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廃村復興支援
114 試作風呂
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オストに着いたカーソンとクリスは一旦キャラバンを離れ、精霊ディザードの住む地へと向かい、オドを補充していた。
「んーっ……はあーっ。毎日忙しいね?」
「すーっ……はぁーっ。うん、忙しいな」
「でもさ、村の今後の見通しが立って良かったね」
「そうだな。ダンヒルも喜んでた」
「マーシャ、どれくらい字覚えた?」
「字の読み方と書き方は、一通り覚えたぞ」
「そっか。次は単語だね!」
「なあ、クリス」
「んー? なぁに?」
「俺にオド分けるのって、クリスのオド俺が貰ってるんだよな?」
「……そうよ」
「オド分ける時、痛いとか苦しいとか、なってないか?」
「別になってないわよ。どうしたの急に?」
「良かった。クリス苦しんでオド分けてるんだったら俺、要らないって言いたかった」
「そうは行かないわよ。村の復興の為に頑張って貰わなきゃ」
「なぁクリス? どうやって俺にオド分けてるんだ?」
「内緒っ!」
クリスは舌をペロッと出しながら、カーソンへはにかんだ。
2人がオストへ戻る為に馬へ乗ろうとした時、馬から声をかけられる。
「ヒンッ」
「ブフッ」
「ん? 喉乾いたのか?」
「ブフンッ」
「ブヒンッ」
「お、そうか。じゃあ、そこで飲むか」
「この子達、何て言ってんの?」
「水飲みたいから、川に行ってもいいかって言ってる」
「この近くに川あんの?」
「あるってよ。水の匂いするし、流れる音も聞こえるって」
「へぇー……馬の感覚って鋭いんだね」
カーソンとクリスは馬に乗り、馬に移動を任せて川へと向かう。
小川へとやって来た馬達は、川の水へ口をつけるとガフガフと音を立てながら、喉を潤す。
カーソンとクリスも馬から降り、川の水を手酌で掬って飲む。
「……ふうっ、美味しい」
「んぐっ……んぐっ……ぷぅっ。旨い」
「こんな近くにあったんだね、川」
「うん、知らなかった」
「ん? どしたの?」
クリスが横を見ると、カーソンが腕を組みながら唸っていた。
「んー……」
「どしたの?」
「なあクリス。ちょっと、ここにお風呂作ってみてもいいか?」
「お風呂? ここに?」
「うん。俺が思ってるようなのが出来るか、試したい」
「いいんじゃない? やってみたら?」
「うん。分かった、やってみる」
「川と繋ぐのは最後にしたほういいよ? 水を張るのは全景見てからのほうがいいでしょ?」
「そうだな。んじゃディザード、頼む」
カーソンは両手を前へ伸ばし、ディザードを呼ぶ。
ズシン、ズシンと音を立て、2人の目の前には以前カーソンが話していたような階段状の浴槽が出来上がる。
カーソンは穴堀りを終え、中へ降りて仕上がりを確認しながら話す。
「……うん、出来た」
「へぇ……覚えたての頃は丸い穴だったのに、四角く掘れるようになったんだね?」
「うん。ディザード、俺が思った通りに掘ってくれるようになったぞ」
「しっかしさ、いざ完成してみると……凄い立派な造りのお風呂だね、これ」
「後は水入れて、お湯にすればお風呂になるな」
「そうだね」
「水、入れてみるか?」
「温められないからお風呂には出来ないけどね、やってみよっか?」
「たぶん、お湯作れると思うぞ?」
「へ? どうやって?」
「サイファ使えば、お湯に出来ると思う」
「あっ、そっか! やってみようよ!」
「うん。斜めに水路作ればいいんだっけか?」
「うんうん、ゴードンさんそう言ってたね」
