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犯した過ち
135 事件の黒幕
しおりを挟む女の悦びを心行くまで堪能し、力尽きたクリス。
何度も玉を強く握りしめられ、痛みに耐えながらクリスに従ったカーソン。
深夜まで繰り広げられた行為を終え、2人が眠りについてから数時間後。
ブラフ夫妻の家の前に、真っ暗な森の中から漆黒のローブを纏った人物が姿を現した。
その人物は男とも女とも区別のつかない顔をし、家の前まで近付くと立ち止まり、静かに喋り出す。
「終わったぞ」
「……そうか」
シンの死体しか無いはずの家から、何者かの返事が返ってきた。
扉がギイッと開き、中から頭の無いシンの死体がふらふらとした足取りで出て来る。
ボコッ
続けてブラフ夫妻の埋められていたお墓が盛り上がり、土の中から頭を右手に持ったブラフと、お腹に穴が開いたままのライの死体が出てくる。
3人の死体は、漆黒のローブを纏った人物の前にふらふらとした足取りで集まり、立ち止まる。
漆黒のローブを纏った人物は死体達に向かって話しかけ、死体達は声を揃えて返答を始めた。
「人間の手に渡ったお前の頭が、焼却処分された」
「そうか。では、この肉体は消し去るとしよう」
「その件だがなシウス、その3つの肉体は元の位置に戻してくれないか?」
「何故だクロノス?」
「人間が何人か確認しに、ここへやって来る。証言通りになっていないと後々面倒な事になるのだ」
「そうか。ならば所定の位置に戻しておかねばならぬな」
「済まぬがそうしてくれ」
「うむ」
漆黒のローブを纏った人物の正体は時の精霊クロノス。
ブラフ、ライ、シンの正体は神シウスが操っていた肉体であった。
シウスはクロノスに今回の顛末を聞き始める。
「どうだ? 概ねお前の指示通りに動いたつもりだが?」
「ほぼ私の望んだ結果となった。流石は神だな」
「ヘレナの血管を半分だけ切れとは……難しい事を」
「そうしないと、即死であったからな」
「手加減とは……実に難しいものだ」
「ライの演技も、良く出来ていた」
「カーソンは手加減したつもりであったのだろうが、赤子は蒸発してしまってな。少々修復し、それらしく残したぞ」
「シンも実にしぶとく、生かし続けたな?」
「痛みなど感じぬので、どれ程生きておれば良いのか分からず苦労したわ」
「ここでの演技は、何も文句は無い。ただ……ダルカンでは余計な事をしてくれおって」
「む? 何か余計な事をしてしまったのか?」
シウスはクロノスへ何が余計だったのかを聞く。
クロノスはダルカンでシウスが行った行為を咎める。
「お前、街で馬屋の老夫婦と接触した時、余計な事をしただろう? あれだ」
「馬を愛するあの2人に感銘を受けた。動物と会話を交わす能力くらい授けても良いではないか?」
「何もせずに立ち去れば良かったものを……」
「何か問題でも起きたのか?」
「馬達はここで起きた事を見ていたのだぞ? あの老夫婦が話を聞いて、危うく真実が発覚する可能性があったわ」
「むっ……そこまで気が付かなかった」
「馬達には話を合わせぬと主人が危ういぞと言い聞かせた。未来を変える為にやらねばならぬ事であったというのに全く、お前という奴は余計な事をしてくれる」
「変えねばならぬ未来を、まさか馬が元に戻す可能性があったとは思いもしなかった。許せ」
「まあ、仮に私が口添えせずとも馬達はあいつらの為に喋らぬほうが良いと判断し、水の泡となる確率は2%程度であったのだがな」
「済まなかった、クロノスよ……それで、当初の予定よりも若干、我等の望む未来に影響が出たのか?」
「いいや、無いのだが……あの老夫婦の未来は大きく変わってしまったぞ」
「あの老夫婦にとっては、悪い結果となってしまったのか?」
「逆だ。馬達の世話を優先するあまり身体を壊し、2人共にこの先3年前後で死ぬ予定だったのだがな……」
「長く生きる未来へと変わったのか?」
