翼の民

天秤座

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めぐり会い

197 絶体絶命

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 再生したヒドラの頭のひとつが、横たわっているクリスに頭からかぶりつく。

 鎌首を持ち上げ、クリスを垂直に立てるとそのまま飲み込もうとする。

 身動きひとつもしないクリスは、瞬く間に蛇の喉奥へと滑り込んでいった。


「クリス様ぁーっ! 駄目ぇぇーっ!」

 ティコは進路を妨害する蛇達を蹴り継いで上昇しながら、クリスを飲み込んでいる蛇へと肉迫する。

「この辺っ! やぁぁーっ!」

 クリスを飲み込んで膨らんでいる蛇の喉を、誤って中のクリスごと切断しないように気をつけながら、ティコはヒドラの本体から切断した。

 中にクリスを飲み込んだまま、落ちてゆく首。

 ティコは落ちた蛇の首に跨がると、必死の形相をしながら短刀で縦に斬り裂いた。

 中から白目を剥き、唇が紫色になり小刻みに痙攣してるクリスを救い出す。

「クリス様生きてっ! 死なないでっ! よいしょぉーっ!」

 ティコはクリスの体温を確認し、まだ冷たくなっていないと感じながら担ぎ上げた。

 
 ヒドラはその場からクリスを担いで離脱しようとしているティコを追う。

 イザベラに頭を爆破され続け、再生を繰り返しながら獲物を逃すまいと襲い続ける。


 ティコはクリスを担ぎ上げたまま、必死に逃げまどいカーソンへ合流しようとする。

 カーソンの姿を正面に捉え、足元への注意を怠ったティコはヒドラから切り離された蛇の死骸を踏んでしまう。

 自らの毒で溶解したヒドラの首、その強い酸性の毒溜まりに片足を踏み入れたティコ。

 
 2人分の体重で右足を深く沈めてしまったティコは、左足で踏ん張りその場に留まる。

「うぎぃぃっ!? はぎぃっ……いぎゃぁぁぁ!」

 ティコの右足はヒドラの毒で皮膚を溶かされ始めた。

 娼婦時代に足へ熱湯をかけられた痛みを思い出しながら、ティコは力を振り絞ってその先に見えるカーソンめがけ、クリスを投げつけた。

「カーソン様ぁーっ! クリス様をーっ!」
「ティコぉーっ!」
「大丈夫ですっ! クリス様より先には死にませんっ!」
「クリス助けたらすぐにお前も助けるっ! 待ってろ!」
「はいっ! 先にクリス様――」

 ブチッ

 追いついた蛇が、渾身の力を込めてティコを頭上から叩き潰した。



 カーソンの目の前で叫んでいたティコ。

 今そこにあるものは、ティコを下敷きにしたヒドラの頭。

 蛇が真っ赤な瞳で、舌をチロチロと出しながらカーソンを睨んでいた。
 


 投げ飛ばされてきた人形のようなクリスと、その先で蛇に圧し潰されたティコ。

 カーソンは目の前の光景を受け入れられず、その場へ膝から崩れ落ちた。 


 心の底から込みあがる怒りに、カーソンの身体は段々と黒くなってゆく。

 ゆっくりと立ち上がり、その黒く澄んだ瞳は燃えるような赤色へと変化し始める。

(殺す……殺す……殺してやる!
 やめろ! お前は出てくるな!
 許さん……殺す! あのクソ蛇ぶっ殺す!
 やめろ! 出るなっ! 引っ込め!
 俺にあいつ殺させろ!
 駄目だ! 先にクリスとティコを助けるんだ!
 うるさい! 俺を出せ! 俺に殺させろ!
 やめろ出てくるな! クリスとティコを助けるのが先――)

