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廃村復興支援
111 復興
しおりを挟む村ではマーシャが北側の高い丘の上で2人の帰りを心待ちにしながら、ずっと遠くを眺めていた。
マーシャの瞳に、遠くで動くものが映る。
マーシャは丘を駆け下り、農作業をしているダンヒルへ叫ぶ。
「オトウサーン! キタ! カエッテキタ!」
「お! 帰って来たのか?」
「ウン! オウマサン、タクサンキタ!」
「沢山?」
遠くから大商隊が段々と村へ近付いて来る。
集団の先頭では、クリスが村に向かって手を振っていた。
「オネエチャン、テフッテル! オネエチャーン!」
「なっ……何だあの集団は!?」
マーシャは両手を目一杯振り、ダンヒルは自分の目を疑った。
今まで見たことも無い規模の大商隊が、村へと向かって行進をしてきている。
やがて大商隊は村へと到着した。
カーソンとクリスは馬から降り、ダンヒルへ話す。
「ダンヒルさん! 遅くなってごめんなさい。資材、運んで来ました!」
「沢山買ってきたぞ!」
笑顔で話す2人にダンヒルは、未だ信じられない顔で言葉を詰まらせながら話す。
「……あの……これ、全部2人のお金で買ってきた……のですか?」
「そうですよ! これ全部、村に必要な資材です!」
「ゴードンさんって人がな、全部用意してくれたぞ」
「……何とお礼を言ったらいいのか……私にはもう……」
ダンヒルは感動して言葉を詰まらせた。
荷物を降ろす作業を呆然と見つめるダンヒルの前に、ゴードンがやって来て話しかける。
「ダンヒルさんですね? お話はクリスさんから伺っております。私はゴードン、この村と商売の取引にやって来ました」
「と……取引だなんてそんな…………何も無い村なのに」
「何を言っているのですかダンヒルさん。カーソンさんとクリスさんが買ってきたこの資材で、この村を大きくするのがあなたの使命なのですよ?」
「それは……確かにそうですが……」
「この村で生産される家畜や作物、当方で仕入れさせて頂きます。つきましては、本店のオストと支店のダルカンとのルートを契約して頂いてもよろしいでしょうか?」
「いやしかし……今はまだ何も出荷出来ないのですが……」
「ダンヒルさん。商売とはですね、他の店に負けない早さが大事なのです。この村とウチとの契約を誰よりも早くする為に私は飛んできたのです。お願いします。当方と契約させて下さい」
「そ、そこまでおっしゃるなら……喜んで!」
ダンヒルとゴードンは握手をし、書面に契約を交わした。
クリスは2人のやり取りを横で見届けた後、周囲に向かって叫ぶ。
「さ、商売の契約も済んだ事だし、いよいよこの村の復興始めるわよ!」
「みんなで頑張ろうな!」
「おおーっ!」
「やりましょう!」
村の人々、大商隊でやって来た人々、共に掛け声を上げた。
それぞれが作業を始める中、クリスはカーソンを連れて村の中を歩きながら話す。
「井戸がひとつじゃ足りないよね。新しく何ヵ所か掘っておきましょ」
「そうだな! ひとつだと不便だしな」
「あの井戸が村のほぼ中央だから、東と南にもあると便利よね」
「北は?」
「北はちょっと高いから。あっちにも畑作るって決まったら掘ろう」
「うん、分かった。それじゃ、この辺でいいか?」
「よろしくね?」
カーソンはディザードを呼び出し、井戸を掘り始めた。
作業を見守るクリスの元へマーシャが駆け寄ってきて、聞く。
「オニイチャン、ナニシテルノ?」
「新しくお水の出る所、掘っているのよ。危ないから近づいちゃダメよ?」
「アブナイノ? ナンデ?」
「穴に落ちたら大怪我しちゃうよ?」
「オニイチャン、アナノナカイルヨ? オオケガシナイノ?」
