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Case:天野 3
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「お父さんなんて呼ばれるから、何事かと思ったぜ」
運ばれてきた大きなマルゲリータを、ピザカッターで切り分け天野が溜め息をつく。それから『自分がお父さん』である場合を想像して、首を左右に振ったり頷いたりしていた。
「俺が親父って倉田となら……ありか?」
と、天野は改めて呟いていた。
「あの二人さーこの辺りでは有名なナンパ男なんだよ。顔は良いいし、お洒落だから人気はあるんだけどーしつこいんだよね。涼音さん級の美人に声をかけるなんて、身の程を知れって感じだよ。そんな涼音さんを絶対逃さないだろうと思ってー」
そう頬杖をついて呟くのは、私の事を『お母さん』と呼んだ女子高生だった。
「有名なナンパ男って何だ? あいつら勝手に俺の倉田に触れやがって」
台詞の最後に舌打ちする天野だが、手元は丁寧にピザをカットしていた。
「うんうんホントそれは同感。だってさー抱きついた時、すっごいおっぱい柔らかくってびっくりしたー。巨乳の友達もいるけど触っても固いし。おっぱいってあんな風に柔らかいのが理想的だよね。きっと凄く綺麗なおっぱいなんだろうな~そんな涼音さんの腕を触るなんてねー」
女子高生は自分の取り皿を天野の前に差し出し、私のバストについての感想を述べる。低い身長の彼女が私に抱きつけば、丁度顔が胸の辺りに来ていた。
「うん。あの、ありがとう」
まさかのおっぱいを褒められ、いたたまれなくなった私は頬を染め俯いた。
柔らかいおっぱいを褒められるって。むしろ若い女の子が青い果実とは言えど、張りがあるから美しいと思うけど。突然、歳を感じてしまい複雑な気持ちになり恥ずかしい。
そんな私を見た天野が、女子高生のお皿にピザを丁寧に取り分けながら文句を言い出した。
「こら。陽菜まで俺の倉田の胸に断りなく触るんじゃない。これは俺のだ」
文句をブツブツ言うけど、綺麗にカットしたピザを形が崩れない様に取り皿に分ける天野だった。
そんな天野の言葉を聞きながら、陽菜と呼ばれた女子高生は満面の笑みを浮かべた。
「エヘヘ~いいじゃん別にー女子同士なんだからさー。わー大きなところくれた! ピザ美味しそう~お兄ちゃんありがとう」
私をナンパ男の子二人から助け出してくれた女子高生の名前は天野 陽菜さんと言う。
そう。今日待ち合わせをしていた天野の妹さんだった。
◇◆◇
ナンパ二人が私に絡んだ後、助ける為に抱きついてきた女子高生にお母さんと呼ばれ、更にお父さん役の天野が登場するというハプニングが起こった。
登場した天野の姿は、お父さんと呼ぶにはかなり若すぎた。
でも、その迫力にナンパの男の子はポカンと口を開けてしまった。何故口を開けたのかと言うと、それは天野の立ち姿が完成されていたからだ。
ダークグレーのジャケットに、薄いグレーのスラックス、この辺りはフォーマル寄りのスタイルだ。ジャケットの下に覗くシャツは白のVネックで鍛えられたからだが包まれているのが良く分かる。足元は白いスニーカーで、カジュアルに寄せている部分がプライベートらしくてバランスが良い。後はシンプルなものだ。腕にはごつめの時計とサングラス。小物も最低限でまとまっていて嫌みがない。
いつもの緩いくせ毛風の髪型が決まっていた。三十代男性として落ち着いた出で立ちであり、長身とがっちりした体格が目を引く。
かっ……格好いい! 私は思わず心の中で呟いた。
よく考えたらいつも岡本の家で会っているけどプライベートの服装と言ったら、ラフな部屋着か(それでもお洒落だけど)、裸……コホン、そうじゃなくて。
一度ハロウィンパーティーの為に出かけた事があったけど、ほとんど仮装状態だったし。初めて見るプライベートの服装に見とれてしまう。
「お、お父さんって。ヤバい方のお父さんとか?」
「これはないわー。このタイプのお父さんはないわー」
ナンパの二人が自信なさそうにボソボソ話しているのが聞こえた。
