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クリスの受難
52 謀略
しおりを挟むクリスはグスタフと共に飛び立ち、ティナに向かって手を振りながら話す。
「それじゃ行って来るねー! すぐ帰って来るからー!」
「クリスー! 待ってるぞー!」
「はーい! 待っててねー!」
明るい声でティナと会話を交わしたクリスは、グスタフと共に島の中へと消えて行った。
クリスが島へ直接断りに行った事で全て丸く収まったと安心する翼の民。
女衆は解散し、それぞれの家へと帰ってゆく。
グレイスもクリスの嫁入りを阻止したティナに感謝し、今夜はご馳走を作ると約束して家に帰ってゆく。
大木の麓へ残っているのはイザベラとローラ、近衛隊のみとなった。
クリスが島へ飛び立ってから30分後、ティナは周囲をうろうろと歩き回りながら呟く。
「クリス、まだかなー?
いつ帰って来るかなー?
早く帰って来ないかなー?
遅いなー……。
どうしたのかな……?
まさか、島が帰さないって……クリスいじめてる?
うー……俺、心配」
空を見上げながらうろつき回るティナを見かね、ソニアが話しかける。
「ティナ、少し落ち着け。さっき行ったばかりではないか」
「だってソニア、クリスまだ帰ってこない」
「だから待てと言っているのだが……」
「俺、心配。クリスいじめられてないか、凄く心配」
「……やれやれ、心配性な奴だな?」
(クリスもこんなに心配してくれる子が居てくれて、幸せな奴だな)
そわそわとし続けているティナに、ソニアはクリスを羨ましく思った。
同じくティナの落ち着き無い様子を見かねたイザベラは、ティナに話しかける。
「そんなに気になるんなら、風の目で追いかけてみれば?」
「あ、そうか。風の目って、こんな時使えるんだな」
「そうよ。クリスの事を見たいと思いながら、シルフと念じてみて」
「うん、分かった。シルフ、クリス見たい」
「別に口に出さなくてもいいのよ? どれ、私も……」
ティナとイザベラは目を瞑り、風の精霊魔法『風の目』でクリスの姿を追いかけた。
島の中心部、宮殿にクリスはグスタフに案内されていた。
謁見の間へと通されたクリスは、その豪華さに圧倒され呟く。
「すごーい。ここが宮殿かぁ」
「キョロキョロ見るな、田舎者め」
「……ごめんなさい」
「既にソーマ皇子へ話は通しておる。儂は用事があるので去るが、お前はここで待ち続けろ」
「はい、分かりました」
「ではな。せいぜい無事に帰れる事を祈ってろ」
「…………え?」
「いや、何でも無い」
「…………?」
「儂の頭も、これで報われる」
クリスに意味深な事を言い残し、グスタフは広間から立ち去った。
グスタフにキョロキョロ見るなと言われたクリスだが、気になってしまい周りを見渡す。
宮殿内の謁見の間、島の皇帝が配下の者以外と面会する場所。
床全面に赤い絨毯が敷かれ、壁や天井には立派な照明器具が取り付けられている。
正面にある階段の先には恐らく皇帝が座る玉座。
あの位置から謁見者を見下ろしながら話を聞くのであろう。
部屋の四方には衛兵が立ち並び、自分を睨み付けている気がする。
皇子の招聘を断りに来た谷の馬鹿娘、この身の程知らずめという視線を感じたクリスは萎縮し、両手をおへその下できゅっと組みながら、じっと立ち尽くしていた。
暫く待たされていると、広間の数段高い場所にある玉座の陰からひとりの若者が、従者にかき分けられた赤い垂れ幕の中から現れた。
若者、というよりはまだ少年に近い年齢のようだ。
17~18歳くらいかと、クリスの目には見えた。
少年は全身に金の装飾が施された赤い服を見に纏い、さも高貴な者だと主張する出で立ちであった。
少年は従者を手を払って下げさせ、玉座に腰かける。
少年はクリスを見下ろしながら、クリスへ話す。
「よく来たな。ボクがソーマだ」
