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Case:岡本 10
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露天風呂から上がると豪華な料理が待っていた。お魚を中心とした食事はどの料理も美味しくて一口頬張るごとに目を輝かせてしまう。更に聡司は私に少しの日本酒を勧めてくれる。自分はお酒が飲めないのに私だけいいのだろうかと思ったけど、にっこり微笑む聡司に進められるがまま杯を受け取った。
もちろんほんの少しだけだったけど料理と見事に合うお酒に私はほっぺたが落ちるかと思った。食事の後は再び聡司と一緒に露天風呂へ入りゆっくりと日頃の疲れをほぐした。
そして今、二つ並んで敷かれた布団の上で二人寄り添い窓の外を無言で見つめていた。
◇◆◇
夜になった空。近くにあるビジネスビル群の灯りも随分と少なくなっていた。
一瞬強く吹く風が冬を知らせている。赤い紅葉がハラハラと風に揺れて散ってゆく。そんな様を二人無言で見つめていた。
夜になると極端に気温が下がる。部屋の中も少しずつ冷たい空気が流れる。だけど、二人で寄り添って体温を分け合えばそんな事は気にならない。
「あったかい」
「僕が?」
「うん」
「涼音だってあったかいよ」
静寂に包まれた部屋の中で私達の会話が小さく響いた。
特に視線を合わせるわけでもなく手を握るわけでもない。私は聡司の身体に寄りかかるだけだ。浴衣越しに聡司の心音が聞こえる。
秋の夜はお風呂から出て時間が経つと、足の指から手の指まで冷たくなるのに今日は違う。露天風呂と少し飲んだ日本酒のせいなのかいつまでも温かいままでいられる。崩した足の方向を少し変えると敷いた布団の間で衣擦れがおこった。畳の上に敷かれた布団はふかふかで上等なものだ。畳の香りもいい香り。癒やされる香りだ。
そういえば布団で眠るのは慰安旅行以来かも。私は慰安旅行でおこった出来事を思い出す。私達三人の全ての始まりだ。あの時流されたとはいえこんな風になるとは三人とも考えてはいなかっただろう。
私は数ヶ月前の事を思い出し思わず口角を上げて笑ってしまった。もちろんそれを聡司が見逃すはずもなく。
「思い出しました?」
「え」
思わず聡司を見上げると、私の顔を見つめながら聡司が笑っていた。眼鏡の奥の瞳がスッと細められる。
「慰安旅行の事」
「う、ん……」
思い出したのは会社の皆がバスで雑談やゲームをしながら目的地まで移動した事や、楽しく夕食を取ったりした事ではない。
当然三人での秘め事。
私は視線を下に移して敷かれた布団を見つめる。聡司の浴衣の袖を握り小さく呟いた。
「敷き布団で眠るのはあの日以来だからかも」
二人きりだけの吐息も聞こえる部屋。少し冷えた空気が更に音を拾いやすくする。
「あの日の事は僕にとって……いえ僕達にとって大切な事ですね」
「うん」
「天野さんの強烈なキャラクターも、あの日からずっと僕を刺激し続けてくれて。その事はお風呂で話した通り僕も認めるところだから特に気にしてないんですけど。それでも時々思うんですよね」
聡司が眼鏡のブリッジを細い指で押し上げぽつぽつと呟く。そして一度言葉を止めると私が撓垂れかかっていた腕をゆっくりと動かして私を抱き寄せる。
「もし……あの時僕と涼音の二人だったらってね」
「!」
抱き寄せられた聡司の胸。浴衣越しの体温と早鐘を打つ心音。顔を上げると聡司の黒く輝く瞳があった。その黒い瞳の中に私の顔が写る。
聡司は顔を傾けて私の唇に自分のそれを下ろしてくる。
「あの時二人きりだったら……どんな涼音を僕に見せてくれたのかなって」
もしも──なんて事をね、考えるんですよ。
そう呟いて聡司は私の唇をゆっくりと覆った。
◇◆◇
「っ」
「あっ」
私と聡司は抱き合いながら布団の上に倒れ込んだ。キスは深くなってお互いの吐息が漏れ吸い上げる音が聞こえる。静かで暗い部屋に響く音と自分の頭の中に響いてくるお互いの声に溺れていく。
うっすら瞳を開くと窓が見える。障子を閉め忘れた窓。高い塀に囲まれた旅館の部屋だ。誰も覗く事はないだろう。
角度のついた窓の外に見えるのは赤い紅葉が散っていた。それも瞳を細めてぼやけてしか見る事が出来ない。聡司とのキスに必死だから。
息が熱い。
聡司の手は冷たいが、私に触れるは直ぐに熱を帯びる。帯を解かずに上半身の浴衣を左右に割る様にして脱がそうとする。もどかしい。
あの時、慰安旅行の時はどうだったかな。
別に再現したいわけじゃないけれども、随分と長い間誰も受け入れる事をしていなかった私の身体を二人は開いた。二人に触れられてあっという間に快楽の頂点へ押し上げられた。
私は受け入れるばかりだったけれども聡司はどうだった?
