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廃村復興支援
106 廃村へ
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カーソン達は、南東の廃村へ向けて歩き始める。
一行の足取りは重かった。
ゴルド町の姿は、カーソン達の背後からなかなか消えない。
誰も一言も話さず、ただひたすら歩き続けた。
夕闇が迫る頃、ようやくクリスが口を開いた。
「さ、今日はここでゴハンにしましょう。カーソン、暗くなる前に薪集めよろしくね。マーシャも手伝ってくれる?」
「分かった。マーシャ、行くぞ?」
「ウン! オニイチャン!」
「みなさんお疲れ様です! 今日はここで野宿しますね!」
クリスは明るく振る舞い、周りの人々を元気付けようとした。
カーソンはマーシャを連れ、近くを歩き回りながら薪を拾う。
荷物の回りに腰掛け用の石を運びながら、ダンヒルが重い口を開く。
「こんな事になるなんて……君達に迷惑をかけた。申し訳無い」
「いいんですよ! あたしらがそうしたくてやった事ですから。火をかけた町長が全部悪いんです。ここに居るみんな、誰も悪くないんですよ!」
クリスの発言は、自身にも言い聞かせようとして話した言葉だった。
クリスは食材を切り始める。
住人の女性達も参加してきた。
そこへ、カーソンとマーシャが薪を集めて帰ってきた。
「オネエチャン、タキビモッテキタ!」
「わぁ。ありがとうマーシャ。えらいえらい」
クリスはマーシャを撫でて、リンゴを渡す。
マーシャはリンゴを貰い、喜んで食べ始めた。
石で組んだかまどに薪を置き、火種で火をつけながらクリスはカーソンに話す。
「人数分調理するには足りないわね。カーソン、もっと薪集めてきてよ」
「分かった。もっかい行ってくる」
「それなら私達が集めて来よう。カーソン君はマーシャを見ながら休んでてくれ」
カーソンへマーシャの見守りを託し、ダンヒル達男衆は薪を集めに行った。
調理道具を加熱しながら、クリスは悩む。
「うーん……調理器具が小さいから、一度に全員分は作れないわね」
「オネエチャン! リンゴ、ゴチソウサマデシタ!」
「美味しかった?」
「ウン!」
「晩ゴハンはもっと美味しいわよぉ? 待っててね?」
「ウン!」
「よし、先にマーシャ。後は順番に食べて貰って、その都度作るかぁ」
「オネエチャン、ナニツクルノ?」
「マーシャは何が食べたい?」
「ウントネ? エットネ? オイシイノ!」
「任しといて!」
水袋の水を使い、クリスは母直伝である肉と野菜の煮物を作る。
食事はマーシャを先に、お腹がいっぱいになるまで食べさせた。
「オネエチャン、モウ、オナカイッパイ」
「本当? もう食べられないの?」
「ウン、オナカイッパイ」
「よし。それじゃあ、次は女性陣どうぞ」
「いえ、先に男性陣に食べさせて下さい」
「私達にも作らせて下さい。しばらく作ってませんでしたので」
「こんなに沢山の食材……何を作ろうか迷いますね」
「ゴミ箱から持ってくる食材なんかじゃなく、とても新鮮で作り甲斐がありそうです」
「あ、ではすみませんが……お任せしてもいいですか?」
「ええ、任せて下さい」
女性陣は久しぶりにまともな食材で調理出来ると喜んでいる。
クリスは彼女達の希望を尊重し、調理を任せた。
女性陣は今までくすぶっていた料理の腕前を披露し、夕食を作る。
クリスは女性陣の手際の良さに感心しながら話す。
「おおーっ! 同じ材料なのに、全く違う料理になってる」
「私達もクリスさんの料理に、そう思ってましたよ」
「へぇ……油たっぷり使うんですね」
「本当はもっと沢山使って、揚げるんですよ?」
