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剣士達の帰還
143 恋心
しおりを挟むカーソンとクリスは料理をつまみながら、ダンヒルに聞く。
「ところで村長。ゲストールが最後に言った事、覚えてますか?」
「ああ、ゴルドがどうとか言ってましたね」
「この村、前から嫌がらせ受けてたんですか? ゴルドに」
「まぁ、無かったと言えば……ウソになりますね」
「例えば、どんな嫌がらせを受けたんだ?」
「突然買い付けにやって来て、無理矢理安値で買い叩いて持って行ったり、作物が腐っていたと文句を言って返金を要求されたり……」
「そりゃ酷いな」
「その値段では売れないと言うと、他のをおまけしたら言い値で買うと言われてました」
「おまけって……何様のつもりよ」
「そのおまけってのが酷かったんです。結構な値段になる量を、ごっそりと持って行かれました」
「ほとんど泥棒じゃないかそれ!?」
「あまりに横暴過ぎて。流石に売買契約を取り交わし、契約書の無い商人とは取引をお断りしました」
クリスは顔をしかめながら話す。
「町長の顔思い出したら、ムカっ腹立ってきたわ」
「盗賊団がやって来てからは、横暴さが無くなったんですけどね」
「ゲストールが、ゴルドの差し金だったんですかね?」
「そう考えれば、色々と納得出来るんですよ」
「今度ゴルドの奴等来て悪さするようだったら、こいつがまた町を焼き払いに行くぞって脅してやって下さい!」
「おいおい!? 俺はもう二度とあの町行きたくないぞ!」
「あたしだって行きたくないわよ」
「まあまあ。不利益を被るのであれば、商談そのものをお断りすればいいだけですから」
「確かに、そうですよね」
「でも、どうしても我慢出来なくなったら、カーソン君の事を話しますよ」
「勘弁してよ村長っ!?」
「ははは。ところで2人共、どこまで旅して戻って来たんてすか?」
「ここから遥か東の、ヒノモトっていう国までです」
「そりゃまあ……随分遠くまで行きましたね?」
「あ、いけない。また忘れるとこだった」
クリスは何かを思い出し、自分の荷物からお土産をダンヒルへ手渡す。
「ダンヒルさん。これ、ヒノモトのお土産っ」
「ほう、これはこれは……木で彫られたクマですか?」
「そそ。これを店に飾るとね、商売繁盛するそうですよ」
「これはこれは、ありがとうございます。この宿に飾りましょう」
「ねえダンヒルさん? 宿屋って儲かるの?」
「ええ。マーシャの手料理が人気でね、常連さんも居ました」
「マーシャの料理、美味しいもんな」
「それとね、オストからダルカンまでの移動がゴルドよりも便利なんです。ゴルドからダルカンへは山越えしないといけませんが、カリスからだと道は平坦ですからね」
「そうなのか。そりゃゴルドも嫌がらせしてくるよなぁ……」
「ええ。あ、そうそう。あとね、冒険者ギルドも来る予定だったんです。ゲストールが来る前の話ですけどね」
「本当に!? それじゃあ来た時の為にクマもう1個置いてきますね!」
「ははは。ありがとうございます」
3人の席にマーシャが料理を持って割り込んできた。
「お父さん、お話終わったー?」
「ああ、それじゃあ交代だ。私は用事を済ませてくるよ」
「やったあ! お兄ちゃん、また新しい料理作って来たの。食べてみて!」
「おほー! うまそう!」
「ウサギは使ってないよ! 沢山食べてねっ!」
「マーシャの手料理が人気で、常連さん居たんだって? 凄いじゃない!」
「えへへー。1年間お休みしてたけど、今晩からまた営業するね!」
「あいつら、ずっとここで寝泊まりしてたんだって?」
「うん、そうだったみたい。わたしはすぐ逃げたけど」
「部屋とか厨房とか、荒らされてなかったか?」
「うん、大丈夫。ずっと掃除してたみたいで、綺麗なままだったよ」
「あいつら、確か30人以上居たハズよね?」
「ダンヒルさんひとりで掃除してたのか?」
「ううん、村のみんなも手伝ってくれてたみたい」
「そっか。大変だったね、ホントに」
「ところで俺達、今日泊まってもいいかな?」
「何言ってんのよお兄ちゃん! 当たり前でしょ!」
「良かった。いつお願いしようか、悩んでたよ」
「お父さんが多分今、お部屋準備してくれてると思うよ?」
「えっ、そりゃまずい!」
「あたし達でやるからって呼び戻さなきゃ!」
「いいのっ! お兄ちゃんとお姉ちゃんは今日の主役なんだからっ!」
カーソンとクリスの歓迎会は、深夜まで続けられた。