私はあの時の記憶をたぐり寄せ、聡司の唇からゆっくりと下っていく。綺麗な顎のラインを通ると少し髭が生えてきているのかチクチクとした感触があった。
やっぱり男の人なのだと思う。聡司は整った顔つきでも男臭いと言うよりも、青年になったばかりという爽やかな印象が強いので余計男性である事を実感してしまう。
私はゆっくりと聡司の筋張った首筋に舌を這わせながらゆっくりと鎖骨へ向かって下がる。
「ハッ……どうし、たんです? 今日は積極的ですね」
喉仏を通った時、聡司が顎を上げて小さく笑った。
積極的なのかな? そう言われると今日は映画館でも最初は私が責められていたけれども、途中で聡司を撫でる事に必死になっていたっけ。
「だって──アッ、んんんっ」
聡司の反応が面白くて。私が触れる事で感じてくれているんだなって思うと、凄く嬉しくなって。そう考えていたら、聡司が私の乱れた浴衣の背中をスーッと撫で上げた。細くて長い指だけど節々がはっきりしている男性の指。押しながら撫でられ、背中を反らしてしまう。私は胸を聡司に突き出すけれども、聡司の体重ごと敷き布団に押しつけられる。
聡司は唇を開き、乳首を食んでしまった。
「アアッ!」
聡司の口内で私の乳首は舌先で何度も弾かれる。上へ下へ右に左に。ざらりとした舌で舐られて私は膝を曲げる。聡司は垂れた前髪の奥で銀縁の眼鏡を光らせていて、反射で視線が見えないけどじっと私を見つめていると感じる。
「そこは駄目って、アッ!」
駄目だと口にすると優しく聡司が歯を立てた。
ビクンと身体が大きく震える。全身に電気が走る。聡司は大きく喘いだ私の口に右手の親指を潜り込ませる。これでは聡司の指を噛んでしまう。中途半端に口を開く事になってしまった。聡司は意地悪く笑うとチュッと音を立ててようやく私の片方の胸を口内から解放してくれた。その振動で私は身体を震わせてしまう。
「僕の指、噛んでもいいんですよ?」
私はふるふると首を振る。
そんなの出来ない。でも乳首を弄られたりしたら我慢出来なくて、聡司の指を大きく囓ってしまうかもしれない。
それぐらい私の弱い部分なのだ。散々二人に弄られて触れられて嫌に敏感になった乳首。おかげでおかしいぐらい下半身に刺激を与えて、数分間弄られるとショーツを濡らすハメになる。
私の瞳には生理的に堪ってくる涙。そのせいで少し鼻水が出てくる。小さくスンと鼻を啜ってチュッと聡司の親指を吸い上げた。そうしないとよだれが垂れてきそうだ。
小さく吸い上げた事で、聡司は満足したのかゆっくりと親指を引き抜く。それから聡司は再び私の両胸を下から掬い上げる。既に左右に割る様に浴衣の前ははだけている。腰の辺りに浴衣の柔らかい帯が残っている。聡司に愛撫された片方の乳首は少し赤くなっていた。まだ愛撫を受けていないもう片方も今か今かと触れられるのを待っている。
聡司は胸を掬った両手をスッと滑らせて両手でそれぞれの乳輪だけをぐるぐるなぞる。ゆっくりとゆっくりと。
「ッッ!」
聡司の冷たい指先のせいか、私は歯を食いしばって喉を反らせた。一番感じているポイントを見つけた聡司は嬉しそうに人差し指で乳首の頂点を少し押し込むと上下左右に小さく動かす。
「片方だけ赤くなってる……僕が噛んじゃったせいですね」
「ッ!」
