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幼少~少年時代
25 たまご
しおりを挟むグレイスが両手で大事そうに持っている物を覗き込みながら、ティナは聞く。
「ナア、クリスノカアサン。ヨミバーチャンカラ、ナニモラッタンダ?」
「卵だよ。朝ゴハンに焼いて出したげるよ」
「タマゴ? ……ウワァァッ!?」
「? どうしたんだいティナちゃん。そんなにビックリして?」
「タッ、タマゴッテ……トリノアカチャンジャナイカッ!」
「そうだよ?」
「ダメ! ソレダメッ! カエサナキャ、トリニオコラレルゾ!」
「? 何で返すの?」
「モ、モシカシテ……ソレ、クウノ?」
「うん、食べるんだよ?」
「……クッテモ……イイノカ?」
「あらっ? ティナちゃんって卵嫌いなのかい?」
「ウウン、クッタコトナイ。クオウトシテ、クマノカアサンカラ、メチャクチャオコラレタ」
「あら? そうだったの?」
ティナは昔を思い出し、卵を食べそびれた事を話し出す。
「チッチャカッタコロ、トリノイエカラソレトッテキテ、クマノカアサンニミセタンダ」
「クマのお母さんと一緒に食べようとしたのね?」
「ウン。ソシタラ……スッゴクオコラレテ、スグニカエシテアヤマッテコイッテ、イワレタ」
「へぇ、そうなの?」
「クッテミタイッテイッタラカアサン、オコッテオレニカミツイテ……チガデタ」
「そんなに怒っちゃったんだ?」
「ダカラ、タマゴハクッチャイケナイモノダッテ……」
「その卵は、ちゃんと鳥に返してあげたの?」
「ウン。ナイテタトリニカエシテ、ゴメンナサイッテアヤマッタ」
「許してくれた?」
「ウン。ソノアトタマゴカラウマレタトリト、トモダチニナッタ」
「ふふっ。ティナちゃんが食べてたら友達になれなかったね?」
「ダカラソノタマゴ、クッチャダメ!」
「いいのよティナちゃん。これは食べてもいい卵なのよ?」
「……ホントニイイノカ?」
「ティナちゃんも卵、食べてみたいでしょ?」
「……ウン。クッテミタイ……」
「じゃあ決まり。今焼いてあげるから待っててね?」
「……ウン。タマゴ、ゴメンナサイ……」
「ふふふっ。可愛い……」
モジモジと上目遣いで卵を食べてみたいと訴えるティナに、グレイスは微笑んだ。
クリスとティナはテーブル席に座り、グレイスの運ぶ朝食を待った。
ティナは初めて卵を食べるられる事がとても楽しみで、ドキドキしている。
そしていよいよ、ティナの待ち焦がれた卵料理が乗せられたお皿が目の前に置かれる。
ティナは目の前の卵料理に目を輝かせながら、即興で歌い出す。
「タマゴッ、タマゴッ、タァーマァーゴォーッ!」
「何よそれ、変な歌!」
「エヘヘ……タマゴクエル、オレウレシイッ!」
「お待たせティナちゃん。それね、目玉みたいに見えるだろ? 目玉焼きって言うんだよ」
「メダマヤキ……ドンナアジダロ?」
「塩振ってるから塩味よ」
「無粋な事言うんじゃないよクリス。ささ、食べてみてよ」
「ウンッ! イッタダキマーッス!」
「はいどうぞ、召し上がれ」
「ハムッ…ハムッ……ムグムグ…………ウ、ウ、ウマァーイッ!」
「谷で飼ってるニワトリが産む卵をね、みんなで当番制にして貰うんだ」
「ムグムグ………ソウナノカ?」
「毎日産んでくれるワケじゃないからさ、当番の日に卵が無かったら食べられないんだよ」
「この前の当番の日は産んでなくてさ、残念ながら食べられなかったのよ」
クリスはナイフで白身を切り分けて先に食べ、黄身を後で食べようと大事に残していた。
ティナは目玉焼きを完食し、残念そうに空になった皿を見つめる。
「ウー…モウクッチャッタ……ウマカッタ」
「ティナちゃん、あたしの目玉焼きも食べないかい?」
「エッ!? イイノカッ!? ……デモ、イラナイ」
「? 何でだい? 食べてもいいんだよ?」
「ダッテ……クリスノカアサンモ、メダマヤキタベタイシ……」
「遠慮しないで食べてもいいんだよ? はい」
「……イイ、イラナイ」
グレイスから差し出された目玉焼きの皿を、ティナは首を振って拒否した。
しかし、目線はしっかりと目玉焼きから離れない。
クリスは冗談半分で、自分の黄身だけ残している目玉焼きの皿を差し出しながら話す。
「じゃあ、あたしのあげよっか?」
「ウン! アリガトウクリス! ……ハムッ……ハムッ」
「ちょっ!? 何であたしのは遠慮無しに食べんのよっ!?」
「? クリス、オネエサマダカラ、イモウトニクレタンダロ?」
「……くっ、痛いトコ突いてきたわね!」
「あはははは! ティナちゃん、もういいからあたしのも食べなよ」
「デモ……ウー……イイ、イラナイ」
「クリスのは食べて、あたしのは食べてくんないのかい? お母さん悲しいよ?」
「クウ! タベルッ! イタダキマスッ!」
「うんうん、お食べ」
「ハムッ…ハムッ………アア……ウマイ。メダマヤキ……オイシイ」
