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Case:岡本 8
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里羅さんは言いたい事を全て吐き出したらスッキリしたのかご機嫌だった。
「何でこんなに遠いんだよ! 三十分もかかったじゃないか」
聡司がコンビニエンスストアまでの道のりについて文句を言っていたが、里羅さんは笑って聡司の怒りをいなしていた。
「まぁまぁお疲れ様。ほら早速このサイダーで乾杯しましょ」
「嫌だよ『鰻の蒲焼き風味サイダー』なんて」
「えーこの甘辛いのがいいのにぃ。さてー二人共こっちへ来てよ!」
こんな調子で里羅さんのお喋りは止まらない。里羅さんはベッドルームの奥へくる様に手招きする。
元々聡司を一人で送り出した理由は『コレクションで見つけた服を私にプレゼントする』という事だったが嘘なのだと思っていた。これは本当の事で一体どうやって持ち込んだのか大きな段ボール箱が三個、ベッドルームの奥で鎮座していた。箱の中には洋服が詰まっていて、私と聡司は開いた口が塞がらなかった。
まず私にはビジネス向けのカジュアルスーツにワンピース、そして靴に鞄。更には下着も最新のものをプレゼントしてくれた。嬉しいのだけれども、手持ちで帰る事が出来る量ではない。その量に狼狽していたが里羅さんはそっちのけで話しかけてくる。
「そうだわ。ここで着てみない? メイクも含めてどうかしら?」
と、里羅さんの着せ替えごっこが始まるところだった。
セレブ御用達のアートディレクター里羅さんの手腕で、どのぐらい変身出来るのか興味はあったけど聡司に止められてしまった。
「ちょ、ちょっと待って里羅。いつもみたいに一晩中とかは無理だから。そんなに時間はないはずだよ」
その聡司の台詞からいつも着せ替えに付き合わされていた事が分かった。すると里羅さんは直ぐに話題を変えてきた。
「それなら聡司の服もあるのよ!」
と、新たな服を取り出し始めた。どの辺が『それなら』なのか不明だが次から次へと本当に素速い! 私は超高速の回転寿司を見ている気分だった。
◇◆◇
「聡司このスーツはどうかしら。次のシーズンには絶対にこれよ」
「里羅の趣味が凄くいいのは知っているけど、僕には少し派手だよ。だってさこのネイビー、明るすぎだよ。ネイビーって言うよりもブルーって感じだし。貰えるのは嬉しいけれども着こなせないよ」
「うーん確かに聡司には派手かもだけど。あーっ。そうだわー! いい事を思いついたわー! ユー……ジ、じゃなかった、聡司の仲のいい人にプレゼントと言うのはどうかしら?」
途中で強烈な棒読みになる里羅さん。それに、ユージって……もう名前を言ってしまっている。単に間延びして悠司という名前が分かりにくかったけれども。私は妙に芝居がかる里羅さんに思わずソファから滑り落ちそうになった。
あの服もこの服も──比較的派手目のものがある。恐らく聡司向けのものと悠司向けのものをあらかじめ用意しているだろう。里羅さんの弟を想う気持ちを垣間見てしまう。
幸か不幸か聡司は派手目のスーツに意識が集中していて、里羅さんの棒読みの演技も、ユージと呼んだ名前にも気がつかない。しかし里羅さんの最後の言葉『仲のいい人にプレゼントしたらどうかしら?』には反応していた。
「スーツをプレゼントってサイズだってあるし。里羅がくれるものは上等だからね、直すって手もあるけど……ん? このサイズなら天野さ──オッホン! そうだね……一応貰っておこうかな」
聡司は手に取ったスーツのサイズを見て悠司に似合いそうだとう事実に気がついた。思わずつるりと『天野さん』と言いかけて……いえ、言っていたわよね。アマノという単語を聞いて里羅さんは私ににんまりとした笑顔とウインクを送ってくれた。