カーソンは浴槽と川とを繋げる。
川の水は浴槽へと流れ、暫くすると浴槽を全て水で満たす。
カーソンは右の腰からサイファを1本だけ取り出し、刃を作ると慎重に浴槽の水へと入れる。
ボジュッ
ボコボコッ
浴槽の水は、サイファの刃が触れた部分から熱湯へと変わり、周囲に湯気を立たせた。
クリスは川からの流れに石を積み上げてせき止めた後、誰も居ないか周囲をキョロキョロと見渡し、馬と自分達しか居ない事を確認すると鎧を脱ぎ、続けて服と下着を脱いで素っ裸になる。
そのまま浴槽の階段を下り、水をかき混ぜながらカーソンへ話す。
「うんうん、もっと熱くてもいいかな?」
「分かった。強めに込めるぞ?」
「よろしく」
「よっ!」
「…………うんうん! いい湯になったよ。そろそろいいかも」
「分かった。俺もお風呂入る」
「あの村、お風呂入る習慣無いんだもんね。今まで我慢してたけどさ、ずっとお風呂に入りたいって思ってたよ」
「今まで水無くて、お風呂に出来なかったんだろうな?」
カーソンもガーディアンを脱ぎ、裸になろうとしていると、馬達が興味津々に浴槽へ近付いてくる。
浴槽の水面をペロリと舐めた馬達は、首をかしげながら話す。
「ヒンッ?」
「ブヒンッ?」
「お風呂って言うんだ。水を温めてお湯にしてな、クリスみたいに入るんだ」
「ブフンッ」
「ヒンヒンッ」
「水が熱くなっただけで恐くないぞ? 入ると気持ちいいぞ?」
「ヒンッ?」
「ブフンッ?」
「水って恐くないんだぞ? お前達もお風呂、入ってみるか?」
「ブヒンッ!」
「ヒンッ!」
「あ、うんちとおしっこ先に出しておけよ? お風呂の中でするなよ?」
「ブヒンッ?」
「ヒンッ?」
「だって、お風呂の中でしたらうんちとおしっこが身体に付いちゃうだろ? お前達も自分のうんちとかおしっこが身体に付いたら嫌だろ?」
「ヒンヒンッ」
「ブフンッ」
「そうそう、お風呂の中ではしないようにな?」
クリスはカーソンと馬達が今、どのような会話をしたのかを察しながら聞く。
「この子達に上手く伝わった?」
「うん。確かにその通りだって、分かってくれたぞ」
「恐いって言ってそうだけど、大丈夫なの?」
「試しに入ってみたいから、うんちとおしっこ出すってよ」
「そっか」
「クリスが気持ち良さそうだから、入ってみたいってよ」
「そりゃもう、凄く気持ちいいよ。立ったまま肩まで浸かれるお風呂がこんなに気持ちいいなんて思わなかったよ」
「どれどれ…………うぁーっ…………気持ちいい」
「これ、村に作ったら絶対人気出るよ!」
「あぁ……気持ちいい……」
用足しを済ませた馬達が、恐る恐る浴槽へと入ろうとする。
カーソンは風呂から上がり、馬達の馬具を外して身軽にし、一緒に風呂へと入る。
「ブフンッ……ヒンヒンッ!」
「ブヒィン! ヒンヒンッ!」
「そうだろ? お風呂ってこうなんだ」
「ブフゥッ……」
「フヒィン……」
「あ。今この子達、気持ち良さそうな声出したね?」
「気持ちいい、これ好きになりそうって言ってるぞ」
「あはは! よし、身体洗ってあげようかな?」
「あ、俺もそうする」
「フヒンッ……」
「ブフゥッ……」
馬達はカーソンとクリスに身体を洗われ、目を瞑りながらじっとその身を任せ続けた。
2人と2頭は風呂を済ませるとオストの街へ戻り、冒険者ギルドのセリカへ挨拶にゆく。
「セリカさーん!」
「セリカさん、今日も美人だな!」
「あらっ、分かる? カーソン君も女性喜ばせる台詞、やっと覚えたのね?」
「……あんたいつの間にそんな事覚えたの?」
「ダンヒルが教えてくれた。仲良くしてくれてる女の人に言うと喜ばれるって」