頂点への刺激は決して強いものではないけど、お腹の奥に熱が溢れる。そして渦を巻く。渦巻く熱がぎゅっと収縮する感触に私は両膝をすりあわせて耐える。
そういえばお昼の映画館でも同じだった。じれったくって早く触って欲しくて。あの時は場所が場所だけに言えなかった。でも今ならそんな甘える事も出来るけど──
映画館では聡司の顔を見たら『触れて欲しい』と強請ってしまいそうで怖かった。でも今は別の意味で見たくない。
だって絶対に聡司は私の事を意地悪く笑って見ているに違いない。そして視線が合ったら濡れた黒い瞳で私を惑わせるのよ。聡司の形のいい唇がゆっくりと動く。
『ほら、どうして欲しい?』って。
結局……
強請るのは私。
欲しがるのは私。
お願いするのは私で。
「涼音……僕を見て」
聡司が少し身体をずらしてきて、私の耳元で吐息をかけながら囁いた。
「っ……」
私はその吐息に頑なに閉じていた瞳をゆっくりと開く。ああ、もう駄目。降参よ。敷き布団のシーツを握っていた手をゆっくりと解いて『これが欲しい』と手を伸ばした。
聡司のお臍の下をゆっくりと指でたどり、大きく熱い下半身に手を伸ばし下から上へと掌を這わせる。足の付け根辺りは丸めのキュッと上がっている二つの山を越えて、熱く固くお臍に向かって伸びる陰茎をボクサーパンツ越しに撫で上げる。
これが、欲しい。
そう大きく感じた時、私はいつもより強い力で大きくカサが開いている部分をぎゅっと握った。私のいつもと違う動きと力に聡司が身体をこわばらせた。
「っ……アッ。す、ずね」
いつもより絞った高めの声に私の胸が高鳴った。私の名前を掠れて呼ぶ声に、振り向いてじっと見つめる。
そこには私が想像していた表情の聡司はいなかった。
細めの眉を少しハの字にして痛みに耐える──ううん。痛みではなくて、突然与えられた快感に耐える聡司がいた。眉間に皺が寄り左の瞳を細めていた。私はぎゅっと握った陰茎のくびれをそっと手放すと、大きく開いた先端をゆっくりと掌で包んで、円を描く様に撫でる。
今度は聡司が首を反らせる番だった。眼鏡をかけたまま頭を振ると長めの前髪が眼鏡の前で揺れた。
「っうん。あっ……」
聡司は私の手首を慌てて押さえた。動きを止める様に握るけれども、私はその手を解いてもう一度撫で上げる。
「ッ!」
聡司が息をつめ困った様に私を見つめる。黒い瞳が戸惑いと期待で揺れている。これはさっきまでの私だ。身体の弱いところを責められて直ぐにふにゃふにゃになっていく私と同じ。
私は頬に熱が集まっていくるのを感じた。恥ずかしいからじゃない。聡司の顔を見て胸が高鳴る。ドキドキする。この先どんな風になるのかもっと見たい。
「……ここは気持ちがいい?」
私は小さな声で尋ねて、指で鈴口付近をキュッと押してみる。
「!」
聡司が鼻から空気を吸って息を止めた。『はい』か『いいえ』なんて聞かなくても分かる。だって私の手の中で、それはズクリ大きく固さを増す。
お酒を飲んだ私の手が熱いのか。それとも聡司のものが熱いのか。
これが欲しい。
直ぐに欲しい。
でもそれより──
聡司がゆっくりと息を吐きながら私を恨めしそうに見つめた。瞳の端に生理的な涙がにじんでいる。
ああ、早く『いかせて』と言わせたい。
「駄目ですよ。これ以上は」
違うでしょ聡司。そんな事言いたいわけじゃないよね? 分かるのよ私は。だって私がそうだから。
「嘘」
「え?」
「聡司の嘘つき」
