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第十一章 グレート・エクスペクテイションズ

第十話 古代遺跡

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前回のあらすじ

往け! ぼくらの超合金エレメンツ!





 いったん盾を解除して、両博士を呼んで見てもらったが、これはどうも岩盤などの自然のものではないようだった。

超硬スペル混凝土ベトノ……聖硬石ですね」
「聖硬石っていうと、地下水道の外壁の」
「そうです、古代遺跡の外壁を構成してる建材ですね」
「さーて、これが出てくると、この先が困りますね」

 未来のシールドマシンもどきでも削り取れなかったあたり、かなりの強度なのは確かなようである。

「聖硬石ってのはそもそも何なんです?」
「うーん、極端な話、ある種の混凝土ベトノなんですね」
「ベトノ?」
「ざっくり言えば、水と砂・砂利と接着剤になるものを混ぜて固めたものです」
「ああ、コンクリートだ」
「聖硬石はこれのめっちゃんこすごいやつです」
「めっちゃんこすごいやつ」
「説明すると小難しいんですよ。細かい化学反応とか、粒子単位の素材に刻印された魔術式とか」
「簡単に言えば化学的にも頑丈なうえ、魔術的にもめちゃんこ補強してある岩と思っていただければ」
「あー……つまり、壊せない訳じゃないんですね?」
「そこで挫けないあたりがさすがという感じですが、そうです、かなり頑張れば壊せないことはありません」

 試しに《燬光レイ》で焼き切ることを試してみたが、表面に焦げ跡がつくだけだった。

「しかたない」
「一度戻って爆薬取ってきましょうか?」
「うーん、崩落の心配もありますけれど……」
「まともな手段で壊そう」
「は?」

 こきこきと意味もなく肩を回して、紙月は非常に時間をかけて《金刃レザー・エッジ》で一本の杭刃を生成した。
 鋭さよりも頑丈さを重視し、込めた魔力の密度もあって、かなりの強度を誇る一本である。

 また、聖硬石の壁に向き合って、紙月はもう一つの呪文を唱えた。
 《念力テレキネシス》である。
 これで杭刃を持ち上げたのである。

「ええ?」
「まさかそれで叩いて壊そうというのですか?」
「サンプルを削るってわけじゃあないんですから……」
「少し下がった方がいいですよ」

 次の瞬間、激しく金属のこすり合わさるような耳障りな騒音が横穴に響き渡った。

「にょわっ!?」
「なっなんです!」
「やってることはさっきのシールドマシンと変わりないですよ」
「変わりないって……」
「《念力テレキネシス》で超高速振動させた杭をぶつけてるんです。超振動ブレードとか、高周波ブレードとかいうやつですね」
「何ですその格好いい響きは!?」

 格好いい響きはするかもしれないが、やっていることは工事現場などで使われている、ペッカーやブレーカーなどと呼ばれる道具と同じようなことだ。激しく火花を飛ばしながら杭刃は聖硬石の表面を削り出し、やがて深々とその刃を埋没させていく。

「一本じゃ時間かかるな。未来。俺が回復するまでのリカバリ頼む」
「わかった」

 すでに遺跡に対して接触を開始してしまっている以上、ここは《SPスキルポイント》の消費を覚悟で急ぎでやった方がいいだろう。

 紙月は追加で三十六本の杭刃を同時に生成し、それらを《念力テレキネシス》で壁面にぶち込む。

 両博士が耳を押さえて何やらがなり立てているが、もはやそれも聞こえないような騒音が、数分か、十数分か、ともすれば一時間もの間鳴り響いているように感じられた。

 そして絶叫のような騒音に耐えていた時間は思いのほか瞬く間に過ぎ去り、気づけば音を立てて聖硬石の分厚い壁が崩れ去っていたのだった。

「なんという力業……」

 耳鳴りのするなか、キャシィ博士のそんなつぶやきが聞こえたような気がした。

 瓦礫をのけて遺跡に侵入すると、中は通路のようで、輝精晶ブリロクリステロによって明かりが必要ないくらいに照らされていた。ということはつまり、遺跡が生きている、稼働しているのだ。
 踏み入った紙月たちに反応するように、途端に鋭い音が響き渡り始める。