う、うん。そうですねー。里羅さんきっと聡司は悠司にそのほぼブルーの色をしたスーツをプレゼントすると思います。
私は里羅さんのウインクにうんうんと心の中で呟いていた。
里羅さん恐るべし。聡司の周辺を調査しただけではなく、天野の洋服サイズまで入手しているとは。最近の探偵事務所ってそんな事まで調べ上げてしまうのね。
あらかじめ派手目の服が仕組まれた事など露ほどにも思っていない聡司は、いそいそとスーツを片付けていた。
「フフフ。そうよねー、うんうん。プレゼント出来るわよね! よかったわ~。あっ、それならこのシャツとかもどうかしら~」
そうやって里羅さんは次から次へと聡司や悠司に似合う服を披露してくれた。
聡司が里羅さんを紹介する前に言っていた彼女を表現する言葉『Bullet』だけど──それは行動のみならず、お喋りという観点からも同じ言葉が当てはまると私は実感していた。
おかげで私は里羅さんの勘違いを紐解く事や、隙を見て聡司に里羅さんの勘違いについて告げる事は出来なかった。最初のうちはどうしようと戸惑ったけど、気がつくと里羅さんの話に聞き入っていた。でも時間は直ぐに過ぎてしまう。里羅さんの怒濤の会話は唐突の終わりを告げた。何故ならばしっかりと里羅さんの予定が夕方から入っていたからなのだ。
その事を知らなかった聡司も驚いていた。
「夕食ぐらい一緒に取れると思ったのに。忙しいのは相変わらずなんだね」
その聡司の声に里羅さんは元気に答えた。
「そうよ~絶対聡司に連れて行って貰おうと考えていたのよ。ほら、確か釣りが出来て自分が取った魚を捌いてくれるイ、ザカヤ? だったかしら」
「……何で居酒屋なんだよ。ホテルに入っている寿司屋の方がいいと思うよ? 全く『鰻の蒲焼き風味サイダー』とか、いつも欲しいものがズレているよね里羅って」
「えー、そうかしら?」
「そうだよ」
里羅さんと聡司はそう言って笑い合う。二人は少し見つめ合ってから、腕を上げ拳を軽く合わせる。
「私もね日本へ来たのが久し振りだったから。予定を入れてしまったの。だけど、また直ぐに時間を作るから。ね?」
前向きに答えた里羅さんは大輪の花が咲いた様な笑顔を向ける。
世界中を飛び回るヘアメイクアーティストは疲れ知らずだ。新たに時間を作る事を約束して別れる事になった。
◇◆◇
ハイグレードホテルの大人の遊びを満喫出来て楽しかったけど、里羅さんと別れてしまうとどうも静かになって寂しい気持ちになった。エグゼクティブフロアのフロントで、里羅さんからのプレゼントの洋服を聡司のマンションへ送る手続きを終え、私と聡司はタクシーに乗り込んだ。外は見事な夕焼け空で楽しかった時間が終わってしまった事を改めて感じる。
タクシーの後部座席で聡司は私の手を握り、窓の外を見つめていた。私と同じ様に里羅さんとの時間が終わってしまった事に寂しさを覚えているのだろうか。聡司は運転手さんに行き先を告げた後、何も言葉を発さなかった。
結局、里羅さんの誤解を解けずじまいだし。聡司にもその事の説明が出来ないままだ。
まさか『聡司と悠司が付き合っていると思っていて、私がそのよき理解者と思い込んでいる』という話も、今なら出来るはずなのに何故か口を開く事が出来ない。
やっぱりそれは──あの短時間で里羅さんという強烈な個性に飲み込まれて彼女の優しさに惹かれてしまったのだろう。
聡司と悠司が恋人同士という事を(誤解だけど)受け入れるようとしている事や、さりげなく悠司の事も含めてプレゼントをするサプライズ。そして聡司という弟、家族を愛しているからこそ私という理解者に繋がろうとした事とか。もちろん里羅さんと連絡先を交換し『聡司とユージの事をお願いね!』と言われてしまったし。
全部誤解なのだけどね……
