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廃村復興支援
112 収穫
しおりを挟むその日の夕食はいつになく賑やかだった。
料理人が豪華な料理を振る舞い、全員が夕食を楽しんだ。
夕食後、全員が焚き火の前に集まり、会話を楽しむ。
クリス達はゴードンにせがまれ、冒険の話を皆に語った。
盗賊退治の話、魔物退治の話、暗殺ギルドに狙われた時の話。
非日常的な2人の冒険談を、皆が真剣になって聞いた。
夜が更けて、皆が寝静まった頃、焚き火の前でクリス・カーソン・ダンヒルの3人は語り合う。
「本当に、君達には何て言ったらいいのか……ありがとう」
「そんな気にしなくていいんですよ。あたし達が好きでやったんだから」
「村、早く元通りになるといいな?」
「それはもう、私に任せてくれ。君達の好意、決して無駄にはしない」
「ダンヒルさん、頑張りすぎて倒れないで下さいよ?」
「君達こそだよ。特にカーソン君なんか、とんでもない計画してるし」
「そうか? 噴水にお風呂、水で流せるトイレあったら面白くないか?」
「そりゃ面白いよ。いざ作るには莫大なお金がかかるってのに……」
「ま、こいつがやりたいって言って、自分で作るんだからいいんじゃないですか?」
「俺、作るぞ。だからみんなで図面作ってくれ」
「南側にそんな設備が出来たら、村の目玉になるよ」
「村にやって来る人達の、憩いの場になりそうですよね」
「ユアミにあった温泉いいなと思ったし、ゴルドの噴水もいいと思った。トイレは俺達の住んでたとこがそうだったから、村にも作りたい」
「今まで見てきて、利用してみていいなって思ったものだもんね」
「石鹸はゴードンさんの店で売ってるってよ。お風呂出来たら用意してくれるって言ってた」
「……あんたゴードンさんに、もう石鹸までお願いしてたの?」
「うん」
「カーソン君、くれぐれも無茶しないでくれよ?」
3人は、夜遅くまで村の将来について語り合った。
翌朝、村の復興作業は再開される。
寝起きのカーソンが最初に掘った井戸の前で顔を洗っていると、マーシャが駆け寄ってくる。
マーシャは転んで擦りむいた右腕をカーソンへ見せながら話す。
「オニイチャン。ワタシ、コロンデケガシチャッタノ」
「ありゃ、派手に転んだな。痛いか?」
「ウン。イタイノ……」
「よし、治してやる。ちょっと待ってろ」
カーソンは木桶に汲んだ水にヒーリングをかけ、マーシャの右腕にかけた。
マーシャの腕に出来た擦り傷は、すっと消える。
傷の癒えた右腕を見ながら、マーシャは話す。
「ワッ、イタクナイ。ナオッタ! オニイチャン、アリガトウ!」
「いつでも治してやるぞ。でも、痛いの嫌ならもう転ぶなよ?」
「ウン! ワタシコロバナイ!」
「よしよし」
喜ぶマーシャの頭を撫でながら、カーソンは残った水を地面に撒いた。
再び駆けて行ったマーシャを見送ると、自分の視界に違和感を感じる。
違和感の正体は、先程水を撒いた場所。
いつの間にか、水を撒いた所から青々とした草が伸びていた。
カーソンは突然生えた草に驚いてクリスを呼ぶ。
「わっ!? クリスー! ちょっと来てくれ!」
「なーにー? 呼んだー?」
「呼んだー! 来てくれー!」
「どうしたの? 急に呼び出して?」
カーソンに呼ばれてクリスがやって来た。
カーソンは伸びた草を指差しながら、クリスへ話す。
「見てくれこれ。水撒いたら、いきなり草生えた」
「えっ!? これって……まさか……ちょっと水持ってこっち来て!」
「え?」
「もしかすると……これは凄い事になるかも!」
「おっとっと……水溢れる」
クリスは慌てながらカーソンを連れ、昨日種や苗を植えた畑へやって来た。
畑の苗を指差しながら、クリスはカーソンへ話す。
「ねえカーソン、ちょっとここに水を撒いてみて」
「ん? 分かった、ここだな?」
「そそ。その苗にさ、セカンダリ念じてかけてみてよ」
「うん…………よっと」
「あっ……やっぱりそうだ」
昨日植えた苗にウンディーネの水をかけた。
水をかけられた苗はみるみると育ち、あっという間にトマトが実る。
実ったトマトを見たクリスはカーソンを抱きしめ、頭を撫でながら話す。