「どうして嘘つき?」
「だって駄目じゃないわよね?」
「それは……」
「今度するのは私の番。そして、素直になるのは聡司の番」
私はそう言って口角が上がる事が止められなかった。
目を丸める可愛い聡司を見つめてから、聡司の肩に両手を置いて自分の体重をかける。今度は私が聡司を押し倒す。
「す、涼音?」
「映画館の続きよ」
私は聡司の開いた股の間に座ると、勢いよく聡司のボクサーパンツを下げた。
ブルンと音を立て聡司の陰茎が私の前に顔を出す。
「えっちょっと!」
突然自分の大切な部分が音を立てて飛び出たせいか聡司が声をひっくり返して慌てた。でも私の視線は聡司のものに釘付けだ。見事に反り返ったそれはいつも以上に太くて長く見えた。
「凄い……こんなに」
私は熱に浮かれた様に呟いてゆっくりと聡司の陰茎の根元を握る。肌の色は比較的白い聡司なのにこの部分だけは少し黒っぽい。それが魅力的に見えるなんて。
お酒が少し回っているのかしら。でもそんなに酔っ払うほど飲んだのではない。少しだけ気が大きくなっているのかしら。悪い気分ではない。むしろいつもより大胆な気分になれて爽快だ。もしかしたら私はこういう事をずっとしてみたいと深層で思っていたのかも。
どうしたら気持ちよくして貰えるのかしら。もちろん口や手で愛撫すれば気持ちがいいだろうけど。いつもと同じだし。何か初めての事をしてあげられないかな。聡司が喜ぶ事。
あ! そうだわ。
私は自分の上気した頬を感じて微笑むと悠司に問いかける。
「ね、挟むってどうしたらいいの?」
「えぇえ!?」
聡司は混乱している。
例えるならば「え」の文字が逆さまになった様な声を上げた。驚いた反動で、上半身を起こし布団の上部にずり上がる。その反動でボクサーパンツがお尻の後ろを通過してくれて上手く下がった。
「あ、脱げた。ふふふ」
私が笑い声を上げて聡司のボクサーパンツを両足から引き抜く。そんな私を見つめながら聡司が大きな掌で自分の顔を覆った。
「は、挟むって。そ、そんな事突然言われても」
長い指の間から眼鏡越しの視線が合う。
「あの慰安旅行の時に挟んで貰いたいって言ってたじゃない?」
私はうっとりと聡司の陰茎を撫でながら呟いた。
あの時は私がとんでもないって思ったけど。今ならそんな事は気にしなくていいと思う。
だって、聡司のあの困った顔がもっと崩れて見られるならそれもいいと思うから。
「Oh……what a day」
聡司がゆっくりと自分の顔を覆っていた手を外し、口角を上げたら震える唇で呟いた。
もちろんほんの少しだけだったけど料理と見事に合うお酒に私はほっぺたが落ちるかと思った。食事の後は再び聡司と一緒に露天風呂へ入りゆっくりと日頃の疲れをほぐした。
そして今、二つ並んで敷かれた布団の上で二人寄り添い窓の外を無言で見つめていた。
◇◆◇
夜になった空。近くにあるビジネスビル群の灯りも随分と少なくなっていた。
一瞬強く吹く風が冬を知らせている。赤い紅葉がハラハラと風に揺れて散ってゆく。そんな様を二人無言で見つめていた。
夜になると極端に気温が下がる。部屋の中も少しずつ冷たい空気が流れる。だけど、二人で寄り添って体温を分け合えばそんな事は気にならない。
「あったかい」
「僕が?」
「うん」
「涼音だってあったかいよ」
静寂に包まれた部屋の中で私達の会話が小さく響いた。