 ボンッ
 ボボンッ

 連続して爆発音が発生し、蛇は粉々に爆散する。

 爆ぜ散った蛇の下には、5つの黒い玉に覆われたティコがうつぶせに寝そべっていた。

「間に合ったハズよっ! 早く2人をっ!」
「…………はっ!? イザベラさんっ!」
「ローラっ! 守ってあげてっ!」
「はいっ! お姉様!」
「ソニアっ! 私の補佐を!」
「はっ!」

 イザベラの叫び声でカーソンは自我を取り戻し、怒りで暴走しようとするもうひとりの自分・・・・・・・・を封じ込めた。

 ローラはカーソンの隣へ立ち、防御の結界を張る。

 イザベラは以前カーソンティナがクリスを助ける為に島へと向かった際に護衛させた、闇の下級精霊魔法護りの闇玉を5つティコへ纏わらせ、蛇の叩きつけから直撃を守っていた。

 ヒドラの注意を逸らす為、攻撃に集中するイザベラの護衛にソニアは就いた。



 結界を展開させながら、ローラはカーソンへ叫ぶ。

「結界が届きませんっ! ティコを連れてきなさいっ!」
「はっ、はいっ! ティコーっ!」
「連れ戻したら直ちにクリスをっ!」
「はいっ! ティコっ! ぬぉりゃぁっ!」

 カーソンは毒溜まりの中へと埋まったティコを力任せに抜き出す。

 蛇が救助しているカーソンを狙って吐いた毒液は、イザベラの放った闇玉が5つ密集し阻止していた。



 ティコを担いだままローラの結界内へと戻ってきたカーソンは、ティコをクリスの横へと寝かす。

 水袋の栓を抜き、クリスを抱き起すとそのまま口の中へと水袋を押し込んだ。

 痙攣を続けるクリスは水を受け付けず、肺に溜まった血と共に水を吐き戻す。

「クリスっ! 飲めっ! 飲んでくれっ!」
「……………………けぽっ……」

 クリスは血混じりの水を口から吐き出し、痙攣が止まる。

 土気色していた顔は段々と青白くなり、瞳の瞳孔が開き始める。

 自主的呼吸は、既に止まっていた。

「クリスっ! 死ぬなっ! んぐっ……んぶぅ……っ」

 カーソンは水を口に含み、クリスに口移しで水を送り込んだ。


 ヒーリングの効果がクリスにかかり、青白かった顔色に赤みが戻ってきた。

 半分開きかかっていた瞳孔がすぼみ、意識を取り戻すクリス。

「がっ! げふっ! ごふっ! …………あ。カー……ソン?」
「げふっ、げふっ……ごほっ! 大丈夫かクリス!」
「あたし……助かった?」
「んぐっ…………ぶっ! 少しじっとしてろ! 次はティコだ!」
「えっ? ティコも……うっ!? とっ、溶けてる……」

 クリスは血を吐き出しながら咳き込み、意識を取り戻す。

 口移しで水を送り込んでいたカーソンは、逆流してきたクリスの吐血をその口で受け止めていた。

 カーソンはクリスの血を吐き出し、水を口に含み軽くゆすぐとティコの治療を始める。

 身に着けていた防具からは、ブスブスと煙が出ている。
 
 ティコの全身はヒドラの溶解毒により、皮膚が溶け始めていた。



 カーソンはティコの全身に水をかけ、回復と解毒を施す。

 治癒の確認後、抱き起こすとティコの顔を叩いた。

「ティコ! 起きろっ! ティコっ!」
「…………」

 イザベラの精霊魔法で即死は免れたものの、ティコは地面に叩き付けられた衝撃で失神していた。

 カーソンは再び自分の口に水を含み、ティコへと口移しする。

「ティコっ! んぐっ……んぶぅ……っ」
「……ごくっ…………」
「ティコっ! 死ぬなっ!」
「うっ……カーソン……様?」
「良かったティコ! 気がついたか!?」
「クリス……様……は……?」
「大丈夫だっ! 生きてる!」
「……ああっ……良かった……ですぅ……」
「お前のおかげでクリスも助かった! ありがとうっ!」
「助けられて……良かったです」