「あんた、本当に凄い……凄いよ。偉いっ!」
「これ、何が起きてるんだ?」
「あんたのさ、水のセカンダリ……とうとう発動したのよ」
「これ、俺のセカンダリなのか?」
「そう。これって豊穣の水よ!」
「ほうじょうのみず?」
聞き慣れない単語に、カーソンは首をかしげた。
もぎ取ったトマトを食べながら、クリスは話す。
「うん、みずみずしくて美味しい。あんたさ、谷の食糧……特に穀物が不足した事無いの、不思議に思わなかった?」
「うーん……言われてみれば、肉や魚は無かったけど、パンが無い時は無かったな?」
「それはね、この力を持った人が谷に居たからなのよ」
「そうなのか?」
「谷の狭い土地で、何でパンが無くならなかったか分かる?」
「あっ! この魔法で小麦がすぐ出来たからか?」
「当たり! あんた本当に凄い! プライマリでもおかしくない魔法よこれ!」
「これが俺のセカンダリか! でも、どうして今頃になってセカンダリが発動したんだ?」
首をかしげるカーソンに、クリスは食べかけのトマトを手渡しながら話す。
「あれよ! あんた井戸掘った時にウンディーネも強くなったって言ってたでしょ!」
「もぐもぐ……んぐ。そうか、あの時に能力が上がったのか」
「きっとそうだよ!」
「おおーっ……水かけた苗、どんどん大きくなって実つけてくな」
「ディザードといいウンディーネといい、あんたこっち方面の天才だわ。
よし! 南の噴水は後回しにしよう!
今から井戸の前でずっとウンディーネ呼び続けてちょうだい!
あたし今からダンヒルさんに報告してくるね!
行く途中にあたしも言うけど、井戸で誰かに会ったら畑の苗に水撒いてって言ってね!」
「うん、分かった」
クリスは南側の整地計画を立てているダンヒルとゴードンの元へと走った。
カーソンは井戸へと向かい、井戸端で水を汲んでいる人達へ事情を話し、畑の苗へ水を撒いて欲しいと頼み込んだ。
ダンヒルの家の扉を開けたクリスは、議論しながらテーブルの上にある紙に図面を書き起こしているダンヒルとゴードンへ声を弾ませながら話す。
「ダンヒルさん! ゴードンさん! 村の作物、もう出荷出来ますよ!」
「ええっ!? そんな馬鹿なっ!?」
「いやいや! 昨日植えたばかりじゃありませんか!?」
ダンヒルとゴードンはクリスの話を聞いて、耳を疑う。
クリスが何かを勘違いしていると思った2人は、言葉を選びながらクリスへ話す。
「クリスさん、作物ってのは……そんな簡単に育ちませんよ?」
「そうですよ? たった1日で出来たら、街でも作れてしまいますよ?」
「いくら早くても、最低1ヶ月以上はかかるのですよ?」
「誰かが持ってきた食糧を畑に置いて、イタズラしたのではありませんか?」
「いえいえ! ホントですってば!」
「いや……流石にそれは無いかと」
「いくら何でも……有り得ませんよ?」
「今から一緒に畑へ来て下さい! ホントですから!」
「は、はぁ……」
「うーん……行きましょうか」
「早く早くっ! ここ来る途中で会った人達にお願いして、今どんどん作って貰ってますから!」
ダンヒルとゴードンは、半信半疑のままクリスと共に畑へと向かった。
クリスは2人へ畑を指差しながら話す。
「本当ですよ! ほらっ!」
「こっ……これは?」
「畑が……緑に満ちている……」
「みんなにお願いして、沢山育てて貰ってます!」
「育てるの……次元が違いますよこれ……」
「本当に……作物が出来てる……」
畑には水を撒き続ける人達が居た。
水を撒いている人達も、みるみる育つ作物を信じられない目で見つめている。
茫然としているダンヒルとゴードンへ、クリスは話す。
「ねっ? 本当でしょ?」
「……信じられない。これもあなた達の魔法ですか?」
「魔法使いとは……こんな事も出来てしまうのですね……」
「そそ。とは言ってもあたしじゃなくて、今井戸で水に魔法かけてるカーソンの力ですけどね」
畑にやって来たダンヒルとゴードンは収穫した作物を手にし、見定めながら話す。
「何年も放置したままで……畑としてもまだ出来上がっていないのに……」
「これは……何とも立派に育ったトマトだ。これなら、ウチの店で自信をもって売ることが出来ますよ」
