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第十六章 ドント・ステイ、ユー・アー・スティル・アライブ
最終話 ドント・ステイ、ユー・アー・スティル・アライブ
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前回のあらすじ
静かだった。
とても静かだった。
「……生きてる?」
「ああ……多分な」
「まったく、悪運が強いことだな」
「お互い様だろ」
世界が真っ白に爆発してから、どれくらいが経っただろうか。
一行ともう一人、つまり森の魔女と盾の騎士、案内人の臨時パーティと、宿敵である聖王国の破壊工作員は、ゆっくりと衝撃から目を覚ました。
まだ夢から覚め切らないような頭を巡らせて、ゆっくりとぐるりを見渡せば、とっぷりと日の暮れた山の斜面は、すっかり雪と氷に荒れ果てていた。
紙月とウルカヌスがそれぞれに明かりをともして周囲を見渡せば、三人が築き上げた氷の障壁は大雪崩の大部分を左右に受け流しながらも倒壊し、巨大な氷の塊が古代の墓標のごとく転がっていた。
さてその真後ろにいたはずの自分たちは何ゆえに無事なのかと自分の足元を見下ろせば、なんだか小高い丘のように盛り上がっている。しかもそれは、一行の目覚めに気づいたかのようにぶるりと身を震わせたではないか。
「おわっ!? なにこれ!?」
「ぬう!? まさか、これは生きているのか!?」
「生きて……? あー、そうか、《縮小》が解けたのか」
《縮小》。
それは紙月の使う魔法《技能》のひとつであり、対象のサイズを小さくしてしまうものだ。
それが紙月の気絶を理由として解けたのか、それとも自力で解いたのかはわからないが……つまり、この足元の岩の塊のようなものは、《縮小》をかけられていた生き物だ。
「に゛ゃ゛あ゛」
「あ、これタマ!? 結構大きくなってたんだねタマ!」
「ずっと《縮小》かけ続けてたからなあ」
「よもや、地竜を飼いならしているのか? 度し難いな……」
そう、それは《魔法の盾》の騎獣であるところの、地竜タマであった。
もとより巨大なその体躯は、魔法が解けたいまは十メートル近くある巨体をもって、雪崩によって荒れ果てた山肌に、ぽつり浮かんだ孤島のようにそびえているのだった。
このタマの背中に引っかかっていたおかげで、一行は難を逃れたらしかった。
紙月、未来、案内人ウールソ、絶えぬ炎のウルカヌス、それにタマ。
一行はそれぞれにそれぞれの無事を確認し終え、そして誰にともなく自然と爆心地へと目をやっていた。
霜の巨人の一撃によって大雪崩を引き起こされたそこには、いまはなんの姿もない。
見上げた先には遠近感の狂ったようなあまりにも高い絶壁が、何事もなかったかのように変わらずにそびえている。
だがそこには、確かにきらめく氷の跡が、まっすぐに山頂まで続いていた。
「氷精晶は……アンドレオさんはどうなったんだ?」
「……持って行ったのだろうな。すべて背負って行ってしまった」
してやられたというように、ウルカヌスは忌々しげに言った。
彼のヘルメットの内部ディスプレイには、不明の機器との接続が切断されたことが通知されていた。思えば整備を依頼した時にはすでに、この演算機器を利用することをもくろんでいたのだろう。
村にくすぶり続けた火種を回収し、致命的な被害が出る前に村から離れて起爆し、そして被害の多くは自ら背負って山向こうに捨てに行ってしまった。
ウルカヌスも、そして紙月たちも、その盛大な爆弾処理の片棒を知らぬ間に担がされてしまったわけである。
ひとりでは抑えきれない余波も、一行に抑え込ませるつもりだったのだろう。
村は隠し資産であり危険物であった氷精晶をなかったことにでき、事実としても人情としても紙月たちはこの事件をテロリストの犯行だと告げるしかできず、村はただの被害者になる。
調査は無事とは言い難いまでも比較的軽微な被害で終わり、破壊工作員への警戒を高めるに済んだ。
そのような流れになると考えると、全く確かにしてやられた気分だ。
それをしでかした本人はもはや二度と帰っては来ないだろうことをも含めて、紙月は苦い顔ですべてを受け止めた。
