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第一章 冒険屋

第二十話 亡霊と後始末

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前回のあらすじ
霹靂猫魚トンドルシルウロとの決死の死闘を繰り広げ、ついに気絶するリリオ。
そしてそれを甲子園観戦くらいの興味のなさで見守るウルウであった。









 リリオって割と無鉄砲なところあるよなあ。

 いまさらながらにそんなことを思いながら見上げる先では、巨大なナマズの頭に剣を突き刺し、感電して痙攣しながらもしがみついているリリオの姿があった。
 《フランクリン・ロッド》と、ついさっき渡したばかりの《三日月兎の後ろ足》の相乗効果でそこそこ弾き返しているとはいえ、四割は喰らっている癖に戦意が衰えないのは驚異的なバーサーカーっぷりだ。

 感電というかなり恐ろしい光景を目の当たりにしても私がそれなりに平然としているのは、口の端から泡を吹きつつ、少女がしていい顔からかけ離れた形相で奮闘しているリリオが面白いからではなく、単純にパーティ・メンバーとして彼女のステータスが見えるからだ。

 ステータスの内の一つ、《HPヒットポイント》が見える私には、見た目はどうあれ実際のところどれだけのかというのが数字でわかる。
 水に落ちた上で喰らったらどうかわからないが、少なくともああして乾いた状態であれば一発当たり五パーセントも減らないし、全体《HPヒットポイント》からするとまだ半分もいってない。

 もともと生命力バイタリティがあほほど高いのでそれほど心配はしていなかったが、知性インテリジェンスが低いわりに魔法ダメージが少ないのは、この世界ではダメージ計算の数式が違うためなのかもしれない。そのためか予想よりもかなり余裕がある。

 とはいえ。

「あ、落ちる」

 さすがに気絶スタンまでは免れないか。
 脳をかき回されてようやく絶命したナマズだが、それと同時に張り詰めていたリリオも気絶したらしく、ぐらりと倒れていく巨体とともに、剣を握りしめたままのリリオも一緒に落下していく。

 さすがに水に落ちられると回収が面倒くさいので、移動《技能スキル》である《縮地ステッピング》で一息に飛び移り、リリオごと剣を引き抜き船に放り投げる。
 船頭が大慌てで受け止めるのを尻目に、大ナマズの顎を蹴り上げて船の上まで蹴り飛ばす。反動で自分の体が落ちる前に再度《縮地ステッピング》で船へと戻る。

「おおおおお落ちてくっぞぉ!」

 あとは実にいいリアクションをしてくれる常識人の横でインベントリを広げ、落ちてくる大ナマズを頭から収納して、はいおしまい。
 さすがに五メートルもある巨体がぬるぬる入っていくのは見ていて面白い光景ではあったが、生臭くなりやしないかと不安ではある。そして相変わらずこの世界のものには重量設定がないのか、問題なく全身が入り切る。設定甘いんじゃないのか神様とは思うけれど、便利なので文句は言わない。

 目を白黒させる船頭があまりにも哀れだったので、できるだけ優しい微笑みを心掛けて、そっと肩を叩いてやる。

「あなたは何も見なかった」
「ひぇ、いンや、でもよ」
「あなたは、何も、見なかった」
「……へ、へぇ」

 落ち着いてもらえたようだ。
 やはりパニックの時は落ち着いて話しかけるのが一番だ。

 船上に転がされたリリオの様子を確認してみるが、あちこち焼け焦げて皮膚も裂けたところがあり、白目剥いて泡吹いていたり、これ死んでるんじゃないかという位かなり酷い有様だが、ステータス上では《HPヒットポイント》残り三割以上残しており、致命傷には程遠い。
 起きてから回復薬を飲ませても十分間に合うだろう。

 ……この見かけでこれくらいのダメージということは、もしかして熊木菟ウルソストリゴに襲われた時も存外平気だったんじゃなかろうか。
 そう思い至るとあの時薬を飲ませる際に行った行為が途端に気恥ずかしくなってきたが、あの時はそんなことに頭が回らなかったのだ、仕方がない。事故みたいなものだ。

 ともあれ、だ。
 一応はこれで試験は合格したと言っていいだろう。
 あんまり小さいものだったら乙種未満として認められなかっただろうが、このサイズは乙種とかいうのに十分見合うと思う。見合わなかったらこの世界の基準値おかしい。

 仮に私が、この最大レベルの私がタイマン勝負を挑んだとしても、環境もあって耐電装備込みでもそこそこ苦労させられただろうし、もし耐電装備なしでやりあえと言われたら遠距離からちまちま削るくらいしかやりようがない。日が暮れるわ。