「あんたそれ、初対面の女にも言っちゃ駄目よ?」
「え? 駄目なのか?」
「カーソン君のような色男が手当たり次第に言いまくると、後々クリスが面倒な事になりそうよね?」
「クリスが面倒になるのか?」
「クリスに怒られたくなかったら、あまり言わないほうがいいわよ?」
「セリカさん、お気遣いありがとう」
「ここでまたあなたに暴れられても困るしね、トレヴァの時みたく」
「…………あの時の事、セリカさんの耳にも届いてるんですね」
「ギルドの情報網、なめちゃ駄目よ?」
クリスは以前トレヴァの冒険者ギルドで自分がやった、ひとりで3人の冒険者を叩きのめした過去をセリカも知っていて顔を赤くした。
セリカは1枚の手配書を2人へ見せながら話す。
「今回はあなた達が護衛に行くんでしょ?」
「ん? 何だこれ?」
「キャラバンの護衛……寝食付き往復で……2000ゴールドぉ!?」
「ダルカンでは倍の4000ゴールドで出てるわよ? ま、もし襲撃されても同じ金額だけどね?」
「たっかっ……」
「これ、あの村への護衛手配書か?」
「ええそうよ。出した途端に希望者続出中の、今ギルドで一番人気のある仕事よ」
「そらそうだわ……あたしも飛び付いちゃうよこんなの」
「何でこんなに高いんだ?」
「依頼人はゴードン商店、後は分かるでしょ?」
「こんな大金で雇ってもいいんだ……ゴードンさん凄いなぁ」
「もうね、当面先の分まで予約で一杯よこの依頼」
「うわぁ……備考も凄い事になってる」
「4人までが2000ゴールドで、1人増える毎に500ゴールド上乗せか。何人で護衛しても、ひとり500ゴールドは絶対に貰えるんだな」
「ダルカンだと1000ゴールドよ。相場の倍以上だもの、みんな受けたがって大変よ」
「しかも馬が無い冒険者は馬車に同乗かぁ……条件良すぎるわ」
「みんな何人くらいで受けてるんだ?」
「ほぼ5人ね。馬車1台につき1人、腕前に自信の無い連中は声掛け合って10人で受けてるわ」
「10人……そりゃもう、襲われても大丈夫そうだわ」
「あなた達が2人でやってるほうが逆におかしいのよ」
「そうなのか?」
「あなた達知らないでしょ? もし盗賊が襲ってきてもね、カーソンとクリスって名前出せばみんな恐れて逃げ出すのよ?」
「へ? 何ですかそれ?」
「俺達の名前言えば、盗賊逃げてくのか?」
「何せ暗殺者ギルドがあなた達殺すの諦めたんだもの、盗賊の間じゃ絶対に関わるなって事になってるそうよ?」
「へぇ……ギルドってそっち方面の情報まで手に入るんですね?」
「どう? うちのギルドに入る気になった?」
「ううん、なんない」
「ちっ! カーソン君もしぶといわね!」
「あの……逆にあたしらはセリカさんのほうがしぶといかと思います」
「うちから資金出して弱み握ろうと待ってたのに、翼の民のコインなんて隠し財産持ってたとはねぇ……参ったわよ」
「冒険者ギルドって、何でも知ってるんだな?」
「いやホントにこれ、アホな事出来ないわ」
段々とセリカの本気と冗談との境目を分かり始めてきた2人は、セリカとの会話を楽しむ余裕が出てきていた。
セリカとひとしきり話し終えた2人は冒険者ギルドを後にし、街の外で待機しているキャラバンへと向かう。
キャラバンではゴードンが待っていて、2人を見ると飛んできて握手を求めながら話す。
「いやー、あなた達のおかげでウチは大儲けですよ! 他の店では売っていない作物が飛ぶように売れています。他の商品も沢山売れるわで、大繁盛しております! 本当にありがとう!」
「それは良かった! あたし達も嬉しいです!」
「頑張って次の収穫しないとな!」
