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第二十一章 それでもぼくはきみに笑おう

第十一話 亡霊と仕切り直し

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前回のあらすじ

開幕ボスを瞬殺する、掟破りの初手《即死》。
まあ攻撃力1でも活躍するらしいし……。



「おのれおのれおのれ、オッッッッノーレッ!!」
「煽ってなんだけどメートルのはね上がり方が怖い」

 絶対に赦してやらないとかクソガキとか、私のかわいそうな語彙力から頑張って罵倒してみたけど、ユーピテルのぶちギレっぷりはちょっと引いちゃうくらいだった。なんか少し冷静になっちゃうくらいには。

 ユーピテルは形相どころか人相さえ変わりそうなほどにFワードを喚き散らしながらのけぞり、怒りのままにさらにのけぞり、もうこれのけぞりすぎてブリッジだよって程にのけぞって、そして見事なアーチを全身で描いたまま、不意にぴたりと静止した。

 スカートの中身が見えちゃってるけど、見たくないよこんなの。嬉しくなさすぎるパンチラ。なんか異形の生物とか潜んでそうだし、なんなら第二形態としてまたぐらから頭が出てきてそのまま戦闘に突入しそうでいやすぎる。
 というかそもそも私は女の子のパンチラに喜ぶ人間ではないのだ。私の性的指向は別に女性に向いてるわけじゃないし。トルンペートとかよく私のことえっちだとか冗談言うけど、私はふたりの体に、普段からそういう目を向けたことってないんだよ。シチュエーション次第なだけで。

 なんの話だっけ。だめだな。リリオ分とトルンペート分が切れそう。

 そうそう、嬉しくないパンチラというか、どれだけ取り繕っても悪魔がとりついてる系ブリッジで静止したユーピテルの異様な気配に、私は気勢をそがれていた。

「…………なーんて。結構驚いちゃったけど、どれだけ異様な現象でも、結果が簡単であれば対処も簡単かしら」
「……なんだって?」
「外傷もなし。毒もなし。呪詛もなし。

 ばちん、と爆ぜるような音とともに、ユーピテルのまたぐらが発光した。輝く股間──違う。その紫電の出処は、彼女の手のひらだ。手のひらが音を立てて電流を発していた。
 ストロボめいた発光とともに、ただの電流ではないであろう、蛇のごとくのたうつ発光体がブリッジ体勢のユーピテルの手のひらから、地竜の死骸へと注ぎ込まれていく。

 理科室の実験めいてカエルの脚に電流を流したかのように、地竜の四肢ががくがくと震えを起こし、崩れ落ちた頭部がびくりびくりと跳ね回る。壊れたおもちゃのような不気味なけいれんがひとしきり地竜の全身を伝わり、そしてユーピテルが恐るべき背筋力でゆっくりと体勢を起こす。ちょっと怖い動きなのでやめてほしい。

 ユーピテルが体を起こすのと同時に、その足元でくたばっていたはずの地竜は、ぎょろりと目を見開き、岩の柱のごとき足でゆっくりと体を起こし始めていた。ただでさえちょっとしたビルみたいだった巨体が、はっきりと動き出すというのは圧巻を通り越して恐怖だ。

「生命素の略奪、あるいは破壊。恐るべき所業なのかしら。でもそれは肉体の破壊ではない。壊れていないのならば、ことなど造作もないかしら」
「いまのブリッジには何の意味が?」
「もとよりワタシは《蔓延る雷雲のユーピテル》! 生体を駆け巡る電流はすべてワタシの手のひらの上!」
「ブリッジしてたよね。いま」
「《脳雲ブレイン・クラウズ》のちょっとした応用……多少酸欠で脳細胞が死滅したところで、エミュレートして動かすなんてお茶の子さいさいかしら!」
「ブリッジはなんだったの? ねえ?」
「イントナルモーリで調整された地竜は死を恐れず、このワタシがいればその死さえも覆せる! あなたのチートも無意味かしら!」
「ねえブリ」
「うるせー! ひき肉になるかしら!」

 咄嗟に飛びのくと、直前までいた空間がぞぶりと削り取られるように、地竜の顎がくうんでいた。図体のわりに、攻撃速度は決して遅くない。さっきまで死んでいたっていうのに。
 ……そうだ。死んでいた、はずだ。
 《生体感知バイタル・センサー》を入れなおしてみれば、さっき死んだはずの肉体に、再び生命反応が見られる。心臓を強制的に動かしたのか。脳がどうとかも言ってた。

