』と聞こえた気がした。
「大垣先輩、あそこで溺れています! 私達そっちに行きます! 遙ちゃん行くよ!」
『助けて』その声に反応する様に私は熱くなった砂浜を蹴った。
近くの救助用の浮き輪を手にすると、彼女に向かって一直線に海に入っていく。
「えっ? 山田。何を言っているんだ?」
大垣先輩が少し驚いた様な声を上げていた様な気がする。
「夏見! 待ってよ! 溺れている人なんて何処に?」
遙ちゃんが大きな声を上げながら私を追いかけているのが分かる。私の体は勝手に動いていた。
「何処ですか? 大垣先輩。私には溺れてる人なんて見えないんですけれども」
「ああ俺にも見えない。何処なんだ?!」
遙と大垣はボート周辺に目をこらしてみるが、溺れている人を見つけられず焦っていた。
夏見以外に溺れている人が見えている事はなかったのだ。
そして、今後誰もその事を知る事はなかった。
夏休み真っ最中で花火大会も一週間後に迫っているので、ナンパなどで新しい彼氏・彼女をゲットしようと勤しんでいる輩は多い。
羽目を外すせいか、貸し出しのボートで入ってはいけない区域や危ない遊び方をして間違って溺れてしまう人達もいる。私達ライフセーバーの出番がなければいいのだけれども。
そうではなくてもこの大無海岸は所々突然海が深くなり、流れが変わる場所がある。何年かに一度は行方不明になる人もいて油断のならない海水浴場なのだ。そこで、私達ライフセーバーも常駐している。
「休憩終わりか? お帰り。何だニヤニヤして。休憩中何か良い事あったか?」
大垣先輩という筋肉ムキムキのリーダーが、監視である高椅子に座っている。上から真っ黒に日焼けした頬に白い歯を煌めかせ、眩しい太陽をバックに私と遙ちゃんに声をかけてきた。
「なーんにも良い事なんてないですけれども。ニヤニヤしてませんよ、ニコニコって言ってくださいよ! 笑っている方がいいでしょ? 怒り顔のライフセーバーなんて怖いだけだし」
考えれば考えるほど惨めになっていく。心の触れたくない奥深くの闇に体が沈んでいくのを止めなければ。いつもの私ではいられなくなる。だから無理して笑っていなくては。
そう思う度に心が軋むけれどもどうしようもない。どれほど耐えたらこの辛さはなくなるだろうか。遙ちゃんが言う様に、お姉ちゃんと秋の二人を責めれば消えるのかな。どうしていいのか分からない今は、無理にでもこの気持ちに蓋をしなくてはならない。
「あはは。悪かった悪かった。あっ、またあいつら~! あそこはボートで出かけるのはダメだって午前中指摘したばっかりだってのに!」
双眼鏡を覗きながら、白い歯をむき出しにして大垣先輩は溜め息と共に強い力で呟いた。目視でも、沖の方まで出ている四人のカップルが乗ったゴムボートが見える。
ボートの上でイチャイチャしていたから沖まで出た事に気が付かなかったと、午前中は言っていたけれども。怖がる彼女達をからかうためにやっているフシがあると、大垣先輩は言っていた。
午前中大分お灸を据えたはずなのに結局同じ遊びをして危ない事になっている。あの辺りはよく人が行方不明になるポイントだ。数年前、行方不明なった人も確か同じ辺りだったと聞いている。
「あっホントだ。あそこはボートでも危ないからダメだって教えたばっかりなのに。私、夏見と行って来ますね」
遙ちゃんに促され、ボートで随分と遠くまで行ってしまったカップル達に向かって注意をするために沖まで出ようとした。
だが私の目に映ったのはそのボートの隣で飛沫を上げて溺れている一人の女性だった。やたら白い腕が、深い海を映し出している海の表層をたたいているのが分かる。
顔の細かい造形まで認識できないが女性の様に見える。とうてい声が聞こえる距離ではないはずなのに、私にはハッキリと『助けて』と聞こえた気がした。
「大垣先輩、あそこで溺れています! 私達そっちに行きます! 遙ちゃん行くよ!」
『助けて』その声に反応する様に私は熱くなった砂浜を蹴った。
近くの救助用の浮き輪を手にすると、彼女に向かって一直線に海に入っていく。
「えっ? 山田。何を言っているんだ?」
大垣先輩が少し驚いた様な声を上げていた様な気がする。
「夏見! 待ってよ! 溺れている人なんて何処に?」
遙ちゃんが大きな声を上げながら私を追いかけているのが分かる。私の体は勝手に動いていた。
「何処ですか? 大垣先輩。私には溺れてる人なんて見えないんですけれども」
「ああ俺にも見えない。何処なんだ?!」
遙と大垣はボート周辺に目をこらしてみるが、溺れている人を見つけられず焦っていた。
夏見以外に溺れている人が見えている事はなかったのだ。
そして、今後誰もその事を知る事はなかった。
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