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犯した過ち
128 ブラフの日記
しおりを挟む散々と泣き尽くした2人は目を真っ赤に充血させ、瞼を腫らしながら再び部屋の物色を始める。
「……見てクリス、これ」
「……箱?」
「いつもここからお金出して払ってたんだけどさ、中に1ゴールドも入ってないの」
「ライが家から沢山お金持って来てたんでしょ?」
「うん。これくらいの生活じゃ、あと何十年も暮らせそうなくらいお金持ってたんだよ?」
「何で、そんなに減ってるの?」
「……日記みたいなの入ってる」
「それに何か書かれてるんじゃない?」
「……読んでみる?」
「うん」
「じゃあ、読むよ」
ヘレナは箱から日記を取り出し、ページをぺらぺらとめくりながら読み始める。
「出金、盗賊シンに5000ゴールド」
「出金、盗賊シンに5000ゴールド」
「出金、盗賊シンに10000ゴールド」
「出金、盗賊シンに15000ゴールド」
「出金、盗賊シンに30000ゴールド」
「出金、盗賊シンに……何これ、盗賊シンって奴にばっかり払ってる」
「そいつが2人の生活を邪魔してたのね」
「みたいだね。どんどんお金持ってかれてるよ」
「何でそうなったか書いてない?」
「待ってね…………あ、裏に日記が書いてる」
「読んでみてよ」
「……えっと、大半が2人の幸せ日記だから……また泣くかも知れないよ?」
「そこは省いてよ。シンのとこだけでいいから」
「うん、分かった」
ヘレナは日記を再び読み始める。
「盗賊シン。とんでもない奴に目を付けられてしまった。
ここで平和に暮らしたかったら俺に上納金を払え、払わなければ定期的にライを犯すと言われている。
言われるがままに支払ってしまった。
これからもお金を奪いにやって来そうだ。
ただでさえ見知らぬ土地で、慣れない生活をさせているんだ。
ライを心配させない為に、彼は僕の遠い親戚でお金に困って借りに来てると言っておこう」
「ライの身を守る為には奴にお金を払い続けるしかない。
なのに、奴はどんどんお金の要求額を上げてくる。
僕達からいくら毟り取るつもりか知らないが、黙ってライを犯されてなるものか」
「ライが妊娠していた事が分かった!
僕とライの、愛の結晶がやっと実ったんだ!
これでやっとあいつも諦めてくれるだろう。
赤ちゃんを宿してくれてありがとう、ライ!」
「妊娠したら諦める、そんな考えは甘かった。
あの男、妊婦を犯してみたいと言い出した。
こうなったら、今まで以上にお金を払って追い返すしかない」
「どうしよう、お金がみるみる減っていく。このままではライが……」
「今日、シンが青い顔をしながらやって来た。
何でもカーソンとクリスっていう盗賊殺しが、南西の廃村に居着いたらしい。
暫く大人しくするからと、大金を要求してきた。
何でそのカーソンとクリスとやらの為に、僕達がお金を払わなければならないんだよ?」
「くそっ、全然大人しくならないじゃないか。
事あるごとにやって来ては無心を続けてくる。
挙げ句の果てには、もしカーソンとクリスがここに来たら毒殺しろとか言い出してきた。
何でそいつらが、ここに来ると思ってるんだ?
関係ない僕達を巻き込むな!」
「またやって来た。
だが、今回はお金を持って行かず、逆にお願いをされた。
渡した手紙を読めと言われたが、字が汚なすぎて読みにくい。
今日は疲れた、今からこんな汚い字なんて読む気も起きない。
明日にでも読むとしよう」
「手紙にはこう書かれていた。
カーソンとクリスをお前が殺してくれれば、俺はもう2度とライに手を出さないと約束する、だそうだ。
そうか、カーソンとクリスを殺しさえすれば、ライの身の安全を約束してくれるのか。
少し考えてみよう」
「久しぶりに冒険者がやって来た。
ついでとばかりに、カーソンとクリスについて聞いてみた。
僕は今、返ってきた答えに絶望している。
何だよ、カーソンとクリスって奴らは!
まるで化け物じゃないか!
こんな奴らを殺せとか、シンの奴は何を考えて僕に頼んだんだ?」
「いよいよライのお腹が大きくなってきた。
そしてあいつも出産前に犯したいと言って、僕達の家に居座ってきた。
ふざけんな!
今まで払った金返せ!」
「あいつは毎日、賭博の自慢話ばっかりする。
そんなに勝ってるなら、お金返してくれ!