タマに《縮小》をかけなおし、その背に乗って村へ降りていく。
ウルカヌスはその途中で一行と別れ、姿をくらませた。
「村人であるあの男が犯人とするより、本物のテロリストのせいにしたほうが通りがよかろう。というより、彼奴め、そこまで織り込み済みのようで腹立たしい話だがな」
「いいのか? あんただって村のために頑張ってくれただろう」
「結果論だ。それに破壊工作員なのは事実だ。いまさらひとつふたつ罪状が重なったところでな」
ちょうどいい暖房器具もといウルカヌスが去り、寒さに凍えながら山を下った一行の前に広がったのは、惨憺たる光景だった。
そのほとんどを受け止め、大いに勢いを減じたとはいえ、何十年分もの冬がまとめて襲い掛かったような大雪崩であった。防雪林をなぎ倒し、村へと文字通り雪崩れ込んだ氷雪の被害は決して少なくなかった。
村人の大半はふもと近くの第一村に降りていたこともあり、人的被害という意味では皆無に等しかった。
しかし第三村の葡萄畑や醸造所、第二村の畑は異常な冷気を伴った雪崩になぎ倒され、圧し潰され、見る影もない。
それらをしり目に下っていけば、松明の明かりを頼りにようよう顔を出し始めた村人たちが呆然とその惨状を見つめていた。
山を下ってきた一向に不審の目を向けるものもいくらかはいたが、そのほとんどは被害の大きさにばかり目が向いていて、それどころではなかった。
第一村までたどり着くと、かがり火の元、村長ワドーが出迎えた。
というより、待ち構えていた。
「……氷精晶はどうした」
「なんつーか……これでも、被害は抑えたほうですよ」
「やつはどうした」
「持ってっちまいましたよ」
「馬鹿め……馬鹿め」
言葉少ないやり取りであったが、ワドーはそれでおおよそ理解したらしかった。
見ないうちに一気に老け込んだようなこの老人は、もはや巌を通り越してひび割れた石くれのようだった。小突けばそれだけで砕けてしまいそうである。
「あー……その、よろしければ、お手伝いとか」
「手伝いだと? 馬鹿め。復興には時間がかかる。金もな。いまは動揺している村のものも、落ち着けばお前たちを怪しむだろう。何もわからんでいる今のうちに、とっとと消えてしまえ」
未来の場当たり的な言葉は、ぴしゃりと鋭く切り捨てられた。
ひどく心労をため込んだらしいワドーは、しかしそれでもまだ確かに村長だった。
「氷精晶の需要は増え続けとる。採掘場が荒れたとなれば、子爵めは復興支援を惜しまんだろうよ。そして村の自立や伝統は、蝕まれていくだろうさ」
自領の村が天災に遭い、その復興支援のために領主が身銭を切って大掛かりに動く。それは世間的に見て人道的な善行であろうし、利益を見込んでのものであってもやらぬ善よりやる偽善だ。
だがそれを機に、子爵は自分の手のものを村に送り込んでくるだろう。いままではブランフロ村として自治を行ってきたが、領主の支援の下に村が復興していけば、もはやその介入、干渉を避けることはできない。
「だが……それでいいのかもしれん。俺たちは、かたくな過ぎた。年寄りが、因習を受け継いできちまった。誇りも、意地も、祖先からの因業も、俺たちには大事だった。だが……生まれてくる赤ん坊には、なんの関係もないことだった。俺たちは子らにすべてを託したがった。だがすべては変わっていく。移ろっていく」
ワドーの目は村を見つめた。
幼いころから生きてきた村を。そしてこれから変わっていくだろう村を。
「姪があの男を拾ってきたとき、俺は受け入れられなかった。受け入れてたまるかと思った。だが行き場のないあの男を受け入れた時、結局はそういうことだと知ったよ。祖先は居場所を守りたかった。俺たちはずっと守ってきた。そしてきっと、誰かの居場所になりたかった。かつて俺たちを追いやったものを見返すように、誰かを受け入れる場所にな」
ワドーの諦めに似たつぶやきが、白い吐息に交じって消えた。
一行がどうしたものかとあたりを見回すと、そこへポルティーニョがこけつまろびつ駆けてきた。
「シヅキさん! ミライ君! ウールソさんも!」
「ああ、その、なんだ……」
「おとんは!? おとんは見つかったんですか!?」