特に視線を合わせるわけでもなく手を握るわけでもない。私は聡司の身体に寄りかかるだけだ。浴衣越しに聡司の心音が聞こえる。
秋の夜はお風呂から出て時間が経つと、足の指から手の指まで冷たくなるのに今日は違う。露天風呂と少し飲んだ日本酒のせいなのかいつまでも温かいままでいられる。崩した足の方向を少し変えると敷いた布団の間で衣擦れがおこった。畳の上に敷かれた布団はふかふかで上等なものだ。畳の香りもいい香り。癒やされる香りだ。
そういえば布団で眠るのは慰安旅行以来かも。私は慰安旅行でおこった出来事を思い出す。私達三人の全ての始まりだ。あの時流されたとはいえこんな風になるとは三人とも考えてはいなかっただろう。
私は数ヶ月前の事を思い出し思わず口角を上げて笑ってしまった。もちろんそれを聡司が見逃すはずもなく。
「思い出しました?」
「え」
思わず聡司を見上げると、私の顔を見つめながら聡司が笑っていた。眼鏡の奥の瞳がスッと細められる。
「慰安旅行の事」
「う、ん……」
思い出したのは会社の皆がバスで雑談やゲームをしながら目的地まで移動した事や、楽しく夕食を取ったりした事ではない。
当然三人での秘め事。
私は視線を下に移して敷かれた布団を見つめる。聡司の浴衣の袖を握り小さく呟いた。
「敷き布団で眠るのはあの日以来だからかも」
二人きりだけの吐息も聞こえる部屋。少し冷えた空気が更に音を拾いやすくする。
「あの日の事は僕にとって……いえ僕達にとって大切な事ですね」
「うん」
「天野さんの強烈なキャラクターも、あの日からずっと僕を刺激し続けてくれて。その事はお風呂で話した通り僕も認めるところだから特に気にしてないんですけど。それでも時々思うんですよね」
聡司が眼鏡のブリッジを細い指で押し上げぽつぽつと呟く。そして一度言葉を止めると私が撓垂れかかっていた腕をゆっくりと動かして私を抱き寄せる。
「もし……あの時僕と涼音の二人だったらってね」
「!」
抱き寄せられた聡司の胸。浴衣越しの体温と早鐘を打つ心音。顔を上げると聡司の黒く輝く瞳があった。その黒い瞳の中に私の顔が写る。
聡司は顔を傾けて私の唇に自分のそれを下ろしてくる。
「あの時二人きりだったら……どんな涼音を僕に見せてくれたのかなって」
もしも──なんて事をね、考えるんですよ。
そう呟いて聡司は私の唇をゆっくりと覆った。
◇◆◇
「っ」
「あっ」
私と聡司は抱き合いながら布団の上に倒れ込んだ。キスは深くなってお互いの吐息が漏れ吸い上げる音が聞こえる。静かで暗い部屋に響く音と自分の頭の中に響いてくるお互いの声に溺れていく。
うっすら瞳を開くと窓が見える。障子を閉め忘れた窓。高い塀に囲まれた旅館の部屋だ。誰も覗く事はないだろう。
角度のついた窓の外に見えるのは赤い紅葉が散っていた。それも瞳を細めてぼやけてしか見る事が出来ない。聡司とのキスに必死だから。
息が熱い。
聡司の手は冷たいが、私に触れるは直ぐに熱を帯びる。帯を解かずに上半身の浴衣を左右に割る様にして脱がそうとする。もどかしい。
あの時、慰安旅行の時はどうだったかな。
別に再現したいわけじゃないけれども、随分と長い間誰も受け入れる事をしていなかった私の身体を二人は開いた。二人に触れられてあっという間に快楽の頂点へ押し上げられた。
私は受け入れるばかりだったけれども聡司はどうだった?