「ふふっ……良かったねぇ、ティナちゃん?」
クリスから奪い取った目玉焼きに続き、グレイスの目玉焼きを頬張ったティナは幸せそうに食べた。
朝食を食べ終えたクリスとティナは、後片付けをしているグレイスに声をかけ、家を出た。
「お母様、行って来まーす!」
「あいよー! 今日もしっかり訓練しといでー!」
「はーいっ!」
「クリスノカアサン、イッテキマース!」
「行ってらっしゃーい! お昼ゴハン準備して待ってるからねー!」
「ハーイッ!」
2人は道中話しながら、兵舎へと向かった。
「ハー。メダマヤキ、ウマカッタ」
「あんた、朝っぱらから目玉焼き以外にもよく食べたわねぇ」
「クリスノカアサン、ゴハンウマイ。イッパイタベラレル」
「あんたそのうち太るわよ?」
「? フトル…ッテナンダ?」
「身体がブヨブヨになっちゃう事よ」
「? ソレッテ、オッキクナルコトジャナイノカ?」
「ちょっと違うよ。身体が大きくなる以上に食べちゃうと、余計なお肉が身体に付いちゃうの」
「フーン……フトッタラダメナノカ?」
「太った女の子はね、みんなから嫌われちゃうよ?」
「エッ!? ヤダ。オレ、ミンナカラキラワレタクナイ」
「じゃあ、太んないように気を付けてね?」
「ウン、キヲツケル」
兵舎の入口ではソニアが腕を組みながら2人の到着を待っていた。
ソニアはティナを見ると、ニッコリと微笑みながら話しかける。
「おはようティナ。谷での暮らしはどうだったかな?」
「オハヨウソニア! ゴハン、オイシイ。オフロ、キモチイイ。イッパイ、ネタ!」
「そうかそうか、それは良かったな。さて、今日からお前は忙しいぞ?」
「? オレ、イソガシイノカ?」
「やる事が沢山あるからな。では、早速女王陛下の元へと行くぞ?」
「ウン! ワカッタ!」
「クリス、お前は訓練していろ。私がティナを連れて行く」
「はい、隊長。じゃあティナ、また後でね?」
「ウン! ジャアナ、クリス!」
ティナは兵舎の入口でクリスと別れ、ソニアの後に付いて行った。
ソニアはティナを連れてローラの元へと向かう。
ローラの前まで来たソニアは跪き、報告する。
「陛下、お連れして参りました」
「ありがとうソニア。では、兵舎へお戻り下さい」
「はっ。では、何かありましたらお呼びを」
「ええ」
ソニアは立ち上がると一礼し、ティナをローラの傍に置いて兵舎へと帰っていった。
ローラはティナへ話しかける。
「さて、ティナ。これからあなたに見せたいものがございます」
「? ミセタイモノ?」
「あなたが『精霊魔法』を使えるかどうか調べる為のものですわ」
「ヨクワカンナイケド、ワカッタ!」
ローラは両手をティナの前に広げ、念じた。
ローラは魔法の効果を発動させず、精霊そのものの光を出現させながら話す。
「……さあティナ。あなたには何が見えますか?」
「? ナンカヘンナノガヨッツ、ミエルゾ?」
ティナの返答に、ローラはその細い目を見開いて驚いた。
「まぁっ!? それは本当ですかっ!?」
「ウン。ソコト、ココト、アソコト、ソコ。ヨッツナンカガミエル」
「何て素晴らしい才能なのでしょう! ティナ、4元素の精霊全てが見えるのですね!?」
「? ヨンゲンソノセイレイッテ…ナンダ?」
ローラは首をかしげているティナに精霊を分かりやすく説明する。
「火・水・風・土。世界を創り、維持をし続ける力の源を司る生命体、それが精霊ですわ」
「フーン……」
「人間には見る事が出来ず、私達でさえ見える者と見えない者が居ますのよ?」
「オレ、ミエルゾ?」
「ええ。あなたには全てが見えている。ちょっと待って下さいね?」
ローラはもう一度ティナの目の前で念じて話しかける。
「どうでしょう? この精霊は見えますか?」
「ウーン……チョットダケ、ミエル。フタツアル」
「光と闇の精霊も見えるのですね。本当に素晴らしい素質があなたにはありますわ!」
「オレ、ホメラレタ? ウレシイ」
ローラは振り返り、大木の後ろに居るイザベラに聞く。
「お姉様、ティナは全ての精霊が見えておりますわ」
「あらっ! 素晴らしい素質の持ち主ね。全て見えるなんて、まるで直系の血筋じゃない?」
「恐らくは、全ての精霊と契約出来ると思われますわ」
「……やはり、特別な子なのね?」
「ええ。流石世界を救うとお告げを下された子ですわね?」
「この谷では、水と風としか契約出来ないのが残念ね」
「ええ。火・土・光・闇の精霊は、ここに居りませんものね」
「近い将来、谷の外に出て他の精霊達と契約させに行くのも良いかも知れないわね?」
「未来の為には必須でしょうね、お姉様」
「水の精霊との契約はあなたに任せるわ。契約が終わったら私の所まで来て頂戴」
「はい、分かりました。お姉様」
ローラはコクリとうなずくと、すくっと立ち上がった。
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