「お2人を村に留めなければいけないと言うのに、連れ出してしまい申し訳ございませんでした」
「いえいえ、ゴードンさんも色々と大変そうですもん」
「護衛の依頼、高くてみんな受けてるぞ?」
「それは良かった! 魔物や盗賊に襲われちゃ堪りませんからね、安全をお金で買えるならもう、いくらでも出しますよ」
「でも、お金出し過ぎじゃないですか?」
「いえいえ、あの村から仕入れたスイカが高値で売れていましてね、もう残り僅かなんです。それこそ次の仕入れが届かないほうが大損になってしまいます」
「あのスイカ、そんなに売れてるんですか?」
「そりゃもう、絶対に売れるって確証があったので先にギルドへ護衛の手配をしましたけどね、私の予想を遥かに超えて売れまくりですよ、ははは!」
「あの金額で依頼出しても、スイカが売れるだけで損しないんですか?」
「はい。他の売り上げは全てうちの儲けになりますよ」
「スイカの分も、儲けないといけないんじゃないですか?」
「いやいや、それは商売人が一番考えてはいけない事なんですよ、クリスさん」
「え? 何でです?」
「お客さんはですね、そういう所に凄く敏感なんです。商人が欲を出せば、すぐに気付かれてしまうのです」
「スイカでは儲けなくてもいい……と?」
「ええ。ここを間違えてしまうと、商売は失敗しますからね」
「へぇ……商売って難しそう」
「大丈夫ですよ、スイカひとつからも儲けは出ていますから」
「本当ですか? 損してないならいいですけど……」
「じゃあ、これから村に戻って次のスイカ作っとくぞ」
「あ、そうだね! それじゃ、帰ったらスイカ沢山作って待ってますね!」
「ありがとうございます! やる事を済ませましたら、私もすぐに行きますので!」
ゴードンは大繁盛している自分の店の取り仕切りと、売れなくなって困っている他の店の商人からの苦情の処理を終えたら再び村に行くと約束し、街の中へと戻ってゆく。
2人は村までの護衛に、キャラバンの馬車5台と共にオストから出発した。
「んーっ……はあーっ。毎日忙しいね?」
「すーっ……はぁーっ。うん、忙しいな」
「でもさ、村の今後の見通しが立って良かったね」
「そうだな。ダンヒルも喜んでた」
「マーシャ、どれくらい字覚えた?」
「字の読み方と書き方は、一通り覚えたぞ」
「そっか。次は単語だね!」
「なあ、クリス」
「んー? なぁに?」
「俺にオド分けるのって、クリスのオド俺が貰ってるんだよな?」
「……そうよ」
「オド分ける時、痛いとか苦しいとか、なってないか?」
「別になってないわよ。どうしたの急に?」
「良かった。クリス苦しんでオド分けてるんだったら俺、要らないって言いたかった」
「そうは行かないわよ。村の復興の為に頑張って貰わなきゃ」
「なぁクリス? どうやって俺にオド分けてるんだ?」
「内緒っ!」
クリスは舌をペロッと出しながら、カーソンへはにかんだ。
2人がオストへ戻る為に馬へ乗ろうとした時、馬から声をかけられる。
「ヒンッ」
「ブフッ」
「ん? 喉乾いたのか?」
「ブフンッ」
「ブヒンッ」
「お、そうか。じゃあ、そこで飲むか」
「この子達、何て言ってんの?」
「水飲みたいから、川に行ってもいいかって言ってる」
「この近くに川あんの?」
「あるってよ。水の匂いするし、流れる音も聞こえるって」
「へぇー……馬の感覚って鋭いんだね」
カーソンとクリスは馬に乗り、馬に移動を任せて川へと向かう。
小川へとやって来た馬達は、川の水へ口をつけるとガフガフと音を立てながら、喉を潤す。
カーソンとクリスも馬から降り、川の水を手酌で掬って飲む。
「……ふうっ、美味しい」
「んぐっ……んぐっ……ぷぅっ。旨い」