 そう考えると、耐電装備に幸運値ラック爆上げした状態とはいえ、一人でとどめ刺したリリオはすごいな。私のステータス任せとは違って、戦闘に関する考え方や技術の違いなんだろうか。最後は気絶してしまったとはいえしっかり倒し切っているし、私に頼ろうとしなかったあたりも頑張っている。

 よし。

 私は船頭にお願いして、指示通りに船を動かしてもらった。
 《生体感知バイタル・センサー》を使えばある程度以上の大きさの魚影を探ることなど容易いし、耐電装備を整えた私にかかれば程々の大きさのデンキナマズなど大した敵ではない。というか電気を喰らえば回復するという装備なのだから負けようがない。棹でつついて顔を出したところを、ちょっと気持ち悪いがひっつかんで首を折れば終わる。哺乳類に比べればまだ抵抗感はない。

 ああ、いや、まて、生きている方が高いんだっけ。私はどっちでもいいが、冒険屋はあまり儲からないようだし、ちょっと稼いであげた方がいいか。それに鮮度がいい方が美味しいだろうし。

 となると何がいいかな。

 私はしばらくインベントリに納めた装備を見直し、生け捕り特化に組み立てることにした。一匹くらいは自分でも調べてみたいし、こいつを飯の種にしている冒険屋の迷惑にならない程度に荒稼ぎさせてもらおう。

 結局最終的には、電気攻撃を喰らった時の為に《雷の日と金曜日は》を装備し、確実に手元まで来るように《火照命ホデリノミコトの海幸》という釣り竿を使って吊り上げ、手元まで来たところで《アルティメット・テイザー》という気絶スタン属性特化の武器で意識を奪い、その状態でインベントリに放り込んだ。

 このやり方は実に効率的で、途中までは呆然と眺めていた船頭が、あまりの効率の良さに「悪魔の所業」「霹靂猫魚トンドルシルウロがあわれ」「もはや作業」とこちらの良心をちくちくつつくようなことを言い始めたので、程々のところで切り上げた。

 実際のところは途中で作業ゲーが中毒化して予定より獲り過ぎたのでやめたのだが。

 そのようにして結構長時間楽しんだもとい作業していたのだが、リリオは一向に目を覚ます気配がない。
 もしかして死んだかと思って確認してみたら、気絶から睡眠状態に移行していたので《ウェストミンスターの目覚し時計》でぶん殴って叩き起こし、あれからどうなったとかヌシはどうなったとか騒がしいリリオを引きずって《踊る宝石箱亭》まで戻ることにした。

 運動してお腹が減ったので、そろそろ昼飯にしたかったのだ。









用語解説

・《縮地ステッピング
 《暗殺者アサシン》の《技能スキル》の一つ。短距離ワープの類で、一定距離内であれば瞬間的に移動することができる。ただし、中間地点に障害物がある場合は不可能。連続使用で高速移動もできるが、迂闊にダンジョン内で高速移動していると、制御しきれずに敵の群れに突っ込んだ挙句《SPスキルポイント》が切れるという冗談にもならない展開もありうる。
『東にぴかっと 西にぴかっと 天下を自由自在に 千里の山々を駆け抜けて 暗殺者は行く』

・《火照命ホデリノミコトの海幸》
 ゲームアイテム。水際などの特定の地形で使用することで魚介などの特殊なアイテムを確率で入手できる。使用する場所によって釣れるものが異なり、ひたすら釣りアイテムをコレクションするアングラーと呼ばれるプレイヤーも多かった。時にははずれを引くこともあるが、閠の幸運値で使うとレアアイテムしか出てこないという逆の弊害が発生する。
『おかしな話だろう。私はただ釣り針を返せと言っただけなんだ。誠意を見せろと。そりゃ怒りすぎたかもしれないが、ここまでするか?』

・《アルティメット・テイザー》
 ゲームアイテム。装備品。攻撃力は低いが、高確率で相手を気絶スタン状態にできる特殊な装備。思いっきり世界観に反したような、露骨にスタンガンにしか見えないヴィジュアルだが、設定上一応魔法の道具らしい。
露骨にスタンガンにしか見えないが、雷属性ではないという謎のアイテム。
『アルティメット・テイザー・ボール! 超エキサイティングなこのゲームがついにはじまりアッ! やめろ! 司会にテイザーを使うんじゃアッやめアッアッアッ』

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