「揚げる?」
「私達の村では水が貴重でしたから。こうして油で調理して、水を節約していたんですよ」
「煮物に使う水すら貴重だったんですか?」
「ええ。だからクリスさんの煮物、味見しましたけど、とっても美味しかったですよ?」
「良かった! へえ、住む場所違うと、食べる料理も違うんですねぇ……」
「そうですね。はい、出来ました」
「あの、ちょっと味見してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「いただきまーす」
「どうです?」
「……美味しい。油で作る揚げ物って……ホクホクしてて美味しい!」
「うん! これ旨いな!」
「え? 何であんたも味見してんのよ?」
「俺にもくれた。旨い! 揚げ物旨い!」
「良かった! もっと作りますね」
女性陣は肉や野菜に小麦粉をまぶしたものを油の張ったフライパンへ入れる。
ジュワジュワと音を立てながら加熱されてゆく食材。
クリスは作り方をじっと見つめ、自分も習得しようと見て学んだ。
クリスは女性陣へ聞く。
「この料理、作る時に何か気を付けなきゃない事ってあります?」
「油の温度はなるべく高くですかね。温度が低いと油切れが悪くて、ベタベタになります」
「ふむふむ、温度は高めにですね」
「上げ過ぎると表面だけ焦げて、中にまで熱が通ってない時もありますよ」
「目安とかありますか?」
「油の表面から煙が上がっている時は、温度の上げ過ぎですね」
「ふむふむ、煙が出ないくらいでやればいいんですね」
「はい。あとは食材に水分が多いと……」
「多いと?」
パチンッ
ポンッ
「きゃっ! あっつっ! 油飛んできた」
「水分が悪さして、こうなります」
「なるほど……」
「たまに油に火が引火して、火柱立つときもありますよ?」
「ええっ!?」
「もしそうなっても慌てずに、次の食材を入れれば火は消えますよ」
「ふむふむ……」
「慌てて消そうとして、水なんか入れたら駄目ですよ?」
「え? 入れるとどうなるんですか?」
「火柱がもっと高くなって、家が燃えちゃいます。気を付けて下さいね?」
「うわーい……火事になるのかぁ……」
クリスは真剣に油を使った調理方法を学んだ。
女性陣はその後も自慢の油料理を作り続ける。
最後にカーソンとクリス、女性陣は共に食事を始める。
とても美味しそうに食べる2人の笑顔と、料理の仕上がりに満足しながら食事を取った。
翌朝の食事もある為、調理器具と食器はそのままにした。
寝袋はマーシャとクリスが使い、他の者は地面に寝る。
周囲の人々が寝静まった真夜中、ダンヒルとカーソンは焚き火の番をしながら話し込む。
「なぁ、カーソン君? 君達の、あの不思議な力は何だい?」
「不思議な力? ああ、魔法の事か?」
「ああ、魔法だ。しかし、君達の魔法は今まで見たことが無い」
「魔法って、あんなもんじゃないのか?」
「私の知っている魔法使い達は、あんな凄い魔法なんて使えない。せいぜい火を飛ばすか、相手を凍らせるくらいだ」
「そうなのか?」
「君達は何者なんだ?」
「俺達は谷……じゃなかった、ずーっと遠い、西の村から来たんだ」
「そうか。ずっと西の地方には、あんな高度な魔法文明があるんだな」
「さあ、ダンヒルそろそろ寝ろ。明日も早いぞ?」
「いや、私は寝ずに火の番をしているよ。カーソン君こそ寝たまえ。疲れただろ?」
「俺、起きてる。魔物とか盗賊が来たら戦わなきゃないしな」
「大丈夫、私が起きてるよ。危険が迫ったら叫んで起こすから、カーソン君は寝てくれ」
「ダンヒル眠くないのか?」
「私はずっとあんな所で暮らしていたから、寝なくても平気な身体になったんだ」
