翼の民

天秤座

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幼少~少年時代

33 焼けた魚とお尻

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 夕方になり、近衛達はその日の訓練を終了し、解散してそれぞれの家へと帰ってゆく。


 クリスはティナと共に家路を歩きながら話す。

「あんた結構回避距離縮めたわね? 反撃してくるようにもなったし」
「クリスモケンガハヤクナッタ。モシカシテ、オレニエンリョシテタノカ?」
「ありゃ、分かっちゃっちゃ・・? さすが目がいいだけあるわね」
「クリス、オモイッキリヤッテモイイゾ?」
「でも、当たったら痛いよ?」
「ヨケタラアタラナイシ、イタクナイ。モットハヤクテモ、オレヨケレル」
「あんたもまだ余裕あんの?」
「ウン。オモイッキリヤッテクレタホウガ、オレモオモイッキリガンバレル」
「……こりゃ手加減してる場合じゃなさそうね」
「オレモクリスモオモイッキリヤッタラ、イッショニツヨクナレル」
「そうね。じゃあ明日からは本気出すから、覚悟しといてね!」
「ウン!」


 家の玄関前へと辿り着いた2人は、家の中から漂ってくる匂いにグゥとお腹を鳴らす。

「お母様ただいまーっ! わぁっ! いい匂いっ!」
「クリスノカアサンタダイマー! オオー……ハラヘッタ!」
「2人ともお帰り! もうちょっとでお魚焼けるから、待っててね?」
「はーいっ! ティナ、もう座って待ってようよ」
「ウン!」

 魚の焼ける香ばしい匂いに我慢出来ず、2人はテーブル席に着いて晩ゴハンを待った。


 グレイスはテーブルに料理を並べ、最後に魚料理の乗ったお皿を配りながら話す。

「はーいお待たせ。ティナちゃん、魚料理だよぉー?」
「オオーッ! サカナサカナーッ!」
「……ねえ、お母様。ティナの魚、あたし達のより多くない?」
「そりゃそうだろ。魚捕ってくれたのはティナちゃんなんだから、多くて当たり前だろ?」
「むー……」
「食い意地張ってんじゃないよ。ささ、熱々のうちに皆で食べようよ」
「そうだね! いっただっきまぁーっす!」
「イタダキマァーッス! ウマソウーッ!」

 ティナはナイフとフォークを使い、一目散に魚料理へぱくりとかぶりついた。

 口の中に広がる魚料理の味に、ティナは幸せそうな顔をしながら話す。

「クゥーッ! サカナウマイッ! リョウリウマイッ!」
「たんとお食べよぉ? 足りなかったらあたしのも食べていいからねぇ?」
「ウンッ! ナア、クリスノカアサン。コレ、ナンテイウリョウリ?」
「これはね、頭と内蔵と鱗を落とした魚を半身に捌いて、丁寧に骨を全部抜き取ってから塩コショウして、小麦粉をまぶして水分を閉じ込めてから、たっぷりのバターを使って、フライパンの上で両面を焼きながら溶けた熱々のバターをスプーンで掬って上からかけ続けて作った料理だよ?」
「? バター…ッテナンダ?」
「バターってのはね、牛乳の中に入ってる脂分だよ?」
「アブラブン?」
「うん。チーズ作ってるトニトルスがね、今日の魚に使ってくれってみんなに配ってくれたんだよ」
「チーズ?」
「そこのお皿に乗ってる白いのと黄色いやつだよ。食べてごらん?」
「ウン! モグモグ…………ウッ、ウマァーイッ!」
「でしょ? バターと一緒に新しいチーズも貰えたんで、取っといてたやつ出したんだ」
「ウマイッ! ウマイッ! ウゥーマァーイィーッ!」
「……あんたその歌お気に入りねぇ?」