「こんな近くにあったんだね、川」
「うん、知らなかった」
「ん? どしたの?」
クリスが横を見ると、カーソンが腕を組みながら唸っていた。
「んー……」
「どしたの?」
「なあクリス。ちょっと、ここにお風呂作ってみてもいいか?」
「お風呂? ここに?」
「うん。俺が思ってるようなのが出来るか、試したい」
「いいんじゃない? やってみたら?」
「うん。分かった、やってみる」
「川と繋ぐのは最後にしたほういいよ? 水を張るのは全景見てからのほうがいいでしょ?」
「そうだな。んじゃディザード、頼む」
カーソンは両手を前へ伸ばし、ディザードを呼ぶ。
ズシン、ズシンと音を立て、2人の目の前には以前カーソンが話していたような階段状の浴槽が出来上がる。
カーソンは穴堀りを終え、中へ降りて仕上がりを確認しながら話す。
「……うん、出来た」
「へぇ……覚えたての頃は丸い穴だったのに、四角く掘れるようになったんだね?」
「うん。ディザード、俺が思った通りに掘ってくれるようになったぞ」
「しっかしさ、いざ完成してみると……凄い立派な造りのお風呂だね、これ」
「後は水入れて、お湯にすればお風呂になるな」
「そうだね」
「水、入れてみるか?」
「温められないからお風呂には出来ないけどね、やってみよっか?」
「たぶん、お湯作れると思うぞ?」
「へ? どうやって?」
「サイファ使えば、お湯に出来ると思う」
「あっ、そっか! やってみようよ!」
「うん。斜めに水路作ればいいんだっけか?」
「うんうん、ゴードンさんそう言ってたね」
カーソンは浴槽と川とを繋げる。
川の水は浴槽へと流れ、暫くすると浴槽を全て水で満たす。
カーソンは右の腰からサイファを1本だけ取り出し、刃を作ると慎重に浴槽の水へと入れる。
ボジュッ
ボコボコッ
浴槽の水は、サイファの刃が触れた部分から熱湯へと変わり、周囲に湯気を立たせた。
クリスは川からの流れに石を積み上げてせき止めた後、誰も居ないか周囲をキョロキョロと見渡し、馬と自分達しか居ない事を確認すると鎧を脱ぎ、続けて服と下着を脱いで素っ裸になる。
そのまま浴槽の階段を下り、水をかき混ぜながらカーソンへ話す。
「うんうん、もっと熱くてもいいかな?」
「分かった。強めに込めるぞ?」
「よろしく」
「よっ!」
「…………うんうん! いい湯になったよ。そろそろいいかも」
「分かった。俺もお風呂入る」
「あの村、お風呂入る習慣無いんだもんね。今まで我慢してたけどさ、ずっとお風呂に入りたいって思ってたよ」
「今まで水無くて、お風呂に出来なかったんだろうな?」
カーソンもガーディアンを脱ぎ、裸になろうとしていると、馬達が興味津々に浴槽へ近付いてくる。
浴槽の水面をペロリと舐めた馬達は、首をかしげながら話す。
「ヒンッ?」
「ブヒンッ?」
「お風呂って言うんだ。水を温めてお湯にしてな、クリスみたいに入るんだ」
「ブフンッ」
「ヒンヒンッ」
「水が熱くなっただけで恐くないぞ? 入ると気持ちいいぞ?」
「ヒンッ?」
「ブフンッ?」
「水って恐くないんだぞ? お前達もお風呂、入ってみるか?」
「ブヒンッ!」
「ヒンッ!」
「あ、うんちとおしっこ先に出しておけよ? お風呂の中でするなよ?」
「ブヒンッ?」
「ヒンッ?」
「だって、お風呂の中でしたらうんちとおしっこが身体に付いちゃうだろ? お前達も自分のうんちとかおしっこが身体に付いたら嫌だろ?」
「ヒンヒンッ」
「ブフンッ」
「そうそう、お風呂の中ではしないようにな?」
クリスはカーソンと馬達が今、どのような会話をしたのかを察しながら聞く。
「この子達に上手く伝わった?」
「うん。確かにその通りだって、分かってくれたぞ」