「ああ。あの能力のせいで様々な動物達と会話が出来る人間として名声を得てしまい、裕福になる。生命の維持が困難では無くなったあの2人は、今から30年前後に死ぬ事となった」
「ほう、それは素晴らしい結果ではないか」
「確かにあいつと関わった者達の未来はかなり変化する。だがな、あの老夫婦は私の予定外だ。ほんの一時関わった者までも無闇に未来を変えたくないのだ」
「ヘレナの未来は変えても良かったのか?」
「問題無い。あの女は早々に2人の前から一度姿を消す。再び関わるのは当面先の話だ」
「そうか」
「むしろあの女が今回の鍵を握っていたようなものだ。我等の力が及ばぬ部分を見事に補い、成功へと導いてくれた」
「お前から当初の予定に無い女が現れたと聞かされた時は、遭遇した時にどう対応すべきか流石の私も悩んだぞ?」
「ライと親密な間柄にしてくれたお陰で、概ね良好な対応であった。感謝する」
「それは何よりだ。あの女が教えてくれた編み物とやら、なかなか面白い作業であったわ。無から何かを作り出す喜びを、久々に思い出させてくれた」
「まさかヘレナも、神に編み物を教えたとは夢にも思っていなかったであろうな」
「しかし……慎重なお前がヘレナを排除せず、重要な役割を任せたのは意外であったぞ?」
「実はな……未来の変わったヘレナ親子はネロスとの戦いに心強い味方として参戦してくれる事が分かったのだ」
「ほう? 我等の戦力となるのか?」
「ああ。味方となる人間達は沢山居るが、あの親子は重要な事をしてくれる」
「ふむ。未来を変えると役に立つ連中も居ると言う事か」
「その通りだ。あいつに関わった人間達は、すべからくネロスとの戦いに役に立ってくれる」
「あの子に関わった者達は、ネロスとの戦いで役に立ってくれる……か。実に面白い」
「な? 見ていて面白いだろう?」
「うむ。因果とは実に不思議なものだ、あの子の周囲には未来で助けてくれる仲間が自然と増え続けるのだな?」
「我等が仕組まずとも、あいつは自力で味方を作り続けているのだよ」
「これが33%まで確率が上がる……理由か」
「本当に面白い子だよ、あいつは」
「全くだな」
シウスとクロノスは、カーソンとその味方となってくれる未来の仲間との絆の強さに感心した。
シウスは人間達の住む世界に自分が介入したいと、クロノスに相談する。
「クロノスよ。未来の大勢に影響が無いのであらば、今後も私は人間達へ救いの手を差し伸べたいのだが?」
「シウスよ……人間共の作った世界を見て、何も思わなかったのか?」
「……待て、今まで人間達と言っておったお前が、人間共と呼び名を変えたのは何故だ?」
「我等の味方となる者は人間達、何の役にも立たん奴らは人間共で良いではないか」
「私は気に食わぬな」
「お前は寝ていたから、奴らの愚かさを知らぬのだ」
「愚かだと?」
「今のつまらぬ世界、お前は何も感じぬのか?」
「……ゴールドとかいう物の事か? 何故人間達はあのような物に固執するのだ?」
「人間共は増えすぎたのだ。自力で生命を維持出来ない個体が、あまりにも多すぎる」
「自力で捕食出来る力が足りず、肉体を維持出来ない……と捉えて良いか?」
「ああ、その通りだ。非力な人間共は自分で捕食出来る生物を捕らえられない」
「それであのゴールドと交換し、生命を維持しておるのだな?」
「考案した人間共を、私も最初の頃は感心していたのだがな……あいつらがいかに未熟な生命体であったのかを、痛切に感じる事となったわ」
「ゴールドという存在に、依存してしまったのか……」
「ああ。人間共はより多くのゴールドを手にしようと必死になり、ゴールドを持たぬ人間共は貧しく、多く持つ人間共は裕福になった。同じ種族でありながら、生命維持の難易度が大きく異なってしまう結果となってしまったのだ」
「同種族間ですら共存共栄を難しくしてしまうとは……実に嘆かわしい」
「特異な能力を持つ人間共には自然にゴールドが集まる。能力を持たぬ人間共にはゴールドが集まらぬ。シウスよ、後は分かるな?」
「うむ。私が救えば幸福になるであろうが……何処かで新たに不幸となる者も現れる、と言う事か」
