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犯した過ち
131 仇討ち
しおりを挟む両手をぶんぶんと振りながら、ヘレナはクリスに聞く。
クリスはカーソンの股間をちらっと見て引っ込んだ事を確認し、オドを分けて命の危険から遠ざかったと安心しながらヘレナに答えた。
「あー、まだ痺れてる。痛かったぁ……」
「自業自得よ、この阿呆め」
「だってぇ……見てみたかったんだもん。臨戦状態のちんぽこ……」
「駄目よ。あのおちんちんはあたしだけのものなんだから」
「そんなのずるいよ。うん、ずるい」
「何でよ? カーソンはあたしのなんだから、ずるくも何とも無いでしょ」
「クリスはそう思ってるんだろうけどさぁ、肝心のカーソンはどう思ってるかなんて、分かんないよ?」
「カーソンもあたしの事、大好きって言ってるもん! 相思相愛だもん!」
「それはお母さんやお姉ちゃんだと思って、大好きって言ってるかもよ?」
「違うもん! 愛してくれてるもん!」
「……ねえクリス? あなたまさか……いや、そんなハズないよね?」
「何よ?」
「いや、その……何ていうか……あなたから処女の匂いがする」
「うぇっ!? なっ、何でよっ!?」
「だって、好きな男取られたくないっていう表現の仕方が……若い女通り越してさ、まるで幼い女の子みたいな言い訳なんだもん」
「しょ、処女じゃないもん! カーソンにっ……あ、あげたもん!」
「ほらそれ。まだ男の事知らない女の子が、幻想描いて喋ってるみたいよ?」
「し……知ってる……もん。カーソンの色んな事、知ってるもん!」
「……ねえクリス? 今、自分がおかしな事言ってるって自覚ある?」
「おかしくないもん!」
「何で最後に『もん』って付けるの? 今までと全然喋り方が違うよ? それが女の子っぽいって言ってるのに」
「!?」
「まあ、うちの勘もカーソンから童貞臭感じるくらいボケてはいるけどさ、クリスまでそんな初心なフリしないでよ。混乱しちゃうから」
「……うん。ごめん」
「おかげですっかり性欲、ぶっ飛ばされちゃったよ。そんな必死に守られちゃったら、もう何も出来ないよ」
「じゃあもう……カーソン襲わない?」
「今は襲わないよ。だからさ、元のクリスに戻ってよ」
「……分かった」
クリスが好きな男の事を必死に守ろうとする、いたいけな少女の演技をしたと思い込んだヘレナは、毒気を完全に抜かれてしまい素直に引き下がった。
クリスは演技など全くしておらず、素で懸命になってカーソンの貞操を自分から守っていたとは、微塵も思わずに。
ヘレナは両腰に手をあてがいながら、ため息をついてクリスに話す。
「はぁーあ……まさかクリスがこんな手ぇ使って、うちの欲望鎮めてくれるとは思わなかったよ」
「…………」
「盗賊共を心底震え上がらせている、あのカーソンとクリスがさ……まさか童貞と処女かも知れないなんて……笑い話にもなんないわ」
「童貞と処女じゃ、何かおかしいの?」
「お互い背中預けあう程信頼し合ってる仲なのにさ、双方一線が超えられずに身体には手ぇ出してないとか……想像しただけでもおかしくない?」
「そう……かな?」
「そうよ? もっとこうさ、『あー今日も戦ったなー、メシ食って1発したら風呂入って寝るかー?』とかさ、『そうねー、気持ち高ぶってるからうんと激しくしてねー?』とかさ、『もう子供作って引退しようかー?』とかさ、『いやぁーんっ。子供だなんてぇ、いったい何人欲しいのよぉー?』みたいな……」
「それ……あんたの妄想?」
「あ、いやいや…………うん。そういうのに憧れて冒険者になったところは……ある」
「あんた、そういう人生に憧れてたんだ?」
「うん。どうせ男と一緒になるんならさ、共に生死を分かち合った相方がいいなぁって。お互いさ、今コイツ何考えてるのかってのが分かり合えるような関係になりたかったの」
「今からでも遅くないでしょ。探せば見つかるよ」
「……うち、もう……傷物だから……」
「あ……」
「うちが盗賊の慰み者にされてたって知った男はさ……もう誰も近寄ってなんか来ないよ」
「大丈夫だよ。いつかきっと……目の前に現れるよ」
