翼の民

天秤座

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クリスの受難

45 お人形

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 風呂場では素っ裸の3人が床に倒れ込み、身体のあちこちからプスプスと湯気を出しながらうめいていた。

「あ……ひ……」
「へ……ぐ……」
「ほ……へ……」
「……チェイニー……馬鹿」
「……ごめん」
「制御出来ないくせに……使うな」
「……ちゃんと練習する」
「それ、もう聞き飽きた」
「毎度毎度喰らうこっちの身にもなってよ」
「私だって一緒に直撃喰らってるよ」
「自爆すんのはあんただけにしてよ」
「もう嫌。これ嫌。雷大嫌い」
「だいたいお風呂に水貯めんのに、雷雨あれ使うっていう発想がアホ」
「……ホントごめん。早くお湯貯めたかったの」
「あんたその超せっかちな性格、何とかしなさいよ」
「料理ダメ、掃除ダメ、洗濯ダメ、女として失格よ?」
「うう……」
「ティナが男に戻ったらさ、あんた辞退してくんない?」
「それはやだ……」
「じゃあ、女として修行しなさいよ」
「……はい、ごめんなさい」

 コロナとエリに責め立てられ、チェイニーは女として修行しなおさなければと、痺れて身動き出来ない身体へ刻み込んだ。



 ソニアに呼ばれたレイナとナタリーは、調理の下ごしらえを中断し、風呂場へと移動した。

 脱衣場で服を脱いでいるソニアとティナへ合流すると、自分達も服を脱ぎ、素っ裸になって浴室へ移動する。

 浴室で待機していたチェイニー・コロナ・エリと合流し、全員で入浴を始める。

 

 初めてティナの裸を見たソニア達は、その美しい容姿に見とれながら話す。

「ティナ……お前の身体、美しいな」
「いや、もっと筋肉もりもりしてると思ってたよ」
「女の目から見ても、すっごく綺麗よ?」
「うわぁ……いろっぽい」
「前にサキュバスって言った事あるけど……ホントにそうなんじゃないの?」
「元は男なのに……なんか凄く悔しい」
「……負けた」
「俺、綺麗?」
「そんな華奢な身体の何処に、あんな鬼神のごとき強さを隠しているのだ?」
「クリスがティナは太らないって言ってたけど、ホントだわ」
「沢山食べてるのに……何で?」
「食べたもの、いったい何処に行ってんの?」
「長い黒髪と相まって、とっても素敵な身体だよティナ」
「ねえ、ちょっと触らせて?」
「うん」

 ソニア達はティナの周りにわらわらと集まり、まだ幼いのに妖艶な雰囲気を醸し出している身体のあちこちを触り、揉みしだき始める。

「……無駄な肉が、一切付いていないな」
「筋肉柔らかーい。ぷにぷにしてる」
「お尻ちっちゃーい。それなのに揉みごたえあるー」
「おっぱいおっきい。わたしのと交換してくんない?」
「わっ、まだどこにも毛が生えてない。こんな身体つきしてるのに、まだ子供なの?」
「おっぱい揉んでみてもいい? 痛くしないから」
「うん。…………くすぐったい」

 近衛達は暫くの間、ティナの身体を念入りに調べ続けた。

 もっとも、調べただけでは全く参考にならず、自分の身体と比べてその違い過ぎる魅力に、ただ劣等感を抱くだけであった。


 その後もティナは、近衛達からまるでお気に入りのお人形のような扱いをされ続ける。
 
 ソニアからは髪の毛を丁寧に洗われ。

 チェイニーからは念入りに翼を洗われ。

 コロナからはお尻を舐め回されるように洗われ。

 エリからは胸を執拗に洗われ。

 レイナからは指の先から足の先まで綺麗に洗われ。

 ナタリーからは脇の下や股間といった、敏感な部分を洗い責めされた。


 自分もみんなを洗いたいと動く度に押さえつけられ、行動を封じられたティナはさながら、世間の目に見せる事の無いよう隠匿されている、箱入りのお姫様のような扱いを受け続けた。