 ティコも徐々に意識を取り戻し、横に居るクリスへ微笑んだ。


 ローラはヒドラの攻撃を結界で防ぎ続けながら話す。

「カーソン! わたくしが防いでる間に……2人を後方へ!」
「ローラさんっ! クリス、ティコ! 動けるか!? 一旦離れるぞ!」
「うっ……大丈夫、動ける」
「わたしも大丈夫です!」
「動けるなら先に行ってくれ! 俺はローラさんを手伝う!」
「分かった!」
「はいっ!」

 起き上がったクリスとティコは、一足先に結界から後方のイザベラとソニアが居る場所へと駆け出した。



 ローラと共に、どうにかしてこの場を離脱しようと機会を窺っていたカーソン。

 イザベラの絶え間ない爆破魔法で怯んだヒドラ。

 この瞬間を見逃さなかったカーソンは、強引にローラを抱き抱えて後方へと駆け出した。

「ローラさんっ! 逃げます!」
「きゃぁっ!?」
「突然抱き上げちゃってすみませんっ!」
「あっ、いえ……構いません…………わ」

 ローラは突然カーソンに抱き抱えられ戸惑う。

 カーソンはローラを両手で大事そうに抱き抱え、文字通り姫君を丁重に運ぶ姿でイザベラ達の元へと走る。

 自分を抱えて走るカーソンの凛々しい顔を斜め下からじっと見上げ、その両手をカーソンの首へ絡みつかせると、そっと目を瞑りしがみつく。

 父親以外の男に生まれて初めて身体を抱かれたローラは、カーソンが無意識に放った恋の魔法の直撃を受けてしまっていた。



 カーソン達はイザベラの元へと集まり、体勢を整え直した。

「危なかった……死にかけたわ」
「わたしもです……」
「2人ともすまん。私が行っても3人目となるだけだった」
「全員無事で何よりですわ。一度戦略を整え直しましょう」
「あんな外見だけど、知能が高いわね。もう同じ手は通用しないわ」
「どうしましょうイザベラさん。一度撤退しますか?」
「そうねえ……私のとっておき・・・・・、通用しなかったら逃げましょう」
「とっておき?」
「みんな離れててね。巻き添え受けないようにね?」

 イザベラはカーソン達を遠くに離すと、杖を天高く掲げた。

「我が名はイザベラ=ローズヴェルク。
 我と契約せし強大な火の龍よ、我に力を授け給え!
 我に敵なす輩へ裁きの業火を! いでよ! 火龍っ!」


 イザベラが叫ぶと、ヒドラの目の前に巨大な炎の火柱が立ち、天へと伸びてゆく。

 カーソン達は呆然と炎の行方を追っていたが、何者かの咆哮ではっと我に返った。

 火柱が立った場所には、ヒドラよりも更に大きな深紅の龍が居た。

「り、龍っ!?」
「私のとっておき、火の最上級精霊よ。さあ、焼き尽くして!」
「……承知した、我が主よ」
「り、龍が喋った!?」

 驚くカーソン達を横目に、火龍はヒドラに灼熱のブレスを吹いた。

 ヒドラは悲鳴を上げながら全身を焼かれる。

 ヒドラの体内の水分は水蒸気と化し、その身体はみるみると縮んでいった。

 火龍の放つ灼熱のブレスでヒドラは炭化し、胴体からはブスブスと煙が立ち込める。



 目の前の光景に茫然とするカーソンの頭の中で、火の下級精霊サラマンダーが歓声を上げる。

(さっすがオヤビンっ! かっこいいっ! どうだお前らすげーだろ!)
(べっ、別にサラマンダーには関係ないでしょっ!)
(ひっ、火の最上級なんかより水の最上級さまのほうが強いもん!)
(ワシ、素直に凄いと思う)
(すげっすよねっ! ご主人さまっ! ねっ? ねっ?)

