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クリスの受難
77 近衛の絆
しおりを挟む母親衆は2人が着用しなかった近衛の武具を戻しに、兵舎へと歩いてゆく。
途中でまた口論となり、笑いながらグレイスの胸当てをぽんぽんと投げ合って走り出す母親達。
グレイスがそれを怒鳴りながら追いかけて行った。
クリスとカーソンは母親衆の騒ぎ合いに、思わず呟く。
「お母様って……イジメられてたのかな?」
「母さん近衛隊長……だったんだよな?」
「うん、そうだったらしいよ?」
「ソニアが、みんなからイジメられるみたいなもんか?」
「いや、多分あれはイジメじゃないかもね?」
「……うん。母さん達、楽しそうに笑ってる」
「あたしらの世代もさ、ああいう仲良しのまんまでいたいよね?」
「うん。凄く楽しそうだ」
「みんな母親になっても……あんな関係になりたいな」
走っている途中で、エリの母親が転ぶ。
母親達は慌てて駆け寄り、心配して手を伸ばす。
グレイスの手を掴み、立ち上がったエリの母親。
そして、全員が大笑いをしていた。
カーソンとクリスは、母親達の仲睦まじい光景を羨ましそうに見つめた。
母親衆と入れ替わりに、ソニア達現役近衛がこちらへやって来る。
先頭のソニアは、ゴールドの入った袋を持っている。
近衛達も、遠目から見ても分かるほどの情けない表情をしながら、ソニアの後ろから付いてきていた。
やって来たソニアは開口一番、ゴールドの入った袋をカーソンに差し出しながら話す。
「持って行け。ゴールドが無いと困るだろう?」
「え、でもいいのか? 行商来た時どうするんだ?」
「構わないさ。取引しなければいい」
「でも行商、いいもの売りに来るぞ?」
「気にするな。別に買わなくても困る事は無い」
「あっ、俺居ないと狩りが危ないんじゃ? 谷で肉食えなくなるんじゃないか?」
「心配するな、大丈夫だよ。自然の掟破るなと言い、お前が怒ると思って黙っていたがな。肉は暫く食べられるくらいの備蓄がある」
「そうか、良かった。それじゃ、このお金貰ってく」
「金さえあれば、人間との取り引きにも困らんだろうよ」
「うん、ありがとうソニア。でも、全部は要らない。少し返す」
「構わん。全部持って行け」
「ううん。もしかして行商、欲しいの売りに来るかも知れない。その時に使うお金、置いてく」
「いらんというのに……律儀な奴だな、お前は」
カーソンはソニアから渡された袋に右手を入れ、中のお金を一掴みするとソニアへ手渡す。
ソニアはカーソンの気遣いに余計な事を、と思いながらもお金を受け取った。
近衛達は全員、クリスに深々と頭を下げながら謝罪を始める。
「クリス……ごめんなさい」
「うちらのせいで……谷出てかなきゃならなくなるなんて」
「ごめんなさい。本当に……ごめんなさい」
「こんな事……したかったんじゃないの」
「ここまで深刻な話になるなんて……思ってなかったの」
近衛達は頭を下げたまま鼻をすすり、嗚咽混じりの謝罪を続けた。
クリスはけろっとした顔をしながら、近衛達に話す。
「みんな顔を上げてよ。あたし、怒ってないよ?」
「クリス……ごめんなさい」
「顔上げてってば」
「申し訳無くて……顔見せれない……」
「いやほんと、怒ってないから」
「私達……近衛失格です」
「そんな事無いでしょ?」
「ごめんクリス……ホントにごめん……なさい」
「あたしもナタリーに謝らなきゃ……ごめんなさいナタリー」
「……? 何で?」
「島でナタリーのお父さんに会ったんだけど……ミリアの事、言えなかった」
「……お父さん、元気だった?」
「うん。みんなのお父さんも元気だったよ?」
「……そっか」
「えっとね、みんな島で美味しいもの食べてるみたいでさ、ちょっと太ってたよ?」
「……そう、良かった……」
未だクリスに顔を上げる事の無い近衛達。
クリスはどう言えば顔を上げてくれるのか、思案しながら話す。
「いやー実はね、みんなのお父さんもカーソンの事知っちゃってさ」
「…………」