 正直なところ、私はプルプラ謹製のこの体に備わったチートである《即死》という効果についてよくわかっていない。相手が死ぬのは確かだけど、本来死ぬということには様々な要因や段階がある。
 例えば人間の死は、極論酸欠が主な原因だ。脳細胞に酸素が行かなくなって死ぬ。心臓が止まったり、出血が多かったり、それらも全て脳に酸素が行かなくなるから死ぬ。窒息も同じ。脳が壊れるから死ぬのだ。

 《即死》、特に《死出の一針》の《即死》は肉体の破壊をほとんど伴わず、ただ死なせる。脳が停止するのだと思う。それが可逆なのか不可逆なのかずっとわからなかった。小動物相手の実験では、心臓マッサージ程度でどうにかなるものではなかったけど。

 脳の電気信号が途絶する形で《即死》しているならば蘇生は望めないと思うけど、この女は派手なだけでなく非常に繊細な電気の魔術を扱うらしい。たとえ死なせても、脳に電気信号を流しなおして復活させるというとんだチート振り。あるいはイントナルモーリとか言う何かの仕業か。
 わからないけど、その結果が目の前にそびえているのだから、その点だけはどうしようもない事実だ。

 認めざるを得ない事実を、正直認めたくない。

「フムン……確かに生き返ってる。なら、もう一回殺すかな」
「何度でもやってみるといいわあ。そのたびにかしら!」
「死ぬまで殺せば死ぬんだよ、こういうやつはさあ!」

 虚勢を張ってみたけど、そう、結局はそこに尽きる。尽きてしまう。
 なにしろ死んでも生き返るのであれば、外傷をほとんど与えられない《死出の一針》はアドバンテージが消滅してしまう。数字にして1しかダメージ通らないからねこれ。
 殺しても殺しても生き返るならば、死なせること自体がただの時間稼ぎにしかならない。

 そして向こうもそれをわかっているから、もはや時間稼ぎさえさせてはくれないだろう。

「まあ何度でも殺していいけど……もう一回でも殺せると思われるのは心外かしらねえ!」
「あ。やべ」

 地竜が大きく口を開いて、噛みついてくるのではなく、大きく息を吸い込み始める。
 それはただの呼吸なんかじゃない。明らかに体の容量を超えるだろう体積の空気が、恐るべき肺活量で吸い込まれ続けている。その影響はちょっとした暴風だ。とっさに身構えなければ、私ごと吸い込まれてしまう。

 これは吸い込み攻撃、
 結果として私への妨害にもなってるけど、これは副産物どころか、単なるでしかない。

 そうだ。私はこれを知っている。
 この攻撃を知っている。

 同じ竜種である飛竜。その戦闘を見物させてもらった時に見た。
 見物と言っても戦闘自体はすぐに片付いてしまって、ほんのちょっぴりしか見ることはできなかったのだけど、それで十分なほどのインパクトがあった。

「……咆哮ムジャードか!」

 咆哮ムジャード……いわば「ブレス攻撃」というヤツだ。
 ドラゴン系のモンスターが、炎やその他を吐きつけて攻撃してくる凶悪無比な範囲攻撃。
 飛竜のそれは大量の空気を吸い込んで圧縮し、風の砲撃として打ち込むというものだった。
 それこそ岩肌に穴をあけるほどの破壊空間は、当然のように人間がまともに食らえば歯車的砂嵐の小宇宙ともいうべき致死的なダメージとなる。具体的に言えばひき肉になる。

 ただでさえヤバイその咆哮ムジャードだけど、飛竜は空を飛んでいるから反動を気にしてそれほど威力を上げられない。
 じゃあ、がっしりとした足で地面にそびえるこいつの咆哮ムジャードはどうだろうか。
 それを呑気に想像して身をもって確かめるというのはちょっと悠長すぎる。

「ゲージたまるまで待つわけないでしょ……ってっ!?」
「もちろん、なわけがないかしらぁ!」

 凶悪な範囲攻撃を繰り出される前に再殺をもくろんだ私の出足をくじいたのは、蜂だった。灰鷹蜂ニゾヴェスポだ。
 ユーピテルが不可思議な手の動きで空をなぞると、それに従うように灰鷹蜂ニゾヴェスポたちが私に襲い掛かってくる。
 それは先ほどまでの無造作に突進してくるだけの雑な弾幕ではない。的確にこちらを包囲し、隙をつぶすように波状攻撃を仕掛けてくる。
 おそらくはユーピテルが電磁波か何か、目には見えない力で蜂たちを操作しているに違いなかった。