私はあの時の記憶をたぐり寄せ、聡司の唇からゆっくりと下っていく。綺麗な顎のラインを通ると少し髭が生えてきているのかチクチクとした感触があった。
やっぱり男の人なのだと思う。聡司は整った顔つきでも男臭いと言うよりも、青年になったばかりという爽やかな印象が強いので余計男性である事を実感してしまう。
私はゆっくりと聡司の筋張った首筋に舌を這わせながらゆっくりと鎖骨へ向かって下がる。
「ハッ……どうし、たんです? 今日は積極的ですね」
喉仏を通った時、聡司が顎を上げて小さく笑った。
積極的なのかな? そう言われると今日は映画館でも最初は私が責められていたけれども、途中で聡司を撫でる事に必死になっていたっけ。
「だって──アッ、んんんっ」
聡司の反応が面白くて。私が触れる事で感じてくれているんだなって思うと、凄く嬉しくなって。そう考えていたら、聡司が私の乱れた浴衣の背中をスーッと撫で上げた。細くて長い指だけど節々がはっきりしている男性の指。押しながら撫でられ、背中を反らしてしまう。私は胸を聡司に突き出すけれども、聡司の体重ごと敷き布団に押しつけられる。
聡司は唇を開き、乳首を食んでしまった。
「アアッ!」
聡司の口内で私の乳首は舌先で何度も弾かれる。上へ下へ右に左に。ざらりとした舌で舐られて私は膝を曲げる。聡司は垂れた前髪の奥で銀縁の眼鏡を光らせていて、反射で視線が見えないけどじっと私を見つめていると感じる。
「そこは駄目って、アッ!」
駄目だと口にすると優しく聡司が歯を立てた。
ビクンと身体が大きく震える。全身に電気が走る。聡司は大きく喘いだ私の口に右手の親指を潜り込ませる。これでは聡司の指を噛んでしまう。中途半端に口を開く事になってしまった。聡司は意地悪く笑うとチュッと音を立ててようやく私の片方の胸を口内から解放してくれた。その振動で私は身体を震わせてしまう。
「僕の指、噛んでもいいんですよ?」
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そんなの出来ない。でも乳首を弄られたりしたら我慢出来なくて、聡司の指を大きく囓ってしまうかもしれない。
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小さく吸い上げた事で、聡司は満足したのかゆっくりと親指を引き抜く。それから聡司は再び私の両胸を下から掬い上げる。既に左右に割る様に浴衣の前ははだけている。腰の辺りに浴衣の柔らかい帯が残っている。聡司に愛撫された片方の乳首は少し赤くなっていた。まだ愛撫を受けていないもう片方も今か今かと触れられるのを待っている。
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「ッッ!」
聡司の冷たい指先のせいか、私は歯を食いしばって喉を反らせた。一番感じているポイントを見つけた聡司は嬉しそうに人差し指で乳首の頂点を少し押し込むと上下左右に小さく動かす。
「片方だけ赤くなってる……僕が噛んじゃったせいですね」
「ッ!」
頂点への刺激は決して強いものではないけど、お腹の奥に熱が溢れる。そして渦を巻く。渦巻く熱がぎゅっと収縮する感触に私は両膝をすりあわせて耐える。
そういえばお昼の映画館でも同じだった。じれったくって早く触って欲しくて。あの時は場所が場所だけに言えなかった。でも今ならそんな甘える事も出来るけど──
映画館では聡司の顔を見たら『触れて欲しい』と強請ってしまいそうで怖かった。でも今は別の意味で見たくない。
だって絶対に聡司は私の事を意地悪く笑って見ているに違いない。そして視線が合ったら濡れた黒い瞳で私を惑わせるのよ。聡司の形のいい唇がゆっくりと動く。
『ほら、どうして欲しい?』って。
結局……
強請るのは私。
欲しがるのは私。
お願いするのは私で。
「涼音……僕を見て」
聡司が少し身体をずらしてきて、私の耳元で吐息をかけながら囁いた。
「っ……」
私はその吐息に頑なに閉じていた瞳をゆっくりと開く。ああ、もう駄目。降参よ。敷き布団のシーツを握っていた手をゆっくりと解いて『これが欲しい』と手を伸ばした。
聡司のお臍の下をゆっくりと指でたどり、大きく熱い下半身に手を伸ばし下から上へと掌を這わせる。足の付け根辺りは丸めのキュッと上がっている二つの山を越えて、熱く固くお臍に向かって伸びる陰茎をボクサーパンツ越しに撫で上げる。
これが、欲しい。
そう大きく感じた時、私はいつもより強い力で大きくカサが開いている部分をぎゅっと握った。私のいつもと違う動きと力に聡司が身体をこわばらせた。
「っ……アッ。す、ずね」
いつもより絞った高めの声に私の胸が高鳴った。私の名前を掠れて呼ぶ声に、振り向いてじっと見つめる。
