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第九章 静かの音色
第四話 白百合と奇妙な音色
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前回のあらすじ
謎のメロディに膝を折りかける二人。
しかしウルウのいつもの便利な奴で解決してしまうのだった。
夜の街を、私たちは三人でまとまって駆け抜けました。
私たち三人はそれぞれに足の速さも違いますし、広い町中を探すのであれば三人でばらけて走り回った方が効率は良かったでしょう。
しかし、念話でつながっているとはいえ、この異変の中で行動を別にすることは危険に思われ、私たちは一塊になって警戒を強めることにしました。
私たちは最初、単純に音色の強くなる方向を探せばよいと考えていました。先頭を行くウルウもまたそのように考えて走り始めたようでしたけれど、何度か首を傾げながら走り回って、そして広場に出たところで、立ち止まってしまいました。
「どうしました?」
「変だ」
「変?」
「音の出所がつかめない。町のあっちこっちに反響してるみたいだ」
耳栓越しでよく聞こえないとはいえ、確かに、右を向いても左を向いても、そのどちらからも音が聞こえるような不思議なことになっています。
「町の造り自体が音が響きやすくなってるんでしょうか」
「音楽の町だっていうから、そうなのかもね」
「もしくは、魔法の音色だからって言うのも、あるかも」
人々の生気を奪い取ってしまう不思議な音色です。そういうことがあってもおかしくはありません。
とはいえ、近くまで行ってみればさすがに変化は出るものでしょう。
私たちは宿を起点にして、まず一つずつ辻をつぶしていくことにしました。
ウルウがこういうことが得意で、手早く地図を描きながら辻を改めていきましたが、いかんせんムジコも決して小さい村などではありません。ヴォーストよりはいくらか小さい町ですが、それでも立派な町です。町の四半分を改めるよりも先に朝日が昇ってきて、音色もかき消えてしまいました。
私たちがもそもそと耳栓を取りながら宿に帰る道中、ウルウがぼそりとつぶやきました。
「まあ、改めたところも、本当に音源じゃなかったかどうかはわからないしな」
そうなのです。
一応それらしきものがないかどうかは確認しましたけれど、何しろ走りながらでしたし、具体的にどのようなものが音を出しているのかわからないままですし、実際のところ、今日調べたところが本当に何にもなかったのかどうかは全く分からないのです。
なんだかそう思い知らされると途端にすさまじい疲労がやってきました。しらみつぶし戦法は良くありませんね。
私たちが宿に辿り着くと、夕食を何とか済ませたもののそのまま寝台にまでたどり着けなかったらしい客たちが、食堂でぐったりと卓にもたれて寝入っていました。
私たちは彼らを起こさないように食器を片付けてやり、残り物を温めて朝食にしました。
「……ひもじい」
ウルウがまたもやぼそりとつぶやきます。
実際にひもじいわけではないのです。しかし、しかし心がひもじいのです。
いい宿に泊まっておきながら、自分たちの作った夕食の残りを温めて食べなければいけない、そんな疲れ果てた早朝に、そう思わずにはいられないのです。
ウルウだけではありません。私もです。私もひもじいです。どうして音楽の町に来て音楽と戦って、それもろくな戦果も出せないままにこうして疲れ果てなければならないのでしょうか。
私も体力には自信があります。少しのことではへこたれない胆力もあります。
しかし、こうまで手ごたえがないと、さすがにへこむものがあります。
トルンペートもいつものすました様子を崩してやさぐれた具合です。
「いや、自分の作ったもの食べてひもじいひもじい言われたら誰だってそうなるでしょ」
「ごめんなさい」
ともあれ、何とか対策を考えなければなりません。
私たちはゆっくりと朝食を済ませ、それから今日の作戦を練ることにしました。
「音色で探す作戦は失敗したね」
「しらみつぶしも現実的じゃありませんね」
「となるとやっぱり、原因が何かって言うのを考えないといけないわね」
何事も急に起こったりするものではありません。異変には必ず前兆があるはずです。
まずはそれを調べて、あてを見つけなければなりません。
とはいえ。
「夜に自鳴琴が鳴り出すのにどんな理由があるってのよ」
「さっぱりですよねえ」
こればっかりは座って考えてもどうしようもありません。
町の人に話を聞いてみないとわからないことでしょう。果たして町の人に聞いて、答えてもらえるかどうかはわかりませんけれど。
「まあ、こうなったら仕方がないわ。腰を据えていきましょう」
「具体的には」
「まずは、また夜に備えてご飯の支度しておかなきゃね」
「今夜は早めに食べてから出ようか」
「昨夜はお腹ぺこぺこで走り回りましたもんねえ」
健全な冒険は健全な食事から。
トルンペートは重たげに肩を回しながら買い出しに出かけ、私は食器の片づけをはじめ、そしてウルウは、ちらほらと起き始めた商人や旅人たちに聞き取りを行っているようでした。
あんなにおしゃべりが苦手だったウルウが自分から積極的にお話に行くなんて、私、感激です。
「君に任せたら日が暮れる」
「アッハイ」
用語解説
・ひもじい