「さあ、いよいよもって死ぬがよいかしら!」
「本家本元の蜂のスウォーム攻撃ってわけね……!」

 しかも、回避しつつ大鎌《ザ・デス》を振るって蜂を撃退していたのだけれど、全然減らない。大穴外縁から飛んできているのだろうかと思っていたのだけど、よく見ればそればかりではない。

「うげ……地竜の甲羅にしてるっての!?」
「キヒヒハハハハハハ! これぞ生きて歩いて貪り尽くす、最強の機動要塞なのかしら!」

 地竜が立ち上がったことで見えるようになった甲羅の影や側面に、びっしりと張り付いていたのは灰鷹蜂ニゾヴェスポの巣だ。拠点に蜂の巣を集めたばかりじゃなく、最大戦力である地竜本体に営巣させて、防衛戦力にしてるってわけだ。
 地竜はどうしても攻撃が大味で、素早くもない。それを直掩する機動部隊ってわけだ。

 しかも、よく見れば蜂の巣だけじゃなく、ソフトボール大はある巨大なダニが何匹も張り付いている。
 そいつらは地竜の血を吸っては、ひたすらに卵を産み続けているようだった。当然その卵からは、ダニがかえる。あの厄介な紅真蜱ルジャ・イクソードたちが。

「地竜の血で紅真蜱ルジャ・イクソードを殖やして、その紅真蜱ルジャ・イクソードが周辺生物の血を集めてきては地竜の餌になって、そのエサで増やした血で紅真蜱ルジャ・イクソードが殖えて……なんて嫌なサイクルだ」

 そこに灰鷹蜂ニゾヴェスポたちが、血を吸われて衰弱した獲物の肉も運んでくるのだから、無駄もなく効率もよかろう。

 なんて感心してる場合でもない。
 そうしてみている間にも、巨大紅真蜱ルジャ・イクソードは卵を産み続け、その卵は順次孵化していく。生まれたばかりの紅真蜱ルジャ・イクソードたちは小さいながらもすでに活発で、跳ねまわりながら赤い流れとなって私を目指してくる。

 空からは灰鷹蜂ニゾヴェスポのスウォーム攻撃、地面は紅真蜱ルジャ・イクソードが覆い尽くさんばかりに流れてくる。
 別にユーピテルが最初から狙って用意したわけじゃないだろうけど、冗談抜きでこれはまずい。

 私の素の回避率は一八二パーセントってのは、前も話した。
 今はあれから上限を超えてレベルが少し上がり、装備も変えてるから若干変わってるけど、それほど大きく変わってはいない。
 だから物理的に回避不可能でもなければほとんど絶対によけられる。

 《エンズビル・オンライン》の仕様では、敵に囲まれると敵の数だけ回避率が低下してしまった。幾ら回避率が高くても周りを囲み込まれたらタコ殴りにされて食らってしまうってことだ。
 でも、いま私が装備している《ヴァニタスのまなざし》は、面倒な理屈は省いて説明すれば、この仕様をバグですり抜けられる。囲まれようが数で攻められようが百パー越えの回避率で避け続けられる。

 ただなあ。
 ただ、回避「率」っていうように、これ確率で計算してるんだよ。しかも「素の」回避率だから、状況や相手次第で変動する。
 私を囲み、空間を埋め尽くすような勢いで襲い掛かってくる虫どもは千や二千じゃきかない。まさしく万軍だ。万もいれば、まさしく万に一つがありうる。クリティカル・ヒットを重ねられた場合、確率は大いに変動し、計算結果次第では私にダメージを通しかねない。

 そして灰鷹蜂ニゾヴェスポには一応毒があるうえ、単発威力も結構高いので紙装甲の私にはきつい。紅真蜱ルジャ・イクソードなどは張り付かれたが最後《SPスキルポイント》ががっつり削られることがわかってる。これが何匹もと考えたら、被弾は致命的だ。

「そこまで悠長なことも言ってられないかも……!」

 そう、万が一というその考え方さえ悠長だ。
 念のために装備しておいた《死の舞踏》が、まずいことになってきている。
 足元装備である《死の舞踏》は、みっちり囲まれてもMobをすり抜けられるというもので、逃げられないままタコ殴りにされて死ぬという地獄から解放してくれる。
 のだが、バグなのか仕様なのか、まあたぶんバグなんだけど、すり抜け時に座標指定がいかれることがある。だからあんまり使いたくなかったんだよ。

 どういうことかというと、囲まれた状態で抜け出そうとする→抜け出した先にもMobがいるのでそれもさらにすり抜けようとする→その先にもみたいな繰り返しがあると、画面外のはるかかなたまで吹っ飛ばされたり、最悪本来移動できないような場所に飛ばされて脱出できなくなる「*いしのなかにいる*」状態になりかねない。

