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首都トラスト
218 解除訓練
しおりを挟む死神テーブルの上には、譲り受けたダンジョンマップと罠の解除手引き本、解除用のピッキングツールが置かれている。
ダンジョンマップをつつきながら、カーソンは話す。
「なんか、来てみて良かったな? 思いがけずいい物が手に入った」
「罠解除の本、あたしに見せて! うわぁ……難しそう」
「次、わたし見たいです! ふむふむ……何か面白そうですね」
「あ、そうだ飲み物忘れてた。すいませーん」
カーソンは店員を呼び、飲み物とつまみを注文しようとする。
「俺ジュース」
「わたしもジュースをお願いしますっ」
「お酒に炭酸入れてって言ったら、やってくれるかしら?」
「もちろんやってるよ。1から9の間で選んでくれ」
「1から9とは? 何を意味するのですか?」
「酒と炭酸の比率さ。5なら半々、8なら炭酸が2って具合さ」
「成る程。では、試しに5からいってみるか」
「私は7で」
「じゃあ私は8」
「あたしもお酒にしようかな? 6で」
「そうすると……ジュース2つと、酒が5678の4つだね?」
「つまみって何種類あります?」
「今の時間なら……5種類は出せそうかな?」
「全種類、1皿ずつ下さい」
「はいよ、全部で55ゴールド。用意しててくれ」
店員は注文を受け、カウンターまで戻った。
飲み物とつまみが届くと、カーソン達は乾杯する。
「かんぱぁーいっ!」
「んぐっ…んぐっ……」
「……くぅーっ! しみるぅー! お酒美味しいっ!」
「ここのお酒、美味しいですわね。また7でおかわり下さい」
「……私もまた5でおかわり」
「次は6あたりにしようかしら? 私もおかわり!」
貴重な情報の入手に喜ぶカーソン達は、飲み物のペースも進んだ。
「すみません、9でおかわり下さい」
「私は7でおかわり」
「いいわねぇ、ローラもソニアも飲んでるわねぇ。5でおかわり!」
「イザベラさん。酔っ払ってますね?」
「何よぅ。私はまだ酔っ払ってないわよ? あはははは!」
「……それにしても、ローラさんとソニアさん、何杯目だ?」
「5杯は軽くいってるはずだよ?」
ローラとソニアは薄めを飲むと次は濃いめ、そしてまた薄めと交互に飲み続ける。
届いた酒を一気に煽った2人は、またおかわりを注文した。
イザベラはすっかり酔っ払っている。
クリスはほろ酔い気味で、つまみを口に運んでいる。
ティコは何も言わず、黙ってジョッキの飲み物を飲んでいた。
カーソンとクリスは、ダンジョンマップをいじりながら話し込む。
「ここに居てもダンジョンの地図って見れるのか。凄いなこれ」
「そうだね。板に触っただけで色んな事が出来ちゃうんだね」
「この触っても反応しないとこは何だろな? 壊れてんのか?」
「もし壊れてたらさ、これくれたさっきの人が教えるでしょ」
「もしかして、あれか? 精霊魔法のセカンダリみたいなもんか?」
「ああ、これ使い続ければ新しい何かが出来るようになるって事?」
「いや、分かんないけどな?」
ダンジョンマップをいじる2人は、まだ使う事が出来ない隠された機能が存在しているかも知れないと話し込んだ。
適当にいじっていたら表示された、地下1階の全景図面。
カーソンとクリスは、通路と思われる部分を指でなぞりながら話し合う。
「所々に引き返せない、一方通行みたいな障壁があるみたいだな?」
「ここ行くにはこっちの道進んで、スイッチ押さないとダメみたいね」
「次に行った先のスイッチ押したら、また違う所が進めるようになるのか」
「この赤い点は罠で、青い点が仕掛けを解除するスイッチみたいだね」
「この青い点全部に行って、仕掛けを解除しないと駄目なんだな?」
「見てよここ。地下1階の入口から地下2階への階段まで結構近いと思ったけど、ここの扉開く為にはこのマップの一番端、ここのスイッチを動かさないとダメみたい」
「うわ、遠回りだな。じゃあ明日はまず、ここを目指してみるか」
「そうね。地下1階の最終目標は、ここのスイッチっぽいね」
「……ん? どうしたティコ? やけに静かだな?」
カーソンは、左隣で無言のまま俯いているティコへ話しかけた。
今までずっと黙り込んでいたティコは突然立ち上がり、大声で叫び出す。
「はいっ! みらしゃんっ! 聞いてくらしゃいっ!