空腹であること。また精神的に満たされないことをこの場合言っている。
謎のメロディに膝を折りかける二人。
しかしウルウのいつもの便利な奴で解決してしまうのだった。
夜の街を、私たちは三人でまとまって駆け抜けました。
私たち三人はそれぞれに足の速さも違いますし、広い町中を探すのであれば三人でばらけて走り回った方が効率は良かったでしょう。
しかし、念話でつながっているとはいえ、この異変の中で行動を別にすることは危険に思われ、私たちは一塊になって警戒を強めることにしました。
私たちは最初、単純に音色の強くなる方向を探せばよいと考えていました。先頭を行くウルウもまたそのように考えて走り始めたようでしたけれど、何度か首を傾げながら走り回って、そして広場に出たところで、立ち止まってしまいました。
「どうしました?」
「変だ」
「変?」
「音の出所がつかめない。町のあっちこっちに反響してるみたいだ」
耳栓越しでよく聞こえないとはいえ、確かに、右を向いても左を向いても、そのどちらからも音が聞こえるような不思議なことになっています。
「町の造り自体が音が響きやすくなってるんでしょうか」
「音楽の町だっていうから、そうなのかもね」
「もしくは、魔法の音色だからって言うのも、あるかも」
人々の生気を奪い取ってしまう不思議な音色です。そういうことがあってもおかしくはありません。
とはいえ、近くまで行ってみればさすがに変化は出るものでしょう。
私たちは宿を起点にして、まず一つずつ辻をつぶしていくことにしました。
ウルウがこういうことが得意で、手早く地図を描きながら辻を改めていきましたが、いかんせんムジコも決して小さい村などではありません。ヴォーストよりはいくらか小さい町ですが、それでも立派な町です。町の四半分を改めるよりも先に朝日が昇ってきて、音色もかき消えてしまいました。
私たちがもそもそと耳栓を取りながら宿に帰る道中、ウルウがぼそりとつぶやきました。
「まあ、改めたところも、本当に音源じゃなかったかどうかはわからないしな」
そうなのです。
一応それらしきものがないかどうかは確認しましたけれど、何しろ走りながらでしたし、具体的にどのようなものが音を出しているのかわからないままですし、実際のところ、今日調べたところが本当に何にもなかったのかどうかは全く分からないのです。
なんだかそう思い知らされると途端にすさまじい疲労がやってきました。しらみつぶし戦法は良くありませんね。
私たちが宿に辿り着くと、夕食を何とか済ませたもののそのまま寝台にまでたどり着けなかったらしい客たちが、食堂でぐったりと卓にもたれて寝入っていました。
私たちは彼らを起こさないように食器を片付けてやり、残り物を温めて朝食にしました。
「……ひもじい」
ウルウがまたもやぼそりとつぶやきます。
実際にひもじいわけではないのです。しかし、しかし心がひもじいのです。
いい宿に泊まっておきながら、自分たちの作った夕食の残りを温めて食べなければいけない、そんな疲れ果てた早朝に、そう思わずにはいられないのです。
ウルウだけではありません。私もです。私もひもじいです。どうして音楽の町に来て音楽と戦って、それもろくな戦果も出せないままにこうして疲れ果てなければならないのでしょうか。
私も体力には自信があります。少しのことではへこたれない胆力もあります。
しかし、こうまで手ごたえがないと、さすがにへこむものがあります。
トルンペートもいつものすました様子を崩してやさぐれた具合です。
「いや、自分の作ったもの食べてひもじいひもじい言われたら誰だってそうなるでしょ」
「ごめんなさい」
ともあれ、何とか対策を考えなければなりません。
私たちはゆっくりと朝食を済ませ、それから今日の作戦を練ることにしました。
「音色で探す作戦は失敗したね」
「しらみつぶしも現実的じゃありませんね」
「となるとやっぱり、原因が何かって言うのを考えないといけないわね」
何事も急に起こったりするものではありません。異変には必ず前兆があるはずです。
まずはそれを調べて、あてを見つけなければなりません。
とはいえ。
「夜に自鳴琴が鳴り出すのにどんな理由があるってのよ」
「さっぱりですよねえ」
こればっかりは座って考えてもどうしようもありません。
町の人に話を聞いてみないとわからないことでしょう。果たして町の人に聞いて、答えてもらえるかどうかはわかりませんけれど。
「まあ、こうなったら仕方がないわ。腰を据えていきましょう」
「具体的には」
「まずは、また夜に備えてご飯の支度しておかなきゃね」
「今夜は早めに食べてから出ようか」
「昨夜はお腹ぺこぺこで走り回りましたもんねえ」
健全な冒険は健全な食事から。
トルンペートは重たげに肩を回しながら買い出しに出かけ、私は食器の片づけをはじめ、そしてウルウは、ちらほらと起き始めた商人や旅人たちに聞き取りを行っているようでした。
あんなにおしゃべりが苦手だったウルウが自分から積極的にお話に行くなんて、私、感激です。
「君に任せたら日が暮れる」
「アッハイ」
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・ひもじい
空腹であること。また精神的に満たされないことをこの場合言っている。
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