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第十章 温泉街なんですけど!?
第十一話 亡霊と異郷の少女
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前回のあらすじ
茨の魔物と心の毒について語ってもらった。
そしてウルウはとけた。
このユヅルという少女に私が何も思わなかったわけではなかった。
いや、別に全身をこってり揉み解されてさんざっぱらアヘ顔をさらされたことを恨んでいるわけではない。かなり気持ちよかった。また立ち寄ることがあればぜひにもお願いしたいくらいだった。
そうではなく、ユヅルというどう考えても帝国標準から外れた名前と、いわゆる西方人めいた顔立ちについてである。
たまに西方から来た人とか、西方人を先祖に持つ人とか本当にいるからあまり気にしたことはなかったのだけれど、というか気にするだけ疲れるのでやめていたのだけれども、このユヅルという少女はどうにもすこし違った。
まず一つに、休憩所で牛乳をご馳走してもらったことである。
リリオやトルンペートの反応からもわかる通り、湯上りの牛乳というものは、普通においしいは美味しいけれど、そこに格別の価値を見出すのは文化的な理由というものでしかない。彼女自身も周りから理解されにくいと言っているように、風呂上りに牛乳というものはこの世界では異質な文化なのだ。
そしてまた彼女はイチゴ牛乳といった。
これは普段の自動翻訳からするとおかしかった。本来であれば苺牛乳とか聞こえるはずだったのだ。まあこれに関しては、バナナワニみたいに訳されたり訳されなかったりすることがあるので結構自動翻訳がいい加減なのかなと思うが……少なくとも、物の名前及び横文字は基本的に現地語で発音されることが多い自動翻訳さんにしては怪しい。怪しませようとしてるのかもしれないが、プルプラあたりが。
まあイチゴ牛乳は半分冗談としても、それがきっかけで気付いたことがある。
彼女自身の発音だ。
私は読唇術などできないが、それでも今発されている音声と唇の動きとに関連性がなければ、そのくらいは見ていれば気付く。つまり、唇の動きと、実際の発音とが違うということだ。
彼女にはその違いがなかった。
本来であれば、例えばリリオあたりなんかでは唇の動きと聞こえてくる音が全く違うにもかかわらず、彼女はそのままの日本語の唇の動きで日本語を私に聞かせていたのである。私が日本語のつもりで話して、しかし周囲には交易共通語として聞こえるのと同じようにだ。
他はこじつけとしても、これは致命的だった。少なくとも神がかった何かがかかわっているのは確実なのだから。
とはいえ、私は彼女が同じ転生者なのかどうかいまいち確信が持てなかった。
というのも、同じプレイヤーだとすれば、あまりにもその気配に力強さを感じないのである。
私もリリオとトルンペートと一緒にそれなりに長くやってきた。魔獣や害獣、盗賊なんかともやりあってきた。この前は長門とかいう化け物と一戦やらされた。
そういう経験から、相手がどれくらいの力量なのか、大体であれば察することができるようになってきていた。
そう言う点で言うと、この少女はちょっと弱すぎるのである。
魔力量はかなり感じるし、成程決して弱くはないのだろうけれど、すくなくともプルプラがゲームの駒として選ぶほどに強いか、そこのところがわからない。
もし弱くてもゲームの駒として成り立つならば、私にあえてゲーム内のキャラクターの体を作って渡すこともなかっただろう。
合理的に考えれば、この少女は少なくとも同じ理屈による転生者ではないことはわかる。
だが合理的という言葉と、あの境界の神とが、私の中で結びつかないのも事実だ。少なくとも人の死後をもてあそんでゲームの駒にするような奴が合理的であるはずがない。あったとして、それは私の知る合理とは全く理屈の異なるものに合致した合理だ。
按摩を終えてもらい、淹れてもらった甘茶を楽しみながら私は少女を眺めた。
では、仮に神が合理的で一貫的だとして、この少女は転生者ではないのだろうか。
それもまた疑問だった。いくらなんでもたまたま日本語の発音で唇を動かす人間がこの世界にいるとは思えない。
では全く別の理由で転生してきたのだろうか、とふと私は思った。
彼女自身茨の魔物を差してこう言った。異界からやってきた魔獣だと。
彼女はそれを追ってやってきたのではないだろうか。退治し、殲滅するために。
「ふふっ」
「?」
「なんでもないよ」
そこまで考えて、私は追及をやめた。
馬鹿馬鹿しい。
そう言うのがありなら何でもありだ。
前提条件である神の手札と内情を知らない以上、いくら考えても答えなどでない。
第一彼女が転生者だったとしてどうするというのだ。
私にはどうこうすることはできないのだ。
私自身が自分のことをどうこうできないというのだから。
だから私はささやかな事を尋ねてみた。
「君、故郷はどこ?」
「遠くです。ちょっとすぐには帰れないくらいに」
「帰りたい?」
「帰りたい……かもしれません。でも今は、帰れないかな」
「そう」
それだけ聞いて私は満足した。
彼女の言葉には、悩みも迷いもあった。
しかし、答えるだけの力が、彼女にはあったのだから。
用語解説
