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第一章 冒険屋
第十五話 白百合と冒険屋事務所
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前回のあらすじ
メザーガおじさんは苦労性。
勢いよくお邪魔したメザーガおじさんの事務所では、おじさんとクナーボの二人が待っていてくれました。やはりお手紙を出しておいてよかったです。
おじさんは四十台の渋いおじさまで、私が母から受け継いだ白い髪に、翡翠の瞳、それに私が母から受け継がなかった褐色の肌の南部人です。もう現場にはあまり出ていないとのことでしたけれど、それでも立ち居振る舞いには隙が見られませんでしたし、私とウルウを鋭く品定めする目つきも甘くはありません。
いらっしゃいと手を振って、お茶の準備をしてくれているクナーボは、私より少し若くてまだ成人はしていませんが、少し前からおじさんの事務所で冒険屋見習いをしているという子です。もっぱら会計や家事や事務仕事ばかりしていて冒険屋になれるか不安と以前手紙でこぼしていました。
ウルウは知らない人相手にさっそく人見知りを発揮したようで、私の後ろにぴったりくっついて、黙して語らずを貫こうとしています。私が事前にお願いしていなかったらきっと姿を消していたに違いありません。
おじさんは深いため息を吐いてどっかりと腰を下ろすと、私をじろりとねめつけました。
「まさか本気で俺の事務所に来やがるとはな」
「冒険屋になるなら応援してくれるとおっしゃったじゃあないですか」
「そりゃ言ったがね」
まあ、そりゃあ社交辞令でしょうけれど、言質は取ってあるんですから無効じゃあないです。父からも許可はもぎ取ってあります。
もちろん、父やおじさんが私を冒険屋にしたがらないのもわかります。
物語や歌の中の冒険屋がどれだけ格好良く、夢や希望や浪漫にあふれていたとしても、現実として冒険屋というものはお金次第でドブさらいから害獣駆除まで請け負う体のいい便利屋です。苦労ばかりで栄誉なんてまずないでしょうし、自己満足だけでやっていくには過酷でしょう。
わかっています。
お前はわかっていないんだって言われるくらい何度も説明されて、それでも私はわかっています。
冒険屋にでもならなければ、私はきっとどこにも行けないんだって。
それはもう何度も何度も話し合われたことで、そしていまだに解決していない問題なのでした。
私は冒険屋になりたい。父は娘をそんなやくざな仕事に付けたくない。おじさんは面倒ごとに巻き込まれたくない。
それはどうしたって折り合わない問題で、となればどれだけ我を通せるかというのが辺境のやり方です。
「仕方ねえ。仕方ねえなあくそったれめ」
「じゃあ!」
辺境人の頑固さをよくよくわかっているおじさんはため息交じりにそう言いましたが、それは決して安易に認めるということではありませんでした。
「冒険屋になるってからにゃあ、それなりの腕を見せてもらわにゃあならねえ。お前だけじゃねえ。そっちの連れもだ」
「私か」
「関係ねえって顔すんなよ。手紙にゃちゃんと書いてある。こいつと、そのお目付け、二人の面倒見てやれってな」
「……へえ」
「……えへへえ」
ウルウにじろりと見下ろされましたが、笑って誤魔化します。誤魔化し切れてませんけど。
ともあれ、腕っぷしですか。
ふふん。私おつむの具合はあんまりよろしくないですけれど、腕っぷしには少なからず自信があります。
「よし。じゃあ乙種害獣……いや、魔獣の駆除が入所試験だ。腕っぷし見せてもらおうか」
「うぇあ、乙種ですか!?」
とはいえさすがに乙種はちょっと難しいかもしれません。
「二人分で二匹だ」