今からっ! わらひの夢をっ! 発表しましゅっ!」
「……ティコ?」
突然叫び始めたティコに、カーソンはポカンと口を半開きにした。
顔を真っ赤にさせているティコは、胸を張って自分の夢を声高々に叫ぶ。
「わらひの夢はっ! かーしょんしゃまのおよめしゃんになる事っ!
なのれすっ! れっらいにっ! およめしゃんになるんれすっ!
ほいれかーしょんしゃまにぃ、いっぱいあいしれもらっれぇ……。
あかしゃんいっぱいっ、いーっぱい産むんれすぅ。えへへぇ……」
「ちょっと誰よっ!? ティコにお酒なんか飲ませたのっ!?」
クリスはテーブル席に座る全員を見渡した。
「さー? 誰かしらねー? いいぞティコぉ! もっと言えー!」
「犯人はイザベラさんか……」
「れもっ、わらひはかーしょんしゃまのおよめしゃんには……。
なりらくっれも……なれないのれす。らっれ……らっれ……。
わらひ……けがれらしよーふらっらから……うわぁぁぁーん!」
ティコは現実を悲観し、大声で泣き出した。
涙で声を上ずらせながらも、ティコは必死に訴える。
「れもっ、わらひは……かーしょんしゃまの……およめしゃんにっ。
ろうしれもおよめしゃんに……なりらいのれす……うわぁぁぁん!」
「駄目だっ! もう帰ろう! 宿に帰ろう! 今すぐ帰ろう!」
このままではティコが午前中のように暴れそうだと思ったカーソンは、全員を席から立たせるとティコを背負い、酒場を出た。
泥酔したティコを背負うカーソンと共に、宿へと帰るクリス達。
ローラとソニアは、夜の涼風を肌身で感じながら話す。
「……ふう。夜風が気持ち良いですわね」
「ええ。風が気持ちいいですね」
「ローラさんもソニアさんも、全然酔ってなさそうですね?」
「あれくらいの酒の量ごときで、私は酔わんぞ?」
「とても美味しいお酒でした。もっと飲みたかったですわ」
「この2人……底なしのザルだ……」
「あーっ! 楽しいーっ! あはははは!」
「イザベラさんは……うん、ベロンベロンだな……」
カーソンとクリスは、全く酔っているそぶりを見せないローラとソニア、酩酊してフラフラと歩くイザベラを見比べながら、意外とイザベラは酒に弱いのかと思った。
ティコはいつの間にかカーソンに背負われたまま、眠っていた。
カーソンに背負われたティコは、寝言を呟く。
「わらひは……かーしょんしゃまの…およめしゃんに…なるのらぁー」
「ん? ティコ起きてるのか?」
「いや? 寝てるっぽいよ?」
「随分とはっきりした寝言だな」
「およめしゃんー……およめしゃんー……」
「なあクリス? 俺のおよめさんになるってどういう事だ?」
「あんたとずっと一緒に、隣に居続けたい……って事よ」
「なんだ。俺達と別れる気、まだ無いのかこいつには?」
「そりゃ当分無いでしょ、きっと」
「およめさんって、傍に居て守り合う存在って意味なのか?」
「ちょっと間違ってるけど、だいたいの意味は合ってるよ」
「じゃあティコ? 別れるまでの間、そのおよめさんってのになるか?」
「わぁーい……つるしんれ、おうけらままりましゅのれすらぁー」
「ははは。じゃあ、よろしくな?」
「…………フンだっ!」
ゴスッ
頭に血が昇ったクリスは、右足でカーソンの左ふくらはぎを蹴る。
「いでぇっ!? 何でいきなり蹴るんだよっ!?」
「知るかっ! 馬鹿ーソンっ!」
「せめて何が気に入らなくて蹴ったのか教えてくれよ!」
「うっさいっ!」
「ぐうう……意識してなかったら、じわじわ痛い……」
カーソンは涙目になりながら、左ふくらはぎの痛みに耐える。
クリスはカーソンの足を蹴った自分自身に対し、無性にイライラしていた。
宿に戻り、ライラから部屋の鍵を受け取ったカーソン達は部屋に入る。
ローラに介抱されながら、酩酊しているイザベラはベッドへと寝かしつけられる。
ソニアとクリスは寝間着に着替え、就寝に向けて準備をしている。