・ユヅル
詳しくは↓
https://ncode.syosetu.com/n2878es/
茨の魔物と心の毒について語ってもらった。
そしてウルウはとけた。
このユヅルという少女に私が何も思わなかったわけではなかった。
いや、別に全身をこってり揉み解されてさんざっぱらアヘ顔をさらされたことを恨んでいるわけではない。かなり気持ちよかった。また立ち寄ることがあればぜひにもお願いしたいくらいだった。
そうではなく、ユヅルというどう考えても帝国標準から外れた名前と、いわゆる西方人めいた顔立ちについてである。
たまに西方から来た人とか、西方人を先祖に持つ人とか本当にいるからあまり気にしたことはなかったのだけれど、というか気にするだけ疲れるのでやめていたのだけれども、このユヅルという少女はどうにもすこし違った。
まず一つに、休憩所で牛乳をご馳走してもらったことである。
リリオやトルンペートの反応からもわかる通り、湯上りの牛乳というものは、普通においしいは美味しいけれど、そこに格別の価値を見出すのは文化的な理由というものでしかない。彼女自身も周りから理解されにくいと言っているように、風呂上りに牛乳というものはこの世界では異質な文化なのだ。
そしてまた彼女はイチゴ牛乳といった。
これは普段の自動翻訳からするとおかしかった。本来であれば苺牛乳とか聞こえるはずだったのだ。まあこれに関しては、バナナワニみたいに訳されたり訳されなかったりすることがあるので結構自動翻訳がいい加減なのかなと思うが……少なくとも、物の名前及び横文字は基本的に現地語で発音されることが多い自動翻訳さんにしては怪しい。怪しませようとしてるのかもしれないが、プルプラあたりが。
まあイチゴ牛乳は半分冗談としても、それがきっかけで気付いたことがある。
彼女自身の発音だ。
私は読唇術などできないが、それでも今発されている音声と唇の動きとに関連性がなければ、そのくらいは見ていれば気付く。つまり、唇の動きと、実際の発音とが違うということだ。
彼女にはその違いがなかった。
本来であれば、例えばリリオあたりなんかでは唇の動きと聞こえてくる音が全く違うにもかかわらず、彼女はそのままの日本語の唇の動きで日本語を私に聞かせていたのである。私が日本語のつもりで話して、しかし周囲には交易共通語として聞こえるのと同じようにだ。
他はこじつけとしても、これは致命的だった。少なくとも神がかった何かがかかわっているのは確実なのだから。
とはいえ、私は彼女が同じ転生者なのかどうかいまいち確信が持てなかった。
というのも、同じプレイヤーだとすれば、あまりにもその気配に力強さを感じないのである。
私もリリオとトルンペートと一緒にそれなりに長くやってきた。魔獣や害獣、盗賊なんかともやりあってきた。この前は長門とかいう化け物と一戦やらされた。
そういう経験から、相手がどれくらいの力量なのか、大体であれば察することができるようになってきていた。
そう言う点で言うと、この少女はちょっと弱すぎるのである。
魔力量はかなり感じるし、成程決して弱くはないのだろうけれど、すくなくともプルプラがゲームの駒として選ぶほどに強いか、そこのところがわからない。
もし弱くてもゲームの駒として成り立つならば、私にあえてゲーム内のキャラクターの体を作って渡すこともなかっただろう。
合理的に考えれば、この少女は少なくとも同じ理屈による転生者ではないことはわかる。
だが合理的という言葉と、あの境界の神とが、私の中で結びつかないのも事実だ。少なくとも人の死後をもてあそんでゲームの駒にするような奴が合理的であるはずがない。あったとして、それは私の知る合理とは全く理屈の異なるものに合致した合理だ。
按摩を終えてもらい、淹れてもらった甘茶を楽しみながら私は少女を眺めた。
では、仮に神が合理的で一貫的だとして、この少女は転生者ではないのだろうか。
それもまた疑問だった。いくらなんでもたまたま日本語の発音で唇を動かす人間がこの世界にいるとは思えない。
では全く別の理由で転生してきたのだろうか、とふと私は思った。
彼女自身茨の魔物を差してこう言った。異界からやってきた魔獣だと。
彼女はそれを追ってやってきたのではないだろうか。退治し、殲滅するために。
「ふふっ」
「?」
「なんでもないよ」
そこまで考えて、私は追及をやめた。
馬鹿馬鹿しい。
そう言うのがありなら何でもありだ。
前提条件である神の手札と内情を知らない以上、いくら考えても答えなどでない。
第一彼女が転生者だったとしてどうするというのだ。
私にはどうこうすることはできないのだ。
私自身が自分のことをどうこうできないというのだから。
だから私はささやかな事を尋ねてみた。
「君、故郷はどこ?」
「遠くです。ちょっとすぐには帰れないくらいに」
「帰りたい?」
「帰りたい……かもしれません。でも今は、帰れないかな」
「そう」
それだけ聞いて私は満足した。
彼女の言葉には、悩みも迷いもあった。
しかし、答えるだけの力が、彼女にはあったのだから。
用語解説
・ユヅル
詳しくは↓
https://ncode.syosetu.com/n2878es/
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