翼の民

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冒険者カーソンとクリス

92 盗賊団

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 馬達は出された食糧を食べ尽くし、満足しながらカーソンへ自分達の操りかたを教える。

「ヒンッ」
「ふむふむ」
「ブフンッ」
「ほうほう」
「ブルルッ ブヒンッ」
「うん、分かった」
「ヒヒンッ」
「んじゃ、またハミ付けるぞ?」

 カーソンはハミを付けながら、馬から教わった馬の操り方をクリスに教える。

 クリスは馬に乗りながら、教わった通り操作してみる。

 手綱の引きと両足の合図で従う馬に感心しながら、クリスはカーソンに話す。
 
「しっかしさ、馬から馬の乗り方を教わるだなんて変な話だよね?」
「そうかもな。よし、俺も乗るからよろしくな?」
「ヒンッ」

 カーソンも馬に乗ろうとして左足をあぶみへかけた時、遠くからの足音を聞き取り馬から離れた。

「クリス、馬から降りろ。あいつら、またやってきた」
「あ、来たね」
「矢反らしは出してるけど、弓射ってこないみたいだな」
「接近戦で来るつもりね?」

 クリスも足音を聞き、馬から降りた。


 2人は馬から少し離れて盗賊がやってくるのを待つ。

 足音から察するに、かなりの数だと2人は感じた。


 土煙を上げてやって来る馬は、およそ10頭。

「ざっと10人……ってとこかな?」
「うん」

 クリスは剣を抜き、待ち構える。

 カーソンもサイファを両手に持ち、いつでも刃を出せる状態で構えた。


 盗賊の集団は2人の前で止まる。

 先程逃げた男が馬から2人を見下ろしながら叫んだ。

「親分! こいつらだ! こいつらが仲間の事殺しやがった!」

 親分と呼ばれた男は、2人に向かって叫ぶ。

「てめえらか!? 俺の可愛い子分を殺ったのは!?」

 クリスは盗賊の集団をからかうように返事した。

「あたしらよ! あんたの可愛い子分を殺ったのは!」

 親分は怒り狂い、子分達に命令する。

「ふざけやがって! おい、殺っちまえ!」
「へいっ!」
「馬から下りて八つ裂きにしちまえ!」
「あいさ!」
「女は半殺しだ! 全員でぶち込んでからぶっ殺す!」
「へへっ、流石親分だ!」