「倍ドンですかぁ!?」
しかも二匹。
一度に倒せという訳ではないんでしょうけれど、それなりに準備がいる相手が二回というのは結構厳しいです。
ウルウがとんとんと肩をたたくので、いつものあれかと思って軽く振り向き、渋い顔で豆茶をすすっているおじさんを待たせないよう手早く説明します。
乙種というのは、害獣の危険度を甲・乙・丙・丁の四段階に分けた内の上から二つ目で、まあ熟練の狩人でも一人で倒すのは難しいあたりです。
手ごわい角猪だって、若いものだと精々丙種で、森で見かけた年経た個体だってぎりぎり乙種に入るあたりです。
それが魔獣となると危険度はもう少し上がります。何しろ魔術を使うものですから、ものには寄りますけれど相性次第では一段階ほど上に見なくてはいけません。
例えば、そうですね、森で出くわしてしまった熊木菟なんかは若い個体でも立派な乙種です。本来ならパーティで当たらないと危険な生き物で、それを一人でどうにかしてしまえるウルウは本当にどうかしてます。見てないから何とも言えないんですけれど。
それにしても乙種の魔獣ですか。熊木菟を相手にしろというような話ですからこれは結構厳しいのではと思わず頭を抱えていると、またとんとんと肩をたたかれます。
今度は何だろうと振り向くと、凄まじく面倒くさそうにしたウルウが《自在蔵》を叩きます。
「持ち込みじゃダメかな」
「……あー!」
そう言えばウルウが《自在蔵》に突っ込んだままの熊木菟の死体を忘れていました。下手すると腐ってるかもしれません。でもまあ、虫が入っていなければ多少熟成してるくらいで済むかなあ。
「なんだなんだ、うるせえな」
「えっと、あのですね、一匹なら来る途中に狩ってきました」
「……あ?」
「あー、いえ、私っていうかそのウルウが」
私が説明しようとするのを遮って、ウルウが一歩前に出ます。
「熊木菟ってのは乙種なんでしょう?」
「あ? ああ、まあ、そうだが。そこら辺の店で素材買ってきたってすぐにわか」
「これ」
ずるぅり。
相変わらず不思議というか不気味というか、ほとんど容量なんてなさそうなウルウの《自在蔵》から、いろんな物理法則を無視したように熊木菟の腕が引き抜かれ、頭が出てきて、胴体がはみ出て、それから足までが引き抜かれ、丸々一頭分が事務所の床にごろりと転がされました。
何しろ見上げるような巨体ですから、雑然とした事務所内がさらに圧迫されて相当狭く感じます。
「……ああ?」
ぽかん、と顎が落ちそうなほど口を開いて、ぽろり、と目が落ちそうなほど目を見開いて愕然とするおじさん。クナーボもぎょっとした様子で危うくポットを落としかけています。その気持ち、よーくわかります。でもそのうち慣れます。だってウルウですもの。
「確認して」
「あ?」
「確認」
「お、おう」
ウルウに促されて、おじさんは恐る恐る熊木菟の死体に近づいていきました。確かに、傷口も見当たらず乱れたところもない死体は、よくできた剥製か眠っているだけのようにも見え、もしかしたら動くかもと私でも思ってしまうほどです。
それでもちゃんと死んでいることはすぐにわかったらしく、おじさんは最初は呆れたように、そしてやがて驚いたように真剣な目つきで死体の検分を始めました。クナーボも初めて見るのでしょう巨大な魔獣の姿に身を乗り出しています。
なおウルウは今ので大分精神力を消費したようで、再び私の後ろに隠れました。
しばらくの間おじさんは熊木菟の死体を苦労してひっくり返したり、舌の色を見たりしていましたが、やがて頭を振りながら立ち上がりました。
「…………見たとこ傷口もねえ。骨を折ってる様子もねえ。かといって変色もねえし毒でもなさそうだ」
おじさんがじろりとウルウを睨みます。
ウルウが視線を逸らします。頑張ってウルウ!