迫力のある天野の姿と『お父さん』というワードが、何やら変な方向に想像が働いてしまったみたいだ。
天野がサングラスを下にずらして、上目遣いで私達を見る。逆光でまぶしかったのか瞳を細める。日本人にしては彫りの深い顔。二重の垂れ気味の瞳が鋭く見える。
私は思わずその表情にゴクンと唾を飲み込んだ。すると私に抱きついたままの女子高生はぽつりと呟いた。
「怖~まずいなー失敗したかもー……」
何を失敗したのかは分からないけれども、その言葉を聞いたナンパの男の子は小さな悲鳴を上げて逃げて行った。
その様子を見て天野がサングラスを外しながら首を傾げた。
「? 何なんだよ。人の顔見て逃げるとか」
うん……天野が来てくれて助かった。私は心からそう思った。
◇◆◇
「お母さんって呼ばれてびっくりしたけど、助けてくれたのね。本当にありがとう。陽菜さん」
私は椅子に座ったまま小さく頭を下げ陽菜さんにお礼をする。
「エヘヘ~そんなーお礼なんて。私こそ急に抱きついて驚いたよねーごめんなさい」
陽菜さんはマッシュボブを揺らして笑った。陽菜さんの周りにピンク色の花びらが舞っていると錯覚するぐらい、可愛い微笑みだった。
天野の妹さんと言うので、てっきり天野と同じ様に長身で大人っぽい女子高生を想像していたのは──そう、私です。先入観はよくないわね。
実際、陽菜さんは身長百五十五センチと小柄だった。大きなライトブラウン瞳に長い睫毛。柔らかそうなくせ毛のマッシュボブが揺れていて、小動物……リスを彷彿させるキュートな女の子だった。
今日、午前中は学校の特別授業があったそうで制服姿だった。制服は有名私立高校のものだ。かなり偏差値が高い私立高校だ。天野が言うには『可愛い制服の高校に行きたくて、選んだんだと。呆れる理由だろ?』との事だけど、実力がないと入学出来ないわけで。陽菜さんはかなり優秀なのだろう。
それにしても制服を初めて間近で見たけど、二十万以上するって言うのは本当なのね。紺色のブレザーの布も仕立ても全然違う。オーダーメイドのスーツと同じだ。しかも胸のポケットのエンブレムも複雑な刺繍で凝ってるし。
しかも制服を着ている陽菜さんが可愛い事! かつて自分が通っていた時の制服とは天と地の差で、驚いてしまう。
確かに天野と並んで歩くのは誤解されそうね……顔は全く似ていないし。天野の隣で歩いていると、妹さん家族だとは思われない可能性が高い。となると……プレイボーイの天野だから、イケナイ関係だと勘ぐられそう。
私は丸テーブルの隣に座る天野をチラリと見て、心の中で呟いた。しかし、何を考えていたのか天野にバレてしまったみたいだ。
「そんな風に誤解されるから、高校生の妹がいるって言いたくないんだよな……」
口を尖らせながらもやはり手元は丁寧にピザを分けてくれる。今度は私に取り皿を渡してくれた。
「ごめんなさい。だって天野だから仕方ないわよ。誤解されても」
「俺だから誤解って……まぁ仕方ないな」
「ふふふ。天野、今日の私服、凄く似合っているわね。いつもスーツ姿とはだ、かー……じゃなくって! とにかく似合っているわよ。それにありがとう、素敵なお店に連れてきてくれて。ピザもパスタも美味しそうだし、お店の雰囲気も落ち着きがあって良いわね。さすがだわ。よくお店を知っているのね」
私は改めて天野のファッションを褒める。いつも見ているのがスーツ姿と裸……とは陽菜さんの前で言えないのでグッと飲み込む。
本当に素敵。天野は派手なイメージだから緋色のジャケットとか紫色のパンツとか、後はパイソン柄のシャツとか……言葉にすると痛い服装でも簡単に着こなせそうな天野だ。それなのに凄く意外にシンプルにまとめていた。それが意外でときめいてしまう。
しかも、陽菜さんと三人で食事をするお店のチョイスも素敵だ。
若者向けのお店がひしめき、ポップなカフェなどが多い中、こんな隠れ家のイタリアンを見つけてくれるなんて。小さなお店だけど居心地が良くてゆっくり出来る。本格的なピザを焼く窯があって、絶品なのだとか。夜はバルになってお酒も飲めるんだって。さすがに女の子が喜びそうなお店をよく知ってる!