「あいつ頑丈だから大丈夫よ? 一緒にダンヒルさんのとこに行こっか?」
「ウン!」
クリスはマーシャを連れ、ダンヒルの元へ向かう。
「ダンヒルさん。東側に新しい井戸掘っているので、周りの設備作って貰えますか?」
「よしきた! 任せてくれ」
ダンヒルは男達を連れ、カーソンの元へ向かって行った。
クリスは農作業の道具を担いで、マーシャと共に、畑を耕す女性達の元へ向かった。
「さて、あたしは畑を耕すか!」
「ワタシモヤル!」
「頑張ろうね?」
「ウン!」
大商隊でやって来た人足達は村の南西部に家畜の柵を作っていた。
村の復興は少しずつ進んで行く。
クリスは農作業の手を休め、マーシャを連れてカーソンの元へと行く。
ダンヒル達が穴の周りに石を組んでいる所へ、クリスは話しかけた。
「ダンヒルさん、どんな感じですか?」
「はははっ、カーソン君に負けたよ」
「? 負けたって?」
「水が出る前に組もうとしたんだけどね、もう出し終わっちゃったよ」
「へっ!? あ、ホントだ」
「ある程度まで掘ったら、西の井戸に向かって横に進んだそうなんだ」
「あ。繋げたんですね?」
「何でもウンディーネさんから、そうしたほうがいいって言われたそうだよ?」
「水の精霊がそう言ったんですね?」
「新しく水脈と繋げてしまうと元の井戸の水位が落ちるそうでね、同じ井戸から水を引いたほうがいいって言われたそうなんだ」
「へぇ、水の精霊が言うんだから……そうなんですね」
「それでカーソン君、何かを思いついたようでね、ゴードンさんと一緒に南へ行きましたよ」
「あいつと南にも掘ろうって言ってたんですよ。何思いついたんだろ?」
「ゴルドにあった噴水を作りたいって言ってましたよ?」
「噴水!? また無茶な事思いついたのね……あいつ」
クリスはマーシャと共にカーソンの居る南へと向かった。
村の一番低い南側で、カーソンはゴードンとしゃがみながら話し込んでいた。
クリスは話し込んでいる2人へ声をかける。
「カーソンお疲れ様! ゴードンさんと何話してんの?」
「お、クリスいいとこに来た。今ゴードンさんと話してたんだけどな、この村にも噴水作りたいんだ」
「作りたいのは分かるけど、出来んの?」
「んでな、ゴードンさんにどうすればいいか聞いてたんだ」
「いやぁ、カーソンさんが魔法使いだったとは……あんな簡単に井戸を掘っちゃうとは驚きですよ」
「俺、穴掘るの得意だぞ。ディザードも喜んでる」
「ゴードンさんどうです? 出来そうですか?」
「噴水は出来ますよ。ここから南へ水を逃がせればですけどね」
「水を逃がす?」
「ええ。いやはや、カーソンさんの発想は実に面白い」
「? 何て言ったんですかこいつ?」
「噴水から下流に向かう水路を利用してトイレを、噴水の横には大きな浴場を作りたいと。ははは」
「何とまぁ無茶な事を……」
「いやぁ、実は可能なんですよこれがまた。ここから南の状況次第ですけどね」
「出来るんですか!?」
「ええ、南へ流す水をどうにか出来れば可能です」
「…………あ。ゴードンさん、南は崖になってるぞ」
「え? カーソンさんご存じなんですか?」
「今、風の目で見てきた。深い崖になってて、下に川が流れてるぞ」
「今……見てきたとは?」
「あ、ゴードンさん。こいつね、遠くを見れる魔法も使えるんですよ」
「カーソンさん……あなた、土木工事で財産稼げますよ?」
ゴードンはカーソンの能力に目を丸くして驚いた。
カーソンは地面に小石で図面を書き起こしながら話す。
「今ここだ。ここからずっと先、崖になってる。
んで、ここに噴水作って……噴水から横に水持ってってお風呂。
噴水から下に流れる水でトイレを……3つくらい?