「自然死だった、とも思えねえが、どうやった?」
「…………」
「おい?」
「私はまだここの所属じゃない」
「あ?」
「企業秘密」
極めて不愛想で不遜な、実際のところは人と話すのが苦痛過ぎて言葉を練るのがしんどいウルウの、酷く端的でざっくり切り捨てるような言葉に、おじさんはしかし気を悪くするどころか満足したようでした。
「ほう、ほう、ほう、そりゃあそうだ。そうだな。リリオはともかくお前さんはまだ使えそうだ」
しかし、とおじさんは改めて死体を見下ろしました。
「いったいまたどんな魔法を使ったのやら……」
「……不満なら」
「なに?」
「不満なら、試す?」
多分「お疑いのことでしょうし、何か腕試しのようなことでもして見せましょうか」という程度の発言だったのでしょうが、持ち前の目つきの悪さと言葉足らずのせいで脅しにしか聞こえません。
おじさんも両手を軽く上げて降参の姿勢です。
「いや、いや、いい、十分だ。こんなバケモン、《自在蔵》か? そんな上等なもんに突っ込んで歩いてきたってだけで十分だ」
「じゃあ」
「まあ、一匹分はこれでいいだろう」
やりました。
実質的には何も解決していない気もしますけれど、少なくとも負担は半分に減ったのだと前向きに考えた方が気持ちも前向きにいられます。
「ところでこいつはどうする?」
「え?」
「これだけ鮮度がいいし、何より傷一つない熊木菟なんざそうそう出回るもんじゃねえ。自分で売り先探してもいいが、うちで組合通してさばいた方が高値で売れると思うぜ?」
それは熊木菟を倒したウルウに向けての言葉でしたけれど、ウルウは全く何のためらいもなく私に視線を寄越して答えを求めてきます。
「リリオ」
「え、えーとですね。私たちじゃ初めての街でうまく売れないと思いますし、お任せした方がいいかと」
「それで」
「えーと、じゃあ、おじさん、その方向でお願いします」
「通訳がねーと喋れねーのか!」
ようやく気付いていただけたようです。
厳密に言えばそこらの商人も真っ青の喋り方とかできるんですけれど、ウルウの負担が大きいし私も聞いててかわいそうですし、何よりあんまり格好のいいウルウを広めると大変なことになりそうなのでやめていただきたいところです。
ともあれ、熊木菟の売買というすっかり忘れていた臨時収入もあり、私たちは早速次の魔獣討伐の準備に出かけるのでした。
用語解説
・これだけ鮮度がいい
熊木菟の死体はすでに何日か経っているが、実のところ《自在蔵》とは違い、インベントリに突っ込んだものは時間が経過しないようだ。
メザーガおじさんは苦労性。
勢いよくお邪魔したメザーガおじさんの事務所では、おじさんとクナーボの二人が待っていてくれました。やはりお手紙を出しておいてよかったです。
おじさんは四十台の渋いおじさまで、私が母から受け継いだ白い髪に、翡翠の瞳、それに私が母から受け継がなかった褐色の肌の南部人です。もう現場にはあまり出ていないとのことでしたけれど、それでも立ち居振る舞いには隙が見られませんでしたし、私とウルウを鋭く品定めする目つきも甘くはありません。
いらっしゃいと手を振って、お茶の準備をしてくれているクナーボは、私より少し若くてまだ成人はしていませんが、少し前からおじさんの事務所で冒険屋見習いをしているという子です。もっぱら会計や家事や事務仕事ばかりしていて冒険屋になれるか不安と以前手紙でこぼしていました。
ウルウは知らない人相手にさっそく人見知りを発揮したようで、私の後ろにぴったりくっついて、黙して語らずを貫こうとしています。私が事前にお願いしていなかったらきっと姿を消していたに違いありません。
おじさんは深いため息を吐いてどっかりと腰を下ろすと、私をじろりとねめつけました。
「まさか本気で俺の事務所に来やがるとはな」
「冒険屋になるなら応援してくれるとおっしゃったじゃあないですか」
「そりゃ言ったがね」
まあ、そりゃあ社交辞令でしょうけれど、言質は取ってあるんですから無効じゃあないです。父からも許可はもぎ取ってあります。
もちろん、父やおじさんが私を冒険屋にしたがらないのもわかります。