三人は顔を見合わせ、言葉を探したが出てこなかった。
ポルティーニョはそれで何かを察したようだった。
事情は分からないまでも、父が帰らないことを悟ったようだった。
「おとんは……おとんは帰ってこないんですか? どこに……どこへ……っ」
「その、すまない」
「謝ってほしくなんかない! あたしは、あたしはただ……! おとんが、おとんは……!」
ポルティーニョは明るく朗らかな笑顔をすっかり失い、崩れるようにその場にうずくまった。
「お、おとんがいなくなったら、あたしは、あたし、どうすれば……」
「馬鹿め! 立たんかっ!」
三人がいかんともしがたく見守るその背に、激しく怒鳴りつけたのはワドーだった。
びくりと見上げる又姪を、ワドーはぐいりとひっつかんで無理矢理立ち上がらせると、ひび割れた顔で老人は言った。
「俺みたいな爺が先をはかなむんならともかく、お前はまだだ。順番違いだ。お前の親父がどうなろうと、お前の人生はこれからだ。俺の姪がおっ死んだとき、お前の親父は出て行ってもよかったんだ。それをお前を育て上げてから、心配なくなってから、ようやく好きに出ていきやァがったんだ」
呆然と泣き顔をさらすポルティーニョに、ワドーはなだめるように言った。
「お前があんまりやるせないんなら、アンドレオの後を追ってもいい。だがそれはいまじゃあなくっていいだろう。お前の親父が十四年、お前のために使ったように、お前は親父がくれた時間を、無駄にしちゃあいかん。立ち止まっちゃあいかん」
その言葉がポルティーニョにどれだけ響いたかはわからない。ただ、呆然と頷く娘が、いまこの時を乗り越えられればいい。いまを乗り越えれば、また次の今日を乗り越える。その繰り返しの中で、どうしたいのかを決めていけばいい。
「人生は二百年も続きやしない。突然終わることだってある。自分の思い通りになんか行きやしない。それでも歩け。歩き続けろ。お前はまだ生きておるんだからな」
大雪崩に見舞われ、人々が惑う中でも、変わらずに時は過ぎ、夜は明ける。
日差しは心なし暖かく、季節の移ろいを思わせた。
やがて春が来る。雪解けの季節が。
涙も悩みも構わずに、春の気配が追い立てようとしていた。
静かだった。
とても静かだった。
「……生きてる?」
「ああ……多分な」
「まったく、悪運が強いことだな」
「お互い様だろ」
世界が真っ白に爆発してから、どれくらいが経っただろうか。
一行ともう一人、つまり森の魔女と盾の騎士、案内人の臨時パーティと、宿敵である聖王国の破壊工作員は、ゆっくりと衝撃から目を覚ました。
まだ夢から覚め切らないような頭を巡らせて、ゆっくりとぐるりを見渡せば、とっぷりと日の暮れた山の斜面は、すっかり雪と氷に荒れ果てていた。
紙月とウルカヌスがそれぞれに明かりをともして周囲を見渡せば、三人が築き上げた氷の障壁は大雪崩の大部分を左右に受け流しながらも倒壊し、巨大な氷の塊が古代の墓標のごとく転がっていた。
さてその真後ろにいたはずの自分たちは何ゆえに無事なのかと自分の足元を見下ろせば、なんだか小高い丘のように盛り上がっている。しかもそれは、一行の目覚めに気づいたかのようにぶるりと身を震わせたではないか。
「おわっ!? なにこれ!?」
「ぬう!? まさか、これは生きているのか!?」
「生きて……? あー、そうか、《縮小》が解けたのか」
《縮小》。
それは紙月の使う魔法《技能》のひとつであり、対象のサイズを小さくしてしまうものだ。
それが紙月の気絶を理由として解けたのか、それとも自力で解いたのかはわからないが……つまり、この足元の岩の塊のようなものは、《縮小》をかけられていた生き物だ。
「に゛ゃ゛あ゛」
「あ、これタマ!? 結構大きくなってたんだねタマ!」
「ずっと《縮小》かけ続けてたからなあ」
「よもや、地竜を飼いならしているのか? 度し難いな……」
そう、それは《魔法の盾》の騎獣であるところの、地竜タマであった。
もとより巨大なその体躯は、魔法が解けたいまは十メートル近くある巨体をもって、雪崩によって荒れ果てた山肌に、ぽつり浮かんだ孤島のようにそびえているのだった。