「そうだ。だからあいつらに不必要な手を差し伸べてやる必要など無い」
「では、私がゴールドを大量に作り出してやるというのはどうだ?」
「駄目だ。ゴールドには価値という理解に苦しむ付加がある」
「価値……とは何だ?」
シウスはゴールドを自分が作り出し、人間達に満遍なく配ろうと提案したが、クロノスに阻まれる。
クロノスはシウスへ、ゴールドが持っている価値を説明する。
「価する値で、価値と言うらしい。例えば……そうだな、そこに転がっている斧はゴールド4枚と交換出来るとしよう」
「ふむ?」
「ところがだ。お前がゴールドを増やしてばら撒けば、この斧はゴールド10枚でなければ交換出来なくなる」
「何故、そうなるのだ?」
「それが価値というものなのだよ。ゴールドはその総数が限らているからこそ、交換出来る枚数が安定するのだ」
「それを人間達が考えたのか? 何とも面倒な仕組みを作ったものだ」
「全くだ。黙って全員で分け合って暮らせば良いものを……」
「私が眠りに就くまでは、このような仕組みなど存在して無かったのだが?」
「増えすぎた個体をどうにか平等に生かそうとした結果だよ。全く平等などでは無いがな」
「人間に知恵を与えてしまった、私の過ちなのか?」
「そうでは無い。この星に生きる人間共全てが、ゴールドに固執してはいない」
「そうなのか?」
「多くの人間共は、自分が死ぬまで生命の維持に困る事無く生きて行けるだけのゴールドさえあればいいと思っている」
「では、一部の人間達がこの仕組みを狂わせているという事か?」
「そう言う事だ。必要以上にゴールドを集め、自分の物にしている。死ぬまで捕食に困らぬ数を集めても尚な」
「それに何の意味があるというのだ? 100年も200年も生きる訳ではあるまいに」
「自分の子孫に残してやりたいのだよ。ゴールドさえあれば、子孫も生命維持に困る事は無い」
「そうか。そんな目的ならば、私も理解出来る」
「子孫は子孫で頑張って生きれば良いではないか? 私には到底理解出来ぬぞ?」
「可能な限り自分の子孫を残し、その子孫が穏やかに生きる事が出来る物を残してやる。理由はどうあれ、種を維持しようとする機能は働いているという事だ」
シウスはゴールドという存在に疑問を持ちつつも、自らが望んだ種を維持しようとする機能が働いている事に満足げな表情を、ブラフとライの顔で表現した。
クロノスはシウスへ聞く。
「確か、ネロスはその意見に反対したのであったな?」
「……うむ。奴は強い個体だけ生き残れば良いと言っていた。私はどんなに弱い個体でも、死を迎えるまで懸命に生きて欲しいと願って人間を作り出した」
「何だ、このゴールドという仕組みが上手く機能していないのは、半分お前に責任があるではないか」
「……その通りだ。全ての生命を愛して欲しいと願って作ったが、より自らの子を愛するのは必然であったか」
「お前の作った奴等は、全てにその気性が組み込まれているな」
「ああ。愛こそが生きとし生ける者の原動力としたかった」
「ネロスの作った奴等は、それが全く無い。成体となった子は親の生活圏から追い出され、単独で生きさせられる」
「奴の理論、私には理解出来ぬ。親と子、共に支え合って生きるべきだ」
「色々な生命体を見てきたが……お前とネロス、どちらが作ったのか非常に分かりやすい」
「私は数多くの集団のまま生息範囲を広げさせようとした。だが奴は単独で行動させ、その生息範囲を広げさせようとした」
「お前の作った奴等は死を悲しみ、亡骸を弔う行為をする。ネロスの作った奴等は無感情で死骸を共食いし、自らの糧とする」
「クロノスよ、お前はどちらの考えが正しいと思うのだ?」
「私に答えを求めるな。どちらの生命体もその数は増えているのだ。どちらも正しいとしか言えぬ」
「……そうか」
シウスは中立的な解答をしたクロノスに、少々残念な気持ちになりつつも理解を示した。
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