何となくだけど、性別は関係なく里羅さんが結婚したり恋人になったりするという理由が分かる気がした。やっぱり早いうちに誤解は解くべきだ。悠司の家族である陽菜さんにも、聡司の家族である里羅さんにも本当の事を告げよう。私は心の中で一人で何度も頷いた。
「……素敵なお姉さんだね」
私はタクシーの窓越し夕焼けの空を見つめながら呟いた。小さな呟きは当然聡司にも聞こえていて、私とは反対側の窓の外を見つめながら口を開いた。
「……相変わらず忙しい人ですよ。せっかく食事を一緒にと思ったのに。ああ、でも……居酒屋に行きたいって本当に。変なサイダーを買ってこいとかさ、振り回されるし……プレゼントだってあんなに一方的じゃ何も出来ないじゃないですか」
振り向いていないから聡司の顔は見ない。声色から想像するに、口を尖らせているんじゃないかしら。プレゼントされた事に腹を立ててるなんて弟らしいと言うか可愛いと言うか。
聡司だってずっと会いたかったんでしょ? 離れて暮らす家族、里羅さんに。
聡司の様子からそう感じるけど口に出したらひねくれそうなので私はグッと堪えた。
久し振りだからこそ──本当の事を伝えたかった。そう強く思う。
聡司は相変わらず窓の外、夕陽を見ていた。独り言の様な台詞を再び口にする。
「そうだ、次に時間が取れたらその時は三人で──」
その言葉に私は思わず振り向いた。でも聡司は私の方を見ていない。ずっと窓の外を眺めたままだ。
聡司の心の中で呟いた一言を口にしたのだろうか。里羅さんについた小さな嘘が、聡司の心の中で後悔と言う澱になったのか。
分かるわよ。だって私も同じよ。だからきっと聡司の言葉の続きはこうだ。
三人で会いましょうね──
「……私もそう思うわ」
私は聡司の後頭部を見ながら小さく呟いた。
聡司に聞こえたかどうかは分からない。聡司は相変わらず窓の外を見たままだ。その代わり私の手を握りしめていた力が少しだけ強くなったと思った。
私達二人は、それ以上話す事はなかった。やがて陽は沈みタクシーは老舗旅館の前で止まった。
「何でこんなに遠いんだよ! 三十分もかかったじゃないか」
聡司がコンビニエンスストアまでの道のりについて文句を言っていたが、里羅さんは笑って聡司の怒りをいなしていた。
「まぁまぁお疲れ様。ほら早速このサイダーで乾杯しましょ」
「嫌だよ『鰻の蒲焼き風味サイダー』なんて」
「えーこの甘辛いのがいいのにぃ。さてー二人共こっちへ来てよ!」
こんな調子で里羅さんのお喋りは止まらない。里羅さんはベッドルームの奥へくる様に手招きする。
元々聡司を一人で送り出した理由は『コレクションで見つけた服を私にプレゼントする』という事だったが嘘なのだと思っていた。これは本当の事で一体どうやって持ち込んだのか大きな段ボール箱が三個、ベッドルームの奥で鎮座していた。箱の中には洋服が詰まっていて、私と聡司は開いた口が塞がらなかった。
まず私にはビジネス向けのカジュアルスーツにワンピース、そして靴に鞄。更には下着も最新のものをプレゼントしてくれた。嬉しいのだけれども、手持ちで帰る事が出来る量ではない。その量に狼狽していたが里羅さんはそっちのけで話しかけてくる。
「そうだわ。ここで着てみない? メイクも含めてどうかしら?」
と、里羅さんの着せ替えごっこが始まるところだった。
セレブ御用達のアートディレクター里羅さんの手腕で、どのぐらい変身出来るのか興味はあったけど聡司に止められてしまった。
「ちょ、ちょっと待って里羅。いつもみたいに一晩中とかは無理だから。そんなに時間はないはずだよ」
その聡司の台詞からいつも着せ替えに付き合わされていた事が分かった。すると里羅さんは直ぐに話題を変えてきた。
「それなら聡司の服もあるのよ!」
と、新たな服を取り出し始めた。どの辺が『それなら』なのか不明だが次から次へと本当に素速い! 私は超高速の回転寿司を見ている気分だった。