 
 子分達は馬を降りて一斉に襲い掛かってきた。


 2人は背中合わせになり、お互い背後を取られないように身構える。

「死にたい奴からかかってきなさい!」
「なあクリス。俺が合図したらしゃがんでくれ」
「ん? 何で?」
「サイファであいつら、纏めて斬ってみる」
「ん、分かった」


 子分達は2人を取り囲み、剣を突きつけながらじわじわと距離を縮めてくる。

 親分は馬から下り、両腕を組みながらニヤニヤと見ていた。

 カーソンはサイファを2本つなげると大剣を作り出し、クリスへ叫ぶ。

「クリスしゃがめ!」
「ほいよっ!」
「うりゃーっ!」

 サイファの刃が、しゃがんだクリスの頭上を通り過ぎる。

 カーソンはサイファを真横になぎ払った。

 ボジュッ
 ボヒュッ
 ブジュッ
 
 サイファの刃が子分達の頭を横切るたび、鈍い音と共に次々と子分達の頭は蒸発してゆく。

 親分の鼻先を掠めたサイファの先端部は、親分の髭をチリチリと焦がした。

 サイファに頭を潰された子分達は、バタバタと倒れてゆく。

 瞬く間に2人の前には、盗賊達の死体が転がった。

 数任せで襲い掛かれば勝てると思っていた親分は、手勢をあっという間に葬られ、奥歯をカチカチと鳴らしながら失禁した。


 クリスは股間を濡らしている親分へと近寄ってゆく。

 親分は近付いてきたクリスに怯えながら話す。
 
「な、何だよ……おめえら何モンなんだよ!? バケモンか!?」


 狼狽する親分の首元へ剣を軽快に振り払いながら、クリスは答えた。

「ただ今売り出し中の冒険者、クリスとカーソンよ。よろしくね?」

 親分の頭は転がりながら、足元へゴロンと落ちた。


 クリスは親分の身体を蹴り倒し、ビュッビュッと送り先を求めて吹き出る血と、痙攣を続けている身体を見ながら話す。

「ドンガさんの剣、ホント凄いわ。軽く振っただけなのに首飛んだよ」
「うん、ソニアがやったみたいに飛んだな」
「サイファも凄いね? あんたもう無敵じゃないの?」
「でもこれ、疲れる。俺、ちょっと眠い」
「眠いって……あっ! すぐにこいつらのオド吸って!」
「え?」
「オドが減ると疲れて眠くなるの! 多分あんたオド減ってるよ!」
「分かった、吸う」
「ちゃんと吸ってよ?」
「すぅーっ……はぁーっ…………。あ、眠くなくなった」
「あたしの事は気にしなくていいから、全部吸ってよ?」
「いいのか? すぅーっ……はぁーっ……」
「火力はとんでもないけど、継戦には向いてないみたいだね」
「すぅーっ………はぁーっ……あ、もうオド入ってこない」
「もういいの?」
「うん、オドいっぱいになった」
「……あんた、思ってたよりもオド溜め込められないみたいだね?」
「うん」
「サイファ、あんまり無茶な使い方しないでね?」
「分かった、気を付ける」

 クリスはイザベラから指摘されていた通り、場合によってはカーソンが突然命の危険にさらされる可能性が高い事に不安を覚えた。



 2人は子分達の死体からゴールドを取り、親分の死体を漁る。

「おー。親分、お金沢山持ってる」
「この指輪とかネックレス、お宝なんじゃないかな?」

 親分の死体には装飾品が身に着けられていた。

 2人は装飾品を取り外し、袋へ集める。

 親分の首を袋に詰め、馬へ乗せながら話す。

「なあ? こいつらの隠れ家、調べにいくか?」
「そうだね。ゴールドやお宝があるかも知れないし、行ってみよっか」

 2人は盗賊達の馬から馬具を外すとそのまま野に放ち、自分達が確保した馬に乗り隠れ家のある場所へと向かった。


 馬に乗りながらカーソンは話しかける。

「なあ? お前達も自由になりたくないか?」
「ブフンッ ブルルッ」
「ああ、そっか。そうだよな?」
「この子達も自由になりたいって言ってるの?」
「ううん。自由になったら自然の掟が待ってるから、ゴハン食わせてくれる奴といたほうがいいって言ってる」
「あ、そっか。襲われて食べられちゃうのが怖いのかな?」
「ブルルッ ヒンヒンッ」
「いつでもゴハン食べらるわけじゃないし、腹減って動けなくなったら死ぬだけだって言ってる」
「それじゃさ、あたし達ずっとゴハンあげるからよろしくね?」
「ブフンッ」
「よろしくだって。ああ、俺も腹減ったな」
「そうね、朝パンだけだったもんね。アジトに着いたらゴハンにしましょ」


 2人は盗賊団の隠れ家へと辿り着いた。

 馬から下り、隠れ家の中へと2人は入る。

 頑丈そうなテントが建ち並び、しっかりとした炊事場があった。

 クリスは炊事場に置いてある箱を開けてみた。

「今まで奪ってきた食糧かしら? こんなに沢山ある」
「ほんとだ。氷種で冷やして、腐らないようにしてるな」
「これだけあれば充分ね。かまどの火もまだ消えてないし」
「これでゴハン作るのか?」
「うん。これ食べる奴等もう殺したしさ、あたしらで食べちゃおうよ」
「なあ? これ馬にあげてもいいか?」
「もちろん! あたしもあげたい」
「じゃあ、馬達連れてくる」

 カーソンは馬を呼びに炊事場から離れた。

 
 2頭を連れてきたカーソンは、箱の中身を見せながら話す。

「この中で食えないのあるか?」
「ヒンッ?」
「好きなだけ食っていいぞ?」
「ヒンヒンッ ブルルッ」
「いいって。どうせ食わなきゃ腐るし」
「ヒヒィンッ」
「ふんふん、そうだったのか」
「ブヒヒンッ」
「分かった。じゃあ、一緒に食べような?」
「ヒンッ ヒンヒンッ」
「あははは!」
「ひゃっ!? 何っ?」

