【R18】まさか私が? 三人で! ~社内のイケメンが変態だった件について~ その3

成子

文字の大きさ
上 下
9 / 34

Case:天野 5

しおりを挟む
「えー? まだ他に見たい店があるのかよ。もう五軒目だぞ?」
 片手に陽菜さんの荷物を持った天野が目を点にする。

「うん。次で最後だからさー。ねーお願い!」
 私の片手を握りしめる陽菜さんが、後ろから歩いてくる天野に振り向いて満面の笑みを向ける。それだけ可愛く微笑まれたら、お兄さんの天野も嫌だとは言えないみたいだ。

「へいへい。まぁ、こうして歩くのも、腹一杯食ったから消化にはいいけどよ」
 いつもなら女性に対してスマートに優しく対処する天野が珍しくぼやいた。絶対に文句は言いそうにないけれども、妹の陽菜さんにポロリと本音も見え隠れするみたいだ。それでもちゃんと買い物に付き合い、荷物を持ってついてくる優しいお兄さんだった。

 陽菜さんが行きたい店を片っ端から制覇しようという事になったのだが──古着屋、セレクトショップ、アクセサリーショップに入って、それから再び違うセレクトショップと──あちこち彷徨う。

 私としては何処も初めて入るお店で、とても新鮮だった。最近の女子高生ってこんなにお洒落なのね! 何だか面白い企画が思いつきそうだと、僅かな事ですら感動だった。気がつけばイタリアンのお店を出てから三時間以上経過していた。

 天野が持つ荷物はそんなに多くない。なかなか週末に会えなかったから、今日の支払いはお兄さんの天野がする事になっていた。

 お店の品物を手に取る陽菜さんだったが、手当たり次第購入するわけではなかった。欲しいものをお兄さんと一緒に確認しながら少しだけ購入する。センスの良い天野の意見を聞きたいのと、一緒に暮らしていない分接する事が少ないお兄さんとの時間を楽しんでいる様に見えた。

 そんな大切な時間の中でも陽菜さんは、私に積極的に話しかけてくれた。
「涼音さんはどう思うー? やっぱりお兄ちゃんが言う様にこっちの色が良いかなー」
「私も陽菜さんにはこのオレンジ色が似合うと思うわ」
「涼音さんが言うならこっちにする!」
 陽菜さんがそう言って私の手を取りレジに向かおうとする。

 何かと涼音さんと私を慕ってくれる様な発言に、ついに天野が不満の声を上げた。
「おい。俺の意見は何処へ行ったんだよ?」
「えーだってそこはやっぱり女子同士だしー涼音さんだしー」
「えーお兄ちゃんに向かってそんな事を言うの?」
 天野がわざとショックを受けた振りをして見せる。

 でも、これは陽菜さんが気を遣って私に沢山アプローチをしてくれているのだと思う。陽菜さんに受け入れて貰えている事が嬉しいと思う反面、もっと私がしっかりしなくてはと感じてしまった。



 ◇◆◇

「えっとー最後にねーあそこの下着屋さんに行きたいだけどーお兄ちゃんは、ここで待っていてくれる?」
 陽菜さんが指さしたのは私達もよく知っているランジェリーショップだった。女性のものから男性のものまで、年齢層も幅広く取りそろえているお店だ。三階まであるのだが、一階は比較的若い男女向けの商品が多く取りそろえられている。

 私は比較的年齢層の高い商品を取りそろえている、二階で買い物をした事がある。

 あら? でも確かここのお店って……天野と岡本の営業担当のお店じゃなかったかしら。

 私達三人は、下着を作る会社に勤めている。国産の商品も企画販売するし、更に海外の下着も代理店として販売している。このお店は特に力を入れている提携ショップだ。

 そう思って振り向くと天野が不満そうに声を上げた。

「最後に立ち寄る店なのに、どうして俺だけ仲間はずれなんだよ。それにここのショップは俺の担当でもあるから、きっといいものを選んで貰えるぜ?」
 俺に任せろと言わんばかりに天野は胸を張った。

 しかし、次の陽菜さんの一言で天野が灰になってしまった。

「えー妹の下着デザインに口を出すお兄ちゃんなんて、唯々キモいだけなんですけどー。えっ、もしかしてー妹のブラのサイズとか知りたいってわけじゃないよねー」
 今までの高くて可愛い声は何処へ行ったのだろう? そのぐらい低くい声だった。