「これは?」
「警報です!」
「工員たちは撤収を!」
「博士たちは?」
「私たちがついていかないと遺跡のことなんてお分かりにならないでしょう」
「ごもっとも」

 四人は素早く状況を確認した。
 生きている遺跡への通路が開通した。
 しかし警報が鳴っていて、防衛装置が働いている。
 ひとまずはこれの解除、そして遺跡の安定化を目的に、両博士を護衛して制御室に向かうのが良いだろう。

 このように決めて、四人は早速通路を進み始めた。
 先頭は未来で、その後を両博士が指示を出しながら進み、しんがりは紙月が務めた。

 途中、扉がいくつかあった。
 両博士が検めると、取っ手のないこれらの扉は、横に取り付けられた板に触れることで開閉する仕組みのようだった。

「ハイテクだね」
「遺跡っていうより、SFの宇宙船みたいだな」
「その例えはよくわかりませんが、古代遺跡とは言いますけれど、古代聖王国時代の方がはるかに文明が進んでいましたからね」
「正直、今の我々は暗黒時代を何とか抜け出そうとしているようなものですよ」

 部屋の中はほとんどが大したものの見当たらない倉庫のようなものだったり、空き部屋であったり、また荒れ果てていた。
 たいていの遺跡は、ここもそうであるように、古代の大戦争のときに打ち捨てられたものが多く、持ち運べるものは持ち出してしまって、完璧な状態で残っているものはまずないという。

 通路はあまり分岐しないとはいえ、両博士は全く迷うようなそぶりを見せずすいすいと歩いていく。まるである程度あたりがついているようだ。

「お二人は遺跡の専門家でしたっけ……?」
「私は何でも屋と言ったじゃないですか」
「私もまあ、キャシィに付き合ってると詳しくなるもので」
「まあともかく、もともと人が作って人が住んでいた建物ですからね、構造は目的によって似通ってくるものです。ここは恐らく何かの研究所の、居住スペースだったと思われます。この辺りは特に何もないでしょうから、さっさと次の区画に進みましょう」

 ゲーマーの紙月としては、こういうところにこそレア・アイテムがあったりするのだが、と思うのだけれど、いまはそんなことを考えている時ではない。調べるのは後からでもできるのだ。期間限定イベントでもあるまいし。

「警報機が鳴って、警備機械が出発したとして、多分そろそろ……」
「あ、あれですね」

 暢気な二人の言葉通り、通路の先から犬ほどの大きさの機械が、四つの車輪で滑らかに走って来る。その背にはいかにもな筒が取り付けられており、ちょっとした四つ足の戦車のような外見である。

 博士の言うところの警備機械とやらは、聞きなれない響きの合成音声のようなものを何度も繰り返しながら進路を遮った。

「なんて言ってるんです?」
「古代聖王国語ですね。施設が警戒態勢で、身元確認呪符を提示して下さいとか、そんなことを言ってますね」
「成程」

 機械音声が平坦な調子で、しかし融通の利かない頑固さで繰り返されるのを聞き流しながら、紙月は指を振るった。

「《燬光レイ》」

 警備機械は紙月の不意打ちの攻撃を受けて真っ二つになり、沈黙した。

「次はもう少し損傷を少なく破壊してくれると助かります」
「難しいこと言うなあ」

 そんな暢気な会話などつゆ知らず、警報は一層強く鳴り響くのだった。





用語解説

超硬スペル混凝土ベトノ
 いわゆる聖硬石のこと。
 ざっくり言えば素材の粒子単位から魔術的補強のなされた超硬質コンクリート。
 頑丈なだけでなく経年劣化にも強く、二千年経ってもほとんど劣化していない。

混凝土ベトノ
 要するにコンクリート。
 普通のコンクリートやアスファルト自体は帝国でも建設等に用いたりしている。

・超振動ブレード/高周波ブレード
 刃を超高速で振動させることで、その振動で切るとか摩擦熱で切るとかいろいろ言われている例のアレ。
 紙月の場合浪漫三割、工事現場でどかどかやってるあれ七割のイメージである。

・警備機械
 これも一種の穴守と言っていいだろう。
 ただし、もともと拠点防衛で置かれている大型のものよりだいぶ貧弱なようだが。
 これでも一般人からある程度の冒険屋なら普通に相手できるスペック。

・身元確認呪符
 シリアルナンバーと偽造防止用の呪印で構成される、いわばIDカードのようなもの。
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