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03 家族

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 コーヒーを淹れてソファに三人並んで座る。真ん中は私で左右は天野と岡本だ。コレがいつもの定位置。いつも二人に挟まれて過ごす。

 コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置いて、私は驚いて声を上げる。

「えっ。彼女がいるって伝えたの?! 家族に」

「だってのは」
ですからね」
 天野と岡本はコーヒーを一口飲んでマグカップの中を見つめながら答える。何故か悪戯がバレた子供の様に口を尖らせながらだ。

 当然『彼女がいる』と聞いた天野と岡本の家族は、こう言い出した。

 ──誰にも決めなかったのに珍しい。そんな彼女に是非会いたい。紹介してよね──

「妹が『お願い。お兄ちゃん』って」
「姉が『分かっているわね。聡司』って」
 マグカップを置きながら天野と岡本ががっくり頭を垂れた。

「それは言われるわよ──んんっ? 妹に姉って。えっ、ええっ?」
 私はそれぞれの言葉に目を丸めた。『家族』と言うからてっきり両親かと思っていたのに──どうやら違う様だ。

 左右に座る天野と岡本交互を見る。私の垂れた髪の毛が左右にぶんぶんと動く。

 天野が参ったと言った様子で掌を上に上げるジェスチャーをする。
「歳の離れた妹がいるんだわ。俺」
「妹さん!」
 確かに天野は面倒見が良いと思ってはいたけど、まさか妹さんがいるとは初耳だ。

 岡本も垂れた頭の後頭部をさすりながら呟く。
「僕も歳が離れた姉がいるんですよ」
「お姉さん!」
 確かに岡本は面倒を見て貰う側だとは思ったけど、まさかお姉さんがいるとは初耳だ。

「そ、そうだったの。歳の離れた妹さんにお姉さんが……」
 私はぽかんとなりながら呟く。

 私の呟きに、岡本が黒縁眼鏡のブリッジを人差し指で上げながら、奥の瞳を見開く。
「天野さん妹さんがいらっしゃるんですか? 確かに兄貴って感じですよね」
 滑舌の良い声がはっきりと驚きを示した。

 その声に天野は恥ずかしそうに笑った。
「……そうなんだ。驚くだろうけど遅くに生まれた妹でさ、俺と十四歳離れてるんだわ」

「「じゅうよんさい?!」」
 私と岡本が声をそろえて更に驚いた。

「えっ待ってよ。んんっ? って事は天野が私と同じ歳で三十一歳でしょ。十四離れてって事は、妹って十七歳? 信じられない女子高生じゃないのよ。嘘でしょー」
 私は指折り数えて驚いた。女子高生がこんな身近なところで家族にいるとは。

 しかもこの天下無敵のプレイボーイだった天野の妹だなんて! 考えもしなかった。

「女子高生なんて犯罪じゃないですかっ!?」
 パニックになった岡本が頭の天辺から声を上げる。

「どうして犯罪になるんだよ……ただの妹だぞ」
 天野が混乱する私と岡本を見比べて溜め息をついた。

 大抵、私と岡本の様な反応を示すので、今まで誰にも話した事がなかったのだとか。

 うっ、ごめんなさい。

 私と岡本が我に返って言葉を失っていると、今度は天野が岡本に尋ねる。
「岡本は歳の離れた姉さんがいるのか? 確かに岡本は弟って感じだもんな」
 天野の尋ねる声に岡本は嫌そうな顔になった。

「ええ。十歳上の姉です。その道では有名なヘアメイクアーティストなんですけど。まぁ彼女はBullet……弾丸みたいな女性なんです」
 黒縁眼鏡のレンズが光って、岡本の表情が読み取れなくなる。

「Bullet……か。飛んでいったまま帰ってこないとでも?」
 発音良く天野が尋ね返す。英語は天野も得意だ。

 岡本は半ば諦めた様に呟いた。
「そうなんですよ。思い込んだらそのままで。凄い勢いで飛んでいって帰ってこないんです。帰ってきたかと思えばそれも弾丸で。その証拠に過去、勢いで結婚して四回離婚していますし」

「「よんかい?!」」
 私と天野が声をそろえて更に驚いた。

「えっ。って、やっぱり血は争えないのね。さすがに岡本のお姉さん、裏切らないって言うか……」
 私はゴクリと唾を飲み込んで指を折って四回と数えてみた。結婚するだけでも大変なのに、四回の離婚だなんて。何とバイタリティー溢れる人だろう。しかし、女性とセックスだけの関係を繰り返していた岡本のお姉さんならあり得るかも。コホン……失礼。

「マジかよ……血は争えねぇな」
 変に納得する天野だった。

「どういう意味ですか。二人とも僕を誤解していますよ」
 岡本が納得する私と天野を見て口を尖らせた。

 ヘアメイクアーティストとしてはその道で有名なお姉さんなので、岡本は今まで誰にも話した事がなかったのだとか。

 さすがだわ。エリートの家族はやはりエリート、セレブ(?)なのね。

「んんっ、とにかく! 僕と天野さんの家族に紹介すると言った以上、顔合わせの席を設けさせて欲しいんです」
 岡本が咳払いをする仕草をして私をチラリと見つめた。

「顔合わせって? えっ、それぞれ?」
 私が岡本を見つめながら首を傾げると、天野が私の肩の上に手をポンと置いた。振り返るとくせ毛風の奥で、ブラウンの瞳が弧を描いた。

「自分の彼女を紹介するっていう顔合わせだよ」
「紹介って、もしかして私?」

 私は目を丸めて天野に振り返る。天野と反対側の肩に今度は岡本が手を置いた。

「もしかしてって……当たり前じゃないですか。僕が天野さんを紹介したらおかしいでしょ。友達として紹介するにしても、何が嬉しくてこんなチャラチャラのサーファー崩れを紹介するんですか」

「それは俺の台詞だ。俺だって岡本を紹介したら妹に引かれるわ。俺の友達にこんな陰険黒眼鏡の変態、今までにいた事ねぇし」

 天野と岡本はわちゃわちゃと言い合った後、「だって──」と、二人声をそろえる。

「僕の恋人は」
「俺の恋人は」
「「涼音なんだから」」
 そう呟いて私の両方の頬にそれぞれキスをしてくれた。
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