「あ、ああ……凄い」

(いやっほぉーっ! 火属性さいこおーっ!)
(調子に乗んなアホトカゲ)
(お前の力じゃないもん!)
(ワシ、控えめに言って羨ましい)
(だろ? だろ? ディザード!)
(ワシもあれくらい、強くなりたい)
(……お、おう……そうだな……)
(あっ、アホトカゲ恥ずかしくなった)
(自分の力じゃないもんねぇ)
(う、うるせえよ! それとアホトカゲ言うな!)
(じゃあ弱火)
(おいこらディザード!)
(弱火いいね!)
(やーい! 弱火弱火ぃー!)
(覚えてろお前ら! オイラ強火に絶対なってやる!)

 カーソンの下級精霊達は、いつも通りの口喧嘩をしていた。


 火龍のブレスで完全に沈黙したヒドラ。

 イザベラは火龍にブレスを止めさせるとカーソン達へ叫ぶ。

「今よ! 再生が始まる前に心臓をえぐり出して!」
「はいっ!」

 カーソン達はヒドラの元へ駆け出した。

 ソニアとティコはヒドラの胴体を切り裂き、クリスはその切り裂かれた部分へ両腕を突っ込み、心臓を引きずり出して地面へ放り投げる。

 3人から水袋を預かっていたカーソンはそれぞれに水をかけ、解毒を施す。


 ヒドラの心臓は抜き取られても暫く動き続け、やがてその鼓動を止める。

 心臓が止まったとほぼ同時に、ヒドラの身体は崩壊しながら崩れ落ちた。



 イザベラは火龍を戻すと、崩壊したヒドラの死骸に語りかける。

「どう? 私のとっておき、凄かったでしょ?」
「お見事ですわ、お姉様。オドは大丈夫ですか?」
「かなり減らしたけど、まだ大丈夫よ」
「それは何よりですわ」
「ところで……惚れちゃった?」
「えっ? な、何の事でしょうか?」
「とぼけたって駄目よ? 私達、双子だもの」
「……はい。恥ずかしながら」
「うん、私も惚れた」
「言葉や態度だけでなく……あそこまで勇敢だとは……」
「素敵な男の子よねぇ……」
「ええ。次の守り手は是非とも……カーソンと……」
「私も……いい?」
「それはわたくしに決める権利など……あっ」
「持ってるのよね……私達」
「お姉様……谷の掟・・・を行使してはいけません」
「それは分かってるわ。使ったらクリスが可哀想だもの」
「カーソンも……可哀想ですわ」
「でも……ね?」
「……ええ。この気持ちはもう消えてしまわないかと」
「うん。あの掟は本当に最後の手段よ」
「はい。わたくし達に振り向いて下さるよう、頑張りましょう」
「うん」

 心臓の回収をソニア達へ任せ、何かを言いにひとり戻ってくるカーソンへ、イザベラとローラは顔を赤らめた。

 先に戻ってきたカーソンは、ヒドラを一瞬で丸焼きにしたイザベラの精霊魔法に驚きながら話す。
  
「イザベラさんのとっておき、凄いですね!」 
「でしょ? ユアミの火吹き岩の所で契約したの」 
「えっ!? あそこに居たんですか!? あの火龍って!」
「そうよ。私が先に契約しちゃったから、それ以降は私と共にね。
 あなた達が寄った時にはもう、サラマンダーしか居なかったけどね」 
「もしかして……ローラさんも最上級の精霊を?」
「ええ。水と光はわたくしが契約しておりますわ」
「イザベラさんも、他にあるんですか?」
「もちろん。オドを沢山使うからそう簡単に呼べないけどね」 
「お、お2人とも……こえー……」
「あらやだ、怖くないわよ?」
「優しい淑女ですわよ? わたくし達」