水はトイレ通りすぎて全部崖下の川に流したい。
お風呂のほうも流す水はトイレのと繋げたいけど、どうだ?」
カーソンの図面を見ながらゴードンとクリス、マーシャは話す。
「ふむふむ。トイレに送る水路は直角ではなく、こうして枝のように斜めで分岐すると良いでしょうね」
「お風呂のほうはこうかな? 水をお湯にする為の釜場も作らなきゃないし、それとは別にお風呂場にも水は必要だからね」
「オニイチャン。ワタシ、フンスイマルイノイヤ。シカククシテホシイノ」
「マーシャは噴水出るとこ、丸いの嫌なのか?」
「ゴルドミタイデイヤ」
「あ、そうか。ゴルド思い出しちゃうんだな?」
「ウン。シカクイノガイイナ」
「そうか、分かった。四角くしような?」
「ウン!」
「俺、お風呂こんな風に……階段みたいにして深くしていきたい」
「おお、それは面白いですな」
「一番深いとこは立ったまま入るのね? それいいね!」
「ワタシオボレナイ?」
「溺れる深さまで行かなきゃいいじゃないか」
「ア、ソッカ」
「もしもの為に、手摺を付けたほうが良いでしょうね」
「そうですね。排水はどうします?」
「一番深い所の底へ穴を開けて、全て抜けるようにすると良いでしょう」
「じゃあ、大きい穴だと人吸い込まれるな。小さい穴にしなきゃないか」
「あんた掘る穴だと大きすぎない?」
「小さい穴も掘れるぞ。俺が進めないから大きく掘ってるだけで、ディザードが俺行かなくても掘れるって教えてくれた」
「あ、そうなの?」
「うん、俺は風の目で見ながら掘ればいいみたいだ。水の中はウンディーネも協力してくれるって」
「へぇ……協力してくれるんだ?」
「属性違っても仲良しだってよ」
「そうなんだ?」
「うん。契約者の力になりたいから、仲良くしてるって言ってるぞ」
カーソンの立てた案はどんどん進む。
ゴードンは腕を組みながら唸る。
「穴や水路を掘る作業はカーソンさんひとりで大丈夫そうですね。しかし、問題は……ううむ……」
「? 何か問題あるのか?」
「井戸と違って、常に水流が出来てしまいますからね。水流で水路や排水路が崩れないようにしなくては」
「それも大丈夫だと思うぞ」
「え? あんた何かあんの?」
「うん。最初に井戸掘ってた時にディザードのセカンダリ出て、ずっと一緒に使ってた」
「ホント!? どんなの?」
「土とかをうんと硬くする硬石化って魔法らしいぞ。ディザードは水くらいじゃ崩れないって言ってたから、掘ったとこ全部固めたぞ」
「何とまぁ……あんたの土の魔法ってホントに土木工事向きだわね」
「ウンディーネが言ってたけどな、契約者の性格で覚える魔法がみんな同じにならないってよ」
「あ。だからあたしの魔法、剣に付与される魔法に片寄ってんのかな?」
「そうかもな?」
「なるほど、あんた本来戦うの嫌いだもんね。だから戦闘向けの魔法が火しかないんだね」
「うん。でも便利だぞ」
「そりゃもう、便利すぎて末恐ろしいわ」
「ではカーソンさん。作業に入る前にみんなで議論して、図面を作りましょうか」
「そうですね。色んな意見を纏めて、ちゃんと図面に書いてから掘ったほう良さそう」
「うん、分かった」
ゴードンが後々不具合が起こらぬよう、正確に設計してから作業しようという提案に、カーソンとクリスは頷く。
夢中で話し込んでいる間は気付かなかったが、いつの間にか夕暮れが迫っていた。
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