カーソンとクリスはそのまま宿屋の2階に泊まり、村人達よりも先に休む。
階下の楽しそうな村人達の騒ぎ声や後片付けの音を聞きながら、眠りについた。
翌朝、2人は目覚めると2階の部屋より1階に降りてくる。
マーシャは朝食を作っている最中で、2人を見かけると元気な声で挨拶した。
「あっ! お兄ちゃん、お姉ちゃんおはよー! 今、朝食作っているんで待っててね」
「おはようマーシャ、わぁ、いい匂い」
「おーっ! 楽しみだな」
食事テーブルを拭いていたダンヒルが、2人へ話す。
「おはようございます。あの娘、ロクに眠らず朝食の仕込みをしていたんですよ。よっぽどお2人に食べて貰いたいんでしょう」
「特に、カーソンお兄ちゃんにだろうね?」
「マーシャの料理、何でも旨かったもんな。楽しみでござるよ」
「ござる?」
「そうなんですよダンヒルさん。コイツってばヒノモトに行って、周りがござるござるって話すから、自分も口癖になっちゃっちゃんですよ」
「お前のちゃ、だって口癖じゃないか」
マーシャが両手に料理の大皿を持って調理場から現れる。
「なあにー? みんなで楽しそうに話して。お待たせ! ゴハンでーす!」
「おおっ!? うまそう! マーシャ、ありがとな!」
「マーシャ……朝から肉料理多いわね?」
「昨日の夜、お兄ちゃんが肉料理好きだって勉強したもんね。へへー」
「肉料理大好きだよ俺。いただきまーす!」
「いっぱい食べてねっ! お兄ちゃんっ!」
2人は朝からマーシャの手料理を楽しんだ。
食事を終えると2人は宿の1室、ゲストールが使用していた部屋を物色する。
机の引き出しから手紙の束を見つけたクリスは、カーソンに話す。
「……あった。ほら見てよ、この手紙。やっぱりゴルドからの差し金だったんだよ」
「どれどれ…………うわ、これは……酷いな」
「その都度、かなり細かく指示されてたのね」
「なあ? これもギルドに持ってくか?」
「そうだね。これはちょっと……許せないわ」
「みんなの耳切られた原因がこれは……酷すぎるな」
2人はゴルドからゲストールに宛てた手紙の内容に、公にすべきだと判断した。
朝食の後片付けを終えたマーシャが2人を探し、部屋へと入ってくる。
「あ、いたいた。お兄ちゃん達、何やってるの?」
「ゲストールがゴルドと関わってた証拠、探してたんだ」
「やっぱりあいつ、ゴルドから指示受けてこの村荒らしてたのよ」
「えっ!? 何それ本当なの?」
「ほら、この手紙。噴水壊せとか、お風呂の仕組み調べろとか命令されてる」
「作物はほら、ゴルドの商人が来たらタダで渡せって書いてるぞ」
「村に居るゴミ共は徹底的に痛めつけろ……とか」
「調査に来る国の役人には、大金握らせて黙らせろってよ」
「…………酷い。これみんな……ゴルドの仕業だったの?」
2人から渡された手紙を読み、マーシャは怒りを募らせた。
クリスはゲストールの頭が入った袋を持ち上げながら話す。
「証拠の手紙さ、この首と一緒に今からギルドへ持ってくから」
「あ、クリス。持ってく前に、ダンヒル村長にも見せたほういいぞ?」
「おっと、そうだね。全部は持ってかないで、いくつか置いてく」
「ねぇ……2人ともまた……居なくなるの?」
「ううん、今度はちゃんと帰って来るわよ?」
「壊された南側の施設、ちゃんと直さなきゃないしな?」
「でも……これからダルカンまで、2人で行っちゃうんだよね? 本当にまた帰って来てくれる?」
マーシャは2人が村から出て行く事に、不安を吐露する。
クリスは腰に手をあて、困った顔でため息をつきながらマーシャに話した。
「そんなに心配なら、あたしひとりで行って、こいつ人質に置いて行くわよ?」
「お、おいクリス!? 俺、人質かよ?」
「あたし帰って来るまでに、少しずつでも直しといてよ」
「あ、ああ。それはいいけど……」
「ねぇマーシャ? こいつの面倒、見ててくれる?」
マーシャは口元に人差し指をあて、考え込む。
やがて、にっこりと微笑みながら話す。
「うーん……いいよ。お姉ちゃんが帰って来るまで、お兄ちゃんはわたしが預かっておくね?」
「お、おいマーシャ……クリス、ひとりで大丈夫か?」
「大丈夫よ。あたしが帰って来るまでマーシャのご機嫌取り、よろしくね?」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だってば。それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃいお姉ちゃん! ゆっくりでいいからね!」