「ソーマ皇子、この度はお招き、有難うございます」
「お前、名は何と言う?」
「クリス=フレイムアースでございます」
「クリスか。間抜けな名前だな」
「…………は?」
「裏切り者の一族な分際で、よくもまあ島に来れたものだな?」
「……呼ばれたので、来ただけですが?」
クリスは会うなり小馬鹿にしてきたソーマを不快に感じ、気分を害しながら答えた。
島の皇子、ソーマはクリスを見下しながら話す。
「ボクが裏切り者を妃にしようと、本気で思ってやって来たのか?」
「あたしは、お断りしに参りました」
「断る? お前にそんな権利は無い」
「権利が無くとも、お断り致します」
「ふん! そもそもお前を呼んだのは妃にする為では無い」
「……では、何故谷の娘を呼ぼうとなさったのですか?」
「お前が必要だからだ」
「妃にはせずとも必要とは? 何に必要だったのですか?」
「……お前、ボクに意見するのか? 裏切り者の分際で生意気な」
「意見も何も、あたしはお断りに参っただけです。では、失礼致します」
クリスは意思の疎通が出来ないソーマの態度に、非常に不愉快と感じる。
これは早々に立ち去ったほうが良いと思ったクリスは立ち上がり、一礼するとその場から立ち去ろうとした。
自分に背中を向けたクリスにソーマは怒りをあらわにして怒鳴る。
「ボクに背中を向けるとは無礼者め!」
「あたしはあんたのほうが無礼だと思いますが?」
「黙れこの裏切り者!」
「あたしは谷の娘、裏切り者なんて名前ではありません」
「裏切り者は裏切り者だ! それ以上でもそれ以下でも無い!」
「何で裏切り者なんですか?」
「裏切り者だからだ!」
「……どうやらお話が通じないようですね。あたし、帰ります」
「ふん! 帰れるものなら帰ってみろ!」
「はい、帰ります。では、ごきげんよう」
「くくっ……馬鹿な女だ」
ソーマは指をパチンと鳴らす。
クリスは突然身体に異変を感じる。
急に全身が重くなり、歩き出そうにも足が前に出なくなってしまう。
歩こうとしたのに足が出なかったクリスはバランスを崩し、前のめりに転んで手を床に着く。
身体は尚も重くなり、両手両足で踏ん張らないとそのまま床に這いつくばりそうになってしまう。
自分はソーマに何かされた、何をしたのだと混乱しながらクリスは振り返る事も出来ずに叫ぶ。
「なっ、何っ!? あんたあたしに何したのっ!?」
「お前、生きて帰れると思ったか?」
「は!? 意味分かんない!」
「のこのこやって来おって、この間抜けめ」
「だから意味分かんない! 何すんのよっ!?」
「お前はボクの玩具だ」
「ふざけんなっ! 誰があんたなんかの玩具になるかっ!」
「お前に拒否する権利は無い」
「うっさいっ! あたしを谷に帰せっ!」
「断る。お前はボクの玩具として、今日死ぬんだ」
「は!? ……死ぬ?」
「おい、連れて来い」
「はっ、殿下。」
ソーマに指示を受けた衛兵は、広間の隣の部屋から人間の男5人を連れて来た。
四つん這いになりながら必死に身体を支えているクリスの目の前にやって来た人間の男達は、いきなり服を脱ぎ始める。
突然目の前で裸になった男達を見たクリスは、これから自分が何をされるのか察して叫ぶ。
「ひっ!? 嫌っ! やめっ……」
「ひひひっ……上玉な女じゃねーか」
「うへへ……早くぶち込みてぇ」
「慌てんなって。先にケツの穴だぜ?」
「肝心なトコは最後だぜ? 愉しむ前に死んじまうからよぅ」
「順番決めようぜ?」
裸になった男達はクリスを取り囲み、下卑た笑いを続けている。
クリスは混乱しながら喚き散らす。
「何よこれっ!? あんたらあたしに何する気よっ!?」
「あれっ? お嬢ちゃん知らねぇの?」
「ソーマ様が俺達に下さったご褒美なんだぜ? お嬢ちゃんはよ?」
「俺よぉ、一度でいいから翼の民の女にぶち込みてぇと思ってたんだ」
「うんと気持ち良くさせてやるぜぇ?」
「死ぬまで愉しみなよぉ?」