「カーソンがその人だと思ったんだけどなぁ……あなたからいくら脅されても、諦める気なんて全然無かったんだけどね……流石にあんな攻め方されたら辛いわ」
「……そんなに効いた?」
「うん。恋する乙女が必死になって、彼氏守ろうとするなんてさ……すっごく惨めな気持ちになっちゃった。うち、恋仲引き裂く無慈悲な悪魔かよ……って」
「……そっか。じゃあ、またあんたが迫ってきたら、同じ事しよっかな?」
「それやめてっ! うち今、ホント惨めな気分味わってるんだからっ!」
「……ふふっ」
「……あはっ」
「あはははは!」
クリスとヘレナは顔を見合わせ、先程まで繰り広げていたお互いの言動を思い出しながら笑い合う。
2人の間に、女同士の奇妙な友情が芽生えた瞬間であった。
バァンッ
突然玄関の扉が、何者かに蹴破られる音が寝室まで響いてきた。
笑い合っていたクリスとヘレナは音に驚き、寝室の扉を見ながら小声で話し合う。
「! 来たっ」
「けたたましく扉開けるなんて……多分シンで間違い無いよね?」
「カーソンに布団かけて。ライが寝てるって思わせよう」
「うちらはどうするの?」
「扉の両隣に張り付くよ。あいつが入って来たら、背後に回り込む」
「了解」
「カーソンには絶対近付けさせないでよ? 寝てて無防備なんだから」
「近付く前に足潰すから、大丈夫」
「良し、じゃあやるよ」
「ほいきた」
クリスとヘレナは眠り続けているカーソンに毛布、布団の順に被せる。
被せ終えると物音を立てずにそっと壁際へと移動し、扉の両側に分かれて向こう側の様子に耳を立てながら待つ。
ブラフの家に入り込んで来たのは、ひとりの男だった。
男は家に入るなり、大声で騒ぎ出す。
「おうブラフ!
とっとと風呂沸かしてメシ作れや!
ライ!
さっさと股開いて準備しとけ!
クソがっ!
最後にイカサマしやがって!
全部スッちまったじゃねえか!
あークソ、腹立つ!
今日は3発くれぇ出さねえと気が済まねぇ!
覚悟しとけよライ!」
「おめえもたまには、アンアンとかヒィヒィとか鳴けや!
いっつも無言で、つまんねえんだよ!
ブラフ!
俺ぁ今からライにブチ込んで汗かくからな!
急いで風呂準備しとけ!
あーくそっ!
今日は最悪な日だぜ!
おいブラフ!
おめえ明日から、ダルカンに薬草売りに行けよ!
金作ってこい!
その間俺がじっくりライの世話してやっからよ!
有り難く思いな!」
「……おいこら!
おめえらちゃんと返事しやがれ!
この偉大なる大盗賊シン様を、何だと思ってやがる!」
クリスとヘレナは寝室の壁越しに男の喚き声を聞き、こいつがシンだと確信する。
いつこちらに入って来てもいいように、2人は腰の剣を鞘から抜きながら小声で話し合う。
「コイツがクソ野郎で、間違い無いわね?」
「そうだね。ブラフとライ……いつもコイツに、こんな事言われてたのか……」
「絶対逃がしちゃ駄目よ?」
「逃がすもんか。2人の仇、絶対とるわ」
「足よ。ふくらはぎ狙って、思いっきり刺して。なるべく中心、血管切らないように剣は垂直にね」
「了解。トドメ刺すのはいたぶってからね?」
「出血死なんて、温い死に方させるもんか」
「死ぬほど苦しませてから、殺してやろうね?」
「簡単には殺さないよ」
「2人の苦しみ、身体にキッチリ刻み込んでやろうね?」
「殺気出しちゃ駄目よ? 感付かれる」
「うち、そんなの出せるほど強くないから大丈夫」
「さぁ……早く来い」
「来たら最後、お前の人生終わりだよ」
クリスとヘレナはそれぞれ右手に持つ剣に力を込め、シンがこの部屋に入って来るのをじっと待った。
シンは周囲の警戒を全くせずに帰って来た為、何が起こっているのか知らなかった。
家の前に転がっている血まみれの斧、地面に散らばっている血痕、畑の隅の墓。
朝出て行った時とは異なる変化に、全く気が付いていない。
盗賊と名乗る割にはとてもお粗末な程、注意力が無かった。
シンはライを犯しに行く為、その場で服を脱ぎ始める。
脱いだ服はブラフに集めさせて洗濯させる、当然だと言わんばかりに脱いだ服を床へ放り投げる。
そしてシンは当たり前のように、素っ裸のまま寝室の扉を開けて中に入っていった。
中ではクリスとヘレナが待ち伏せしているとも知らずに。
