翼の民

天秤座

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幼少~少年時代

34 二刀流

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 翌日からの剣術訓練、ティナは思いきった行動に出る。

 木剣を片手にそれぞれ1本ずつ持ち、木剣2本でクリスへ挑みかかった。
 
「ちょっとなによそれ!? 遊んでるんじゃないわよ!」
「ケンニホン、ニカイコウゲキデキル。オレ、アタマイイ」
「もうっ。……あ、でもちゃんと攻撃らしい事してくるじゃないの」

 ティナは2本の木剣を振り回し、クリスは左右から襲いかかってくる斬撃を木盾で防ぎ続ける。

 昨日までは剣に振り回されていたティナだが、二刀流で剣を振ると一刀目の反動で二刀目に力が入り、剣の重さに負けなくなっていた。
 
 今まで剣の振り回す反動に身体ごともって行かれていたティナは、二刀目を回転切りの要領でくるりと反転する事で反動を攻撃へ転換していた。


 小柄なティナに二刀流は正解だったのかもしれない。

 ソニアもティナの動きの変化に気が付き、感心しながら話す。

「ほう……ティナの動き、大分変わったな。なかなかいい攻撃だ」
「ティッ! ヤァッ! トリャッ!」


 ティナの不規則な二刀流回転攻撃にクリスは焦り始めた。
 
「ちょ、ちょっ……きゃっ! 危ない危ない……」
「エイッ! エイッ! トリャッ!」
「力が無いから威力はそれ程でもないけど……こうも連続で来られると当たっちゃいそう……」

 予想以上の連撃に、クリスは防戦一方となった。


 しかし、それでもクリスのほうが剣術の腕前は上で、ティナが作る隙を見逃す事は無かった。

「そこだっ! てぃっ!」
「イタッ!?」
「ふふふ……まだまだ、150年早いわよっ! さあっ、もう一度来いっ!」
「ウンッ!」
「攻撃に夢中になり過ぎてるよ! そんなんじゃ回避出来ないよ!」
「ワカッタ! カイヒシナガラコウゲキスルッ!」
「……って、実際やっちゃうから凄いわねこの子……」


 剣術の訓練は夕方まで続いた。



―――――――――――――――



 ティナの剣術訓練が本格化してから1ヶ月が過ぎる。

 ティナの二刀流は我流ながら、そこそこの動きが出来るようになってきていた。

 回避の技術はかなり上達し、二刀流の木剣を使っての防御を含め、クリスの本気の攻撃も滅多に当たらなくなっていた。

 攻撃面でも最初の頃よりも腕力が上がり、たまにクリスの盾を弾き飛ばす威力の一撃を繰り出せるようになった。


 順調に上達をしていると思われていたティナだが、最近精神的に問題を抱え込んでいた。

 夕方ちょっと前の休憩中、クリスとティナは話し合う。
 
「ウー……ニク……ニクー……」
「そんなにお肉食べたいの?」
「ウン……タベタイ」
「谷のみんなが自分ちの保存肉分けてくれてるのに、まだ食べ足りないの?」
「オナカイッパイ、ニククイタイ……」
「もう谷のどこの家にも保存してた肉無くなっちゃっちゃ・・んだよ?」
「エ? ニクモウナイノカ?」
「殆どあんたひとりで残ってた谷の保存肉、食べ尽くしたんだからね?」
「ナンデミンナ、ニククワナインダ?」
「そりゃまぁ……お肉がなかなか手に入らないからだよ」
「ソウナノカ?」
「前はよく谷から出て、お肉調達してたんだけどね」
「イマハシテナイノカ?」
「うん。危なくて谷から出れないのよ」
「ウー……ニク……ニクー……」

 ティナは半ば禁断症状と思われる程、肉食に飢えていた。


 クリスはぶつぶつと呟き続けているティナへ話しかける。
 
「最近あんた、谷で飼っている牛の前で毎日よだれ垂らしてるよね?」
「マイニチジャナイゾ。フツカニイッカイダ」
「それはほぼ毎日って言うのよ。食べちゃダメよ? 牛乳とかチーズ作る為の大事な牛なんだから」
「ワカッテルヨ。ミルダケナラ、イイジャナイカ」
「……もし私が牛だったら、毎日目の前であんたによだれ垂らされながら見られたくないわ」
「ウー……クワナイッテバ」
「あんたの為に年老いた牛殺して食べようかって話もあるけどさ……殺される牛が可哀そうでしょ?」
「……ウン」
「それと……時々牛乳飲むのもやめなさいよ?」
「エ? ナンデダ?」
「チェイニーのお母さんがチーズ作り用の牛乳搾りに行くと、たまにあんたが牛のおっぱいにしゃぶりついててビックリしてんだから」
「チャントウシニ、ノンデイイカキイテカラ、ノンデルゾ」
「牛が飲んでいいよ、って言う訳ないでしょ!」
「ウウン、イイッテイッテクレルゾ?」
「あんたが勝手にそう思ってるだけでしょ! とにかく、チェイニーのお母さん困らせないでよ。今は笑って済ませてくれてるけど、内心搾れる牛乳が減って困ってるんだからね?」
「ウシガイイッテ、イッテクレテルノニ……」
「はいはい。とにかく、牛乳の盗み飲みは禁止っ!」
「ウー……ウン……」