 陽菜さんと私と天野以外にも沢山の人が行き交う通りだが、まるで黒く辺りが塗りつぶされたほどの錯覚を受けるぐらいだ。

「えっ、唯々キモいって……」
 天野がぽつりと呟いたまま立ち止まったまま固まっていた。

 そしてサラサラと頭の辺りから灰になり……そんな表現が似合うほど天野はショックを受けていた。天野は職業柄、下着について詳しい。嫌らしい視線で下着を厳選しようとしたのではなく、本当に合ったものを教えたかったのだと思う。だからこそ余計に陽菜さんの言葉が刺さった様だ。

 灰になる天野に向かって陽菜さんはウインクを一つして手を振った。
「ここからは私と涼音さんだけで行ってくるからーお兄ちゃんはここで待ってってね? もちろん変な女性に引っかからない様にねー静かに待ってるんだよー?」
 まるでリードをつけた犬に言い聞かせる様に、軽快に手を振って私を引っ張ってズンズン歩いて行く。

 取り残された天野は立ったままで、手を振り返す事なく固まっていた。

 本当に灰になってるわね。大丈夫かな。元に戻るのかしら……私は陽菜さんに引っ張られながら、遠くなる天野をじっと見つめていた。



 ◇◆◇

「いらっしゃいませぇ~」
 お店に入ると若い定員が私と陽菜さんに微笑みながら挨拶をしてくれた。

 店内は中高生で溢れていた。だいたい友達かカップルで訪れていて、皆楽しそうに下着や部屋着を見ていた。

 確かこのお店はカップルや友達と一緒に入る事が出来る試着室があったはずだ。中学生や高校生がカップルで入るのはどうなのだろうと思うけど、別に変な事をする(もはやこの思考が邪推で年老いているのかもしれない)わけではないので、皆楽しんで使用していると聞いている。

 よし、ここはせっかく下着メーカーに勤めている身として、陽菜さんに似合う下着を選んでみせるわ! 天野や岡本といった営業担当ではないけれども、企画者として頑張らなきゃ。

 そう考えたら、灰になった天野と、今日は会う事がない岡本の事を思い出す。

 天野はそろそろ復活しているかしら。岡本は、今頃どうしているかしら。

 気にし始めたら気になるから出来るだけ思い出さない様にしていたけど。天野と素敵な時間を過ごせば過ごすほど、岡本の事を思い出してしまう。

 結構寂しがり屋だから今頃落ち込んだりしていないかしら。でも今日を頑張って天野の家族、陽菜さんともっと打ち解けて、次回の岡本の家族に会う時に繋げていかないと。

 この作戦は私達が三人でいる為の作戦なのだから。そう自分に言い聞かせる。

 だけど何か岡本にもお土産を買おうかな……うん。そうしよう。でも、その前にとにかく陽菜さんと下着選びよ! 私は一つ鼻息を荒くして力を入れた。

 私は手を繋いで店内を歩いて行く陽菜さんに話しかける。

「陽菜さんはどんな下着を希望して──って、え? 陽菜さん?」
 陽菜さんは他のお客さんを上手に除けながら、狭くなる通路を歩く。私が話しかけても全く反応しないで、ズンズンと歩いて行く。私の方を少しも振り向いてくれない。

「ど、どうしたの?」
 私がぽつりと呟いた言葉に陽菜さんは、ようやくピクリと反応した。そして、近くのブラジャーとショーツの二点セットのハンガーをつかみ取った。

「え? それは」
 明らかに私のサイズでも陽菜さんのサイズでもなさそうな下着を小脇に抱えて、お店の一番奥にある試着室前にたどり着いた。

 試着室前では受付カウンターがありコンシェルジュ風の店員が、一番奥の赤いカーテンの部屋に向かって手を上げた。

「あっ。ご試着ですかぁ~? お二人ですね。一緒に左側の一番奥の部屋へ~どうぞどうぞ~」
 その店員さんに促されるままに、陽菜さんは歩いて赤いカーテンを大きく開け、手を繋いだ私の体を押し込んだ。

 そして赤いカーテンを閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...