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「聡司このスーツはどうかしら。次のシーズンには絶対にこれよ」
「里羅の趣味が凄くいいのは知っているけど、僕には少し派手だよ。だってさこのネイビー、明るすぎだよ。ネイビーって言うよりもブルーって感じだし。貰えるのは嬉しいけれども着こなせないよ」
「うーん確かに聡司には派手かもだけど。あーっ。そうだわー! いい事を思いついたわー! ユー……ジ、じゃなかった、聡司の仲のいい人にプレゼントと言うのはどうかしら?」
途中で強烈な棒読みになる里羅さん。それに、ユージって……もう名前を言ってしまっている。単に間延びして悠司という名前が分かりにくかったけれども。私は妙に芝居がかる里羅さんに思わずソファから滑り落ちそうになった。
あの服もこの服も──比較的派手目のものがある。恐らく聡司向けのものと悠司向けのものをあらかじめ用意しているだろう。里羅さんの弟を想う気持ちを垣間見てしまう。
幸か不幸か聡司は派手目のスーツに意識が集中していて、里羅さんの棒読みの演技も、ユージと呼んだ名前にも気がつかない。しかし里羅さんの最後の言葉『仲のいい人にプレゼントしたらどうかしら?』には反応していた。
「スーツをプレゼントってサイズだってあるし。里羅がくれるものは上等だからね、直すって手もあるけど……ん? このサイズなら天野さ──オッホン! そうだね……一応貰っておこうかな」
聡司は手に取ったスーツのサイズを見て悠司に似合いそうだとう事実に気がついた。思わずつるりと『天野さん』と言いかけて……いえ、言っていたわよね。アマノという単語を聞いて里羅さんは私ににんまりとした笑顔とウインクを送ってくれた。
う、うん。そうですねー。里羅さんきっと聡司は悠司にそのほぼブルーの色をしたスーツをプレゼントすると思います。
私は里羅さんのウインクにうんうんと心の中で呟いていた。
里羅さん恐るべし。聡司の周辺を調査しただけではなく、天野の洋服サイズまで入手しているとは。最近の探偵事務所ってそんな事まで調べ上げてしまうのね。
あらかじめ派手目の服が仕組まれた事など露ほどにも思っていない聡司は、いそいそとスーツを片付けていた。
「フフフ。そうよねー、うんうん。プレゼント出来るわよね! よかったわ~。あっ、それならこのシャツとかもどうかしら~」
そうやって里羅さんは次から次へと聡司や悠司に似合う服を披露してくれた。
聡司が里羅さんを紹介する前に言っていた彼女を表現する言葉『Bullet』だけど──それは行動のみならず、お喋りという観点からも同じ言葉が当てはまると私は実感していた。
おかげで私は里羅さんの勘違いを紐解く事や、隙を見て聡司に里羅さんの勘違いについて告げる事は出来なかった。最初のうちはどうしようと戸惑ったけど、気がつくと里羅さんの話に聞き入っていた。でも時間は直ぐに過ぎてしまう。里羅さんの怒濤の会話は唐突の終わりを告げた。何故ならばしっかりと里羅さんの予定が夕方から入っていたからなのだ。
その事を知らなかった聡司も驚いていた。
「夕食ぐらい一緒に取れると思ったのに。忙しいのは相変わらずなんだね」
その聡司の声に里羅さんは元気に答えた。
「そうよ~絶対聡司に連れて行って貰おうと考えていたのよ。ほら、確か釣りが出来て自分が取った魚を捌いてくれるイ、ザカヤ? だったかしら」
「……何で居酒屋なんだよ。ホテルに入っている寿司屋の方がいいと思うよ? 全く『鰻の蒲焼き風味サイダー』とか、いつも欲しいものがズレているよね里羅って」
「えー、そうかしら?」
「そうだよ」
里羅さんと聡司はそう言って笑い合う。二人は少し見つめ合ってから、腕を上げ拳を軽く合わせる。
「私もね日本へ来たのが久し振りだったから。予定を入れてしまったの。だけど、また直ぐに時間を作るから。ね?」