「と、言うわけでダンヒルさん、ゴードンさん。畑に人員増やして貰えませんか?」
「わ、分かりました。どんどん耕しましょう」
「実も葉物も……根菜までも次々と出来ている……」
「種や苗を植えて、水かけちゃえばじゃんじゃん収穫出来ますよ!」
ゴードンはトマトを手にしながらふと思いつき、クリスに聞く。
「クリスさん。もしやそれは、何でも収穫出来るという事ですか?」
「はい! 種さえあれば、季節外れの物でもちゃんと育ちますよ!」
「苗木を植えれば……リンゴまで?」
「もちろん! 何でも出来ちゃいます!」
「ほっ、本当ですかっ!? もしそれが本当なら……ウチは大儲けですよっ!?」
「わぁっ! それじゃ、村にも沢山お金が入るんですねっ?」
クリスは喜ぶ。
それ以上にダンヒルは喜んだ。
一番大喜びしたのはゴードンだった。
畑の中で浮き足立ちながらゴードンは話す。
「これは急がないと! 店で取り置いている種、全部持ってこないとっ!」
「あはは! そんなに焦らないで下さいよゴードンさん。種はここで出来たものから取り出せばいいんですし」
「そ、そうですね!」
「ダンヒルさん、思ったより早く村は復興出来そうですね?」
「あ……ああ。まるで夢でも見ているようだよ……」
「それじゃ、あたしカーソンの所に行ってますね! 人の手配、よろしくお願いします」
目を輝かせながら畑を見つめる2人をその場に放置し、クリスはカーソンの元へと向かった。
カーソンは井戸の前に座りながら、マーシャと一緒に地面に字を書いていた。
マーシャはクリスに気付き、駆け出してクリスに抱きつきながら話す。
「オネエチャン!」
「マーシャお腹減ってない?」
「ウウン! ヘッテナイヨ!」
「そかそか。カーソンと2人で何してたの?」
マーシャはカーソンから字の書き方を教わっていた。
「アノネ! オニイチャンガネ、ジ、カクノネ、オシエテクレテルノ!」
「本当? 良かったね! カーソン、ここでマーシャのお守りよろしくね?」
「なあクリス。俺、ここでじっとしてていいのか?」
「いいに決まってるでしょ。あんたここから離れちゃ駄目よ?」
「みんな動き回ってるのに、俺だけここに居ていいのか?」
「何言ってんのよ。あんたが村復興のカギ握ってるんだから。頑張ってウンディーネ呼び続けてね?」
「分かった。オド無くなるまで頑張る」
「おっと、そうだった。オド無くなりそうになったら、あたしの事呼んでね。あんたのオドは、あたしが何とかしてあげるから」
「本当か? 一体、どうやるんだ?」
「……秘密よっ!」
カーソンとクリスが井戸端で話していると、遠くから2人を呼ぶ声が聞こえてきた。
声のした方を振り向くと、村の西側から見覚えのある異国の服装をした男女がこちらへ走ってきている。
暗殺者ギルドの長右衛門と詩音だった。
「おおーいっ! カーソン殿ぉーっ! クリス殿ぉーっ!」
「ちょっ、長右衛門さん!? それに詩音さんもっ!?」
「おわ、長右衛門と詩音が村に来た!」
2人の元へとやって来た長右衛門と詩音が話しかけてくる。
「詳細は詩音から聞いた。拙者達も村の復興、お手伝いしても良いでござるか?」
「お前達の事をお伝えしたら、長右衛門様は是非にと」
「ヒノモトでは畑仕事もこなしていたでござるよ! 是非拙者にもやらせて下され!」
「そ、それは嬉しいですけど……あの、お仕事は?」
「はっはっは。ギルドからは暇を頂いて参った。さあ、何でもやらせてくれ!」
「じゃあ、長右衛門に詩音。畑に水撒いてくれ」
「おおっ! これは拙者の腕を治してくれた、面妖な水でござるな?」
「……承知した」
長右衛門と紫音は井戸から木桶に水を汲み、畑へと運んでいった。
クリスは茫然としながら話す。
「え……えぇー……ウソでしょ? あの2人が手伝いに……なんて」
「あいつら、やっぱり悪い奴じゃなかった。俺、嬉しいぞ」
「おおーっ! 何でござるかこれは!? すぐに出来たでござるよ!」
「これは……実に面白い」
長右衛門と詩音は、村人達と楽しそうに笑いながら畑へ水を撒き、次々と実る作物に驚いていた。
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