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廃村復興支援
110 希望
しおりを挟む2人はメモに書かれた住所へとやってくる。
店の入り口には商人の男がひとり、通行人相手に売り子をしていた。
クリスは店の佇まいに圧巻されながら話す。
「……ここって、街で一番大きなお店じゃないの……」
「はいはい、いらっしゃい。何をお探しで?」
「あ、あの。ギルドの紹介でやって来ました。これ、紹介状です」
「おー、冒険者ギルドさんの紹介ですか。いつもご贔屓に」
「ギルドに聞いたら、こちらを紹介されました」
「よろしくな」
「毎度ありがとうございます。ご入り用は何でございましょう?」
「廃村の復興に必要な資材が欲しいんです。これで足りませんか?」
クリスは有り金全て入った財布を商人へ手渡した。
商人は袋を受け取り、テーブルの上に出して勘定しながら話す。
「ふむ、どれどれ。10万ゴールドちょいですか……」
「どれくらい買えますか?」
「うーん、これだと道具や苗とかは買えるけど、家畜までは買えないなぁ。何より、当面の食糧だって必要でしょう?」
「……何とかなりませんか?」
「村って、ここから南東の廃村でしょう? 私も近く通った事あるけど、あの村を何とかするには……そうだなあ、再び村として最低限使えるようにする為には……いくら安く見積もっても100万ゴールドは必要かなぁ?」
「ひゃっ……100万ゴールド!? ぜんぜん足りない……」
「10万ゴールド分買って頂いて、運搬費用を無料にするのがウチの精一杯ですかねぇ……」
「そうですか……」
「多少おまけはしますよ?」
商人は渡された資金が少ないながらも、精一杯の努力はすると言う。
クリスはがっくりと肩を落としながら話す。
「じゃあ、10万ゴールド分だけでもお願いします」
「あ、ちょっと待ったクリス」
「ん? どしたの?」
「なあ、クリス。ローラ様から貰ったこれ、ゴールドに出来ないか?」
カーソンは右胸のポケットに入れていた小さな袋から、1枚の虹色に光るコインを取り出した。
カーソンが手にしたコインを見た商人の目の色が変わる。
「……お客さん。それ……ちょっと見させて頂けませんか?」
「ん? これか? はい」
「ありがとうございます…………むむむっ……」
商人はカーソンからコインを預かると、手を震わせながら話す。
「このコイン……もしや翼の民のコインではありませんか?」
「ん? おじさんこのコイン、知ってるのか?」
「知ってるも何も、遥か昔翼の民と私達人間の間で交流があった時に、翼の民側が使われていたコインでは?」
「うん、貰うときそう言ってたぞ」
「大変失礼ですが……これをどうやって手に入れなさりました?」
「ああ、旅に出る時にローラ様から貰っモガモガっ!?」
カーソンが言いかけた所をクリスが咄嗟に口を塞ぎ、答える。
「ろ、ローラっていう翼の民を助けた時に、お礼に貰ったんです!」
(ローラ様、ごめんなさい!)
クリスは心の中でローラに謝った。
商人はふむ、と頷くと話を続ける。
「あなた方は冒険者、きっと本当に翼の民と出会い、これを貰ったのでしょう。私も現物を見るのは初めてですが、言い伝え通りな翼の形状が刻印されている化粧面とこの鮮やかな光沢……恐らく本物に間違い無いでしょう」
「そのコイン、売るって言ったら……いくらで買い取って頂けますか?」
恐る恐る買い取り額を聞いたクリスに、商人は答えた。
「そうですね、100……いや、150万ゴールド出しましょう」
「ひゃっ……150万ゴールド!? そ、それじゃあ?」
希望額以上の価格へ喜ぶクリスに、商人はニッコリと笑顔で答える。
「はい。復興に必要な物資や家畜全てと、村の交易に必要な馬車を1台。
それに1ヶ月間の労働人足をお付け致します。
村への入植希望者の募集もこちらで手配しましょう。
どうでしょう? このコイン、私に売って頂けますか?」
嬉しさのあまり、クリスはカーソンに抱きつきながら話す。
「はい! よろしくお願いします!」
「お取り引きありがとうございます」
商人は腕捲りを始め、店の者をかき集める。
「さあ! そうと決まれば早速手配だ!
お前達! 久しぶりの大商売だ!
大商隊の準備だよ!