寝室へ入ったシンは、ベッドの上で布団を被って寝ているカーソンに股間をしごきながら、ゆっくりと近付いてゆく。
「へへへ……ライぃ? 今日もキッチリ、俺を愉しませろよぉ?」
「…………せぇーのっ!」
「とりゃーっ!」
「うおっ!? うがぁぁぁっ!?」
「すぐ抜いてっ! 血ぃ流させんなっ!」
「おっしゃ! 逃がすかこのクソ野郎!」
「なっ!? 何だてめえらっ!?」
「クソ野郎に死を届けに来たのよっ! 有り難く思えっ!」
「この野郎っ! よくも今までブラフとライの事イジメてくれてたわねっ!」
「ひっ!? ひぃぃっ! あだっ!?」
シンはクリスに髪をむんずと掴まれ、そのまま仰向けに床へ引き倒された。
クリスとヘレナは素っ裸のシンの股間を凝視し、鼻で笑いながら罵倒を始める。
「……何これ? ちっちぇー!」
「こんなちっちゃいちんぽこ、初めて見たわー!」
「わー! こんなのぶら下げて、男名乗ってたなんて恥ずかしー!」
「随分とお粗末よねこれー!」
「こんなの女に挿入れてたのー?」
「ライ可哀そうだなー! こんなの気持ち良くも何とも無かっただろうなー!」
「あ、しぼんできたー!」
「ただでさえちっちゃいのにー! もうちっちゃすぎて見えなーい!」
「あんた女でも通用するよー! 超ぶっさいくだけどー!」
「こんなちっちゃいとお豆って言っても、みんな納得しちゃうよねー!」
2人は執拗に、シンのシンボルを詰った。
突然現れた2人の女に足を刺され、立ち上がれなくなったシンは狼狽しながら喚き散らす。
「なっ……何だてめえらはっ! 俺様の家に勝手に入ってんじゃねえっ!」
「ここはお前みたいなクソ野郎の家なんかじゃねえっ!」
「ブラフとライの家だっ! ふざけた事言ってんじゃないよっ!」
「くっ、くそっ。ブラフーっ! てめえ、俺を嵌めやがったなぁーっ!」
「黙れクソ野郎っ!」
「うがぁぁっ!」
クリスはシンの右太腿に剣を垂直に突き刺す。
どこを斬ったり刺したりすれば出血するのかを熟知しているクリスにとって、極力血を流させずに痛みだけを与える事など造作も無かった。
クリスは突き刺した剣をぐりぐりと捻りながらシンに話す。
「ほれほれ、ぐりぐり」
「うぎゃぁぁっ! いだいっ! やめっ! やめでぇぇぇっ!」
「男のクセに、情けない奴め! よくもそんなんでブラフとライの事、苦しめやがったわね!」
「ねえ? このへん刺せばいいの?」
「そそ。そこならあんまり血ぃ出ないよ。ぶすっとやっちゃえ!」
「了解っ! おりゃっ!」
「ぎょえぇぇぇっ!」
「あ、ホントだ。血ぃあんまり出ないね」
「覚悟しろシン! 痛みでお前の脳、ぶっ壊してから殺してやる!」
「死ぬまで地獄の苦しみ味わって、そっから本当の地獄へ落ちろっ!」
「おっ、お願いしますっ! たっ、助けてくださぎょぉぉぉっ!」
「やだ、殺す」
「お前は死んだら地獄行くから。天国行ったあの2人に謝罪出来ないもん」
「死ぬまで2人に詫び続けろ!」
「冒険者クリス様がお前の事直々に殺してくれるんだ、先に地獄行ったお仲間に自慢すりゃいいさ」
「おっ、お前がクリスぎにゃぁぁぁっ!」
「うち違うから。今、お前の事刺してくれてるのがクリスね」
シンはこれから数時間、クリスとヘレナによって延々と死ぬよりも辛い拷問を受け続ける事となる。
クリスとヘレナは、恍惚の笑みを浮かべながら床に転がるシンを見下ろしながら話す。
「……良し、脳ぶっ壊してやった」
「お疲れ様」
「……ひひひっ……うひっ……へへへ……」
「いい具合に狂ったね」
「あとは、地獄に送り届けるだけだね」
「んじゃ、カーソン起こしてトドメ刺してもらおっか?」
「そうだね…………でも、またあの化け物出て来たらどうする?」
「うん、あたしもそれ心配して……ひっ!?」
「!? ひぃっ!」
「………………」
クリスとヘレナは、振り返った先にあるベッドからの視線と目が合ってしまい、先程の戦慄と恐怖を思い出し、思わず小さな悲鳴を漏らす。
カーソンは既に起き上がっていて、ベッドの上からクリスとヘレナの拷問を、じっと見続けていた。
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