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第九章 静かの音色
第十一話 亡霊と館の謎解き
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前回のあらすじ
リリオの全力全開の攻撃が館を破壊しなかったのだった。
さて、上等な甘茶とお茶菓子が用意された応接室で、どうしたものかと私が小首を傾げている横で、何やらものすごい轟音がしたかと思えば、リリオとトルンペートの姿が消えていた。
何事かと思って応接室から出てみれば、これまたものすごい勢いで閉ざされる玄関扉。これはどうも、二人は放り出されたらしかった。
いったん応接室に戻って、柔らかそうなソファに腰を下ろして少し考えてみる。
どうして二人は放り出され、そして自分だけこうして平気でいるのか、ということだ。
別に二人が心配ではないという訳ではないのだけれど、あれであの二人は乙種の魔獣だろうと平然と片付けてしまうベテランの冒険屋だ。条件次第だけれど、甲種の魔獣だって相手どれる。そこまで不安がらなくても、自分でどうにかすることだろう。
それよりも問題は、なぜ三人まとめてではなくて、私と、そしてあの二人という分け方をされたのかだ。
単に軽いか重いかなどという下らない仕分け方ではないはずだ。
では他にはなんだろうか。
私は甘茶の豊かな香りを楽しみながら考えてみた。
性別。これはみんな一緒だ。お風呂に入るときにや着替えの時に確認もしている。
いや、別にそこまで詳しく確認したのはリリオの生態調査をした最初の時くらいだけれど、少なくとも私だけ違うってことはないだろう。
では年齢。
私だけ二十六歳と少し年が離れているが、これはどうなんだろう。
そもそもこのボディはこの世界に来てから初めて境界の神プルプラによって生み出されたものだから、肉体年齢的にはまだ一歳にもなっていないのかもしれない。
なんにせよ私だけ年が離れているというのは同じだけれど、果たして年齢を理由に区別する理由があるのかどうかは不明だ。
人種なんてどうだろう。肉体構成要素のいちいちが胡散臭い私はともかく、二人は辺境育ち、おっと、トルンペートは生まれは辺境ではなかったな。となると厳密には人種は違うのかもしれない。そもそものリリオ自体南部人と辺境人のハーフだし、取り上げるほどのことではないか。
いっそ、私の自動回避があれを攻撃とみなしてかわしてくれたとかいうのはどうだろう。二人はそんな便利な機能付いていないから攻撃を受けて吹き飛ばされたというのは。まあそれだといくらなんでも私が何も感じなさ過ぎているし、これはないだろう。
さて、さて、さて。
冗長な考え事はここら辺にしておくとして、まじめに考えればそうなるのだろうか。
クッキーらしい焼き菓子をさくりとやりながら、私は思考をまとめる。
ただ突っ立っていただけの私が除外され、武器を手に取った二人がクリティカルに狙われたこと。
いまこうして暢気にお茶とお茶菓子を頂いていても異変が起きないこと。
そもそももっと以前にノッカーを打ち鳴らしてドアを開けてもらえたこと。
そして確信は、お茶を飲み干した時に得られた。ビンゴ。
あとはそれを二人に伝えてやるだけでいいだろう。
私は騒がしくなってきた外の物音に眉を顰め、そっと席を立った。
そうして私は自分の脚で玄関まで向かい、物音が止んだすきを見計らって、ドアを開けてやった。
「なにやってるのさ、騒がしい」
その先では丁度何やら大技でもぶちかまして弾き返されでもしたのか、呆然と膝をついている二人の姿があった。この手のイベントは正しい手順が必要だとはいえ、まさかリリオの本気の攻撃を弾き返したんじゃなかろうな、この玄関扉。
だとすると並の魔獣よりもよほど気合が入っている。
当たりさえすれば竜種でも丸焦げにして見せるとリリオが言い張るくらいのものだから、まあ多少盛っているだろうとはいえ、相当な威力だったはずだ。
「う、ウルウ!? 大丈夫なんですか!?」
「そりゃあもちろん」
「もちろんって」
「君たちこそ大丈夫? 攻撃はされなかったと思うけど……多分」
もしかしたら一定以上攻撃仕掛けたら反撃を返してくるタイプだったかもしれないし、ちょっと危なかったかもしれないな。すくなくとも、いくら我慢強くても、破壊されるまで我慢するってことは、なさそうだし。
玄関を出て二人の手を引いて立たせてあげると、背後でドアが閉まった。
振出しに戻る、だ。
ただし今度はちゃんとした攻略法を携えて、の振出しだけれど。
「攻略法? どういうことよ」
「君たち蛮族スタイルの脳筋ガールズは思いもよらないかもしれないけれど」
「流れるように罵倒された気がします」
「この手のイベントにはきちんとした手順をまもるという簡単な攻略法があってね」
「きちんとした、手順?」
そう、手順だ。
「招かれざる客だ。せめてマナーは守ろう」