天野は私を横目で見ながら頬を赤らめて笑った。
「前に来た時凄く印象に残っていた店なんだ。いつか倉田とお……じゃなくて、一緒に来たいと思っていたんだ。倉田こそ凄く似合ってるぜ。良いなエコレザーのスカート。いつもパンツ姿が多いから新鮮だ。そのぐらいなら会社にも着てもいいんじゃね? それなら俺も合わせてハードにしたら良かったかな」
恐らく天野は『倉田と岡本』と言いかけて、止めたのだろう。そうやって岡本の事もいつも考えている天野だ。そして、私の服装を褒めてくれる事を忘れない。
「ふふ。ありがとう」
そう言って笑って私はピザの載ったお皿を受け取った。
そんなやりとりを見ていた陽菜さんがマルゲリータを大きく一口頬張りながら、不思議そうに首を傾げた。もぐもぐと可愛く咀嚼し、ゴクンと飲み込むと私と天野に尋ねた。
「ねぇねぇ。もう付き合って何ヶ月も経つのに、何で今更普段着を褒め合ってるのー? それに名前も下の名前で呼んだりしないのー?」
陽菜さんの、まさにその通り! と言える意見だった。
「し、下の」
「な、名前」
陽菜さんに指摘され、天野と私は思わず顔を見合わせる。天野も目を丸めている、それからスッと二重の瞳を細めて私を見つめた。
あっ……
その視線に私は思わず背中にゾクゾクするものがあった。何故ならば、濃密な時間を過ごす時にそういう顔を天野がするからだ。
その時だけ、私の名前を呼ぶ。そして私も。
ああ……涼音
悠司、私もう駄目なの
三人で付き合っている事を隠しているから、普段名前で呼び合う事はない。だからこんな風に指摘されると、名前を呼ぶのはそういう行為に繋がってしまう。
会社で呼ぶなんてありえないし。でも、その三人で一緒にいる時も、感情が高ぶって呼ぶ事はあるけど。はっ。何を言っているの私は。そうじゃなくて、凄く感じた時で……って、そういう事を思い出している場合じゃないのに!
私は頬を染めて、どう返答して良いのか分からず困ってしまう。
するとそんな私の顔を見た天野もうっすらと頬を染めた。きっと私と同じ事を考えているのだろう。
運ばれてきた大きなマルゲリータを、ピザカッターで切り分け天野が溜め息をつく。それから『自分がお父さん』である場合を想像して、首を左右に振ったり頷いたりしていた。
「俺が親父って倉田となら……ありか?」
と、天野は改めて呟いていた。
「あの二人さーこの辺りでは有名なナンパ男なんだよ。顔は良いいし、お洒落だから人気はあるんだけどーしつこいんだよね。涼音さん級の美人に声をかけるなんて、身の程を知れって感じだよ。そんな涼音さんを絶対逃さないだろうと思ってー」
そう頬杖をついて呟くのは、私の事を『お母さん』と呼んだ女子高生だった。
「有名なナンパ男って何だ? あいつら勝手に俺の倉田に触れやがって」
台詞の最後に舌打ちする天野だが、手元は丁寧にピザをカットしていた。
「うんうんホントそれは同感。だってさー抱きついた時、すっごいおっぱい柔らかくってびっくりしたー。巨乳の友達もいるけど触っても固いし。おっぱいってあんな風に柔らかいのが理想的だよね。きっと凄く綺麗なおっぱいなんだろうな~そんな涼音さんの腕を触るなんてねー」
女子高生は自分の取り皿を天野の前に差し出し、私のバストについての感想を述べる。低い身長の彼女が私に抱きつけば、丁度顔が胸の辺りに来ていた。
「うん。あの、ありがとう」
まさかのおっぱいを褒められ、いたたまれなくなった私は頬を染め俯いた。
柔らかいおっぱいを褒められるって。むしろ若い女の子が青い果実とは言えど、張りがあるから美しいと思うけど。突然、歳を感じてしまい複雑な気持ちになり恥ずかしい。
そんな私を見た天野が、女子高生のお皿にピザを丁寧に取り分けながら文句を言い出した。
「こら。陽菜まで俺の倉田の胸に断りなく触るんじゃない。これは俺のだ」
文句をブツブツ言うけど、綺麗にカットしたピザを形が崩れない様に取り皿に分ける天野だった。