 ティナを念入りに洗い続けたソニア達は満足し、浴槽へと沈めると、自分達も身体を洗い始める。

 自分もみんなを洗いたいと言い、浴槽から上がって来ようとするティナを何度も制止し、洗い終えた者から随時浴槽へと身体を沈めていった。

 最後にソニアが浴槽へ入り、全員でティナを取り囲む。


 ティナは額に汗を滲ませながら話す。

「なあ? 何で俺、みんなの事洗うの駄目なんだ?」
「いや、別に駄目ではないが……お前に洗われるのは気が乗らなかった」
「なんかこう……お人形さんに洗われるってのは違うんじゃないかなって思ったの」
「気にしなくてもいいよ? あたし達が洗いたくなって洗ってあげたんだから」
「そうそう。なんかね、そんな気分になったの」
「昔大切にしてたお人形さんの事、思い出しちゃってね」
「みんながそれぞれ大事に持ってたお人形さん達と、ティナが被ったのよ」
「俺、人形じゃないぞ?」
「分かってる。だがな、幼い頃に紛失してしまった人形とお前が妙に似ていてな、あの時の罪滅ぼしをしたくなってしまったのだ」
「あの子もっと大事にしてあげてれば良かったな……ってね」
「土の中に埋めて遊んで……何処に埋めたか忘れちゃったあの子が見付けられなくなって、大泣きしたもんだわ」
「何度も手足もげては、お母さんに直して貰ったよ」
「人間の行商が売りに来たのをね、かなり高かったのに無理して買ってくれた、当時の近衛に申し訳無くなっちゃって」
「私もそれだわ。近衛と人形が重なって、ちっちゃい頃に味わった罪悪感を思い出しちゃったんだ」
「俺が近衛で人形みたいだから、洗いたくなったのか?」


 ソニア達は目を丸くし、何故自分達がティナを洗いたくなってしまったかの理由が分かった。

「……そうか分かった。レイナとナタリーの言った理由だったのか、この衝動は」
「あ。私もそれで間違い無いや」
「優しかった先輩近衛から貰った大切なお人形さん。無くしちゃった事への罪滅ぼしだったんだ、この気持ち」
「納得。ティナの身体を借りてお人形さんが、また来てくれたんだね」
「私達に断罪の機会をくれたんだね、きっと」
「ティナ……ありがとね?」
「?」

 近衛達は子供の頃に味わった心の傷を癒したくなり、ティナを洗うという行為に結び付いた事に、全員が納得した。



 ティナは正面に座るソニアの首からぶら下がっている、緑色に光る綺麗な石がはめ込まれたネックレスに興味を持つ。

「ソニアが着けてるそれ、綺麗」
「ん? このネックレスか?」
「うん。それ、綺麗」
「ありがとう」
「ソニア、隊長だからそれ、着けてるのか?」
「いいや、そうでは無いぞ」
「だって、みんな着けてない」
「これはな、私に必要不可欠な物なのだ」
「そうなのか?」
「ああ。これが無ければ、下手すると私は死ぬ」
「? 何でだ?」
「私はな、風と土の精霊両方と契約しているのだ」
「風と土……あ、オド減るのか?」
「その通りだ。知っているのだな?」
「うん。イザベラから貰った紙に書いてた」
「風と土は反属性だからな。このネックレス無しでは私のオドがもたん」
「みんなはネックレス、いらないのか?」
「この谷でネックレスが必要なのは、両陛下と私だけだ。他の連中は水と風の精霊としか、契約出来る機会が無いのだ」
「水と風は大丈夫。でも、火と水、風と土、光と闇は駄目」
「良く覚えているな?」
「みんなは水と風しか、覚えれないのか?」
「そうでは無いぞ。両陛下がお調べになられ、適応出来る者は割と多い」
「何で契約しないんだ?」
「この谷には水と風の精霊しか居ないのだよ。チェイニーは光、コロナは火、エリは闇の精霊とも契約しているが、それは亡くなった曾祖父母や祖父母と契約していた精霊を、形見として引き継いだのだ」
「ソニアもそうやって、土の精霊と契約したのか?」
「ああ。私の場合、父様の形見だがな」
「父さんの形見?」
「私がまだ幼い時に、父様は人間に捕まりそうになり……自害してしまったのだ」
「自害って何だ?」
「自分で自分を殺す事だ」
「……え? 自分で自分、殺したのか? 何でだ?」
「谷の男はな、その翼の羽に不思議な力を宿しているのだよ。だから人間に狙われるのさ」
「人間に捕まりたくないから、自分殺したのか?」
「そうさ。もし捕まったら、死ぬよりも辛い目に遭わされるからな」
「何で人間、俺達捕まえるんだ?」
「人間はな、谷の男の翼の羽を欲しがるのだよ」
「人間は羽が欲しいのか? 少しあげたらいいんじゃないのか?」
「それが出来ないのが人間なのさ」
「? 何でだ?」
「人間は谷の男を捕まえると、羽を全て奪い取るんだ」
「え、飛べなくなるじゃないか?」
「そうさ。強欲な生き物だろう?」
「うん。少しだけ欲しいなら俺、あげてもいいのに」
「お前は今、女だからその羽に不思議な力は無いぞ?」
「あ、俺の羽には力無いのか」
「女には他の役目があるからな。そちらに力が込められている」
「女の役目って、何だ?」
「今のお前が聞いても、恐らく理解出来んだろう。理解出来るようになったら教えてやる」
「俺、分かんない事か。じゃあ、聞かない」
「意外とあっさり流すのだな、お前は?」
「俺、分かんない事聞いても分かんない。
 俺、分かる事しか分かんない。
 俺、分かんないなら聞かなくていい」
「……そうか。何を言いたいのか分からんが、知る必要が無いと思ったら聞かないんだな?」
「うん、聞かない。分かんない事分かろうって考えると、頭痛くなる。だから聞かない」
「……お前、たまに『分かんないけど分かった』と言う時があるが……実は分かっていないのか?」
「うん、分かんない」
「やはりそうだったか。その場の雰囲気を感じ取って、無理に理解しようとしない気持ちは分からんでも無いが……余り無知だと、大人になった時に困るぞ?」
「分かるようになった時、みんなに聞く。大丈夫」