「生きててくれたって、喜んでたよ?」
「…………」
「そしたら、あたしの馬鹿親父がいつも通り先走っちゃってさ」
「…………」
「何をどう勘違いしたのか、あたしの弟って事にされちゃってね」
「…………」
「みんなの前でね、誰かうちの息子貰ってくれって売り出したのよ」
「…………」
「いやーほんと、焦ったよ」
「…………セルゲイおじさんらしいね?」
「うん。そしたらもうね、みんなうちの娘にくれって大騒ぎよ」
「…………ふふっ」
「チェイニーのお父さん、娘に家事覚えさせるのは牛にトイレ教えるより難しいって言ってたよ?」
「……あのくそ親父め、人の気も知らないで」
「コロナのお父さんは、鍛冶屋継がせたいって言ってたし」
「剣士で成功してるカーソンが鍛冶屋なんてするわけないでしょ、あのアホめ」
「エリのお父さんは、気難しい娘だって言ってたし」
「……何知ったかぶってんのよ、あのアホパパ」
「レイナのお父さんは、ヨミ婆ちゃんのイジメからカーソン守るって言ってたよ?」
「……何でお婆ちゃんが自分の孫イジメるのよ」
「ナタリーのお父さんは酷かった。毒舌娘ってキッパリ言ってたもん」
「……あんのくそ馬鹿無能ドアホ親父がっ!」
「あ、前言撤回。やっぱナタリー毒舌娘だわ」
「ちょっとおっ! そりゃないでしょクリスっ!」
「いや、その発言したあとじゃ説得力ぜんぜん無いよ」
「うん、無いわ」
「毒舌娘か、正解だね」
「父親が言うんだから、間違いないね」
「ちゃんと娘の事、しっかり見てるね」
「こらーっ! みんなして納得すんなし!」
「……ふふっ、あははっ」
「あはははは!」
「あははははっ!」
ナタリーの毒舌から雰囲気が壊れ、近衛達は顔を上げて大笑いを始めた。
やっとみんな顔を上げて笑ってくれた。
クリスは近衛達の笑顔を見て、こんなに可愛らしい娘達を差し置いてカーソンに権利をつけている自分に申し訳なくなる。
ようやく調子を取り戻した近衛達は、思い思いにクリスへ激励の言葉を送る。
「2人とも元気でね?」
「人間なんかに殺されないでね?」
「男と2人旅なんて……クリスが羨ましいっ!」
「ちゃんと無事に帰って来てね?」
「これでクリスは近衛引退しちゃうのか? このこのっ!」
「いやー、いくら何でも最初にアレは怖いよ」
「うんうん、分かるよ」
「うちらも初めて張型使った時、すんごく怖かったもん」
「アレよりもゼンゼンちっちゃいのにね」
「最初やっぱり痛かったよ」
「アレが最初は……相当痛いと思うわ」
「ね、ねぇ? どんくらい痛かったの?」
「ほんのピリッとよ、ホントに最初だけ」
「あ、いいな。あたしはずっとズキズキ痛んだわ」
「私はゼンゼン痛くなかったよ?」
「わたしはやめときゃ良かったって思うくらい、ずっと痛かったよ」
「へへっ、挿入れた瞬間にイっちゃった」
「み、みんな人それぞれなんだね……」
近衛達の赤裸々初体験の告白を、クリスは真顔で聞いていた。
近衛兵達はしゃがみこみ、カーソンの巨根対策に考案した格好を実演しながら話す。
「みんなで話し合ったんだ。アレから先に動かれるとまずいよねーって」
「だからさ、最初はこのかっこでやればいいと思うのよ」
「こうやって跨がってさ、自分のほうからやんのよ」
「あ、やばいって思ったらすぐ立ち上がって抜けばいいし」
「深さも自分で調節出来ると思うわけよ」
「は、恥ずかしいよそんな格好……」
「何言ってんのよ。別に誰かに見られるワケないじゃん」
「いいじゃん? 見るのはカーソンだけだよ?」
「こう……小刻みに腰振ってさ、少しずつやったらどお?」
「このかっこが一番いいと思うよ?」
「慣れたらこうやって……腰落としてガンガン突っ込めるし」
「こっ……こう?」
クリスもしゃがみこみ、近衛達と共に腰を振り始めた。
カーソンは近衛達が不思議な動きをしている事に首をかしげ、ソニアへ聞く。
「なあソニア? みんな何してるんだ?」
「……さあな?」
「うんち出ないとき、ああやって腰振れば出るのか?」
「そうじゃないか?」
「俺もうんち出ないとき、やってみようかな?」
