翼の民

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クリスの受難

39 剣術試験 前編

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 ティナの誘拐未遂事件から五年の歳月が流れる。

 そのたどたどしい言葉使いも少し直り、会話の内容にはまだおかしな所があるが、大分話せるようになった。

 ティナは18歳になり、容姿端麗な美少女へと成長していた。
 
 黙ってチョコンと座っていれば、とても出来の良い人形と勘違いする程に美しくなった。

 しかし、未だにおかしな行動ばかりするので折角の美人が台無しだと、谷の女衆は口を揃えて話す。


 5年の歳月をかけ、ティナの剣術の腕前は近衛兵団の中でも上位を争う実力者になるまで成長した。

 身体も大きくなり、相応な腕力を手に入れたティナは近衛兵の中でも頭一つ抜き出た剣術使いとなった。

 体幹を全く崩さない紙一重の回避、そこから繰り出される強烈なカウンター攻撃。

 うかつに攻撃すると酷い目に遭うので防御していると、急に始まる2本の剣からの連続攻撃を捌ききれず、その重い一撃を喰らう。

 近衛達はティナ相手に攻めても守っても、戦えば確実に自分が床に這いつくばる結果となっていた。


 同じく近衛上位の実力者に成長したクリスでさえ、ティナが繰り出す本気の攻撃と回避には目も身体も付いて行けず、他の近衛同様に床を舐めさせられていた。

 最早ティナと実力が拮抗しているのは、近衛隊長のソニアだけであった。


 ティナの二刀流は最早芸術作品とも呼べる程、華麗な動きを見せる。

 その流れるような剣さばきは、腰まで伸びた美しい黒髪と相まって見る者を魅了した。

 ついうっかりその動きに目を奪われてしまうと、予想だにしていない位置から繰り出される強烈な一撃を叩き込まれてしまうのであった。


 更にティナは毎日大人顔負けの食事量を摂取している為か異常なまでの体力を手に入れ、訓練し続けても疲れ知らずな身体となっていた。

 到底18歳の女の子とは思えない程の体力に、近衛達はティナの存在を疑問視する。

 ただ毎日沢山食べているだけなのに、何故そこまで基礎体力に反映されるのか。

 もしかしてこの子は特異体質ではないのか、と。

 唯一、世界を救う子の可能性があると知るイザベラとローラだけはティナの年齢不相応な身体能力に、さもありなんと納得していた。

 恐らく神があの子に何かしらの手を加え、常人では考えられないような肉体に作り替えたのではないか、と。


 近衛兵達はいつもどおり朝から剣術の訓練に励む。

 朝から行なっていた訓練を中断し、休憩中の近衛達はティナを囲んで話す。

「へへー。背の高さも、おっぱいの大きさもやっとクリスに勝ったぞ」
「うっさいわねえ。あんだけ毎日バカスカ食べてりゃ、ほっといても大きくなるわよ!」
「身体大きくなって、みんなと一緒だ。俺、嬉しい」
「……っていうか、何であんた全然太んないのよ!?」
(剣の腕前は自力が違いすぎるからしょうが無いとして……胸だけは悔しい。こいつ本当は男なのに)

 クリスはティナの身体を見つめながら、ため息をついた。


 近衛達が冷やかしを入れる。

「しっかしティナってば、すっごい美人になったよね!」
「うんうん! 谷一番の美人だよね!」
「そのながーい黒髪……羨ましいなぁ」
「独り身の男連中帰って来たら、真っ先に求婚されちゃいそう」
「いやー、美人だなぁ。同じ家で同じゴハン食べてるクリスはぶっさいくなままなのに」
「うっさい! うっさいっ!」
「クリス怒るな。俺、クリス美人だと思うぞ?」
「はいはい、ありがとうございますぅ!」

 クリスは頬を膨らませ、そっぽを向いてぷんすかと怒った。


 和やかに談笑していた近衛達は急に真顔になり、ティナへ聞く。

「……しっかしティナ、あなた一体何者なの?」
「え?」
「バカみたいな体力、アホみたいな回避、あんた人じゃ無いんじゃないの?」
「バカとかアホとか……酷い」
「だってあり得ないんだもん。絶対18歳の女の子なんかじゃないよ。バケモノよ、バケモノ!」
「俺、何かおかしいのか?」
「うん。何故かイザベラ様とローラ様だけは納得なさってるみたいだけど、あたし達近衛はティナの事怖がってるよ?」
「俺、怖くないぞ?」
「あなた、絶対ワケ分かんない血混じってるよ。普通の人じゃ考えられない身体してるもん」 
「あれだよ、何だっけ? 男を虜にして食べちゃうすっごく美人な魔物」
「えっと……サキュバスだっけ?」
「そうそう! それそれ!」
「ティナってきっとサキュバスの血が混ざってるよ」
「そうだとしたら、その身体に納得するなぁ……」
「? 俺の身体、そんなに変か?」
「変よ。すっごい変!」
「いやぁーんっ。谷の男、みんなティナに食べられちゃぅー」
「こわーいっ」
「俺……みんなから怖がられたくない……」
「違う違う。怖がってるってのはね、別にティナが怖いんじゃなくてね」
「敵に回しちゃうのが怖いのよ」
「? 何で俺がみんなの敵になるんだ?」
「もし敵になったらの場合よ。お願いだから敵になんないでよね?」
「うん! 俺、ずっと谷のみんなの味方!」
「あんたが敵になったら……あたしあんたの事大嫌いになるからね?」
「俺、クリスに嫌われたくない! 絶対敵にならないから!」
「頼むわよ、ホント」
「うん!」