 近衛達は、ティナが何でも知りたがる性格ではない事を知ると共に、その純粋さ故に将来誰かから騙されてしまうのではないかと、不安を覚えた。



 風呂を済ませ、調理場へとやって来た近衛達は夕食の準備を全員で始める。

「さて、夕食の仕度を始めるとするか。レイナ、ナタリー、何を作るつもりだったのだ?」
「ナタリーと相談して、大鍋に肉野菜鍋を作ろうとしていました」
「沢山作れば、大食いのティナも満足出来るかと思いまして」
「いい判断だ。だが、出来ればあと数品欲しいな」
「俺、肉食いたい」
「大丈夫よ。肉野菜鍋だもん、沢山お肉入れてあげる」
「やったー!」
「隊長、あたしとエリで何か作ります」
「そうか、頼んだぞコロナ」
「はい! ナタリー、あんたが持ち込んでたソーセージ使ってもいい?」
「いいよー」
「じゃあ、あたしはソーセージ茹でたやつと焼いたやつ作るね」
「わたしもソーセージ貰って、茹でたジャガイモのサラダ作るね」
「え? あんた干し肉じゃなく、ソーセージ使うの?」
「うん、うちはソーセージで作るよ」
「へー、美味しかったら今度うちでもやってみよ」
「ちょっと、私のソーセージ使いきんないでよ?」
「いいじゃん、無くなったらまたお母さんに作って貰いなよ」
「ヴェーチェル家が谷で初めて、ソーセージ作りに成功したんだもん。うちの母様、まだ失敗してばっかだよ」
「うちも。燻しすぎて干しソーセージにしちゃってるよ」
「うちのは燻す時間短くて生ソーセージよ」
「うちは燻すどころか燃やしちゃって、完成した時点で焼きソーセージよ」
「燻すにはコツがあんのよ、コツが」
「でもあんたそれ、まだ覚えてないでしょ。娘なんだからちゃんとお母さんから伝授されときなさいよ」
「うえーい、頑張るー」
「一代限りの秘伝なんかにしないでよ?」

 近衛達はナタリーに何が何でも習得しろと念を押す。


 話が途切れたのを見計らい、チェイニーが服の袖を捲り上げながら話す。

「ねえねえ! 私、何すればいい?」
「えーっと……チェイニーは何もしなくていいよ」
「何でよっ!」
「肉野菜鍋は私が作るもん」
「私はパン焼く」
「あたしはソーセージ」
「わたしはサラダ」
「じゃあ、私もナタリーと一緒にパン焼きする!」
「黒焦げにするからやめてくれ」
「やだっ! 女の修行するのっ!」
「んじゃ、お風呂掃除してきてよ」
「やだっ! 料理がいいっ!」
「いやホント、何もしなくていいよ」
「お願い! 絶対焦がさないから、私にもパン焼かせてよ!」
「生焼けでも困るんだけど?」
「うー………じゃあ、パン生地丸める!」
「床に落っことすなよ?」
「しない! 絶対しないから!」
「しゃーない、私があんたの面倒見るか」
「ありがとナタリー!」


 調理担当で一悶着起きたが、どうやら丸く納まったようであった。

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