 ティナの成長を傍で見守っていたソニアは、そろそろ頃合いだろうと思い、かねてより計画していた狩りを明日実行しようと号令をかける。

「集合っ!」
「はいっ!」

ソニアの号令で近衛兵全員が一列に並ぶ。


ソニアは腕を組みながら近衛達に話す。

「明日、朝から谷の外へ狩りに出る。私とティナ、以下3名希望する者は名乗れ!」
「はい! クリス、お供します!」
「はい! ナタリー、お供します!」
「はい! レイナ、お供します!」
「よろしい。では4人に明日の計画を話す。他の者は解散!」
「はいっ!」



 ティナは首をかしげながらクリスに聞く。

「ナア、カリ……ッテ、ナニシニイクンダ?」
「馬鹿ねぇ。お肉取りに行く事に決まってるじゃない」
「ニク!? ニクトリニイクノカ!? ヤッター!」
「ただし、人間が待ち伏せしているかも知れないわ。油断しちゃ駄目よ?」
「ニンゲン?」
「そうよ、あたし達を捕まえようとしている悪い奴らよ?」
「ソウカ、ワカッタ。キヲツケル」
「あんたの矢反らし、期待してるわよ?」
「ウン、マカセロ!」
「ところであんた、人間殺せる?」
「エ? コロスノカ?」
「当たり前じゃない。じゃなきゃあたし達、逆に殺されちゃうんだよ?」
「コロサレルヤダ。オレ、ニンゲンコロス」
「本当に殺せる? 躊躇ためらっちゃ駄目よ?」
「? タメラ…ッテナンダ?」
「ためらう、よ。いざ殺そうと思った時、可哀そうになって殺せなくなる事よ?」
「コロサナキャミンナコロサレルナラ、オレ、タメラウシナイ。ニンゲンコロス」
「良し良し、その心意気よ」
「ウン!」
「……おい、クリスとティナ。私の話、聞いてるのか?」
「もっ、申し訳ございません!」
「ニクトリニイク、チャントキイテルゾ?」
「……その為の説明をしているのだが……お前聞いてなかったな?」

 ソニアはティナの素っ頓狂な返答に呆れ返った。

 ティナは翌日の狩りが待ち遠しくなり、その後もソニアの説明など全く耳に入っていなかった。





 翌朝、集合したソニア達は兵舎で狩りに出発する準備を整えると、谷の端まで移動する。


 各員に装備の最終点検を終わらせたソニアは号令をかける。
 
「それでは出発する。全員、ティナの傍を離れるな!」
「はいっ!」
「確実に人間共が居ると思え! 襲いかかってきたら容赦するな!」
「はいっ!」
「ティナ。矢反らし、任せたぞ?」
「ウン! マカセロ!」



 ソニア達5人は翼を広げ、谷の外へと飛び立った。


 谷の外は広大な草原が広がり、野生の鹿や猪などが生息している。

 一行は草原に降りる為、徐々に高度を下げ始める。


 ソニアは地上を警戒しながら指示を出す。

「人間共が待ち伏せしているならそろそろだ。ティナ、頼むぞ!」
「ウン、ワカッタ」

 ティナはシルフと念じ、矢反らしを自分達の周りに展開させた。


 それから間も無くの事である。

 無数の矢がビュンビュンとティナ達目掛けて飛んできた。


 ティナは自分達を目掛けて飛んで来る矢に驚きながら話す。

「ワッ!? キノボウガトンデキタ!」
「これが人間の放つ矢よ。でも、あんたの能力で当たることは無いわ」

 クリスの言う通り、矢はいびつな放物線を描き、ティナ達を避けて通り過ぎていった。



 草原の中に隠れながら、矢を放っていた人間達は驚きながら叫ぶ。
 
「何だよ!? 矢が当たらねぇぞ!?」
「あいつらおかしな能力持ってるぞ!」
「慌てんな! 5匹も居るんだ、1匹だけでも捕まえりゃ金になるぞ!」
「お前ら分かってんだろうな? 山分けするって言うから参加したんだかんな?」
「分かってるって! ちゃんと平等に山分けすっから安心しろって!」
「よっしゃ! じゃあ、計画変更だ!」
「直接とっ捕まえて縛り上げろ!」
「おうっ!」
「あー……5匹全部メスっぽいな」
「ちっ。オスのほうが高く売れんのに……」
「文句言うんじゃねえ! いくら待っててもなかなか谷から出て来ねえんだぞ!」
「今日あいつらが出て来たのはラッキー以外のなにもんでもねえんだからなっ!」
「とっ捕まえたメス、間違っても犯すんじゃねえぞ! すぐ死んじまうんだからなっ!」
「2年前にやらかした、あの間抜けみたいになんじゃねえぞっ!」
「おうよっ!」
「とりあえずギリギリまで弓は射っとけ!」
「降りて来てるから多分逃げねえ!」


 ソニアは先頭に立ち、全員を静止させると矢が飛んできた草むらを確認しながら叫ぶ。

「全員止まれぇっ!」
「はいっ!」
「目標はあの矢が飛んで来る草むらだ!」
「はいっ!」
「布陣の確認っ! ティナを中央に配置して周囲に展開っ! 各自、人間共を殲滅しろ!」
「はいっ!」
「怪我をしたら即時ティナへ報告! ヒーリングをかけて貰い、手持ちの水袋から回復!」
「はいっ!」
「各自周囲に気を配れ! 何としても中央のティナに人間を近寄らせるな!」
「はいっ!」
「行くぞっ! 全員抜刀っ! 突撃ぃぃぃっ!」
「おおおーっ!!」

 
 ソニア達は一斉に剣を抜き、人間達の隠れている草むら目掛けて急降下していった。


 人間達は弓矢を投げ捨て剣を抜き、草むらを飛び出すと襲いかかるソニア達へ防戦に出た。

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