 馬達はカーソンとクリスに顔をこすりつける。

 クリスは突然馬に触れられ驚いた。

 カーソンはクリスへ話す。

「えっとな。こいつら、この箱ずっと憧れてたんだって」
「憧れてた?」
「その箱の中からいつも美味しそうな食い物出してるの見てたってよ」
「あっ、そっか。そりゃ憧れの箱に見えるよね」
「でもな、そこから出した食い物、ぜんぜん食わせてくれなかったって言ってる」
「えっ、そうだったの?」
「あいつらの食い残しとか、腐ったりしなびたのしか食わせてくれなくて、ずっとその箱に入ってるの食いたかったって」
「そっか! じゃあ、お腹いっぱい食べなきゃね?」
「あと、今じゃなくて俺達と一緒に食べたいってよ」
「え? 何で?」
「俺達の事大好きになったから、先に食わないで待ってるって」
「それでこんなになついてくれたんだ?」
「うん。これでもう俺達、お前達と友達だな?」
「ヒンッ」
「ヒンッ」
「ふふっ……あんたこうやって、森で友達増やしてたのね?」

 


 クリスが調理を始めた頃、カーソンはテントの中を探していた。

「えーと……ここにもお金しか無いな。後は、あれか」

 一番奥の大きなテントへ向かった。

 テントの中にはやや大きめの箱が置いてある。

 箱をあけると、中にはゴールドや財宝が入っていた。

「クリスー! あったぞー! お宝、見つけたぞー!」
「えー? 何ー?」

 炊事場で料理していたクリスは聞き取れなかった。

 カーソンが戻ってきて話す。

「お宝あったぞ。お金もあった」
「やったね! ちょっと待ってね。ゴハンすぐ出来るから」
「うん。じゃあ俺、馬達のゴハン用意する」
「そこのテーブルで一緒に食べよっか」
「うん、分かった」

 カーソンは箱から次々と食糧を取り出し、テーブルの上に積み上げる。

 クリスは料理を完成させ、皿に取り分けてテーブルに並べる。


 2人と2頭は同じテーブルで食事を始めた。

 出来上がった料理を食べながら、2人は話す。

「盗賊12人も相手にしてさ、怪我ひとつもしてないなんて、あたし達強くない?」
「そりゃ谷でも俺達強かったんだ。人間なんかより弱いもんか」
「うんうん、そうだね」
「お前達どうだ? 旨いか?」
「ヒンヒンッ」
「そうかそうか。これも食うか?」
「ブヒヒンッ」
「え? キャベツ嫌いなのか?」
「ブフンッ ブルルッ」
「へー、知らなかった」
「何て言われたの?」
「キャベツ食うと、お腹に変な空気溜まって痛くなるって。だから嫌いって言ってる」
「へーっ、そうなんだ?」
「パンもお腹痛くなるから、嫌だって」
「やっぱ馬と人ってさ、食べられるもの違うんだね」
「ブルルッ」
「ん? これか?」
「ヒンッ?」
「ハチミツっていうんだ。甘いぞ」
「ヒヒィンッ」
「よしよし、食え食え」
「ブヒィンッ ヒンヒンッ」
「……馬ってホントに甘いもの好きなんだ?」
「クマの母さんも大好きだったし、甘いのってみんな好きなのかもな?」
「そうだね。でもさ……」
「ん?」
「ハチミツたっぷりかけた生野菜とか……味としてどうなのよ?」
「喜んで食ってるし、いいんじゃないか?」

 カーソンは馬達用に用意した鍋へ野菜や果物を入れ、更に上からハチミツをたっぷりとかける。

 馬達は大喜びで鍋に顔を突っ込み、目を細めながら食べていた。
 


 食事を終えた2人は財宝を袋に詰め、ゴールドを財布へ入れる。

 カーソンが財宝の入った袋を馬に乗せようとしたところ、クリスが止めた。

「ちょっと待って。ねえ? 今晩ここで寝て、明日街へ行くってのはどうかな?」
「ここで寝るのか? 俺達、盗賊と間違われないよな?」
「大丈夫でしょ。昨日、あまり寝てないから疲れちゃっちゃ・・。食糧もまだ残ってるし、いいでしょ?」
「うん、分かった」



 2人は鎧を脱ぎ、身軽になると今夜は始末した盗賊団の隠れ家で一晩を明かす事にした。
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