物語や歌の中の冒険屋がどれだけ格好良く、夢や希望や浪漫にあふれていたとしても、現実として冒険屋というものはお金次第でドブさらいから害獣駆除まで請け負う体のいい便利屋です。苦労ばかりで栄誉なんてまずないでしょうし、自己満足だけでやっていくには過酷でしょう。
わかっています。
お前はわかっていないんだって言われるくらい何度も説明されて、それでも私はわかっています。
冒険屋にでもならなければ、私はきっとどこにも行けないんだって。
それはもう何度も何度も話し合われたことで、そしていまだに解決していない問題なのでした。
私は冒険屋になりたい。父は娘をそんなやくざな仕事に付けたくない。おじさんは面倒ごとに巻き込まれたくない。
それはどうしたって折り合わない問題で、となればどれだけ我を通せるかというのが辺境のやり方です。
「仕方ねえ。仕方ねえなあくそったれめ」
「じゃあ!」
辺境人の頑固さをよくよくわかっているおじさんはため息交じりにそう言いましたが、それは決して安易に認めるということではありませんでした。
「冒険屋になるってからにゃあ、それなりの腕を見せてもらわにゃあならねえ。お前だけじゃねえ。そっちの連れもだ」
「私か」
「関係ねえって顔すんなよ。手紙にゃちゃんと書いてある。こいつと、そのお目付け、二人の面倒見てやれってな」
「……へえ」
「……えへへえ」
ウルウにじろりと見下ろされましたが、笑って誤魔化します。誤魔化し切れてませんけど。
ともあれ、腕っぷしですか。
ふふん。私おつむの具合はあんまりよろしくないですけれど、腕っぷしには少なからず自信があります。
「よし。じゃあ乙種害獣……いや、魔獣の駆除が入所試験だ。腕っぷし見せてもらおうか」
「うぇあ、乙種ですか!?」
とはいえさすがに乙種はちょっと難しいかもしれません。
「二人分で二匹だ」
「倍ドンですかぁ!?」
しかも二匹。
一度に倒せという訳ではないんでしょうけれど、それなりに準備がいる相手が二回というのは結構厳しいです。
ウルウがとんとんと肩をたたくので、いつものあれかと思って軽く振り向き、渋い顔で豆茶をすすっているおじさんを待たせないよう手早く説明します。
乙種というのは、害獣の危険度を甲・乙・丙・丁の四段階に分けた内の上から二つ目で、まあ熟練の狩人でも一人で倒すのは難しいあたりです。
手ごわい角猪だって、若いものだと精々丙種で、森で見かけた年経た個体だってぎりぎり乙種に入るあたりです。
それが魔獣となると危険度はもう少し上がります。何しろ魔術を使うものですから、ものには寄りますけれど相性次第では一段階ほど上に見なくてはいけません。
例えば、そうですね、森で出くわしてしまった熊木菟なんかは若い個体でも立派な乙種です。本来ならパーティで当たらないと危険な生き物で、それを一人でどうにかしてしまえるウルウは本当にどうかしてます。見てないから何とも言えないんですけれど。
それにしても乙種の魔獣ですか。熊木菟を相手にしろというような話ですからこれは結構厳しいのではと思わず頭を抱えていると、またとんとんと肩をたたかれます。
今度は何だろうと振り向くと、凄まじく面倒くさそうにしたウルウが《自在蔵》を叩きます。
「持ち込みじゃダメかな」
「……あー!」
そう言えばウルウが《自在蔵》に突っ込んだままの熊木菟の死体を忘れていました。下手すると腐ってるかもしれません。でもまあ、虫が入っていなければ多少熟成してるくらいで済むかなあ。
「なんだなんだ、うるせえな」
「えっと、あのですね、一匹なら来る途中に狩ってきました」
「……あ?」
「あー、いえ、私っていうかそのウルウが」
私が説明しようとするのを遮って、ウルウが一歩前に出ます。
「熊木菟ってのは乙種なんでしょう?」
「あ? ああ、まあ、そうだが。そこら辺の店で素材買ってきたってすぐにわか」
「これ」
ずるぅり。
相変わらず不思議というか不気味というか、ほとんど容量なんてなさそうなウルウの《自在蔵》から、いろんな物理法則を無視したように熊木菟の腕が引き抜かれ、頭が出てきて、胴体がはみ出て、それから足までが引き抜かれ、丸々一頭分が事務所の床にごろりと転がされました。
何しろ見上げるような巨体ですから、雑然とした事務所内がさらに圧迫されて相当狭く感じます。