 クリスは即興で歌うティナに微笑みながら話した。


 ティナは魚料理の乗った皿をクンクンと嗅ぎながら、グレイスに聞く。

「ナア、クリスノカアサン。コノイイニオイ、ナンダ?」
「それはニンニクってやつだよ。ちょっと厚めに切って一緒に入れて、香りで魚の臭みを消すんだよ」
「ニンニク、イイニオイ……」
「そのニンニクの香りが付いたバター、パンに付けて食べてごらん?」
「ウン! モグモグ…………ウマイ……オイシイッ!」
「あんまりお行儀は良くないんだけどね、美味しけりゃいいんだよ」
「ウマイ! ウマイッ! ……ペロペロ」
「あっこらティナっ! お皿は舐めちゃ駄目っ!」
「? ナンデダ?」
「……ティナちゃん、流石にお皿舐めるのはやめてね? お母さん悲しくなっちゃうから」
「ウ、ウン。クリスノカアサンカナシクナル、オレイヤ。モウシナイ……」 

 ティナは食べ終えた魚料理の皿を舐め、グレイスとクリスに注意されてシュンとした。



 夕食後クリスとティナは風呂を沸かす。

 ティナはクリスの点けた風呂釜の火をじっと見つめながら、ボソボソと呟く。
 
「ヒ……ヒ……ヒィー……」
「火見てて楽しいの?」
「……ウン。コンナチカクデミタコトナイ」
「そりゃ森で火なんかじっと見てらんないでしょ」
「ウン。ヒデヤケタトモダチ……ウマカッタ」
「…………また思い出してる」
「ヤケタトモダチ……アレ、リョウリダッタノカ……」
「いやそれ違う。ただ焼け死んだだけから」
「? クリスノカアサン、タマゴモサカナモヤイテ、リョウリニシタ。チガウノカ?」
「何でも焼いたら料理になるんじゃないってば。じゃあティナ、ちょっと火の番しててよ」
「? クリスドッカイクノカ?」
「お風呂で使った分、水瓶に水足すのよ」
「オレモイク!」
「駄目、火の見張りしててよ」
「ウー……ワカッタ」


 クリスは物置から水汲み用の木桶を持って来ると、川に行って水を汲む。

 風呂場の水瓶に満杯に入れると木桶を物置へ戻しに行く。


 風呂場へ戻って来たクリスは風呂に中に手を入れながら話す。

「……よし、そろそろ入れるかな?」
「イイユナッタカ?」
「うん。さ、お風呂入ろ?」
「ウン! オフロハイル!」
 
 クリスは風呂の湯をかき回し、手頃な温度になったのを確認すると、ティナと一緒に脱衣場へと戻った。


 裸になった2人は風呂場へ戻り、クリスは再びティナの全身を洗ってあげてから風呂の中に沈める。

 ティナは風呂の中でぼーっとし、クリスはしゃがみ込んで自分の頭を洗い始める。


 ティナは昨日クリスに注意されていた事をすっかり忘れ、風呂釜に腰かけようとしながら話す。

「ナアクリス。キイテモイイカ?」
「んー? 何をー?」
「エット……アッチィィーッ!?」
「? どっち?」

 風呂釜に座ってしまったティナのお尻は、風呂釜の熱でジュッと焼ける。

 ティナは慌てて翼を広げ、真上に向かって羽ばたく。


 ゴンッ

 飛び上がったティナは風呂の屋根の梁にしこたま頭を打ち付ける。

「イダァッ!?」
「? 何か居たの?」

 クリスは下を向いて頭を洗っている為、ティナの言葉尻しか聞いていないので何が起きているのか分からない。


 ドボォン

 ティナは頭を押さえたまま真下に落下し、風呂の中に頭からドボンと落ちる。


 クリスは異変に気付き、顔を上げて叫ぶ。

「!? どうしたのティナっ! ……げっ!?」

 クリスの視界に飛び込んで来たのは、風呂の中からニョキッと生えたティナの両足。

 外から差し込む沈みかけた夕日の逆光に照らされ、何とも神々しい雰囲気を醸し出していた。

 直立していたティナの両足はパタンと風呂の縁に倒れ、クリスの目の前にはティナのお尻が現れる。


 クリスは慌ててティナを風呂から引き揚げ、床に寝かせながら話す。

「何っ!? どうしたのっ!? 何であんな事になってんのよっ!?」
「ウゥ……アタマイタイ……オシリアツイ……」
「? 何それ?」
「フロデスワッタラ、オシリアツイ……トンダラアタマブツケタ……」
「…………馬鹿。だから触るなって言っといたのに」
「ウゥ……イタイ……アツイ……」
「あーあ、ホントにもうっ! ドジなんだから……」
「ウゥッ……」
「ありゃまぁ……お尻こんなに赤くなっちゃって。まるでおサルさん……あれっ?」

