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犯した過ち
129 カーソン暴走
しおりを挟むヘレナは日記をパタンと閉じ、クリスに話す。
「今読んだ最後のが……昨日書かれた日記よ」
「その超クソ腐れド外道なシンって野郎……ここに帰って来るのね?」
「……殺そうよそいつ! 死んだ2人の為に!」
「モチロンよ! ぶっ殺してやる!」
ブラフの動機とライの苦しみを知った2人は、やがてここに帰って来る盗賊シンの殺害を決意した。
クリスは部屋の窓を開け、外に居るであろうカーソンを探す。
カーソンは森から持って来た立派な木の杭を、既に2人が埋められている土の上に建てていた。
墓の前にぺたんと座り込み、肩を震わせながら嗚咽しているカーソンに向かってクリスは叫ぶ。
「カーソンっ! ちょっと家の中に来てーっ!」
「…………えぐっ、えぐっ……うえぇ……」
「泣いてないで早く来てーっ!」
「……うえぇ……」
「ブラフとライの仇がもうじき来るからっ! 早くぅーっ!」
「…………仇? ぐすっ……」
カーソンはのっそりと立ち上がり、重い足取りで家へと向かう。
クリスは待ちきれずに家から飛び出し、右手でカーソンの左手を掴むと強引に引っ張って家の中へと押し込んだ。
ヘレナは急いで扉をバタンと閉める。
家の中へ入るとクリスは、カーソンの両肩をぎゅっと掴みながら聞く。
「ねえっ! あたしら以外に誰か来たっ!?」
「……ぐすっ、来てない……」
「来たような気配はっ!?」
「…………ない。ぐすっ……うぐっ……えぐっ」
「良しっ! 絶対にぶっ殺してやるっ!」
「俺……もうやだ。誰も殺さない……」
「その話は後からじっくりと聞いてあげるからっ!」
「クリスぅ……俺……もう……死にたい……」
「死にたいとか言うなっ! もうっ、しっかりしなさいよ!」
パァンッ
クリスは両手でカーソンの頬を叩く。
カーソンはクリスに頬を張られ、少しだけ気を持ち直しながら話す。
「……痛い」
「あのね聞いて! ブラフが何であたしら殺そうとしたのか、その理由が分かったの!」
「……理由?」
「そう! そのうちここに帰って来る男に唆されてたのっ!」
「男に……そそのかされてた?」
「そいつがライにずっと酷い事してて、やめさせたければあたしとあんた殺せってね、ブラフの事イジメてたのよっ!」
「それ……本当か?」
「本当よっ! あんたもこの日記読みなさいっ!」
「……うん」
「あたしが指差した所だけ読んでよ? じゃないとあんたまた泣きそうだから」
「……分かった」
「ヘレナっ! 見張りよろしくっ!」
「任しときっ! 来たら教える!」
椅子に座らせたカーソンの右側に立ちながら、クリスは左手をカーソンの右肩に添え、右手の人差し指で日記の文章を指差しカーソンに読ませる。
「ここ読んで」
「…………」
「次はここ」
「…………」
「読んだ? 次はこことここ」
「…………」
「そろそろ事情、分かってきた?」
「…………」
「じゃあ次は……熱っ!?」
クリスは左手に熱気を感じ、慌てて手を引っ込める。
赤くなった自分の左手をぶんぶんと振りながら話しかけようとしたクリスは、カーソンの雰囲気が変わっている事に気付く。
「熱い……何で急にガーディアン熱く……カーソン?」
「…………」
「ど、どうしたの? あんた何かいつもと違うよ?」
「…………殺す」
「で、でしょ!? このシンっていうクソ野郎、絶対に……」
「殺す……殺す……殺す……」
「……カーソン?」
「こいつ殺す! 絶対にこいつ殺してやる!」
「ちょっ……えっ!? 何? この殺気……」
「殺す! 殺す! 殺す! 殺してやる!」
「!? この声……ゴルドで聞いた……あの声だ……」
いつも温厚で、何をされても滅多に怒らないカーソンが怒り狂っている。
無遠慮な事をしれっと言うが、聞く者に小気味良い安心感を与えてくれる優しい声色が変わった。