「あいつらがお前対策に、考案したんだろうよ」
「俺の対策? 何の対策だ?」
「乙女の妄想ってやつだ。あまり詮索してやるな」
「? うん」
「……ふむ、意外と良さそうだな」
ソニアは近衛達の腰振りに、理に叶っているなかなかの名案だと感心しながら、カーソンへ適当に話を合わせた。
乙女達の卑猥な腰振りに微笑みながら、カーソンの前にローラがやって来る。
ローラの手には小さな布袋が握られていた。
布袋から取り出した1枚の虹色に輝くコインを掌に乗せ、ローラはカーソンに話す。
「カーソン。あなたにこれを差し上げましょう」
「? ローラ様、それ……何だ?」
「これはですね、私達がまだ人間達と交流していた時に使われていたコインです」
「コイン……お金?」
「ええ。ゴールドが人間のお金であるように、このコインは翼の民のお金ですわ」
「虹色に光ってる……綺麗」
「人間の世界では、まだそれなりの価値があるかと思われますわ。きっと何かのお役に立つでしょう」
「ありがとう、ローラ様」
「お金に困った時のお守りにして下さいね?」
「うん」
ローラはコインを小さな布袋にしまい、カーソンへ手渡す。
カーソンはローラから小さな布袋を受け取り、大事そうに懐へと忍ばせた。
イザベラは杖を右手に持ち、カーソンとクリスを呼ぶ。
「カーソン、クリス。こっちいらっしゃい」
「はい、イザベラ様」
「うん、分かった」
「一旦鎧脱いでね?」
「はい」
「うん、箱に戻す」
「その辺に置いてもいいわよ?」
「ううん、箱に戻す」
「翼消すだけだから、そこまでしなくてもいいわよ?」
「俺、ガーディアンに嫌われたくない。脱いでその辺に置いたら、ガーディアン怒ると思う」
「意思を持った鎧っちゃ鎧だけど、それくらいじゃ怒らないと思うわよ?」
「俺着るの許してくれたガーディアンに、それ出来ない。ちゃんと戻す」
「律儀な子ねぇ、あなたって?」
「ねえ、あたしのも箱に入れていい?」
「うん。クリスの鎧も嬉しいと思うぞ?」
「そうだね、今までずっとあたしの身体守ってくれてるもんね。大事にしなきゃね?」
「うん。鎧にありがとうと、これからもお願いしますって思わなきゃない」
「あんたってホント、何にでも気ぃ遣う奴よね?」
脱いだガーディアンを丁寧に箱へしまうカーソンに寄り添いながら、クリスも自分の鎧を箱の中へと一緒に収納した。
戻ってきた二人にイザベラは杖を持ち上げながら話す。
「それじゃあ2人とも、今から翼を消すわよ?」
「はい。お願い致します、イザベラ様」
「イザベラ様。俺とクリスの翼、無くなるのか?」
「ええ。じゃないと人間に、翼の民ってバレちゃうからね」
「もう、飛べなくなるのか?」
「翼自体は魔力で一旦消滅させるけど大丈夫よ。いつでも元に戻せるから」
イザベラは杖を持ち上げ、地面にトンと突いた。
2人の翼は消え、人間と区別が付かない姿となる。
翼が消えた事で服に覆われていない背中が露出し、危惧していた通り奇抜な服と人間から思われてしまいそうな様相となった。
イザベラはカーソンとクリスに話す。
「服は少し待ってね。今頃ヨミ達がせっせと仕立ててるわ」
「はい」
「翼が消えたから、慣れないうちは動き難いと思うわよ?」
「翼無い、ちょっと感覚違う」
「人間に見付からないように、夜になってから出発するといいわ。それまでは少しこの辺歩き回って、その身体に慣れておきなさい?」
「はい、分かりました。イザベラ様」
「俺、ちょっと走って慣れる。」
カーソンはピョンと跳び跳ね、飛べなくなった事を確認してから周辺を駆け回り始める。
走り回るカーソンを、近衛達はキャッキャと騒ぎながら追いかけ回す。
最初のうちこそ何度も近衛達に捕まっていたカーソンだが、翼の無い身体に慣れ始めると、巧みにヒョイヒョイ避け続けるようになる。
カーソンは翼の無い身体に順応し、いつも通りの動きで近衛達の追い込みを回避し続けていた。
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