「……ああ?」
ぽかん、と顎が落ちそうなほど口を開いて、ぽろり、と目が落ちそうなほど目を見開いて愕然とするおじさん。クナーボもぎょっとした様子で危うくポットを落としかけています。その気持ち、よーくわかります。でもそのうち慣れます。だってウルウですもの。
「確認して」
「あ?」
「確認」
「お、おう」
ウルウに促されて、おじさんは恐る恐る熊木菟の死体に近づいていきました。確かに、傷口も見当たらず乱れたところもない死体は、よくできた剥製か眠っているだけのようにも見え、もしかしたら動くかもと私でも思ってしまうほどです。
それでもちゃんと死んでいることはすぐにわかったらしく、おじさんは最初は呆れたように、そしてやがて驚いたように真剣な目つきで死体の検分を始めました。クナーボも初めて見るのでしょう巨大な魔獣の姿に身を乗り出しています。
なおウルウは今ので大分精神力を消費したようで、再び私の後ろに隠れました。
しばらくの間おじさんは熊木菟の死体を苦労してひっくり返したり、舌の色を見たりしていましたが、やがて頭を振りながら立ち上がりました。
「…………見たとこ傷口もねえ。骨を折ってる様子もねえ。かといって変色もねえし毒でもなさそうだ」
おじさんがじろりとウルウを睨みます。
ウルウが視線を逸らします。頑張ってウルウ!
「自然死だった、とも思えねえが、どうやった?」
「…………」
「おい?」
「私はまだここの所属じゃない」
「あ?」
「企業秘密」
極めて不愛想で不遜な、実際のところは人と話すのが苦痛過ぎて言葉を練るのがしんどいウルウの、酷く端的でざっくり切り捨てるような言葉に、おじさんはしかし気を悪くするどころか満足したようでした。
「ほう、ほう、ほう、そりゃあそうだ。そうだな。リリオはともかくお前さんはまだ使えそうだ」
しかし、とおじさんは改めて死体を見下ろしました。
「いったいまたどんな魔法を使ったのやら……」
「……不満なら」
「なに?」
「不満なら、試す?」
多分「お疑いのことでしょうし、何か腕試しのようなことでもして見せましょうか」という程度の発言だったのでしょうが、持ち前の目つきの悪さと言葉足らずのせいで脅しにしか聞こえません。
おじさんも両手を軽く上げて降参の姿勢です。
「いや、いや、いい、十分だ。こんなバケモン、《自在蔵》か? そんな上等なもんに突っ込んで歩いてきたってだけで十分だ」
「じゃあ」
「まあ、一匹分はこれでいいだろう」
やりました。
実質的には何も解決していない気もしますけれど、少なくとも負担は半分に減ったのだと前向きに考えた方が気持ちも前向きにいられます。
「ところでこいつはどうする?」
「え?」
「これだけ鮮度がいいし、何より傷一つない熊木菟なんざそうそう出回るもんじゃねえ。自分で売り先探してもいいが、うちで組合通してさばいた方が高値で売れると思うぜ?」
それは熊木菟を倒したウルウに向けての言葉でしたけれど、ウルウは全く何のためらいもなく私に視線を寄越して答えを求めてきます。
「リリオ」
「え、えーとですね。私たちじゃ初めての街でうまく売れないと思いますし、お任せした方がいいかと」
「それで」
「えーと、じゃあ、おじさん、その方向でお願いします」
「通訳がねーと喋れねーのか!」
ようやく気付いていただけたようです。
厳密に言えばそこらの商人も真っ青の喋り方とかできるんですけれど、ウルウの負担が大きいし私も聞いててかわいそうですし、何よりあんまり格好のいいウルウを広めると大変なことになりそうなのでやめていただきたいところです。
ともあれ、熊木菟の売買というすっかり忘れていた臨時収入もあり、私たちは早速次の魔獣討伐の準備に出かけるのでした。
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・これだけ鮮度がいい
熊木菟の死体はすでに何日か経っているが、実のところ《自在蔵》とは違い、インベントリに突っ込んだものは時間が経過しないようだ。
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