 ティナのお尻にはじわじわとミミズ腫れが浮かび上がってくる。


 クリスはティナのお尻に浮かび上がったミミズ腫れを見ながら話す。

「? 何か文字みたいなのが出て……ぶっ!? あはははははは!」
「モジ……?」
「あははははは! あーっはははははは!」
「ナンデクリスワラッテルンダ? アツイ……イタイ……」
「あはははは! おっ、お母様ーっ! ちょっ……あははははは! 来てぇーっ!」

 クリスはティナの火傷したお尻を見て、ゲラゲラと笑いながらグレイスを呼んだ。


 クリスに叫ばれたグレイスは慌てて風呂場にやって来る。

 両手で頭を押さえながらお尻を突き出して寝転がっているティナ。

 それを見て腹を抱えながら大笑いしているクリス。


 グレイスは何が起きているのかさっぱり分からず、笑い続けているクリスに聞く。
 
「どうしたんだい? 何であんたティナちゃん見て笑ってんだよ?」
「あははは! ティナがっ……お尻っ……火傷っ……あはははは!」
「こらっ! そんなに笑うんじゃないよっ! ティナちゃん可哀そうだろっ!」
「だっ、だってっ……あはははは! お尻見てやってっ……あはははは!」
「? あら、何か字が……え? バ……カ……? ぷぅーっ!」
「あはははは! ねっ? おっかしいでしょっ! あははははは!」
「うっ、くっ……あーっははははははは!」
「いやーもう駄目っ! こんなの笑うなって無理っ! あはははは!」
「笑っちゃ駄目っ……あはははは! 何でバカって……あははははは!」

 ティナのお尻には火傷のミミズ腫れでくっきりと文字が浮かび上がっていた。

 左のお尻には『バ』

 右のお尻には『カ』

 続けて読むと『バカ』と書かれていた。

 グレイスとクリスは暫くの間、ティナのお尻を見ながら腹を抱えてゲラゲラと笑い続けた。


 ようやく笑いのおさまったグレイスとクリスは、ティナのお尻を見ながら話す。

「しっかし……何でバカって火傷になんの?」
「……セルゲイの仕業だよ」
「お父様?」
「かなり前、風呂釜に穴開いちゃった時あるだろ? あん時直したついでに細工してたんじゃないのかい?」
「何でそんな事したの?」
「あたしらにイタズラでもしたかったんじゃないのかね?」
「知らずに座ったらバカって火傷させる為?」
「……ったく。こんな素敵な奥さんのお尻にバカって……あの駄目亭主め!」
「愛娘のお尻にもバカって付けさせようとするなんて……ひっどぉい!」
「お陰でティナちゃんが酷い目に遭っちゃったよ」
「帰って来たらティナに謝らせなきゃね」
「乙女のお尻に傷付けるなんて……とっちめてやんなきゃね」
「火傷はヒーリングで治せるんだけど……心の傷は治んないよね?」
「それにしても…………くくくっ」
「あ、お母様笑っちゃ駄目っ。あたしまだ……ぷぷぷっ……」
「あーっははははは!」
「あははははは!」

 グレイスとクリスは再び笑いのツボにはまり、笑い出してしまった。


 ティナはグレイスとクリスにしこたま笑われ、しょんぼりとしながらヒーリングで頭の怪我とお尻の火傷を治す。



 その日も3人で仲良く風呂に入り、風呂から上がると部屋に戻り、ティナは寝床に就いた。

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