【書籍化】異界転生譚ゴースト・アンド・リリィ

長串望

文字の大きさ
上 下
281 / 304
第二十章 そして《伝説》へ…

第四話 白百合とうれしい出迎え

しおりを挟む
前回のあらすじ

よくわからないままに蛮族パーリナイ参加を検討してしまった閠。
そして出迎えてくれたのは懐かしい顔ぶれだった。



 境の森の手前で竜車を降りた私たちを出迎えてくれたのは、ヴォーストの町で冒険屋事務所を構える私の叔父、メザーガとその一党の一人、土蜘蛛ロンガクルルロのガルディストさんでした。
 メザーガは気だるげで飄々ひょうひょうとしていて、ガルディストさんは気さくで人好きのする笑顔が魅力的です。

 もとは《一の盾ウヌ・シィルド》というメザーガの一党からはじまった《メザーガ冒険屋事務所》ですが、このふたりはその中でも結構気が合うというか、悪友同士という空気があって、うらやましい年の重ね方をしているなあと思わされるものです。
 言葉を飾らずに言うと、年取っていくらか落ち着いたチンピラみたいな感じです。
 厄介なことに非常に腕の立つチンピラなのですが。

「やあ、久しぶりだな。元気してたかい」
「ええ! やはり辺境の冬はいいものですね!」
「ははは、子供は風の子ってやつだな」
「もう成人ですよう!」

 辺境で侮られて子ども扱いされたなら、「いまなんちた?」と辺境言語が交わされるところですが、からかわれてもそんなに嫌な気がしないのがガルディストさんの不思議なところです。
 若いころはさぞかし女の子と遊んでいたのではと思われます。
 ああ、いえ、土蜘蛛ロンガクルルロなので、人族とは逆で鼻息の荒い女性をうまくあしらってる悪女ならぬ悪男みたいな感じかもしれません。
 本人は結婚する気もないみたいですし。

「ところでお二人ですか? 馬車は二台ですけれど」
「おいおい、この馬車をもう見忘れたのか?」
「えっと……あっ!」

 メザーガたちの後ろに並んだ二台の馬車のうち、一台は事務所においてあったものでした。
 しかしてもう一台は、懐かしいほろには、《メザーガ冒険屋事務所》の所章《一の盾ウヌ・シィルド》の紋章と、私たち《三輪百合トリ・リリオイ》の紋章が並べて描かれていました。

「あ、私たちの馬車だこれ」
「南部に預けてたの、持ってきてくれたの?」
「おうとも。人がくれてやったもんを早々に置いていきやがって。ボイだって寂しかったろいたたたたた」
「ボイに手をかまれる人ははじめて見たんだけど」
「犬は序列をしっかり決めるらしいですからね」
「この犬畜生が!」
「映画で真っ先に殺されるチンピラみたいなセリフだ」

 馬車のそばで寝そべっていて、そして今しがた頭をなでようとしたメザーガの手を歯形が残るくらいきっちりかみついて見せたのは、私たちの馬であるボイでした。
 馬車と一緒にメザーガに贈られたボイは、大熊犬ティタノ・ドーゴというとても大きな犬種の馬で、私たち三人と荷物の乗った幌馬車を一頭でけて、多少の害獣なら自分で追い払ってしまえる、賢くて強い馬でした。

「やあ、ボイ、忘れてないかな……とと、はいはい、寂しかったね」
「うーん、でっかいもふもふとでっかい女。これは流行はやるわ」
「君のトレンドはいつも尖ってる気がする」

 そっと目線を合わせたウルウとトルンペートに、ボイは早速鼻先を寄せ、頭を擦り付けて、再会を喜んでいるようでした。短くはなかった別離の時間を埋めるようでもあります。

 竜車には載せられなかったので、南部はハヴェノ、お母様の実家であるブランクハーラ家に預けてきたのですが、こうして数か月ぶりに再会できると私も胸がいっぱいにあいたたたたた。

「ボイに手をかまれる人はこれで二人目だね」
「犬は序列をしっかり決めるらしいもんね」
「はわわ! 私が悪かったですから!」

 辺境に連れていくのは無理だったとはいえ、長らくよそ様に預けて放置してしまったのですから、ボイが怒るのも無理はありません。私は何とかなだめてすかして干し肉で機嫌をとって、それでようやく許してもらえたのでした。
 二人は普通にわしゃわしゃ撫でてました。くそう。

「どうせまた旅を続けるんだろうからな、せっかく贈ったもんはしっかり使ってもらうぜ」
「それでうちの事務所の宣伝にもなるってわけだ。おじさんたちに楽させてくれよ」
「広告料取ろうかなあ」
「お前らまだうちに籍あるからな? うちの従業員だからなお前ら?」

 私たちは早速馬車に荷を移し替え、新たな旅の支度をすっかり整えたのでした。
 その間に、メザーガとお母様、従兄妹同士の二人は久闊きゅうかつじょしていたようでした。

「久しぶりねメザーガ
「やめろやめろ気持ち悪い。お前そんな感じじゃないだろうが」
「かわいい従兄妹に対してつれないこと言うのね。悲しくて泣いちゃうかも」
「お前が泣いたの妹に目つぶし食らって反射で流してたときだけだろ」
「そうそう、『これが、涙……?』って驚いたわね」
「ブランクハーラは人間やめてるが、精神はせめて人界に寄せてくれるか?」