用語解説
・蛮族スタイルの脳筋ガールズ
つまり冒険屋の基本スタンスである。
リリオの全力全開の攻撃が館を破壊しなかったのだった。
さて、上等な甘茶とお茶菓子が用意された応接室で、どうしたものかと私が小首を傾げている横で、何やらものすごい轟音がしたかと思えば、リリオとトルンペートの姿が消えていた。
何事かと思って応接室から出てみれば、これまたものすごい勢いで閉ざされる玄関扉。これはどうも、二人は放り出されたらしかった。
いったん応接室に戻って、柔らかそうなソファに腰を下ろして少し考えてみる。
どうして二人は放り出され、そして自分だけこうして平気でいるのか、ということだ。
別に二人が心配ではないという訳ではないのだけれど、あれであの二人は乙種の魔獣だろうと平然と片付けてしまうベテランの冒険屋だ。条件次第だけれど、甲種の魔獣だって相手どれる。そこまで不安がらなくても、自分でどうにかすることだろう。
それよりも問題は、なぜ三人まとめてではなくて、私と、そしてあの二人という分け方をされたのかだ。
単に軽いか重いかなどという下らない仕分け方ではないはずだ。
では他にはなんだろうか。
私は甘茶の豊かな香りを楽しみながら考えてみた。
性別。これはみんな一緒だ。お風呂に入るときにや着替えの時に確認もしている。
いや、別にそこまで詳しく確認したのはリリオの生態調査をした最初の時くらいだけれど、少なくとも私だけ違うってことはないだろう。
では年齢。
私だけ二十六歳と少し年が離れているが、これはどうなんだろう。
そもそもこのボディはこの世界に来てから初めて境界の神プルプラによって生み出されたものだから、肉体年齢的にはまだ一歳にもなっていないのかもしれない。
なんにせよ私だけ年が離れているというのは同じだけれど、果たして年齢を理由に区別する理由があるのかどうかは不明だ。
人種なんてどうだろう。肉体構成要素のいちいちが胡散臭い私はともかく、二人は辺境育ち、おっと、トルンペートは生まれは辺境ではなかったな。となると厳密には人種は違うのかもしれない。そもそものリリオ自体南部人と辺境人のハーフだし、取り上げるほどのことではないか。
いっそ、私の自動回避があれを攻撃とみなしてかわしてくれたとかいうのはどうだろう。二人はそんな便利な機能付いていないから攻撃を受けて吹き飛ばされたというのは。まあそれだといくらなんでも私が何も感じなさ過ぎているし、これはないだろう。
さて、さて、さて。
冗長な考え事はここら辺にしておくとして、まじめに考えればそうなるのだろうか。
クッキーらしい焼き菓子をさくりとやりながら、私は思考をまとめる。
ただ突っ立っていただけの私が除外され、武器を手に取った二人がクリティカルに狙われたこと。
いまこうして暢気にお茶とお茶菓子を頂いていても異変が起きないこと。
そもそももっと以前にノッカーを打ち鳴らしてドアを開けてもらえたこと。
そして確信は、お茶を飲み干した時に得られた。ビンゴ。
あとはそれを二人に伝えてやるだけでいいだろう。
私は騒がしくなってきた外の物音に眉を顰め、そっと席を立った。
そうして私は自分の脚で玄関まで向かい、物音が止んだすきを見計らって、ドアを開けてやった。
「なにやってるのさ、騒がしい」
その先では丁度何やら大技でもぶちかまして弾き返されでもしたのか、呆然と膝をついている二人の姿があった。この手のイベントは正しい手順が必要だとはいえ、まさかリリオの本気の攻撃を弾き返したんじゃなかろうな、この玄関扉。
だとすると並の魔獣よりもよほど気合が入っている。
当たりさえすれば竜種でも丸焦げにして見せるとリリオが言い張るくらいのものだから、まあ多少盛っているだろうとはいえ、相当な威力だったはずだ。
「う、ウルウ!? 大丈夫なんですか!?」
「そりゃあもちろん」
「もちろんって」
「君たちこそ大丈夫? 攻撃はされなかったと思うけど……多分」
もしかしたら一定以上攻撃仕掛けたら反撃を返してくるタイプだったかもしれないし、ちょっと危なかったかもしれないな。すくなくとも、いくら我慢強くても、破壊されるまで我慢するってことは、なさそうだし。
玄関を出て二人の手を引いて立たせてあげると、背後でドアが閉まった。
振出しに戻る、だ。
ただし今度はちゃんとした攻略法を携えて、の振出しだけれど。
「攻略法? どういうことよ」
「君たち蛮族スタイルの脳筋ガールズは思いもよらないかもしれないけれど」
「流れるように罵倒された気がします」
「この手のイベントにはきちんとした手順をまもるという簡単な攻略法があってね」
「きちんとした、手順?」
そう、手順だ。
「招かれざる客だ。せめてマナーは守ろう」
用語解説
・蛮族スタイルの脳筋ガールズ
つまり冒険屋の基本スタンスである。
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