カーソンは背負っていたティコをベッドに寝かせ、寝間着に着替えさせてやろうと上着を脱がし始めた。
上半身を裸にされたティコは左手を腹の上に置き、右腕で目元を隠しながら、酒に酔ってハァハァと呼吸を荒げている。
何を思ったのかカーソンは続けざまに下着も脱がせ、ティコを素っ裸にした。
服を剥ぎ取られ、カーソンにその裸をさらけ出しているティコ。
カーソンは無表情で両手をティコの胸へ伸ばそうとし、途中で我に返って手を引っ込める。
素っ裸のティコを眺めていたカーソンは再び胸へ手を伸ばそうとし、また我に返って引っ込めた。
奇妙な行動をしているカーソンへ、クリスが話しかけようとしてローラとソニアから止められる。
「ちょっ、あんた前後不覚の女の子に何しようとし――」
「しっ、クリス。暫く様子を観察なさい」
「あいつの本能と、封印とが戦っているようだな?」
「…………あ、そうみたいですね」
「女体に触れたい、愛でたいと手を伸ばすカーソンの本能」
「封印が作用し、自身の行動理由が分からなくなり手を引っ込める……か」
「なんか、こうして観察してみると……あいつも結構頑張ってるんですね」
「頑張っているという表現も変だとは思うが……まあそうだな」
「クリス? この際もう解除して、今から全員で楽しみませんか?」
「嫌です。断固拒否します」
「……そうですか……残念ですわね」
封印の解除を断られたローラは残念そうに呟く。
クリスはカーソンの傍へと近寄り、2人でティコへ寝間着を着せ始めた。
封印に抗う気は全然ないのかと、カーソンへ思っていたクリス。
こうして内面では本能が封印に抵抗していた事を知り、カーソンが自力で打ち勝つのを期待しながら、酔って睡魔に負けそうになっているクリスは寝床へと就いた。
翌朝、カーソン達は目覚めると、ベッドから起き上がる。
「くぁ……あ……おはよう」
「おっはよー!」
「おはようございます。気持ちのいい朝ですわね?」
「おはよう。さて、いよいよダンジョン探索か」
「そうですね。朝ゴハン食べたら出発……あれっ?」
「イザベラさん? どうしました?」
「あんたの横に居るティコもよ?」
「えっ? ありゃホントだ」
クリス達と話し合う中、イザベラとティコはベッドで横になったまま、唸っている。
「あー、駄目だわ。飲みすぎちゃった」
「うぅ……頭いたーぃ……」
2人とも真っ青な顔で、ベッドから起き上がれずに横たわっていた。
カーソンは起き上がり、寝間着から普段着に着替えながら話す。
「イザベラさんもティコも二日酔いか……こりゃ今日は中止だな?」
「ごめんなさいカーソン様ぁ……うぅー……気持ちわどぅいぃ……」
「調子に乗ってお酒飲むからよ。これに懲りたら、もう飲んじゃ駄目よ?」
「はいぃ……クリス様ぁ……もう飲みませぇん……」
「大丈夫ですか? お姉様」
「……何で双子なのに、ローラは大丈夫なの? うーっ、頭痛い」
「どうしてなのでしょうね? 私にも分かりませんわ」
「イザベラさん? 朝ゴハン食べに行けますか?」
「私は要らない。もう少し寝かせてちょうだい」
「わたしも、食べられないです……横になっててもいいですか?」
「俺達は食ってきますね。2人とも、お大事に」
酒を飲み過ぎて二日酔いのイザベラとティコを部屋に残すと、カーソン達は食事へと向かった。
朝食会場のホールでは、ライラとソシエが食事の準備をして待っていた。
「おはようございます」
「おはようございます。あら? イザベラさんとティコさんは?」
「二日酔いで倒れてます。暫くは起きてこれなさそうです」
「でしたら二日酔いに効く、野菜ジュースをご用意致しますね。
後でお部屋に持って行きますね? とても良く効くんですよ」
「おおっ、そりゃ助かります。ライラさん、よろしくお願いします」
「はいっ。お任せあれ」