そこには私が想像していた表情の聡司はいなかった。
細めの眉を少しハの字にして痛みに耐える──ううん。痛みではなくて、突然与えられた快感に耐える聡司がいた。眉間に皺が寄り左の瞳を細めていた。私はぎゅっと握った陰茎のくびれをそっと手放すと、大きく開いた先端をゆっくりと掌で包んで、円を描く様に撫でる。
今度は聡司が首を反らせる番だった。眼鏡をかけたまま頭を振ると長めの前髪が眼鏡の前で揺れた。
「っうん。あっ……」
聡司は私の手首を慌てて押さえた。動きを止める様に握るけれども、私はその手を解いてもう一度撫で上げる。
「ッ!」
聡司が息をつめ困った様に私を見つめる。黒い瞳が戸惑いと期待で揺れている。これはさっきまでの私だ。身体の弱いところを責められて直ぐにふにゃふにゃになっていく私と同じ。
私は頬に熱が集まっていくるのを感じた。恥ずかしいからじゃない。聡司の顔を見て胸が高鳴る。ドキドキする。この先どんな風になるのかもっと見たい。
「……ここは気持ちがいい?」
私は小さな声で尋ねて、指で鈴口付近をキュッと押してみる。
「!」
聡司が鼻から空気を吸って息を止めた。『はい』か『いいえ』なんて聞かなくても分かる。だって私の手の中で、それはズクリ大きく固さを増す。
お酒を飲んだ私の手が熱いのか。それとも聡司のものが熱いのか。
これが欲しい。
直ぐに欲しい。
でもそれより──
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ああ、早く『いかせて』と言わせたい。
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違うでしょ聡司。そんな事言いたいわけじゃないよね? 分かるのよ私は。だって私がそうだから。
「嘘」
「え?」
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私はそう言って口角が上がる事が止められなかった。
目を丸める可愛い聡司を見つめてから、聡司の肩に両手を置いて自分の体重をかける。今度は私が聡司を押し倒す。
「す、涼音?」
「映画館の続きよ」
私は聡司の開いた股の間に座ると、勢いよく聡司のボクサーパンツを下げた。
ブルンと音を立て聡司の陰茎が私の前に顔を出す。
「えっちょっと!」
突然自分の大切な部分が音を立てて飛び出たせいか聡司が声をひっくり返して慌てた。でも私の視線は聡司のものに釘付けだ。見事に反り返ったそれはいつも以上に太くて長く見えた。
「凄い……こんなに」
私は熱に浮かれた様に呟いてゆっくりと聡司の陰茎の根元を握る。肌の色は比較的白い聡司なのにこの部分だけは少し黒っぽい。それが魅力的に見えるなんて。
お酒が少し回っているのかしら。でもそんなに酔っ払うほど飲んだのではない。少しだけ気が大きくなっているのかしら。悪い気分ではない。むしろいつもより大胆な気分になれて爽快だ。もしかしたら私はこういう事をずっとしてみたいと深層で思っていたのかも。
どうしたら気持ちよくして貰えるのかしら。もちろん口や手で愛撫すれば気持ちがいいだろうけど。いつもと同じだし。何か初めての事をしてあげられないかな。聡司が喜ぶ事。
あ! そうだわ。
私は自分の上気した頬を感じて微笑むと悠司に問いかける。
「ね、挟むってどうしたらいいの?」
「えぇえ!?」
聡司は混乱している。
例えるならば「え」の文字が逆さまになった様な声を上げた。驚いた反動で、上半身を起こし布団の上部にずり上がる。その反動でボクサーパンツがお尻の後ろを通過してくれて上手く下がった。
「あ、脱げた。ふふふ」
私が笑い声を上げて聡司のボクサーパンツを両足から引き抜く。そんな私を見つめながら聡司が大きな掌で自分の顔を覆った。
「は、挟むって。そ、そんな事突然言われても」
長い指の間から眼鏡越しの視線が合う。
「あの慰安旅行の時に挟んで貰いたいって言ってたじゃない?」
私はうっとりと聡司の陰茎を撫でながら呟いた。
あの時は私がとんでもないって思ったけど。今ならそんな事は気にしなくていいと思う。
だって、聡司のあの困った顔がもっと崩れて見られるならそれもいいと思うから。
「Oh……what a day」
聡司がゆっくりと自分の顔を覆っていた手を外し、口角を上げたら震える唇で呟いた。
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苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
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