少しは僕達の事も考えろ!
もう嫌だ!
誰か助けてくれ!」
「最近愚痴ばかりしか書いてないな。
あいつは毎日、隙あらばライを押し倒そうとする。
子供が流産したらどうするんだと言ったら、そんなガキとっとと流して俺の子を孕めとかほざきやがった。
本当に何なんだ、あいつは!
あんな奴が、この世に生きてていいのか!?」
「今日もあいつの自慢話だ。
俺が襲った奴らは女子供全て皆殺しにしてる、だから絶対ギルドに俺の依頼は出ねえとかほざいた。
だったら何で、カーソンとクリスを恐れてるんだ?
多分、殺し損ねた人が依頼を出してるかも知れないと、心のどこかで思っているんだろうな」
「段々と、あいつの本性が現れ始めてきた。
親切なフリして、薬草を採りに来たお客さん達を案内すると連れて行くが、いつもひとりですぐに帰って来る。
何故かお客さん達が身に着けてた物を持って。
そして、お客さん達は誰ひとり帰って来ない。
採ったらすぐ帰ったと言っているが、まさかあいつ……お客さん達殺して金品奪ってるんじゃないのか?」
「心配していた事は、現実だった。
久しぶりに薬草を採りに行ったら、普段行かない森の奥から異臭が漂ってきた。
臭いの元を辿って行ったら……あった。
帰って来なかったお客さん達の……死体の山が……。
とてもじゃないが、独りじゃ全員埋められないので、周りの枯葉をかき集めて隠した。
最悪の気分で帰って来たら、不機嫌な顔で椅子に座ってるあいつと、ベッドの上で服が乱れたまま泣いているライ。
家の中でも最悪な事になっていたのかと、泣き続けているライをそっと寝かせながら聞いてみたら……僕が帰って来る直前まで犯されかけていたようだ。
もう駄目だと思っていた時に、僕が帰って来てくれたお蔭で何とか身体を守れたと言われた。
何てこった!
僕はもうこの家から、ライの傍から離れられない。
離れたら最後、ライはあのおぞましい獣に襲われてしまう!」
「くそっ!
今日、とうとうライがあいつに……しかも僕の目の前で堂々と……。
ライは気丈に、お腹の赤ちゃんは大丈夫と言っていたが、ライの心が折れそうになっている。
隠しているつもりだろうが、僕には分かる。
お願いだから、そんなに泣かないでくれ。
赤ちゃんに影響してしまう。
それに、君ほどでは無いが……僕も凄く悲しいんだ」
「誰かが来たらあいつにバレないように、こっそりとダルカンの冒険者ギルドに盗賊シン退治の依頼を出して貰おう。
出来れば、カーソンとクリスを指名で。
そのほうが、確実にあいつを殺してくれそうだ。
でも、高額じゃなければ動いてくれないかも知れない。
お金はどんどん、あいつに減らされていってる。
どうする?
出すなら早いほうがいいな」
「あの日から毎日、ライはあいつに犯されている。
ライはもう妊娠してるから、中に出し放題だとか言いやがる。
悔しい、僕に力さえあればあんな奴……。
誰でもいいから、早く来てくれお客さん!
カーソンとクリスへの依頼金が、どんどん目減りしてしまう!」
「ライ、今日はすまなかった。
どうしても殺されたお客さん達を、埋めて弔いたかったんだ。
朝から夕方まで僕が不在の間、いったい何回あいつに……本当にごめん。
寝てる間に殺してやりたいが、あいつは寝る時いつも物置に鍵をかけて籠るから出来ない。
いつかそのうち、僕達のベッドで寝でもしたらその時は……絶対に殺す!」
「あれ以来、お客さんが全然来ない。
こうなったらいっその事、僕が直々にダルカンへ行って、カーソンとクリス指名の盗賊シン退治依頼を出してしまおうか?
残りのお金、全額使っても依頼を出したい……あいつを殺して欲しい……」
「どうやら恐れていた事が、現実になっていたようだ。
この森に来ると、生きて帰って来れないという噂が流れていると、久しぶりに来てくれた知り合いの狩人が教えてくれた。
他の狩人達は、もう2度と来ないと言っているらしい。
僕は彼と一緒に森に入って、事情を説明する事にした。
僕が出かけてしまうと、また襲われてしまうだろうが、これ以上殺されてしまったら……すまないライ。
森の中で彼に、あいつの仕業だと打ち明けると、居なくなるまでは自分も暫く来ないと言われた。
冒険者達の間でも、やっぱりブラフは盗賊だったのかと言われ始めているらしい。
違う!
