翼の民

天秤座

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幼少~少年時代

38 ナタリーとミリア

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 もう絶対に追い付けない距離をつけられた馬車を、3人は必死で追いかけていた。

 ティナを見捨てる気など毛頭無い3人は、誰も決して諦めようとせず走り続けた。

 馬車と3人との距離は段々と縮まってゆき、いつしか馬車は先で完全に止まっていた。


 3人は息を切らしながら、剣を抜いて馬車へと近付いて行く。

 恐る恐る停車した馬車の荷台を覗き込む3人。

 そこには額に短剣が突き刺さった男が2人と、仰向けに倒れている行商の男がひとり。


 血生臭い匂いに顔を歪めながら、3人は話す。
 
「……こいつら……死んでる?」
「うん……死んでるみたい」
「いったい誰が……って、ティナか」
「自力で何とかしたの……かな?」
「……だね」
「でも……ティナ居ないよ?」
「どこに行っ……あ」
「痛てぇよ……刺すなよ」
「ササレタクナカッタラ、アルケ」
「へいへい……」

 馬車の脇から、両手を挙げながら歩いて来る男が現れた。

 続けて剣先を男の背中に突き付けながら歩く、全身を血で真っ赤に染め上げた、素っ裸のティナが現れる。


 レイナ達3人は、ティナの無事な姿を見て歓喜する。

「ティナっ! 良かったっ! ティナっ!」
「ごめんティナっ! 怖い思いさせちゃってごめんっ!」
「ティナ……血で真っ赤………ティナぁーっ!」

 クリスはティナに飛び付いて、ぎゅっと抱きしめた。



 ティナはクリスに抱きしめらたまま話す。
 
「コイツラ、オレヲウリモノニスル、イッタ。コロシタケド、ヨカッタノカ?」
「うんうん! 殺して良かった! 良かったんだよぉー!」
「オレ、ウマトメラレナイカラ……ソイツハコロサナカッタ」
「うんうん! 裸にされちゃって……大丈夫? 酷い事されなかった?」
「サンニンニタオサレテ、カラダナメラレタ」
「ええっ!?」
「ソノアト……オレノウンチスルトコニ、チンチンイレヨウトシテタ」
「いっ……挿入れられちゃっちゃ・・のっ!?」
「ウウン。イレラレルマエニコロシタ」
「……良かったっ。良かったよぉぉぉ……うえぇぇぇーんっ!」

 クリスは返り血など全く気にせず、ティナを抱きしめたまま泣き出してしまった。


 レイナは男の背後に回り込み、膝の裏を蹴ってひざまづかせる。

 レイナとナタリーは男の顔に見覚えがあった。

「お……お前はっ!?」
「やっぱり……お前だったのかっ!」
「へっ……失敗しちまったぜ」
「このっ……またさらうつもりだったとはっ!」
「このっ……糞野郎がっ!」
「俺の顔はバレてるかも知れねぇと思って人雇ったのによぅ……いらん事しやがって……クソが!」


 ナタリーは男の前に立ち、問い詰めると男はとぼけながら答える。
 
「お前達が以前さらった、谷の娘はどうした?」
「へっ……知らねぇよ」
「とぼけても無駄だ。私とレイナはお前の顔を覚えている」
「知らねえって言ってんだろ」
「ふざけるな! 2年前と手口が全く一緒だ! 言え! あの娘をどうした!」

 ナタリーは男の喉元に剣をあてがう。

 そのまま剣を押し込み、今にも男の喉元を切り裂こうとする勢いであった。


 男は観念し、話し始める。

「へっ、高く売れるってんで捕まえたんだけどよう……売りに出す前に、つい手ぇ付けちまった」
「……何だと!?」
「知らなかったぜ。お前らは犯されると、すぐババアになって死んじまうんだな?」
「なっ!?」
「アンとかヒンとか一言も漏らさねえまんま、あっという間に干からびちまいやがんのな? つまんねぇ」
「このっ……野郎っ……!」
「人間にぶち込まれりゃ、すぐにくたばるとかよ……なんなんだよおめえらは?」

 ナタリーは左手の盾を投げ捨て、両手で剣を握りしめると振りかぶった。

「けっ! とんだ大損だったぜ。それで今度こそはと思っぎゃぶぇぉぉぁっ!?」
「ふっざけんじゃねぇぇぇーっ!」

 ナタリーはありったけの力を込め、剣を思い切り振り下ろした。

 剣は男の右肩から入り込み、腹まで切り下ろされる。

 男は口から血の泡を吐き、周囲に血を巻き散らかしながら絶命した。


 ナタリーは男に喰い込んだままの剣を手放し、両手で顔を覆いながら号泣する。

「ミリアっ……ミリアぁぁぁ……うわぁぁぁぁぁぁーっ!」

 ナタリーはぺたんと地面に座り込み、泣き崩れた。


 馬車の幌を切り裂き、タオル代わりにしてティナの身体をゴシゴシと拭くクリス。

 ティナがミリアの事を聞こうとする前に、クリスが話す。

「ナア? ミリアーー」
「ミリアはね……ナタリーの妹よ。あたしより3歳年上で、小さい頃からずっとあたしのお姉ちゃんみたいな存在だったの」
「ソウナノカ?」
「うん。ナタリーとミリアとあたし、3人でよく遊んでた……」
「ミリアモ、コノエダッタノカ?」
「うん。ティナと一緒で、矢反らし使いでね……あたしはその時留守番だったんだけど……さっきのティナと同じように、連れ去られたのよ」
「ミリア、アイツニコロサレタノカ?」
「うん……そうみたい」