カーソン達は朝食を終えると、イザベラとティコをライラに任せ、酒場へと向かった。
酒場へ着くと、死神席に座るなりローラとソニアは手を挙げ、店員に酒を注文する。
「私は7で下さいな」
「私も7で頼む」
「ええっ!? 2人とも朝から酒ですかっ!?」
「ええ。喉が乾きましたので」
「水みたいなもんだ」
「えぇぇ……本当にザルだわ、この2人」
「俺はジュース。お前は?」
「あたしもジュース。つまみは……とりあえず要らない?」
「そうだな」
4人は飲み物を飲みながら、持ってきたダンジョンマップで地下1階の移動ルートを確認しあう。
その後酒場に居た他の冒険者パーティと雑談し、昼まで時間を潰すと宿へ帰った。
宿屋の前には今日も行列が出来ていて、昼食を待つ客で賑わっている。
帰ってきたカーソン達に、セランは席へと案内をし始めた。
「あっ、お帰りなさい。お席、とってました」
「ただいまセラン。おっ? 俺達の席あるのか?」
「イザベラさんとティコ姉ちゃんが、座ってお待ちしてます」
セランに案内された席には、イザベラとティコが手を振って待っていた。
顔色の良さそうな2人へ、クリスは椅子に腰かけながら聞く。
「イザベラさんもティコも、二日酔い治ったの?」
「ライラの野菜ジュース飲んだらスグによ。もう大丈夫」
「はい。頭痛いの治りました」
「それは良かったですわ。では、お昼を頂きましょうか?」
カーソンはイザベラに耳打ちする。
(イザベラさん。ローラさん朝からまた酒飲んでましたよ?)
(あの子、そんなにお酒強いとは知らなかったわ……)
(ずっと一緒に生活していたのに、初めて知ったんですか?)
(谷じゃお酒なんて滅多に飲まないし、ましてや昨日のようにはね)
(ああ、そっか。女王ですもんね)
(しこたま飲んだのは、昨日が初めてよ)
(双子なのに、酒の飲める量って違ったんですね?)
(私も差異があるだなんて、全く思ってなかったわ)
イザベラも、双子なのに酒の処理能力が違った事への驚きを隠せなかった。
昼食を終えると、カーソン達は部屋に戻った。
部屋のテーブルの上には開いたままの罠解除本と、使用した形跡が見られるピッキングツールが置かれている。
カーソンとクリスは、イザベラへ何をしていたのかと聞く。
「あれっ? これ、何かしてたんですか?」
「ああ、これね。ティコが宝箱の罠解除を練習していたのよ」
「ティコが……練習を?」
「はい。イザベラ様に魔法で疑似の宝箱と罠を作って頂きまして。
本を見ながら、罠を作動させずに解除の練習をしていたんです」
「へーっ、ティコすごーい!」
「この子、なかなか手先が器用なのよ。図面の読み方も理解し始めてね。
罠の種類さえ特定出来れば、かなりの確率で解除に成功しているわよ?」
「そりゃすごい! ちょっと見てみたいな解除するとこ」
「ちょっと待ってね。魔力で罠付きの宝箱、作り出すわね」
イザベラは本を手に取り、ペラペラとページをめくりながら読む。
そしておもむろに右手をテーブルにかざし、魔力で宝箱を出現させた。
本を閉じ、ティコへ手渡すイザベラへカーソンとクリスは聞く。
「おおっ! ダンジョンの宝箱ってこんな感じなんですね?」
「まだ現物は見ていないけどね? 本を読むとこうらしいわ」
「箱があって……不用意に開けば罠が作動……かぁ」
「解除には手順があってね、順番通りにやれば外せるみたいよ?」
「へぇ……どれ、ティコ? これ解除してみてくれ」
「はいっ。見ていて下さい……えっと、どこ……かな?」
「はぁー……なるほど。ちょっとだけ開けて何の罠か調べるんだ?」
「開けすぎるとスグに作動しちゃうんで、慎重に中身を確認します」
「中身って?」
「罠の種類です。15種類の罠があるようです」
「そ、そんなに……あるの?」
「ちょっと……見てみますか?」
「どれどれ?」
「ふむふむ……?」