このタマの背中に引っかかっていたおかげで、一行は難を逃れたらしかった。
紙月、未来、案内人ウールソ、絶えぬ炎のウルカヌス、それにタマ。
一行はそれぞれにそれぞれの無事を確認し終え、そして誰にともなく自然と爆心地へと目をやっていた。
霜の巨人の一撃によって大雪崩を引き起こされたそこには、いまはなんの姿もない。
見上げた先には遠近感の狂ったようなあまりにも高い絶壁が、何事もなかったかのように変わらずにそびえている。
だがそこには、確かにきらめく氷の跡が、まっすぐに山頂まで続いていた。
「氷精晶は……アンドレオさんはどうなったんだ?」
「……持って行ったのだろうな。すべて背負って行ってしまった」
してやられたというように、ウルカヌスは忌々しげに言った。
彼のヘルメットの内部ディスプレイには、不明の機器との接続が切断されたことが通知されていた。思えば整備を依頼した時にはすでに、この演算機器を利用することをもくろんでいたのだろう。
村にくすぶり続けた火種を回収し、致命的な被害が出る前に村から離れて起爆し、そして被害の多くは自ら背負って山向こうに捨てに行ってしまった。
ウルカヌスも、そして紙月たちも、その盛大な爆弾処理の片棒を知らぬ間に担がされてしまったわけである。
ひとりでは抑えきれない余波も、一行に抑え込ませるつもりだったのだろう。
村は隠し資産であり危険物であった氷精晶をなかったことにでき、事実としても人情としても紙月たちはこの事件をテロリストの犯行だと告げるしかできず、村はただの被害者になる。
調査は無事とは言い難いまでも比較的軽微な被害で終わり、破壊工作員への警戒を高めるに済んだ。
そのような流れになると考えると、全く確かにしてやられた気分だ。
それをしでかした本人はもはや二度と帰っては来ないだろうことをも含めて、紙月は苦い顔ですべてを受け止めた。
タマに《縮小》をかけなおし、その背に乗って村へ降りていく。
ウルカヌスはその途中で一行と別れ、姿をくらませた。
「村人であるあの男が犯人とするより、本物のテロリストのせいにしたほうが通りがよかろう。というより、彼奴め、そこまで織り込み済みのようで腹立たしい話だがな」
「いいのか? あんただって村のために頑張ってくれただろう」
「結果論だ。それに破壊工作員なのは事実だ。いまさらひとつふたつ罪状が重なったところでな」
ちょうどいい暖房器具もといウルカヌスが去り、寒さに凍えながら山を下った一行の前に広がったのは、惨憺たる光景だった。
そのほとんどを受け止め、大いに勢いを減じたとはいえ、何十年分もの冬がまとめて襲い掛かったような大雪崩であった。防雪林をなぎ倒し、村へと文字通り雪崩れ込んだ氷雪の被害は決して少なくなかった。
村人の大半はふもと近くの第一村に降りていたこともあり、人的被害という意味では皆無に等しかった。
しかし第三村の葡萄畑や醸造所、第二村の畑は異常な冷気を伴った雪崩になぎ倒され、圧し潰され、見る影もない。
それらをしり目に下っていけば、松明の明かりを頼りにようよう顔を出し始めた村人たちが呆然とその惨状を見つめていた。
山を下ってきた一向に不審の目を向けるものもいくらかはいたが、そのほとんどは被害の大きさにばかり目が向いていて、それどころではなかった。
第一村までたどり着くと、かがり火の元、村長ワドーが出迎えた。
というより、待ち構えていた。
「……氷精晶はどうした」
「なんつーか……これでも、被害は抑えたほうですよ」
「やつはどうした」
「持ってっちまいましたよ」
「馬鹿め……馬鹿め」
言葉少ないやり取りであったが、ワドーはそれでおおよそ理解したらしかった。
見ないうちに一気に老け込んだようなこの老人は、もはや巌を通り越してひび割れた石くれのようだった。小突けばそれだけで砕けてしまいそうである。
「あー……その、よろしければ、お手伝いとか」
「手伝いだと? 馬鹿め。復興には時間がかかる。金もな。いまは動揺している村のものも、落ち着けばお前たちを怪しむだろう。何もわからんでいる今のうちに、とっとと消えてしまえ」
未来の場当たり的な言葉は、ぴしゃりと鋭く切り捨てられた。