普段からは到底考えられない、とても低くて心の底から恐ろしくなるような声に。
カーソンの顔色はみるみると変わり、土気色を通り越してどんどん真っ黒になってゆく。
完全に漆黒と化した顔には、燃えるような深紅に染まる、憎悪に満ちた瞳が不気味な光を放っていた。
クリスはカーソンの異様な風貌の変化と周囲に撒き散らす殺気に怯え、震えながらヘレナの横まで下がった。
窓に張り付いて外の監視をしていたヘレナも、背後から聞こえたまるで化け物のような末恐ろしい声と、心底怯えながら自分の横に来たクリス、背中を無数のナイフで刺されているような錯覚に陥る程の殺気に身の危険を感じ、恐る恐る振り返る。
「…………ひっ!?」
小さな悲鳴を漏らしたヘレナの瞳に映り込んだのは、カーソンでは無かった。
クリスとヘレナの目の前には、カーソンの姿をしたカーソンでは無い何か別の生き物が、椅子に座っていた。
突然目の前に現れた恐怖の存在に、2人はガクガクと足を震わせながら全身から冷たい汗を大量に吹き出す。
ぴくりとでも身体を動かしてしまったらこの生き物に襲われると思い込んだ2人は、全く身動き出来ずにその場で固まった。
クリスは生唾を飲み込みながら、恐る恐る目の前の化け物に話しかける。
「かっ……カーソン……あんたカーソン……だよね?」
「殺す! シン殺す! 絶対殺す!」
「ねっ、ねえ? 何でそんな……おっかない姿になっちゃっちゃの?」
「早くシン殺したい! お前達、早くシン連れて来い!」
「もう少し待てば……来ると思う……よ?」
「待てない! 殺す! 今すぐ殺す!」
「ま、待とうよ? そのうちここに帰って来るから……ねっ?」
「待つの嫌だ! 早くシン連れて来い! 無理なら先に、お前達殺す!」
「ひっ!?」
「嫌っ、待って! お願い! あたしら殺すなんて言わないで!」
カーソンの姿をした化け物は椅子から立ち上がり、腰からサイファを2本取り出すと、刃を作り出す。
作り出された2本のサイファの刃は異常な程巨大で、普段は透き通るような青白い色の刃は、全てを焼き尽くせそうな程禍々しい紅蓮の炎の色をしていた。
その長さはソニアが扱う長大な大剣よりも遥かに大きく、一瞬で部屋の温度が数度変わる程の高熱を放っている。
そんな2本の凶器を手に、カーソンの姿をした化け物はクリスとヘレナに向かい、ゆっくりと近付いて来る。
その剣を自分に振り下ろされれば最後、骨どころか灰すらも残らないと感じた2人は、殺気を撒き散らしながら迫り来るカーソンに、ただただ恐怖した。
逃げ出したいのに逃げ出せない、少しでも動いたら確実に殺されるという恐怖に支配された2人は、思わず股間を湿らせてしまう。
カーソンの姿をした化け物は、尚も2人に殺気を撒き散らしながら近付いて来る。
「殺す! お前達殺す! ……何で?」
「俺は怒ってる! だからお前達殺す! ……だから何でだ?」
「殺したいから殺す! ……2人は仲間だぞ?」
「殺させろ! 邪魔するな! ……殺しちゃ駄目だ!」
「うるさい殺す! ……もう悲しい事するの嫌だ!」
「お前出てくるな! 俺に殺させろ! ……やめろ俺! 殺すな!」
「? カーソン……?」
「何か……言ってる事が……変」
支離滅裂に自問自答をしながら近付いて来るカーソンに、2人は怯えながら話しかけた。
2人を刃の射程に入れたカーソンの姿をした化け物は、サイファを振りかぶりながら叫ぶ。
「死ねぇーっ! やめろ殺すなぁーっ!」
「お願いやめてっ! あたしあんたの赤ちゃん産むまで死ねないっ!」
「うちも1発してくれるまで死ねないっ!」
「殺す……死ね…………死、死、死ねぇぇーっ!」
「いっ、嫌だぁぁぁーっ!」
「たっ、助けっ……ひぃーっ!?」
「死……ね……ぇ……」
クリスとヘレナは逃れられない死を覚悟し、ぎゅっと目を瞑る。
ドサッ
殺意に満ち溢れた部屋の中で、誰かが床に突っ伏した音が部屋に響き渡った。
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