「クリス……」
不安な表情をするカーソンの肩をぽんと叩き、クリスは宿を出た。
クリスはゲストールの頭と黒幕の手紙を荷物と一緒に馬へ積み、ダルカンへと向かった。
カーソンはマーシャに連れられ、村の状況を見て回る。
通りすがる村人達と挨拶を交わし、事情を聞くと一番の被害は南側の施設だと確認する。
マーシャはカーソンの隣を歩きながら、カーソンに聞く。
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはお姉ちゃんの事……どう思ってるの?」
「ん? クリスの事?」
「……うん」
「そうだなあ。あいつ以外に、俺の背中を預けられる奴は居ないかな?」
「背中?」
「あいつが一緒に居てくれたら、俺は背中から斬られる心配はしなくていいって事だよ」
「お姉ちゃんを……信用してるんだね?」
「そうだな。信用してるし、あいつも俺を信用してくれてると思う」
「ふぅーん……嫌なところとか、無いの?」
「特に無いな。いつも俺を心配してくれてる」
「えー、そう? お兄ちゃん、いつもお姉ちゃんに怒られてない?」
「あれは怒ってるんじゃないよ。注意してるんだよ」
「どうみても怒ってるように見えるよ?」
「あれは怒ってるうちに入らないぞ? あいつが怒ればな、もっと恐いぞ? ははは!」
「……そうなんだ?」
マーシャはカーソンからクリスの評価を聞き、嫉妬した。
2人は村の南側へとやって来る。
水の止められた噴水の縁に座り、一休みしながらマーシャは話す。
「お兄ちゃん達のおかげで村に平和が戻ったわ。ありがとう」
「俺達もっと早く帰って来れば良かった。1年近く、皆に苦労かけさせてごめんな?」
「ううん、いいの。こうして平和になったんだもん」
「さて、すぐに噴水出したいとこもあるけど、先にお風呂とトイレ直してからにしなきゃな」
「うん、そうだね」
「これから暫くは、忙しくなりそうだな?」
「お兄ちゃん……あの……さ……」
「ん? どうしたそんなにモジモジして? おしっこか?」
「ちっ、違うよもうっ!」
「うんちか?」
「違うってばっ!」
マーシャは身体をくねらせ、モジモジしながらカーソンに聞く。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「ん?」
「……お兄ちゃんは、わたしの事……好き?」
「ああ。好きだよ」
「本当!? わたしもお兄ちゃんの事、大好きっ!」
「うわっ!?」
「お兄ちゃん、大好きっ!」
マーシャはカーソンに抱きついた後、腕を組む。
カーソンの肩に寄りかかりながら、マーシャは更に聞く。
「ふっふーん。やった! 好きって言われちゃった!」
「何だ、俺に好きかどうか聞きたくてモジモジしてたのか?」
「だってこんな事、聞きにくいんだもん!」
「ははは。マーシャは可愛いな」
「…………ねえ? クリスお姉ちゃんとわたし、どっちが好き?」
「クリスも好きだよ」
「もうっ。お姉ちゃんとわたしと……どっちが……好き?」
「うーん……長い事一緒に戦ってきたし、クリスかな?」
「…………そっか……そうだよね? やっぱり……敵わなかったかぁ、あはは!」
「ん? どうしたマーシャ? 俺、何か変な事言ったか?」
「ううん。なんでもないよ!」
マーシャはカーソンの腕から離れ、慌てたフリをしながら話す。
「あっ、いっけない! そろそろお昼ゴハンの仕込みしなくっちゃ! お兄ちゃん、お昼ゴハンも楽しみに待っててね!」
「おっ? もうお昼近くなったのか、早いな」
「わたし、先に戻るね」
「ああ。俺はもう少し、この辺見て回るよ」
「はーい、それじゃ!」
マーシャは宿屋に向かい、ひとりで駆け出して行った。
途中で後ろを振り向き、カーソンが見えない事を確認すると、近くの木の影に隠れた。
木に両手をつき、俯いたマーシャの瞳からは大粒の涙がぼろぼろと溢れる。
「…………しっかりしろ……しっかりしなさいよ、マーシャ!
ぐすっ……聞かなくても……分かりきってた事……じゃない……うぐっ。
初めっから……ぇっ……ぇっ……お姉ちゃんには勝てない……って……ひっく。
……分かってたじゃない…………ぅぇぇ……ん……ひぃぃ……ん……」
マーシャは木の影で崩れるようにしゃがみ込み、声を圧し殺して泣いた。
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