 カーソンは、イザベラとローラの底知れぬ力に恐怖を覚えた。 


 ヒドラの心臓を布袋に詰め、戻ってきたクリス達へイザベラとローラは話しかける。

「でも良かったわ。クリスもティコも無事に回復して」
「どうでしたか? 素敵な王子様のキスは?」 
「えっ!? きっ、キス……ですか?」
「あら、どうやって助かったのか気付かなかったの?」
「クリスもティコも、カーソンのキスで回復したのですよ?」
「ウンディーネの水を、口移しで飲ませて貰ったのよ?」
「クリスは吐いた血まで、口で受け止めて頂いたのですよ?」
「えっ……ええええっ!?」
「カーソン様が、わたしにキスを……」

 助けられた経緯を知り、クリスとティコは顔を赤くした。

 カーソンは2人へ謝る。

「無理矢理口に流し込んで飲ませた、ごめん。
 でも、2人ともそれだけ危なかったんだぞ?」
「あ、あたしは別に構わないよ。命を助けて貰ったんだし!」 
「わたしもカーソン様のキスなら、いつでもお待ちしています。
 いえっ! もう、わたしのほうから是非キスをさせて下さいっ!」
「何でそうなるのよ! それよりヒドラの討伐、報告に行くよ!」 
「そうだな。でもその前に……ちょっと待っててくれ」
「ん? うん」

 カーソンはひとり、ヒドラの死骸へと歩きだした。

  
 手をかざし、ヒドラの死骸で毒溜りと化した場所へヒーリングをかけ、毒を浄化させる。

 カーソンの行動にローラも気付き、いそいそと駆けつけてヒーリングの手伝いを始める。



 毒の浄化を終えたカーソンとローラは、沼の水へヒーリングをかけ始めた。

 深い緑色をしていた沼の水はヒーリングによって輝き、澄んだ透明色へと変化してゆく。

 イザベラ達が沼の浄化を見に近寄ると、対岸にも鹿や猿を始めとする動物達が姿を出し始めた。

 沼の支配者が駆除されたと知った動物達は水面へと近寄り、水の匂いを嗅ぐ。

 飲めるようになったと思った動物達は、こぞって沼の水を飲み始めた。



 対岸で水を飲み続ける動物達を見ながら、クリスはカーソンへ話しかける。

「そっか。ここの水を飲めるようにしてあげたんだね?」
「水が飲めなくて辛い、苦しいって声が聞こえたからな」
「へえ、あんたあの子達の声に応えてくれたんだ?」
「うん。あいつら今な、ありがとうって言ってくれてる」
「そっか。動物達まで助けてあげるって、あんたらしいわ」
「……あ。お前剣と盾、どこで落とした?」
「え? あっ!? いい! 自分で探すから!」
「えっと……確か……あの辺か?」
「いやホントいいから! 探さないで!」

 カーソンはクリスの落とした剣と盾を探し始める。

 剣に入っているヒビを知られたくないクリスは、慌ててカーソンの後を追いかけた。



 何としてもカーソンに見つかる前に剣を回収しなければと焦るクリス。

 しかし、非情にもカーソンが先に剣を見つけてしまう。

「おっ! あったぞクリス! ここにある」
「げっ!? ありがとう! あたし取りに行くからそこ離れて!」
「いや、そっちに持ってくよ」
「いいってばっ! あたしが拾うからっ!」
「よっ……と」
「おおっとぉーっ! 足がすべったぁーっ!」
「おわっ!? とっとっとっ……あっ……あっ……あーっ」

 ドボォン


 落ちていたクリスの剣を拾いあげようと、前屈みになったカーソン。

 そこへ後ろから全力で走ってきたクリスがカーソンのお尻を蹴って押し出す。

 前屈みになっていたカーソンはバランスを崩し、前へ前へとつんのめってゆく。

 沼のふちギリギリで持ちこたえていたカーソンは、押された勢いを殺しきれずに沼の中へと、ドボンと落ちた。



 一心不乱に水を飲んでいた動物達は顔を上げ、沼へ落ちたカーソンをキョトンとした表情で見つめていた。

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