 レイナは後ろからそっとナタリーを抱きしめながら話す。

「ナタリー……ミリアの仇とったんだよ。きっと……ミリアも喜んでるよ?」
「わぁぁぁぁっ! わぁぁぁーんっ! ミリアぁぁぁぁっ!」
「ナタリー……ぐすっ……ぐすっ……うぇぇぇぇーん……」

 レイナもミリアの無念を想い、ナタリーと一緒に泣き出す。


 クリスとティナは何も言えなかった。

 ナタリーとレイナは、ずっと泣き続けた。

 ティナは死んだ母熊の事を思い出していた。



 泣き尽くしたナタリーは立ち上がり、目を真っ赤にしながらスッキリとした表情で話す。

「……よぉーっし! スッキリしたぁーっ!」
「……ナタリー?」
「ミリアはもうとっくに死んでたっ! 良かったっ!」
「ちょっと……何て事言うのよ……」
「良かったのっ! 糞人間共にイジメられながら今も生きてたらすっごい可哀そうだったけど、死んでてくれたんだもの! 死ぬ時は苦しかっただろうけどさ、今はきっとあの世で幸せになってるハズよっ!」
「ナタリー……」
「大丈夫よ! お母さんとも死んでたほうがいいよねって……話してたんだからっ!」
「それは……ちょっと……言いすぎだよ……」
「だってさ! どっかで生きてるのが分かったって……助けになんて行けないんだもん!」
「それは……そうだけど……さ」
「死ぬまで生き地獄を味わうよりもマシっ! さらわれてからスグに死んでたみたいだし、辛かった時間は短かったはずよっ!」
「ナタリーは……強いんだね?」
「あったり前よっ! 早くお母さんにも知らせてスッキリさせてあげなくちゃっ!」
「う……うん」
「あっ! 行商が取ってったお金、取り返さなくちゃ! ティナ、手伝って!」
「ウ……ウン」
「あ、やっぱいいや! 素っ裸でやらせちゃ駄目だ。クリスに馬車の幌切って貰って身体隠してよ」
「わ、分かった。じゃあティナ、ちょっとこっち来て」
「ウン……」
「レイナ! お金回収しようよ!」
「うん。じゃあついでに……殺した人間からもね」
「うんうん! そしたらコイツら置いてった物、みんなで谷に持ち帰ろうよ!」
「……分かった」
「……そうだね」
「……ウン、モッテカエル」
「何よ? みんなしてまだ悲しんでるの? 悲しんだってミリアはもう帰って来ないんだよ?」
「そうだね……そうだよね。ナタリーが大丈夫なら、私達も大丈夫にならないとね?」
「そうだねっ! ミリア、元気に死んでてねっ!」
「クリス……ゲンキニシヌトカ……ヘンダゾ?」
「あはははは!」

 ナタリーが立ち直っているのに、自分達だけ落ち込んでいてはいけないと3人は思った。


 お金の回収を終え、行商の置いて行った商品の前まで戻って来た4人は話し合う。

「……うん。動物か何かに食い荒らされてないか心配してたけど、大丈夫そうね」
「そうみたいだね」
「あっ! ソーセージある! やっほぉい!」
「? ナタリー、ソーセージ…ッテナンダ?」
「これよ! 羊とかいう動物の腸に、グチャグチャにしたお肉とか香辛料詰め込んで、熱い煙で燻して作るんだってよ!」
「フーン……」
「私ね、これ大好きなの! ちょっとみんなでつまみ食いしようよ!」
「エ、イイノカ?」
「ちょっと減ったくらいじゃバレないって! ほいっ、ほいっ、ほぃっ!」
「ありがとう。実はこれ、私も好きなの」
「あたしも。お母様が作ってみようとしてるんだけど、全然上手く出来ないのよね」
「モグモグ…………ング。……オオォ!? ウマイッ!」
「あっ、ティナもう食べてるっ!」
「早いっ、早いよティナっ!」
「……さっすが、食べ物に関しては即行動するわね、あんたは」
「あはははは!」

 ナタリーは気丈に振る舞い続け、他の3人も次第に調子を合わせていった。



 その日の晩、クリスの部屋でティナはクリスに話しかける。

「ナアクリス? クリスハ、オレガシンダラカナシイカ?」
「ん? どしたの急に?」
「オレガシンダラ、クリスハカナシイカ?」
「そうね。そりゃ悲しむわ」
「ヨカッタ。オレモクリスシンダラ、カナシイ」
「……ナタリーもミリアも、可哀そうだったね?」
「ウン」
「でもさ……ミリアが今も苦しみながら生き続けてたら、もっと可哀そうだったよ」
「オレ……ワルイニンゲンキライ。ダイキライ」
「あたしも大嫌いよ」
「シンダホウガシアワセナンテ……オレイヤ」
「……そうだね。あたしもそんなの嫌」
「デモ……ナタリーハ、ミリアガシンデテクレテ、ヨカッタッテ……」
「ナタリーも色々あるんだよ。そう思ってるんならさ、あたし達からは何も言えないよ」
「オレ……タニノミンナ、スキ。ダカラ……モウダレモ、シンデホシクナイ」
「そうね。だから近衛のあたし達が……頑張らないとね?」
「……ナア、クリス?」
「んー?」
「キョウ……イッショニネテモ、イイカ?」
「うん。いいよ……おいで」
「ウン」


 ティナはクリスの横に寝そべり、2人は同じベッドで眠る。


 2人とも向かい合わせに小さく丸まり、悲しみを身体の中へ封じ込めるように。
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