前向きに答えた里羅さんは大輪の花が咲いた様な笑顔を向ける。
世界中を飛び回るヘアメイクアーティストは疲れ知らずだ。新たに時間を作る事を約束して別れる事になった。
◇◆◇
ハイグレードホテルの大人の遊びを満喫出来て楽しかったけど、里羅さんと別れてしまうとどうも静かになって寂しい気持ちになった。エグゼクティブフロアのフロントで、里羅さんからのプレゼントの洋服を聡司のマンションへ送る手続きを終え、私と聡司はタクシーに乗り込んだ。外は見事な夕焼け空で楽しかった時間が終わってしまった事を改めて感じる。
タクシーの後部座席で聡司は私の手を握り、窓の外を見つめていた。私と同じ様に里羅さんとの時間が終わってしまった事に寂しさを覚えているのだろうか。聡司は運転手さんに行き先を告げた後、何も言葉を発さなかった。
結局、里羅さんの誤解を解けずじまいだし。聡司にもその事の説明が出来ないままだ。
まさか『聡司と悠司が付き合っていると思っていて、私がそのよき理解者と思い込んでいる』という話も、今なら出来るはずなのに何故か口を開く事が出来ない。
やっぱりそれは──あの短時間で里羅さんという強烈な個性に飲み込まれて彼女の優しさに惹かれてしまったのだろう。
聡司と悠司が恋人同士という事を(誤解だけど)受け入れるようとしている事や、さりげなく悠司の事も含めてプレゼントをするサプライズ。そして聡司という弟、家族を愛しているからこそ私という理解者に繋がろうとした事とか。もちろん里羅さんと連絡先を交換し『聡司とユージの事をお願いね!』と言われてしまったし。
全部誤解なのだけどね……
何となくだけど、性別は関係なく里羅さんが結婚したり恋人になったりするという理由が分かる気がした。やっぱり早いうちに誤解は解くべきだ。悠司の家族である陽菜さんにも、聡司の家族である里羅さんにも本当の事を告げよう。私は心の中で一人で何度も頷いた。
「……素敵なお姉さんだね」
私はタクシーの窓越し夕焼けの空を見つめながら呟いた。小さな呟きは当然聡司にも聞こえていて、私とは反対側の窓の外を見つめながら口を開いた。
「……相変わらず忙しい人ですよ。せっかく食事を一緒にと思ったのに。ああ、でも……居酒屋に行きたいって本当に。変なサイダーを買ってこいとかさ、振り回されるし……プレゼントだってあんなに一方的じゃ何も出来ないじゃないですか」
振り向いていないから聡司の顔は見ない。声色から想像するに、口を尖らせているんじゃないかしら。プレゼントされた事に腹を立ててるなんて弟らしいと言うか可愛いと言うか。
聡司だってずっと会いたかったんでしょ? 離れて暮らす家族、里羅さんに。
聡司の様子からそう感じるけど口に出したらひねくれそうなので私はグッと堪えた。
久し振りだからこそ──本当の事を伝えたかった。そう強く思う。
聡司は相変わらず窓の外、夕陽を見ていた。独り言の様な台詞を再び口にする。
「そうだ、次に時間が取れたらその時は三人で──」
その言葉に私は思わず振り向いた。でも聡司は私の方を見ていない。ずっと窓の外を眺めたままだ。
聡司の心の中で呟いた一言を口にしたのだろうか。里羅さんについた小さな嘘が、聡司の心の中で後悔と言う澱になったのか。
分かるわよ。だって私も同じよ。だからきっと聡司の言葉の続きはこうだ。
三人で会いましょうね──
「……私もそう思うわ」
私は聡司の後頭部を見ながら小さく呟いた。
聡司に聞こえたかどうかは分からない。聡司は相変わらず窓の外を見たままだ。その代わり私の手を握りしめていた力が少しだけ強くなったと思った。
私達二人は、それ以上話す事はなかった。やがて陽は沈みタクシーは老舗旅館の前で止まった。
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