僕は盗賊じゃない!」
「彼が出発する前に、呼び止めてこっそり依頼の話を持ちかけた。
自分も金に困っているので、依頼と金をちゃんとギルドに届ける自信が無いから、無理だと言われた。
彼が知り合いの冒険者から聞いた話では、どうもカーソンとクリスは今から2ヶ月前より、南西の廃村で復興に勤しんでいるらしい。
冒険者達の間では、もうあの2人は引退してあの村で家庭を作るんだろうという意見が多いそうだ。
そんな……カーソンとクリスは、僕達を助けてくれないのか?」
「子供が産まれても、あいつは居座ると言い出してきた。
ライはもう、俺の女だと?
それだけはやめてくれと懇願したら、胸ぐらを捕まれた。
どうしても俺と縁を切りたかったら、カーソンとクリスを殺せと言われた。
どうする?
今ならまだ、引き受けてくれそうなお金が残っている。
でも、まだあの2人は村の復興を手伝っているようだ。
僕が村まで行って、2人に土下座してお願いするか?
それとも……彼らを殺すか?」
「最近あいつは、僕をずっと監視している。
冒険者ギルドに依頼を出そうとしている事に、気付いてしまったようだ。
たまにやって来る冒険者と、僕との接触を邪魔してくる。
帰る冒険者を追おうとすると、いつの間にか背後に居る。
背中にナイフを隠して……。
まずい、行動するのが遅すぎたか?
僕はもう、この森から出られない。
出たら最後、あいつに殺される。
そして、遺されたライは……あいつに……」
「泣きたい。
何故あいつが僕達に接触したのか、ようやく分かった。
最初からあいつは、僕が冒険者ギルドから盗賊扱いされている事を知っていた。
だからいつか、ここにカーソンとクリスが来るって読んでたんだ。
殺せって言ったのは、僕は盗賊じゃなかったって油断させてるうちに……って事だったんだ。
僕達は何処へ逃げても、こうなってしまう運命だったのか?」
「ライが今日も、あいつに蹂躙されている。
お金はもう……殆ど残っちゃいない。
こんな額じゃ、とても依頼なんて無理だ。
くそっ、何もかもが遅すぎた!
こうなったらもう、決死の覚悟でいつかここにやって来るであろう、カーソンとクリスを殺すしかない!
そうだ、ヘレナならあいつらの殺害に協力してくれるかも知れない。
今度来たら、思いきって相談してみよう」
「食料を買うお金だから、それだけはとしがみついた僕の抵抗も虚しく無理矢理箱をこじ開けられ、最後のお金を奪われてしまった。
折角ライが家から持ち出してくれたお金、あいつのせいでもう1ゴールドも……残っちゃいない。
奪われた時にこの日記を手に取られたけど、帳簿のほうだけ見て鼻で笑っていた。
裏に書いていた、こっちを読まれなくて本当に良かった。
もう金が無いと知ったあいつは、僕に薬草をダルカンに持って行って金に換えてこいと言いやがった。
僕が街でお金を作って来れば、あいつのものに。
僕が街で捕まれば、ライがあいつのものに……。
くそっ!
あいつのせいで……僕達の人生は滅茶苦茶だ!」
「明日は久しぶりに、あいつが朝から出かけるらしい。
夕方までには帰って来ると言っていたが、どうせまた賭博に行くんだろう。
イカサマでもして、仲間から殺されてしまえばいいのに。
もう駄目だ……僕達はあいつが居る限り、幸せになんかなれない。
涙も枯れ果てた。
だけど、嘆いてばかりじゃ何も始まらない。
産まれてきてくれる子供の為、明日は減ってきていた薪の補充でもするか。
そして、薪割りが終わったら……ライに打ち明けよう。
子供が産まれたら、あいつが寝ている隙に、この家から逃げ出そうって。
ダルカンに行けば、懇意にしてくれた冒険者達が沢山居る。
もしかしたら……誰かが助けてくれるかも知れない。
ブラフの名前は駄目だが、偽名を使えば衛兵にも怪しまれずに、街へ入れるはずだ。
そうだ、ライにも名前を変えるようにお願いしてみよう。
僕とライ、産まれてくる子供と3人で仲良く、幸せになろう。
一緒に新しい名前で、ダルカンで今度こそ……幸せに暮らそう」
ヘレナは怒りと悲しみを圧し殺し、ブラフの日記を読み上げ続けた。
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