 いま私はそのバグに翻弄されつつあり、もはや自分の意思から離れてあっちこっちに振り回されるように移動し続けていて、もはや自分の立ち位置が把握できないでいる。

「は? はあ? 避け……? なに? どうなってるかしら? 超スピード? 幻術? 違う、そんなちゃちなものじゃない……なんでレーダーに映らなくなる瞬間があるのかしら!? 存在確率そのものを操作しているとでも……?」
「わかったら教えて。切実に。マジで」
「なんで避けてるお前がわからないのかしらっ!!?」
「苦情は神様に言ってほしい」
「また! 神! の! 仕業かしら!!」

 だんだんと地竜の上で地団駄を踏むユーピテル。
 敵ではあるけど滅茶苦茶その気持ちはわかる。いやほんと運営かみさま仕事しろ。あるいは仕事するなというべきか。

「ええい、忌々しい邪神のせい! またか! またかしら! 絶対に許さんのよ!」
「──待って、いまなんて」
「さあ、やーっておしまい!」
「あ、やべ」

 虫どもの回避とユーピテルの発言に気を取られている間に、は終わってしまったらしい。
 慌てて振り向けばそこには、溶鉱炉のように凶悪な輝きを漏らす巨大な口が、ぽっかりと開かれていた。

 地竜は足を踏ん張り、圧縮に圧縮を重ねた空気をおもむろに吐き出した。
 いや、それはもはやただの空気などとは呼べない。恐るべき圧力で折りたたまれた空気分子はバラバラに分解して原子に分かれ、さらに電子とイオンに電離してプラズマと化す。んだと思う。多分。きっとね。
 いや、私それどころじゃなかったから考察なんて後からしたようなもんで、正しいかどうかはわからない。

 激しい光とともに吐き出されたそのなにかは、抑え込まれていた莫大なエネルギーを瞬間的に開放した。私に思い付いた表現で言えば、それはプラズマの爆発だ。
 吐き出された爆心地は高温のプラズマによって灼き熔かされ、ついで圧力から解放されたことで折りたたまれた空気が急激に膨張、轟音とともに爆発し、融解した地面ごと吹き飛ばして大穴にさらなる穴をぶちあけた。っぽい。
 灰鷹蜂ニゾヴェスポ紅真蜱ルジャ・イクソードも、盛大なフレンドリーファイアで瞬間的に蒸発して跡形もなく消し飛ばされた。んじゃないかな。

「キヒヒハハハハハッ!! さすがのプレイヤーも跡形もなく吹っ飛んだかしらぁ!?」

 自身もプラズマの負荷によってか血反吐をあふれさせる地竜と、その上で哄笑するユーピテル。
 私はというと、《技能スキル》で避けるわけにもいかず硬直しかけたところ、気づいたら上空からそんな地獄絵図の一部始終を目撃していた。
 多分、偶然座標指定バグで上空に打ち上げられたんだろう。これも高LUCのなせるわざか。運が悪ければ普通に死んでいただろう事実に、さすがに背筋が凍える。

 でも、まだ生きてる。
 生きてるから、間に合った。

「もとからアホほど《詠唱時間キャストタイム》が遅いやつだけど……こんなシビアな状況じゃ永遠かと思った」
「な!? 避けたかしら! この程度はということ……!」
「いや、さすがに肝が冷えたっていうか、GM判断の救済措置って感じもする」
「ええい! 空中なら今度こそ……!」
「でも二度目はなさそうだから、もう終わらせるね」

 私は《ザ・デス》を構える。
 重たいしかさばるけど、この《技能スキル》は、この装備じゃないと使えない特殊なものなのだ。

「死は来ませり、死は、死は来ませり──《収穫の時は来たれりハーヴェスター》」

 《技能スキル》宣言と同時に、体の深いところからごっそりと何かが引き出される感覚がする。寒気を伴うような不快感。命を削るような悪寒。いままでにないほど瞬間的に《SPスキルポイント》が消費された。

 大きく鎌を振り上げれば、それに合わせるように、ぞろりと闇が立ち上がる。見たこともない、見ることもできない、くらやみそのものが立ち上がる。
 地竜さえも見下ろして立ち上がったそれは、古臭く黴の生えた、死神の姿をしていた。黒衣に身を包んだ、まっさらなされこうべ。虚ろな眼窩が地べたを這いずる有象無象を見下ろして、かたかたとあざ笑う。