「そうなのか? じゃ、先に寝る。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
カーソンはその場に寝転がり、石を枕にするとすぐに寝息を立てて夢の世界へと旅立っていった。
ダンヒルはひとり、寝ずに火の番をしながら周囲を警戒する。
周囲が明るくなり始めた頃、クリスが寝袋から抜け出し起きてきた。
周りで眠る人達を起こさないよう気を付けながら、焚き火の前までやって来たクリスは小声でダンヒルへ話しかける。
「おはようございます」
「おはよう、クリスさん」
「ずっと起きてたんですか?」
「これくらい何ともないさ」
「あたし、これから朝ゴハン作りますんで交代しましよう。ダンヒルさんは寝て下さい」
「いや、起きてるよ」
「駄目ですよ。寝ないと体力もちませんよ?」
「大丈夫、ちゃんと寝たよ」
「本当ですか?」
「ああ、この姿勢のままね。あんな薄暗い地下で周囲を警戒し続けるとね、起きたふりしながら眠れるようになるのさ」
「そんな器用な……」
「人は環境に順応するものさ。どれ、私は薪を拾いに行ってくるよ」
「すみません。ご迷惑おかけします」
「迷惑をかけているのは私達だよ。此方こそ申し訳ない」
「ダンヒルさん、ホントに気にしないで下さいね? あたし達は全然迷惑だなんて思ってませんからね?」
「君達のその優しさ、とても有り難いよ。人の世に絶望していたが……こんなにしてくれるなんて、世の中まだまだ捨てたもんじゃないって思っているよ」
「だって、どうせ生きてくんなら……楽しく生きたいじゃないですか?」
「そうだね。楽しく生きたいね」
「それをお金なんていう、ただの金属の塊に邪魔されんの……馬鹿馬鹿しくないですか?」
「…………そうだね」
「お金が無きゃゴハンも食べられないなんて、ホントにおかしいですよ」
「確かにおかしいのだけれどね……それが世の中なのさ」
「お金持ってる人が、お金無い人と一緒にゴハン食べる。何でみんな、そんな簡単な事も出来ないんでしょうね?」
「ははっ……本当に、何でなんだろうね」
「お金なんて仕組み、無くしちゃえばいいのに」
「君達は本当に……いや、何でもないよ」
「? あたし達が……何です?」
「さ、私は薪を探してくるよ」
(君達は人間では無いんじゃないかとか、失礼すぎて聞けないよ)
ダンヒルは立ち上がり、薪を集めに焚き火から離れた。
クリスは朝食の準備を始める。
この時既にカーソンとマーシャ以外の大人達は全員目覚めていて、クリスとダンヒルの会話を聞いていた。
胸に熱いものを感じ、鼻の奧をつんとさせながら次々と起き、ダンヒルとクリスの作業を手伝い始める。
食事の支度が終わり、カーソンとマーシャを起こす。
朝食を終えると、使用済みの調理器具と食器を空いた食糧の袋に纏め、廃村目指して再び歩き出した。
満足ゆく食事を2度取った事もあってか、一行の足取りは軽い。
大人達が明け方の話を聞いて、生きる気力を取り戻していた事を知らないのはカーソン・クリス・マーシャのみであった。
「良かった……みんな元気になってくれて」
「そうだな。みんな死にたそうな顔してた……あっ、やったなマーシャ?」
「アハハハ! エイッ! エイッ!」
「よーし! それそれー!」
「キャーッ!」
クリスはダンヒル達の顔色を見ながら、少し安心した。
カーソンとマーシャは木の棒で剣術まがいの遊びをしながら歩く。
村へと続く道の左手に、小規模な森が見え始める。
ダンヒルは森を指差しながら話す。
「この森が見えたという事は、あと2時間ほど歩けば村に着くよ」
「遠いようで、近いですね」
「近いようで、まだ遠いな」
「どっちも同じ意味なようで、同じではなさそうだね」