「だっ……だから意味分かんないって言ってんのっ! やめろっ!」
自分はこれから人間の男達に犯される、何故こうなったのかクリスには事情が全く分からなかった。
人間の男達は話し続ける。
「よぉ? 誰がぶち込んで殺すよ?」
「ケツの穴で一番遅くイッた奴でいいんじゃねぇか?」
「おいおい、順番最後の俺が一番だったらどうすんだよ?」
「連戦しちまえよ」
「腰抜けちまうだろうがよ」
「いいんだよ。ぶち込んだらすぐに干からびて死んじまうんだからよ」
「締まり具合もなんも味わう前にくたばるんだ、気持ち良くも何ともねぇって」
「ケツの穴愉しむだけで充分だろ」
「それもそうだな。ぐひひっ……」
男達の下劣な会話を聞き、クリスは顔面蒼白となった。
男達に取り囲まれるクリスの姿を見て、ソーマは楽しそうに話す。
「神の一族と翼の民の女は人間に犯されると朽ちて死ぬ。ボクはその瞬間を見てみたい」
「ふっ、ふざけんなっ! 女を馬鹿にすんじゃねぇっ!」
「だが、臣民にそんな事はさせられない。それで、裏切り者である翼の民なら良いと思った」
「あたしの話を聞けぇぇっ!」
「聞く耳持たん。お前はこの男達に犯され、ボクの目の前で死んで行くさまを見せてくれれば良い」
「だから何でっ!? あたしを何だと思ってんのよっ!?」
「何度も言わせるな。お前はボクの玩具だ」
「ふっ、ふざけんなっ! やめろっ! あたしを谷に帰せっ!」
「帰すか、馬鹿め」
「んがぁぁーっ! んぎぃぃぃぃーっ!」
「そうそう、いい忘れておった。この広間は特殊でな、皇帝に害なす不届き者を成敗する為に、様々な仕掛けが施されておる」
「あたしは不届き者なんかじゃ無いっ!」
「それはボクが決める事だ、お前では無い。ボクは皇帝の息子だから偉いんだ。ボクもここの仕掛けを使えるんだ」
「んな事聞いてねぇっ! 今すぐやめろっ!」
「ここの仕掛けを使って、お前の身体を何倍にも重くした。どうだ? 身体が重いであろう?」
「やめろっ! やめっ……やめて……お願い」
「動けるものなら動いてみろ。どうにかすれば動けるかも知れんぞ?」
「くっ、くそっ! やだ……あたしの初めては……あいつにあげるんだっ!」
「では人間共……やれ」
「へいっ、ソーマ様!」
「いっ……嫌ぁぁぁーっ!」
這いつくばるクリスへ、男達が一斉に襲いかかった。
谷ではイザベラが目を瞑ったまま立ち上がり、大声で叫ぶ。
「こっ……この腐れ外道共めがあぁぁっ!」
クリスの様子を見ていたイザベラは目を開き、風の目を解除すると怒りの余り、手にした扇子をへし折った。
姉のとった突然の行動に驚いたローラは、何事かと聞く。
「おっ、お姉様っ!? いかがなさったのですかっ!?」
「クリスが危ないっ! このままでは人間共に犯されてしまうっ!」
「は!? 何故!?」
「あの腐れ馬鹿息子っ! 最初っから谷の娘を人間に犯させて殺すつもりだったのよっ!」
「なっ、何ですってっ!?」
「何かクリス危ないっ! 俺、助けに行くっ!」
同じく風の目でクリスが男達に襲われる姿を見たティナは目を開き、島に向かって猛スピードで飛び立った。
ローラはゆっくりと立ち上がり、凄まじい形相で島を睨みつけながら話す。
「お姉様っ! 私はこれよりティナを援護しますっ!」
「お願いっ! 私はティナに当たらないように闇の精霊で防ぐっ!」
「お願い致しますっ! 光の精霊よ! 島の愚か者共に裁きの鉄槌をっ!」
「闇の精霊っ! ティナを守ってあげてっ!」
ローラの叫びに呼応し、にわかに島の周りには不穏な雲がまとわり付くと、ゴロゴロと雷を落とし始める。
イザベラもまた叫び、ティナの周囲に黒い玉5個を飛ばして周囲を旋回させる。
ティナは周囲に黒い玉を連れ、島へとぐんぐん距離を縮めていった。
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