ひどく心労をため込んだらしいワドーは、しかしそれでもまだ確かに村長だった。
「氷精晶の需要は増え続けとる。採掘場が荒れたとなれば、子爵めは復興支援を惜しまんだろうよ。そして村の自立や伝統は、蝕まれていくだろうさ」
自領の村が天災に遭い、その復興支援のために領主が身銭を切って大掛かりに動く。それは世間的に見て人道的な善行であろうし、利益を見込んでのものであってもやらぬ善よりやる偽善だ。
だがそれを機に、子爵は自分の手のものを村に送り込んでくるだろう。いままではブランフロ村として自治を行ってきたが、領主の支援の下に村が復興していけば、もはやその介入、干渉を避けることはできない。
「だが……それでいいのかもしれん。俺たちは、かたくな過ぎた。年寄りが、因習を受け継いできちまった。誇りも、意地も、祖先からの因業も、俺たちには大事だった。だが……生まれてくる赤ん坊には、なんの関係もないことだった。俺たちは子らにすべてを託したがった。だがすべては変わっていく。移ろっていく」
ワドーの目は村を見つめた。
幼いころから生きてきた村を。そしてこれから変わっていくだろう村を。
「姪があの男を拾ってきたとき、俺は受け入れられなかった。受け入れてたまるかと思った。だが行き場のないあの男を受け入れた時、結局はそういうことだと知ったよ。祖先は居場所を守りたかった。俺たちはずっと守ってきた。そしてきっと、誰かの居場所になりたかった。かつて俺たちを追いやったものを見返すように、誰かを受け入れる場所にな」
ワドーの諦めに似たつぶやきが、白い吐息に交じって消えた。
一行がどうしたものかとあたりを見回すと、そこへポルティーニョがこけつまろびつ駆けてきた。
「シヅキさん! ミライ君! ウールソさんも!」
「ああ、その、なんだ……」
「おとんは!? おとんは見つかったんですか!?」
三人は顔を見合わせ、言葉を探したが出てこなかった。
ポルティーニョはそれで何かを察したようだった。
事情は分からないまでも、父が帰らないことを悟ったようだった。
「おとんは……おとんは帰ってこないんですか? どこに……どこへ……っ」
「その、すまない」
「謝ってほしくなんかない! あたしは、あたしはただ……! おとんが、おとんは……!」
ポルティーニョは明るく朗らかな笑顔をすっかり失い、崩れるようにその場にうずくまった。
「お、おとんがいなくなったら、あたしは、あたし、どうすれば……」
「馬鹿め! 立たんかっ!」
三人がいかんともしがたく見守るその背に、激しく怒鳴りつけたのはワドーだった。
びくりと見上げる又姪を、ワドーはぐいりとひっつかんで無理矢理立ち上がらせると、ひび割れた顔で老人は言った。
「俺みたいな爺が先をはかなむんならともかく、お前はまだだ。順番違いだ。お前の親父がどうなろうと、お前の人生はこれからだ。俺の姪がおっ死んだとき、お前の親父は出て行ってもよかったんだ。それをお前を育て上げてから、心配なくなってから、ようやく好きに出ていきやァがったんだ」
呆然と泣き顔をさらすポルティーニョに、ワドーはなだめるように言った。
「お前があんまりやるせないんなら、アンドレオの後を追ってもいい。だがそれはいまじゃあなくっていいだろう。お前の親父が十四年、お前のために使ったように、お前は親父がくれた時間を、無駄にしちゃあいかん。立ち止まっちゃあいかん」
その言葉がポルティーニョにどれだけ響いたかはわからない。ただ、呆然と頷く娘が、いまこの時を乗り越えられればいい。いまを乗り越えれば、また次の今日を乗り越える。その繰り返しの中で、どうしたいのかを決めていけばいい。
「人生は二百年も続きやしない。突然終わることだってある。自分の思い通りになんか行きやしない。それでも歩け。歩き続けろ。お前はまだ生きておるんだからな」
大雪崩に見舞われ、人々が惑う中でも、変わらずに時は過ぎ、夜は明ける。
日差しは心なし暖かく、季節の移ろいを思わせた。
やがて春が来る。雪解けの季節が。
涙も悩みも構わずに、春の気配が追い立てようとしていた。
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