仕事人狩り

伊賀谷

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第一章

第四話「暮色蒼然(二)」

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 小男が倒れると同時に銀次郎は痩せた男の方を向いた。
 男は無造作に長い腕を垂れて立っていた。いや、両手に何かを持っている。
 男の右手から丸い物体が地面に向かって落ちた。そして手をひねると、それは上に跳ね上がって手に戻って行った。
 男は同じように左手も動かすと、饅頭のような形の物が地面に向かって三尺(約九〇センチメートル)ほど落ちてから跳ね上がった。
 銀次郎は目を細める。不思議な物体の正体が分かってきた。直径一寸五分(約四・五センチメートル)の円盤状の木材を二枚重ね合わせて中心から細い紐で手とつながっている。あれは手車てぐるまだ。現代で言うヨーヨーである。

 ――やっかいだな。

 男は両手の手車を銀次郎に向けて放って来るだろう。うまく避けたとしても手車は再び男の手に戻る。つまり数に限りがある手裏剣や礫のように打ち終わることがないのだ。

「破れ傘の銀次とり合えるとは仕事人冥利につきる」
「仕事人同士で殺し合う必要はねえだろ」
「銭で動くのが仕事人よ」

「しゅっ」と痩せた男は鋭く呼気を吐くと、果たせるかな手車を放った。真っ直ぐ銀次郎に向かって来る。
 銀次郎は見た。手車から刃が突出するのを。回転する刃が迫って来る。

 ――しまった。

 銀次郎は傘を開いた。
 手車が傘に当たって刃が紙に刺さった。すぐに刃は抜けた。
 銀次郎は傘の外から顔を覗かせた。
 すでに手車は痩せた男の手に戻っていた。手元に戻ると刃は収納されるようだ。

「やはりその傘が厄介だな。ではこれならどうだ」

 痩せた男は両手の肘から先を旋回させた。

「ちっ」

 銀次郎は舌打ちして傘の後ろに身を隠した。
 傘に貼った紙が縦に横に引き裂かれた。
 破れた隙間から銀次郎は見た。手車は弧を描く軌道で放たれている。あたかも巨大な鎌を振り回しているようだ。

 ――このままだと傘が壊れちまう。

 思い切って銀次郎は痩せた男に向かって駆け出した。傘が壊れる前に決着をつける必要がある。
 傘はさらに数か所引き裂かれた。
 痩せた男は逃げずに銀次郎と対峙している。

 ――そのまま動くなよ。

 二つの手車の間隙をついて銀次郎は左手に持った閉じた傘の先を男の顔に突き出した。
 堪らず痩せた男は両手で傘の先を掴んだ。

「傘で突いてどうする」
「これでいいんだよ」

 銀次郎は傘の柄の端の石突きを右の掌で叩くと、痩せた男の眼前にある傘の先から鋼の太い針が突出した。
 針は瘦せた男の額に突き刺さった。

「ぐぎ」

 痩せた男は白目をむいて仰向けに倒れた。
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