「恐いって言ってそうだけど、大丈夫なの?」
「試しに入ってみたいから、うんちとおしっこ出すってよ」
「そっか」
「クリスが気持ち良さそうだから、入ってみたいってよ」
「そりゃもう、凄く気持ちいいよ。立ったまま肩まで浸かれるお風呂がこんなに気持ちいいなんて思わなかったよ」
「どれどれ…………うぁーっ…………気持ちいい」
「これ、村に作ったら絶対人気出るよ!」
「あぁ……気持ちいい……」
用足しを済ませた馬達が、恐る恐る浴槽へと入ろうとする。
カーソンは風呂から上がり、馬達の馬具を外して身軽にし、一緒に風呂へと入る。
「ブフンッ……ヒンヒンッ!」
「ブヒィン! ヒンヒンッ!」
「そうだろ? お風呂ってこうなんだ」
「ブフゥッ……」
「フヒィン……」
「あ。今この子達、気持ち良さそうな声出したね?」
「気持ちいい、これ好きになりそうって言ってるぞ」
「あはは! よし、身体洗ってあげようかな?」
「あ、俺もそうする」
「フヒンッ……」
「ブフゥッ……」
馬達はカーソンとクリスに身体を洗われ、目を瞑りながらじっとその身を任せ続けた。
2人と2頭は風呂を済ませるとオストの街へ戻り、冒険者ギルドのセリカへ挨拶にゆく。
「セリカさーん!」
「セリカさん、今日も美人だな!」
「あらっ、分かる? カーソン君も女性喜ばせる台詞、やっと覚えたのね?」
「……あんたいつの間にそんな事覚えたの?」
「ダンヒルが教えてくれた。仲良くしてくれてる女の人に言うと喜ばれるって」
「あんたそれ、初対面の女にも言っちゃ駄目よ?」
「え? 駄目なのか?」
「カーソン君のような色男が手当たり次第に言いまくると、後々クリスが面倒な事になりそうよね?」
「クリスが面倒になるのか?」
「クリスに怒られたくなかったら、あまり言わないほうがいいわよ?」
「セリカさん、お気遣いありがとう」
「ここでまたあなたに暴れられても困るしね、トレヴァの時みたく」
「…………あの時の事、セリカさんの耳にも届いてるんですね」
「ギルドの情報網、なめちゃ駄目よ?」
クリスは以前トレヴァの冒険者ギルドで自分がやった、ひとりで3人の冒険者を叩きのめした過去をセリカも知っていて顔を赤くした。
セリカは1枚の手配書を2人へ見せながら話す。
「今回はあなた達が護衛に行くんでしょ?」
「ん? 何だこれ?」
「キャラバンの護衛……寝食付き往復で……2000ゴールドぉ!?」
「ダルカンでは倍の4000ゴールドで出てるわよ? ま、もし襲撃されても同じ金額だけどね?」
「たっかっ……」
「これ、あの村への護衛手配書か?」
「ええそうよ。出した途端に希望者続出中の、今ギルドで一番人気のある仕事よ」
「そらそうだわ……あたしも飛び付いちゃうよこんなの」
「何でこんなに高いんだ?」
「依頼人はゴードン商店、後は分かるでしょ?」
「こんな大金で雇ってもいいんだ……ゴードンさん凄いなぁ」
「もうね、当面先の分まで予約で一杯よこの依頼」
「うわぁ……備考も凄い事になってる」
「4人までが2000ゴールドで、1人増える毎に500ゴールド上乗せか。何人で護衛しても、ひとり500ゴールドは絶対に貰えるんだな」
「ダルカンだと1000ゴールドよ。相場の倍以上だもの、みんな受けたがって大変よ」
「しかも馬が無い冒険者は馬車に同乗かぁ……条件良すぎるわ」
「みんな何人くらいで受けてるんだ?」
「ほぼ5人ね。馬車1台につき1人、腕前に自信の無い連中は声掛け合って10人で受けてるわ」
「10人……そりゃもう、襲われても大丈夫そうだわ」
「あなた達が2人でやってるほうが逆におかしいのよ」
「そうなのか?」