これからリストに纏めるから、手分けしてかき集めとくれ!」
商人はテキパキと手配を始めた。
呆気にとられる2人に、先程クリスから預かった財布を返す商人。
「カーソン様にクリス様。
明日の朝には全て手配をしておきますよ。
どうぞ今夜は宿屋でお休みになって下さい。
明日、一緒に廃村へ出発しましょう」
商人は鼻歌を歌いながら、店の奥へと走っていった。
カーソンとクリスは、慌ただしく動き回る商人達へお礼をしながら、店を出た。
「良かったな、クリス」
「うん。何か、商人って凄いね」
「ローラ様にありがとう言わなきゃな?」
「ローラ様、こうなりそうだと見越してあのコイン渡して下さったのかな?」
「かもな? お金に困らなくて良かった」
「そうだね。ギルドからお金借りずに済んで良かったよ」
2人は明日を楽しみにしながら、宿屋へと向かった。
翌日、朝早く宿を出た2人は商店へと向かう。
店では昨日の商人が2人の到着を待っていた。
「おはようございます、カーソン様にクリス様。
ご依頼の品は馬車に積み込んで街の外に待機させております。
ささ、参りましょう。お前達、留守番頼んだよ?」
「はい! 行ってらっしゃいませ、旦那様」
店員は商人の男に旦那様と言い、頭を下げて見送った。
クリスは商人に聞く。
「旦那様って事は……店長さん!?」
「はい。この街で商いをさせて頂いております、ゴードンと申します」
「てっ、店長さんとは知らず、失礼しましたっ!」
「いえいえクリス様。私はただの商人ですよ?」
ゴードンは満面の笑みで2人に話す。
「私は昨日ほど商売していて良かった、と思った日はありませんでしたよ」
「あのコインですか?」
「ゴードンさん、あのコイン欲しかったのか?」
「はい。あのコインは、我々商人の間では幻の品なのです。それを手に入れる事が出来たなんて、夕べは興奮して眠れませんでしたよ。ははは」
「幻のコインだったんですか?」
「ええ。翼の民との交流が途絶えてから数百年、喉から手が出るほど欲しくても、もうあのコインは入手不可能だと思っておりましたよ」
「ゴードンさんが買ってくれて、村の資材売ってくれて俺達も嬉しいぞ?」
3人は街の入口まで歩きながら話した。
クリスはゴードンの行動力に感心しながら話す。
「でも、150万ゴールドなんて大金ポンと出せちゃうゴードンさん、凄いですね?」
「いえいえ、コインが欲しかったのもありますが、何よりあなた達の熱意を買ったんですよ」
「あたし達の……熱意?」
「ええ。廃村の復興だなんて、あなた達冒険者には1ゴールドの得にもならないでしょう?
それなのに、あんな一生懸命になって、全財産を使おうとした。
私はお2人の自己犠牲も厭わない熱意に感動したんです。
だから、あなた達の熱意も込みで150万ゴールドで買ったんです」
「そう言って頂けると、何か嬉しい。あたし達もゴードンさんからお買い物出来て良かったと思ってます」
「それにね、ここだけの話……村が復興すると商品の仕入れ先が新しく出来る。ウチにとっても良い話なんですよ」
「あ、そうか。村から食糧買ってくれるんだな?」
「ええ。まだ他の商人達には知られていませんからね、一番乗り出来るなんて嬉しくてしょうがありませんよ」
ゴードンは廃村復興後の取引まで見越し、2人からの商談に乗っていた。
3人は街から外へ出る。
そこには今まで見たことも無い程の大商隊が、主役の到着を今や遅しと待っていた。
商人が2人、2頭の馬を引き連れてやってくる。
ゴードンは2頭の馬を紹介しながら2人へ話す。
「聞けば馬を失ってしまったとの事。
僭越ながら、当方でご用意致しました。
この2頭、どうぞ末永くお使い下さいませ」
「わあっ! ありがとう、ゴードンさん!」
「おおーっ! 馬くれるのか!? ありがとう!」
カーソンとクリスは馬へ駆け寄り、たてがみを撫でながら馬へ話しかける。
「あたしクリスよ! よろしくね!」
「俺カーソン! 仲良くしていこうな!」
「ヒヒンッ ヒンヒンッ ヒンッ」
「ブヒヒンッ ブルルッ ブヒヒン」
「おおーっ、そうだったのか! あいつらには可愛そうな事したけど……お前達が来てくれて良かった」
「この子達、何て言ったの?」