「あはは! 確かに!」
「そうなのか? 同じだと思ってた」
真逆の発言をしたカーソンとクリスに、ダンヒルは感覚の違いを指摘する。
クリスは笑いながらその通りだと思った。
一行の足取りは重かった。
ゴルド町の姿は、カーソン達の背後からなかなか消えない。
誰も一言も話さず、ただひたすら歩き続けた。
夕闇が迫る頃、ようやくクリスが口を開いた。
「さ、今日はここでゴハンにしましょう。カーソン、暗くなる前に薪集めよろしくね。マーシャも手伝ってくれる?」
「分かった。マーシャ、行くぞ?」
「ウン! オニイチャン!」
「みなさんお疲れ様です! 今日はここで野宿しますね!」
クリスは明るく振る舞い、周りの人々を元気付けようとした。
カーソンはマーシャを連れ、近くを歩き回りながら薪を拾う。
荷物の回りに腰掛け用の石を運びながら、ダンヒルが重い口を開く。
「こんな事になるなんて……君達に迷惑をかけた。申し訳無い」
「いいんですよ! あたしらがそうしたくてやった事ですから。火をかけた町長が全部悪いんです。ここに居るみんな、誰も悪くないんですよ!」
クリスの発言は、自身にも言い聞かせようとして話した言葉だった。
クリスは食材を切り始める。
住人の女性達も参加してきた。
そこへ、カーソンとマーシャが薪を集めて帰ってきた。
「オネエチャン、タキビモッテキタ!」
「わぁ。ありがとうマーシャ。えらいえらい」
クリスはマーシャを撫でて、リンゴを渡す。
マーシャはリンゴを貰い、喜んで食べ始めた。
石で組んだかまどに薪を置き、火種で火をつけながらクリスはカーソンに話す。
「人数分調理するには足りないわね。カーソン、もっと薪集めてきてよ」
「分かった。もっかい行ってくる」
「それなら私達が集めて来よう。カーソン君はマーシャを見ながら休んでてくれ」
カーソンへマーシャの見守りを託し、ダンヒル達男衆は薪を集めに行った。
調理道具を加熱しながら、クリスは悩む。
「うーん……調理器具が小さいから、一度に全員分は作れないわね」
「オネエチャン! リンゴ、ゴチソウサマデシタ!」
「美味しかった?」
「ウン!」
「晩ゴハンはもっと美味しいわよぉ? 待っててね?」
「ウン!」
「よし、先にマーシャ。後は順番に食べて貰って、その都度作るかぁ」
「オネエチャン、ナニツクルノ?」
「マーシャは何が食べたい?」
「ウントネ? エットネ? オイシイノ!」
「任しといて!」
水袋の水を使い、クリスは母直伝である肉と野菜の煮物を作る。
食事はマーシャを先に、お腹がいっぱいになるまで食べさせた。
「オネエチャン、モウ、オナカイッパイ」
「本当? もう食べられないの?」
「ウン、オナカイッパイ」
「よし。それじゃあ、次は女性陣どうぞ」
「いえ、先に男性陣に食べさせて下さい」
「私達にも作らせて下さい。しばらく作ってませんでしたので」
「こんなに沢山の食材……何を作ろうか迷いますね」
「ゴミ箱から持ってくる食材なんかじゃなく、とても新鮮で作り甲斐がありそうです」
「あ、ではすみませんが……お任せしてもいいですか?」
「ええ、任せて下さい」
女性陣は久しぶりにまともな食材で調理出来ると喜んでいる。
クリスは彼女達の希望を尊重し、調理を任せた。
女性陣は今までくすぶっていた料理の腕前を披露し、夕食を作る。
クリスは女性陣の手際の良さに感心しながら話す。
「おおーっ! 同じ材料なのに、全く違う料理になってる」
「私達もクリスさんの料理に、そう思ってましたよ」
「へぇ……油たっぷり使うんですね」
「本当はもっと沢山使って、揚げるんですよ?」
「揚げる?」
「私達の村では水が貴重でしたから。こうして油で調理して、水を節約していたんですよ」