「あなた達知らないでしょ? もし盗賊が襲ってきてもね、カーソンとクリスって名前出せばみんな恐れて逃げ出すのよ?」
「へ? 何ですかそれ?」
「俺達の名前言えば、盗賊逃げてくのか?」
「何せ暗殺者ギルドがあなた達殺すの諦めたんだもの、盗賊の間じゃ絶対に関わるなって事になってるそうよ?」
「へぇ……ギルドってそっち方面の情報まで手に入るんですね?」
「どう? うちのギルドに入る気になった?」
「ううん、なんない」
「ちっ! カーソン君もしぶといわね!」
「あの……逆にあたしらはセリカさんのほうがしぶといかと思います」
「うちから資金出して弱み握ろうと待ってたのに、翼の民のコインなんて隠し財産持ってたとはねぇ……参ったわよ」
「冒険者ギルドって、何でも知ってるんだな?」
「いやホントにこれ、アホな事出来ないわ」
段々とセリカの本気と冗談との境目を分かり始めてきた2人は、セリカとの会話を楽しむ余裕が出てきていた。
セリカとひとしきり話し終えた2人は冒険者ギルドを後にし、街の外で待機しているキャラバンへと向かう。
キャラバンではゴードンが待っていて、2人を見ると飛んできて握手を求めながら話す。
「いやー、あなた達のおかげでウチは大儲けですよ! 他の店では売っていない作物が飛ぶように売れています。他の商品も沢山売れるわで、大繁盛しております! 本当にありがとう!」
「それは良かった! あたし達も嬉しいです!」
「頑張って次の収穫しないとな!」
「お2人を村に留めなければいけないと言うのに、連れ出してしまい申し訳ございませんでした」
「いえいえ、ゴードンさんも色々と大変そうですもん」
「護衛の依頼、高くてみんな受けてるぞ?」
「それは良かった! 魔物や盗賊に襲われちゃ堪りませんからね、安全をお金で買えるならもう、いくらでも出しますよ」
「でも、お金出し過ぎじゃないですか?」
「いえいえ、あの村から仕入れたスイカが高値で売れていましてね、もう残り僅かなんです。それこそ次の仕入れが届かないほうが大損になってしまいます」
「あのスイカ、そんなに売れてるんですか?」
「そりゃもう、絶対に売れるって確証があったので先にギルドへ護衛の手配をしましたけどね、私の予想を遥かに超えて売れまくりですよ、ははは!」
「あの金額で依頼出しても、スイカが売れるだけで損しないんですか?」
「はい。他の売り上げは全てうちの儲けになりますよ」
「スイカの分も、儲けないといけないんじゃないですか?」
「いやいや、それは商売人が一番考えてはいけない事なんですよ、クリスさん」
「え? 何でです?」
「お客さんはですね、そういう所に凄く敏感なんです。商人が欲を出せば、すぐに気付かれてしまうのです」
「スイカでは儲けなくてもいい……と?」
「ええ。ここを間違えてしまうと、商売は失敗しますからね」
「へぇ……商売って難しそう」
「大丈夫ですよ、スイカひとつからも儲けは出ていますから」
「本当ですか? 損してないならいいですけど……」
「じゃあ、これから村に戻って次のスイカ作っとくぞ」
「あ、そうだね! それじゃ、帰ったらスイカ沢山作って待ってますね!」
「ありがとうございます! やる事を済ませましたら、私もすぐに行きますので!」
ゴードンは大繁盛している自分の店の取り仕切りと、売れなくなって困っている他の店の商人からの苦情の処理を終えたら再び村に行くと約束し、街の中へと戻ってゆく。
2人は村までの護衛に、キャラバンの馬車5台と共にオストから出発した。
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