そんな天野の言葉を聞きながら、陽菜と呼ばれた女子高生は満面の笑みを浮かべた。
「エヘヘ~いいじゃん別にー女子同士なんだからさー。わー大きなところくれた! ピザ美味しそう~お兄ちゃんありがとう」
私をナンパ男の子二人から助け出してくれた女子高生の名前は天野 陽菜さんと言う。
そう。今日待ち合わせをしていた天野の妹さんだった。
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ナンパ二人が私に絡んだ後、助ける為に抱きついてきた女子高生にお母さんと呼ばれ、更にお父さん役の天野が登場するというハプニングが起こった。
登場した天野の姿は、お父さんと呼ぶにはかなり若すぎた。
でも、その迫力にナンパの男の子はポカンと口を開けてしまった。何故口を開けたのかと言うと、それは天野の立ち姿が完成されていたからだ。
ダークグレーのジャケットに、薄いグレーのスラックス、この辺りはフォーマル寄りのスタイルだ。ジャケットの下に覗くシャツは白のVネックで鍛えられたからだが包まれているのが良く分かる。足元は白いスニーカーで、カジュアルに寄せている部分がプライベートらしくてバランスが良い。後はシンプルなものだ。腕にはごつめの時計とサングラス。小物も最低限でまとまっていて嫌みがない。
いつもの緩いくせ毛風の髪型が決まっていた。三十代男性として落ち着いた出で立ちであり、長身とがっちりした体格が目を引く。
かっ……格好いい! 私は思わず心の中で呟いた。
よく考えたらいつも岡本の家で会っているけどプライベートの服装と言ったら、ラフな部屋着か(それでもお洒落だけど)、裸……コホン、そうじゃなくて。
一度ハロウィンパーティーの為に出かけた事があったけど、ほとんど仮装状態だったし。初めて見るプライベートの服装に見とれてしまう。
「お、お父さんって。ヤバい方のお父さんとか?」
「これはないわー。このタイプのお父さんはないわー」
ナンパの二人が自信なさそうにボソボソ話しているのが聞こえた。
迫力のある天野の姿と『お父さん』というワードが、何やら変な方向に想像が働いてしまったみたいだ。
天野がサングラスを下にずらして、上目遣いで私達を見る。逆光でまぶしかったのか瞳を細める。日本人にしては彫りの深い顔。二重の垂れ気味の瞳が鋭く見える。
私は思わずその表情にゴクンと唾を飲み込んだ。すると私に抱きついたままの女子高生はぽつりと呟いた。
「怖~まずいなー失敗したかもー……」
何を失敗したのかは分からないけれども、その言葉を聞いたナンパの男の子は小さな悲鳴を上げて逃げて行った。
その様子を見て天野がサングラスを外しながら首を傾げた。
「? 何なんだよ。人の顔見て逃げるとか」
うん……天野が来てくれて助かった。私は心からそう思った。
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「お母さんって呼ばれてびっくりしたけど、助けてくれたのね。本当にありがとう。陽菜さん」
私は椅子に座ったまま小さく頭を下げ陽菜さんにお礼をする。
「エヘヘ~そんなーお礼なんて。私こそ急に抱きついて驚いたよねーごめんなさい」
陽菜さんはマッシュボブを揺らして笑った。陽菜さんの周りにピンク色の花びらが舞っていると錯覚するぐらい、可愛い微笑みだった。
天野の妹さんと言うので、てっきり天野と同じ様に長身で大人っぽい女子高生を想像していたのは──そう、私です。先入観はよくないわね。
実際、陽菜さんは身長百五十五センチと小柄だった。大きなライトブラウン瞳に長い睫毛。柔らかそうなくせ毛のマッシュボブが揺れていて、小動物……リスを彷彿させるキュートな女の子だった。
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しかも制服を着ている陽菜さんが可愛い事! かつて自分が通っていた時の制服とは天と地の差で、驚いてしまう。