カーソンとクリスは、ティコが少し開けた箱の隙間から内部を観察する。
「細い線が……沢山あるな?」
「この線全部が罠なの?」
「いえ、偽物の線も沢山あります」
「偽物の線?」
「はい。切っても作動しない、邪魔な線です」
「本物の線って、どれくらいあるの?」
「少なくて1本。多いと10本以上あるんだそうです」
「間違ってその10本のうち、どれか1本でも切っちゃうと作動すんのか?」
「はい。作動した罠によっては死んじゃいます」
「………………」
「まずは罠の本体がどこにあるのかを探します」
「ふ……ふむふむ?」
「蓋の裏……箱の隅……うーん……ないなぁ……」
「ないって事は……この箱には罠がないって事?」
「いえ、罠はあります。死角にきっと」
「罠の本体って……どんな形してるんだ?」
「同じ形状のが4つで、それぞれに3種類。これで12の罠。
3種はそれぞれ特殊な形をしていて……形としては7つです」
「すまん……聞いてごめん。もう、めんどくせえって分かった」
「…………だね。ごめんティコ、解除に集中してね?」
「はい、ありがとうございます」
自分達が質問ばかりして、ティコの集中を邪魔してはいけないと思ったカーソンとクリスは、テーブルから少し離れ解除の行方を見守った。
ティコはピッキングツールを取り、道具のひとつで箱の開閉状態を保持する。
続いて左手に先端で角度を自由に曲げられる小さな鏡を、先端が任意で光る棒を右手に取る。
保持している隙間の中へ2種類の道具を差し込み、罠の本体を見つける。
「…………ありました。手前側、ココの裏側に」
「………………」
これは自分達じゃ絶対に無理だと思ったカーソンとクリスは、ティコの作業へ感服し音を出さずに拍手を送った。
罠本体の形状を確認したティコは、本と照合を始める。
右手だけで本を調べていたテイコは、左手に持っていた道具を意識出来ず、知らぬ間に罠を作動させる線へと引っ掛けた。
疑似的に作られた罠はティコの気付かぬまま、音もたてずに作動を開始する。
「えーっと……これは多分ピットフォールかも……きゃっ!?
あっ……やっ……嫌っ……あっあっあっ……ああぁーっ!?」
テイコは『落とし穴』と呼ばれる罠にかかり、宝箱の中へと吸い込まれた。
そしてそのまま宝箱を突き抜け、テーブルの下へと転がった。
イザベラは両腕を組み、険しい表情でティコを叱る。
「駄目よティコ! その罠だけは、絶対に失敗しちゃ駄目!
もし本物だったら、床の中に埋め込まれて死んでるわよ!」
「ごっ、ごめんなさいイザベラ様っ!」
「そんな危ない罠もあるんですかっ!?」
「そう。15種類の罠殆どが本気で殺しにくるものばかりよ?
だから確実に罠の種類を見破って、確実に解除しないとね」
「いやちょっと……俺、おっかない」
罠が作動してしまうと、どうなってしまうのかを目の当たりにしたカーソンは、心底震え上がった。
ティコは顔をパンパンと叩き、気合いを入れ直してイザベラに話す。
「イザベラ様っ。続きをお願いします」
「よし。じゃあ、次はこれ」
「はい……えっと……ここだ……解除っ!」
「いい感じよ。次はこれ」
「はい……これ、引っかけだ……こっちが本物……解除っ!」
「次はこれ」
「はい……あれ? これ初めて見る……あっ、これの反転した罠だ」
「良く分かったわね、偉いわティコ。さぁ、どんどんいくわよ?」
「はいっ! お願いしますっ! おっと、その前に解除……っと!」
失敗しても悔やまずに、次の罠解除問題へと取り組むティコ。
カーソンはティコの真剣な横顔を見ながら、ドラツェンで出会った時とは比べ物にならないくらい逞しくなったなぁと微笑む。
この日、ティコの罠解除訓練は夕食後も風呂上り後も、寝る直前ギリギリまで続けられた。
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