 近衛達はティナの存在を畏れつつも、その純粋な性格に憧れと魅力を感じていた。



 休憩しながら談笑している近衛達に、ソニアが号令をかける。
 
「集合っ!」
「はいっ!」

全員がソニアの前へ横一列に並ぶ。


 ソニアは近衛達に話す。

「今日は剣術の実力試験をするぞ!」
「ええーっ!?」
「うわ……もうそんな時期だったのかぁ……」
「何だ? やりたくないのか?」
「いえっ! やりたいですっ!」
「楽しみにしてましたっ!」
「そうか。では、やるぞ」
「はいっ! 打倒隊長っ!」
「おっし! 今回こそはソニアに勝つぞっ!」

 ティナは顔をぱんぱんと叩いて気合いを入れ、クリスはこきこきと首を鳴らす。

 上位に居るクリスとティナは目を輝かせ、下位に甘んじる他の5人は肩を落とした。

 剣術の試験は定期的に行なわれる。

 総当たり戦で勝ち星の一番多い者順に順位が決まる。

 全員真剣に戦い、実力のある者は勝ち、無い者は負ける戦いが始まる。



 試験1回戦、ティナ対チェイニー。

「行くわよティナ! 私だっていつまでも負けてらんないんだからっ!」
「来い! チェイニー!」
「おりゃーっ!」
「よっと! おりゃっ!」
「あうっ!?」
「もういっちょー!」
「あぐっ!? くぅっ……参った」
「はい。ありがとうございました」
「……ありがとうございました……」

 チェイニーの縦方向から来る斬撃に反応し、右足を下げて身体を捻り最小限の動きで回避したティナ。

 そのまま身体を戻しながら右手の木剣でチェイニーの両腕を捉え、一撃を入れる。

 身体をくの字に曲げたチェイニーの首筋へ、今度は左手の木剣を振り下ろす。

 ティナの二撃であっという間にチェイニーは床へ這いつくばった。


 剣術試験は淡々と進む。

 試験2回戦、クリス対コロナ。 クリス完封で勝利。
 試験3回戦、ソニア対エリ。 ソニア圧勝。
 試験4回戦、レイナ対ナタリー。 レイナ勝利。

 全員の1回戦終了後、回復と休憩。


 試験5回戦、ティナ対コロナ。 ティナ勝利。
 試験6回戦、クリス対エリ。 クリス勝利。
 試験7回戦、ソニア対レイナ。 ソニア勝利。
 試験8回戦、ナタリー対チェイニー。 ナタリー勝利。

 全員の2回戦終了後、回復と休憩。


 試験9回戦、ティナ対エリ。 ティナ勝利。
 試験10回戦、クリス対レイナ。 クリス勝利。
 試験11回戦、ソニア対ナタリー。 ソニア勝利。
 試験12回戦、チェイニー対コロナ。 チェイニー勝利。

 全員の3回戦終了後、回復と休憩。


 試験13回戦、ティナ対レイナ。 ティナ勝利。
 試験14回戦、クリス対ナタリー。 クリス勝利。
 試験15回戦、ソニア対チェイニー。 ソニア勝利。
 試験16回戦、コロナ対エリ。 コロナ勝利。

 全員の4回戦終了後、回復と休憩。


 試験17回戦、ティナ対ナタリー。 ティナ勝利。
 試験18回戦、クリス対チェイニー。 クリス勝利。
 試験19回戦、ソニア対コロナ。 ソニア勝利。
 試験20回戦、エリ対レイナ。 レイナ勝利。

 現時点の成績。
 5勝0敗 ティナ・クリス・ソニア
 2勝3敗 レイナ
 1勝4敗 チェイニー・コロナ・ナタリー
 0勝5敗 エリ


 全員が5回戦を終了し、回復と休憩をしているとソニアが話す。

「良し! 全員昼メシ食って来い! 午後から再開だ!」
「はいっ!」
「あーあ……1回も勝てなかったぁ」
「ごめんね? 私勝ち星1つ余計に奪って2勝」
「やっぱあの3人強すぎ。手も足も出ないよ」
「午後はあの3人の壮絶な戦いだね」
「私らドングリの背比べだなぁ……」

 負け越した近衛達はガックリと肩を落としながら家に帰る。

 残り全勝すれば勝ち越しの望みがあるレイナだけは気合いを入れ直しながら帰った。


 兵舎の留守番をするソニアは無表情のまま訓練場の隅に座り、家から持って来た昼食を黙々と食べていた。

 クリスにならまだ負ける要素は無いが、ティナにはそろそろ負けそうだと予感しながら。


 食事を終えたソニアは腕を組みながら目を瞑り、ティナの立ち回りを脳内で何度も再生し、午後の試合に向けて対策を練り続けた。

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