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私は丸テーブルの隣に座る天野をチラリと見て、心の中で呟いた。しかし、何を考えていたのか天野にバレてしまったみたいだ。
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口を尖らせながらもやはり手元は丁寧にピザを分けてくれる。今度は私に取り皿を渡してくれた。
「ごめんなさい。だって天野だから仕方ないわよ。誤解されても」
「俺だから誤解って……まぁ仕方ないな」
「ふふふ。天野、今日の私服、凄く似合っているわね。いつもスーツ姿とはだ、かー……じゃなくって! とにかく似合っているわよ。それにありがとう、素敵なお店に連れてきてくれて。ピザもパスタも美味しそうだし、お店の雰囲気も落ち着きがあって良いわね。さすがだわ。よくお店を知っているのね」
私は改めて天野のファッションを褒める。いつも見ているのがスーツ姿と裸……とは陽菜さんの前で言えないのでグッと飲み込む。
本当に素敵。天野は派手なイメージだから緋色のジャケットとか紫色のパンツとか、後はパイソン柄のシャツとか……言葉にすると痛い服装でも簡単に着こなせそうな天野だ。それなのに凄く意外にシンプルにまとめていた。それが意外でときめいてしまう。
しかも、陽菜さんと三人で食事をするお店のチョイスも素敵だ。
若者向けのお店がひしめき、ポップなカフェなどが多い中、こんな隠れ家のイタリアンを見つけてくれるなんて。小さなお店だけど居心地が良くてゆっくり出来る。本格的なピザを焼く窯があって、絶品なのだとか。夜はバルになってお酒も飲めるんだって。さすがに女の子が喜びそうなお店をよく知ってる!
天野は私を横目で見ながら頬を赤らめて笑った。
「前に来た時凄く印象に残っていた店なんだ。いつか倉田とお……じゃなくて、一緒に来たいと思っていたんだ。倉田こそ凄く似合ってるぜ。良いなエコレザーのスカート。いつもパンツ姿が多いから新鮮だ。そのぐらいなら会社にも着てもいいんじゃね? それなら俺も合わせてハードにしたら良かったかな」
恐らく天野は『倉田と岡本』と言いかけて、止めたのだろう。そうやって岡本の事もいつも考えている天野だ。そして、私の服装を褒めてくれる事を忘れない。
「ふふ。ありがとう」
そう言って笑って私はピザの載ったお皿を受け取った。
そんなやりとりを見ていた陽菜さんがマルゲリータを大きく一口頬張りながら、不思議そうに首を傾げた。もぐもぐと可愛く咀嚼し、ゴクンと飲み込むと私と天野に尋ねた。
「ねぇねぇ。もう付き合って何ヶ月も経つのに、何で今更普段着を褒め合ってるのー? それに名前も下の名前で呼んだりしないのー?」
陽菜さんの、まさにその通り! と言える意見だった。
「し、下の」
「な、名前」
陽菜さんに指摘され、天野と私は思わず顔を見合わせる。天野も目を丸めている、それからスッと二重の瞳を細めて私を見つめた。
あっ……
その視線に私は思わず背中にゾクゾクするものがあった。何故ならば、濃密な時間を過ごす時にそういう顔を天野がするからだ。
その時だけ、私の名前を呼ぶ。そして私も。
ああ……涼音
悠司、私もう駄目なの
三人で付き合っている事を隠しているから、普段名前で呼び合う事はない。だからこんな風に指摘されると、名前を呼ぶのはそういう行為に繋がってしまう。
会社で呼ぶなんてありえないし。でも、その三人で一緒にいる時も、感情が高ぶって呼ぶ事はあるけど。はっ。何を言っているの私は。そうじゃなくて、凄く感じた時で……って、そういう事を思い出している場合じゃないのに!
私は頬を染めて、どう返答して良いのか分からず困ってしまう。
するとそんな私の顔を見た天野もうっすらと頬を染めた。きっと私と同じ事を考えているのだろう。
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