 さあ。さあ、さあ。刈り取りの時だ。収穫の時だ。
 巨大な死神が、巨大な鎌を振り上げる。その姿は私にだけ見える幻覚などではない。
 呆然と見上げたユーピテルが、とっさに身構える。けれどそれは無意味だ。死神の鎌は、まるで影か幻のようにあっけなく彼女の体をすり抜けながら、地表をするりと撫で上げた。風の吹くような虚ろでむなしい音だけが、響いたような気がした。

「あ……あれ? な、なにもないかしら? きひ、キヒヒッ、た、ただのこけおどし、」
「じゃあ、ないよ。もちろん」

 ぼとり。

 それは、小さな音から始まった。

 ぼとり。
 ぼとぼとり。

 そして瞬く間に、音は連なる。

 ぼたっぼとぼとぼたり、ぼた、ぼたぼとぼた、ぼたぼたぼた、ぼと。

 ぼたりぼたりぼたぼたぼたぼとぼとっぼたっ。

 ぼとぼたぼとっぼたぼたっ、ぼた。

 ぼたっ。

 ぼたぼた、ぼた、ぼとり、ぼとぼとり、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたっぼとぼとぼたり、ぼた、ぼたぼとぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼたぼたっぼとぼとぼたり、ぼた、ぼたぼとぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼ、たぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた、ぼた。

 夕立のごとく突然に始まったその音は、最後の一つを落としてまた唐突に、終わる。

 ────

「……は?」
「ステージギミックは早めに壊す主義なんだ」
「プ、レイ、ヤー……ッ!!」

 息絶えて落下した灰鷹蜂ニゾヴェスポ紅真蜱ルジャ・イクソードの死体が、死体が、死体が、死体が、万を超える死体が、大穴に無残に降り積もった。
 地竜の甲羅に巣をつくったものも、大穴の外縁に構えたものも、全てが例外なく、容赦なく、慈悲もなく、根こそぎに死に絶えた。
 飛んでいたものも、巣の中にいたものも、幼虫も卵も、一切合切すべてがすべて、綺麗に死に尽くした。

 《収穫の時は来たれりハーヴェスター》。
 それは《死神グリムリーパー》が覚える唯一のであり、《エンズビル・オンライン》でたったひとつの
 馬鹿みたいに詠唱に時間かかるし、極々低レベルの敵にしか通用しないけど……こういう、数だけは多い敵を一掃するには最適の《技能スキル》だ。

「君が油断ならない相手だっていうのはもう骨身にしみたから……次の手が出てくる前に、さっさと片付けさせてもらうよ」
「ま、またしても、またしてもお前らかしらプレイヤーッ!!」
「ああ……なんかわかんないけど……身内がごめんね?」

 どうやら、名前も顔も知らないご同輩たちがやらかしたらしいことだけはわかったので。
 申し訳ないけど、その憎しみの歴史にもう一人名前を付け加えてもらうとしよう。





用語解説

・《脳雲ブレイン・クラウズ
 詳細不明。《蔓延る雷雲のユーピテル》が用いる固有魔法と推測される。

咆哮ムジャード
 竜種が用いる攻撃方法の一つ。大量の魔力を風精などに乗せて吐き出す攻撃で、竜種が持つ最も威力の高い攻撃手段である。

・プレイヤー
 競技の選手や、遊戯の遊び手、また音響・映像記録媒体の再生機を指す聖王国語。
 また極めて特殊な個人または集団を呼ぶ語としても使用される。

・《収穫の時は来たれりハーヴェスター
 ゲーム内《技能スキル》。
 《死神グリムリーパー》が覚える唯一の範囲攻撃魔法であり、《エンズビル・オンライン》全体でも唯一の範囲即死攻撃。
 攻撃範囲は「画面全体」で、最大で自身のレベルの十分の一レベルまでの敵に《即死》判定。
 《詠唱時間キャストタイム》は装備などで短縮できず固定で三〇秒。通常の《技能スキル》の《詠唱時間キャストタイム》が長くても数秒なので、例外的に長い。使用後の《待機時間リキャストタイム》も六〇〇秒と極めて長い。
 この《技能スキル》で倒した敵からは経験値、金銭、アイテムが手に入らない。
 これらはすべてナーフされ続けた結果であり、実装直後は「《詠唱時間キャストタイム》五秒で画面に映るすべての敵Mobに《即死》判定を行い、《待機時間リキャストタイム》三〇秒で再使用可能、経験値等も普通に手に入る」だった。
 なお、閠が使用時になんか言ってたのは別に詠唱でもなんでもないので必要ない。
『あなたのこれからが、実り多き人生であらんことを!』
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