「殺された俺達の馬、ずっと馬屋で俺達の事自慢してたって。とても優しい友達だって」
「他の馬にまで自慢しててくれたのは凄く嬉しい……ますます殺されたのが悲しいよ」
「でな、俺達の新しい馬になれるって聞いて、他の馬達と誰がなるかって喧嘩になったってよ」
「ありゃまっ! 喧嘩になったの?」
「んで、自分達が呼ばれて凄く嬉しいって」
「そりゃ大変。あなた達の期待に応えなきゃないわ」
「これからよろしくな?」
「ブヒヒンッ」
「ブフンッ」
馬達は目を細めながら、カーソンとクリスへ顔を擦り付けた。
ゴードンは2人の会話にうんうんと頷きながら話す。
「道理で馬達が荒々しかった訳ですね。まさかお2人に所有されるのを望んで暴れていたとは、思ってもみませんでしたよ」
「あれ? ゴードンさんはこいつが馬と話せるの、不思議じゃないんですか?」
「いえ、不思議ですよ? しかし、馬同士で揉めていたのは事実ですのでね、馬達がそう言っているのであれば納得ですよ。ははは」
「馬を失ってみて初めて、その有り難さを実感しました」
「俺達、もう絶対にこの馬殺させないぞ」
「可愛がって下さいね? あ、そうそう! 大事な事忘れる所でした」
「? 大事な事って?」
「大事な事、って何だ?」
「いえね、この大商隊の護衛を冒険者ギルドに依頼したんです。そしたら受付の女性がね、カーソンさんとクリスさんを送ると言ったんです」
ゴードンは2人へにっこりと微笑んだ。
「あはは。それじゃあたし達、しっかり護衛しますね!」
「任せろ!」
「よろしくお願いしますね。よいしよっ……と」
馬車へと乗り込むゴードンへ、クリスは驚きながら話す。
「ええっ!? ゴードンさんも一緒に行くんですか!?」
「はい。新しい仕入れルートの交渉ですので、私が行かないと。それに、ギルドから信頼されているあなた達の護衛、これ程安全な旅はありませんよ」
ゴードンは笑いながらキャラバンに出発の合図を出す。
こうしてオストから廃村へ向けて、大商隊は移動を始めた。
クリスは馬に乗りながら、カーソンと話す。
「このまま順調に行けば、夕方前には村に着けそうね?」
「盗賊とか魔物、出て来なければいいな?」
「ねえ、カーソン?」
「ん? 何だ?」
「あんたさ、今回のあたしの行動にあまり反論してないけど、本当は人間に構い過ぎてると思ってるんじゃない?」
「そんな事無いぞ?」
「本当に? 有り金全部使おうとしたのよ? 宿屋にも泊まれなくなってたかも知れないのよ?」
「お金無くなったら、またギルドで仕事貰えばいいじゃないか」
「…………ありがとね」
「今クリスがやってる事、俺も良い事だと思ってる」
カーソンはクリスの行動力に、心の底から惚れ込んでいた。
昼頃、馬車からゴードンが2人へ話しかけてくる。
「おーい、お2人さん。そろそろ昼食にしませんか?」
「はーい。それじゃあ、あたしゴハンの準備しますね」
「いえいえ、料理人も連れて来ているので大丈夫です。馬車の中でもう調理は済んでますよ」
「本当に!? 助かります!」
「俺も腹減った!」
キャラバンは行進を停め、昼食を食べ始める。
クリスは村の事が心配で、食事にあまり手を付けていなかった。
カーソンは気にかけて、クリスに話しかける。
「どうしたクリス? ゴハン、あんまり食べてないぞ?」
「………うん。マーシャ達、ちゃんとゴハン食べてるかなー? と思って」
「大丈夫だろ。食料が足りなかったら、狩りしてるだろ」
「……そっか! そうだよね。狩り、してるよね」
「マーシャ俺より強いからな。何か捕まえて食べてると思うぞ?」
「あはは! そうだね!」
クリスは安心したのか、食事の手を進めた。
食事を終えると、キャラバンは再び村に向かって行進を始めた。
クリスは元気に叫ぶ。
「よーっし! 村へ向けて、しゅっぱーつ!」
「これ持ってったら、ダンヒル何て言うだろうな?」
「ダンヒルさんの驚く顔、早く見たいね!」
「そうだな!」
2人はゴードンへ報告し、ゴブリンの住む森を迂回するように廃村へと行進を進めた。
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