 メザーガのことは、お母様からよく聞いていたんですよね。ご自分の冒険譚や、古い冒険譚の他に話すものといえば、メザーガの冒険譚が多かったように思います。
 私が小さい頃は、一年に一度、夏ごろにひょっこり顔を出してくれて、お母様とよくじゃれあっていたような気がします。

「それさあ。リリオフィルター通してるから多分そこまで美しい情景じゃないよね」
「退屈してた奥様に追い回されて、追い詰められた賞金首みたいな怒声あげてたわね」
「あれれ?」

 うーん、言われてみると思い出の中のメザーガはよく走っていたような気がします。
 私のことを抱き上げたり、高い高いと放り投げてくれていたような記憶もあるんですが、よくよく思い返してみると「娘が惜しくねえのかてめえは!」「せめてガキのほうに気をそらせ母親!」とか叫んでいたような気がします。
 チンピラでしょうか?
 お母様だけでなくお父様とも仲良くじゃれていたような気がしましたが、その流れだともしかしたら嫉妬したお父様に五分刻みにされかけていたのかもしれません。

「ブランクハーラのサイコパスと辺境のヤンデレ貴族に追い掛け回されて五体無事でいるの、メザーガもしかしてすごい人なんじゃないの?」
「まあ巷に出回ってる冒険譚が本当なら、もしかしなくてもすっごい冒険屋らしいわよ」
「あれで?」
「あれでなのよねえ」
「お前らおっさんはいくら殴っても許される砂袋とでも思ってる?」
「砂袋は喋らないですよ」
「しまいにゃ泣くぞ?」

 まあ、そんなこと言いながらも、夏とは言え普通に辺境まで来て手土産に辺境生物狩ってきて、お母様とお父様の二人がかりで追い掛け回された上に、手加減が死ぬほど下手だったころの私の遊び相手までして、文句たらたらに元気いっぱい帰っていったのですから、メザーガも人のこと言えない程度にはたいがい人間やめてるのは確かです。

「というかメザーガ! なんだったんですか、あの思わせぶりなセリフは! 覚悟していけとか!」
「あー? 最大級に度肝抜かれたろうが」
「抜かれて戻ってこなくなるかと思いましたけど!」

 メザーガは、お母様の実家を訪ねて旅立った私に、覚悟していけなどと言って送り出したのですけれど、まさかその覚悟というのが、死んだと思っていたお母様が生きていたことだとは思ってもいませんでした。
 そして私が思っていたのと違って、お母様がかなり破天荒な人柄だったということもまた、私を驚かせたのでした。

「そらお前、俺が『お前のおふくろは実は生きている』て言ったらどう思ったよ」
「それは、まあ、驚いたかもしれませんけれど」
「それでずぼらなおっさんが続けるんだよ。『襲い掛かってきた飛竜とっ捕まえて、背中に乗って実家に飛んで帰ったんだと。理由はお前の親父さんの愛が重いからだってな』と続けるわけだ」
「まず間違いなく信じませんでしたけれども!」

 気になりすぎて道中気が気ではなかったかもしれません。
 そう考えると、詳しく教えなかったのはメザーガの気遣いともいえるかもしれません。
 あるいは、メザーガ自身がそんなトンチキな話を真顔で伝える自信がなかったからかもしれません。
 実際にそんな話を聞いてたら、まずお酒が入っているかどうかを確認していたはずです。
 いまとなっては、せめてお酒が入っていてほしかったという気持ちです。

「まあ、ともあれマテンステロにも無事再会して、大方実家で親父さんとも手合わせして、いくらか腕も上がったか?」
「ふふん! そうですとも! 私はなんとお父様に一撃いれたんですよ!」
「ほう、お前さんがねえ。ちっちゃなリーニョだと思っていたのがまあ、」
「火達磨にして、粘膜に唐辛子カプシコぶちまけて、動けなくなったところを見事に顔面パンチだったね」
「そうそう。ダメだったら海水ぶっかけて雷ぶつける予定だったんだっけ?」
「ちっちゃなリーニョだったのがよぉ! 人間のやることかそれが!?」
「人間だからやるんだよ」
「人類に失望した神かなんかかお前は!?」

 うーん。
 メザーガ的にも結構えげつない戦法だったみたいですね。
 まあメザーガも技巧派ではありますが、なんだかんだ本人が強いですから、そういう小細工はあまり使わない印象ありますもんね。
 どちらかというとそういう手合いであるガルディストさんは、苦笑いしながらも理解は示してくれているようでした。

「ええい、一皮むけたんだかなんだかわからん。お前、冬ごもりの間に休みボケしてないだろうな」
「むっ、反論しづらい正論はやめてください」
「せめて否定しろ! まあいい。どうせ剣は嘘をつけねえんだ」

 そうです。そうでした。
 メザーガが腰のものを叩いて見せたように、私もまた頷いて応えました。
 剣士が久方ぶりに相対したのです。剣の具合を確かめるのが武辺者というもの。

「よし。じゃあ一つ手合わせしてみるか?」
「ぜひ!」





用語解説

・メザーガ・ブランクハーラ
 人間族。リリオの母親の従兄妹にあたる。四十がらみの冒険屋。
 ヴォーストの街で冒険屋事務所を経営している。

・ガルディスト
 土蜘蛛ロンガクルルロの野伏。パーティのムードメーカーであり、罠や仕掛けに通じる職人。また目利きも利く。
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。 さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。 アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。 一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。 ※他サイト転載

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...