「煮物に使う水すら貴重だったんですか?」
「ええ。だからクリスさんの煮物、味見しましたけど、とっても美味しかったですよ?」
「良かった! へえ、住む場所違うと、食べる料理も違うんですねぇ……」
「そうですね。はい、出来ました」
「あの、ちょっと味見してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「いただきまーす」
「どうです?」
「……美味しい。油で作る揚げ物って……ホクホクしてて美味しい!」
「うん! これ旨いな!」
「え? 何であんたも味見してんのよ?」
「俺にもくれた。旨い! 揚げ物旨い!」
「良かった! もっと作りますね」
女性陣は肉や野菜に小麦粉をまぶしたものを油の張ったフライパンへ入れる。
ジュワジュワと音を立てながら加熱されてゆく食材。
クリスは作り方をじっと見つめ、自分も習得しようと見て学んだ。
クリスは女性陣へ聞く。
「この料理、作る時に何か気を付けなきゃない事ってあります?」
「油の温度はなるべく高くですかね。温度が低いと油切れが悪くて、ベタベタになります」
「ふむふむ、温度は高めにですね」
「上げ過ぎると表面だけ焦げて、中にまで熱が通ってない時もありますよ」
「目安とかありますか?」
「油の表面から煙が上がっている時は、温度の上げ過ぎですね」
「ふむふむ、煙が出ないくらいでやればいいんですね」
「はい。あとは食材に水分が多いと……」
「多いと?」
パチンッ
ポンッ
「きゃっ! あっつっ! 油飛んできた」
「水分が悪さして、こうなります」
「なるほど……」
「たまに油に火が引火して、火柱立つときもありますよ?」
「ええっ!?」
「もしそうなっても慌てずに、次の食材を入れれば火は消えますよ」
「ふむふむ……」
「慌てて消そうとして、水なんか入れたら駄目ですよ?」
「え? 入れるとどうなるんですか?」
「火柱がもっと高くなって、家が燃えちゃいます。気を付けて下さいね?」
「うわーい……火事になるのかぁ……」
クリスは真剣に油を使った調理方法を学んだ。
女性陣はその後も自慢の油料理を作り続ける。
最後にカーソンとクリス、女性陣は共に食事を始める。
とても美味しそうに食べる2人の笑顔と、料理の仕上がりに満足しながら食事を取った。
翌朝の食事もある為、調理器具と食器はそのままにした。
寝袋はマーシャとクリスが使い、他の者は地面に寝る。
周囲の人々が寝静まった真夜中、ダンヒルとカーソンは焚き火の番をしながら話し込む。
「なぁ、カーソン君? 君達の、あの不思議な力は何だい?」
「不思議な力? ああ、魔法の事か?」
「ああ、魔法だ。しかし、君達の魔法は今まで見たことが無い」
「魔法って、あんなもんじゃないのか?」
「私の知っている魔法使い達は、あんな凄い魔法なんて使えない。せいぜい火を飛ばすか、相手を凍らせるくらいだ」
「そうなのか?」
「君達は何者なんだ?」
「俺達は谷……じゃなかった、ずーっと遠い、西の村から来たんだ」
「そうか。ずっと西の地方には、あんな高度な魔法文明があるんだな」
「さあ、ダンヒルそろそろ寝ろ。明日も早いぞ?」
「いや、私は寝ずに火の番をしているよ。カーソン君こそ寝たまえ。疲れただろ?」
「俺、起きてる。魔物とか盗賊が来たら戦わなきゃないしな」
「大丈夫、私が起きてるよ。危険が迫ったら叫んで起こすから、カーソン君は寝てくれ」
「ダンヒル眠くないのか?」
「私はずっとあんな所で暮らしていたから、寝なくても平気な身体になったんだ」
「そうなのか? じゃ、先に寝る。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
カーソンはその場に寝転がり、石を枕にするとすぐに寝息を立てて夢の世界へと旅立っていった。
ダンヒルはひとり、寝ずに火の番をしながら周囲を警戒する。
周囲が明るくなり始めた頃、クリスが寝袋から抜け出し起きてきた。
周りで眠る人達を起こさないよう気を付けながら、焚き火の前までやって来たクリスは小声でダンヒルへ話しかける。
「おはようございます」
「おはよう、クリスさん」
「ずっと起きてたんですか?」
「これくらい何ともないさ」
「あたし、これから朝ゴハン作りますんで交代しましよう。ダンヒルさんは寝て下さい」
「いや、起きてるよ」
「駄目ですよ。寝ないと体力もちませんよ?」
「大丈夫、ちゃんと寝たよ」
「本当ですか?」
「ああ、この姿勢のままね。あんな薄暗い地下で周囲を警戒し続けるとね、起きたふりしながら眠れるようになるのさ」
「そんな器用な……」
「人は環境に順応するものさ。どれ、私は薪を拾いに行ってくるよ」
「すみません。ご迷惑おかけします」
「迷惑をかけているのは私達だよ。此方こそ申し訳ない」
「ダンヒルさん、ホントに気にしないで下さいね? あたし達は全然迷惑だなんて思ってませんからね?」
「君達のその優しさ、とても有り難いよ。人の世に絶望していたが……こんなにしてくれるなんて、世の中まだまだ捨てたもんじゃないって思っているよ」
「だって、どうせ生きてくんなら……楽しく生きたいじゃないですか?」
「そうだね。楽しく生きたいね」
「それをお金なんていう、ただの金属の塊に邪魔されんの……馬鹿馬鹿しくないですか?」
「…………そうだね」
「お金が無きゃゴハンも食べられないなんて、ホントにおかしいですよ」
「確かにおかしいのだけれどね……それが世の中なのさ」
「お金持ってる人が、お金無い人と一緒にゴハン食べる。何でみんな、そんな簡単な事も出来ないんでしょうね?」
「ははっ……本当に、何でなんだろうね」
「お金なんて仕組み、無くしちゃえばいいのに」
「君達は本当に……いや、何でもないよ」
「? あたし達が……何です?」
「さ、私は薪を探してくるよ」
(君達は人間では無いんじゃないかとか、失礼すぎて聞けないよ)
ダンヒルは立ち上がり、薪を集めに焚き火から離れた。
クリスは朝食の準備を始める。
この時既にカーソンとマーシャ以外の大人達は全員目覚めていて、クリスとダンヒルの会話を聞いていた。
胸に熱いものを感じ、鼻の奧をつんとさせながら次々と起き、ダンヒルとクリスの作業を手伝い始める。
食事の支度が終わり、カーソンとマーシャを起こす。
朝食を終えると、使用済みの調理器具と食器を空いた食糧の袋に纏め、廃村目指して再び歩き出した。
満足ゆく食事を2度取った事もあってか、一行の足取りは軽い。
大人達が明け方の話を聞いて、生きる気力を取り戻していた事を知らないのはカーソン・クリス・マーシャのみであった。
「良かった……みんな元気になってくれて」
「そうだな。みんな死にたそうな顔してた……あっ、やったなマーシャ?」
「アハハハ! エイッ! エイッ!」
「よーし! それそれー!」
「キャーッ!」
クリスはダンヒル達の顔色を見ながら、少し安心した。
カーソンとマーシャは木の棒で剣術まがいの遊びをしながら歩く。
村へと続く道の左手に、小規模な森が見え始める。
ダンヒルは森を指差しながら話す。
「この森が見えたという事は、あと2時間ほど歩けば村に着くよ」
「遠いようで、近いですね」
「近いようで、まだ遠いな」
「どっちも同じ意味なようで、同じではなさそうだね」
「あはは! 確かに!」
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