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幼少~少年時代
20 ティナ
しおりを挟むイザベラはクリスに連れられてやって来たカーソンに、目を細めながら話しかける。
「お帰りなさい、カーソン」
「? オレ、ココキタノ、ハジメテダゾ?」
「いいえ、あなたはこの谷で産まれたのよ。今から13年前にね」
「エ、ソウナノカ? オレ、モリニイタ、ナンデダ?」
「あなたはあの日、殺されたハズだったの。でも、あなたは生き延びていた。これは奇跡なの」
「コロサレタ? イキノビタ? キセキ? ムズカシイ、オレワカラナイ」
「今は分からないままでいいわ。でもね、カーソン。あなたは私達が守らなければ、また島の馬鹿連中に見付かって殺されてしまう」
「オレ…シヌ? コロサレテシンジャウノカ?」
「そろそろ島の馬鹿連中も気が付く頃よ。カーソン、いい? 今からあなたの身体、私の魔力で性別を変えるわね」
「? セイベツッテナンダ?」
「男の子から女の子になるのよ」
「オレ、イマドッチ?」
「男の子よ。だから女の子になるのよ?」
「フーン。ヨクワカンナイケド、ワカッタ」
「ふふふ……本当、可愛い子ね?」
イザベラは立ち上がり、ローラと同じ様にカーソンの額へ右手の人差し指をあてがい、念じた。
イザベラの指先に魔力が集中し、人差し指が輝きだす。
放たれた強い光はカーソンの全身にまとわりつき、やがて身体に吸い込まれ消えていった。
イザベラはカーソンの容姿をしげしげと見つめながら確認し、話しかける。
「これで良し。あなたは今日よりカーソンという名前ではありません。名前は……そうね、ティナにしましょう」
「オレノナマエ、ティナカ? ウン、ワカッタ!」
「今日はもう疲れたでしょう? クリス。この子の世話、あなたの家に任せてもいいかしら?」
「はっ。かしこまりました。お任せ下さい」
「ありがとう。ソニアもお疲れ様でした。下がって休みなさい」
「はっ。では、失礼致します」
ソニアとクリスはイザベラとローラに一礼する。
ティナはクリスに無理矢理頭を下げさせられ、2人に一礼してその場を去った。
兵舎の前まで来たソニアは、後ろのクリスとティナに話す。
「クリス、今日はもう帰っていい。ティナの面倒を見てやれ」
「はい、隊長」
「義姉…いや、グレイスさんに宜しくな」
「はい。ティナ、帰るよ。おいで」
「ウン、ワカッタ!」
兵舎でソニアと別れた後、2人はクリスの家へと向かった。
帰る途中クリスは足を止め、後ろからチョコチョコと付いて来ているティナをじっと見つめる。
男の子だった時でさえ可愛かったのに、女の子になったら更に可愛さが増したティナの頭を優しく撫でながらクリスは話す。
「うん、女の子だ。可愛い可愛い」
「オレ、ドッカ、カワッタノカ? ヨク、ワカラナイゾ?」
「変わったわよ。ほら、おっぱいもふくらんでるし」
クリスはティナの服の上から胸をつついた。
ティナは幼い身体つきだが、確かに少しだけだが胸のふくらみがあり、クリスにつつかれるとほんの少しだけ、ふるんと胸が揺れた。
ティナはクリスの胸をじっと見つめながら話す。
「デモ、クリスノミタイニオッキクナイゾ?」
「ふふふ、あんたにはまだ早いわよ? 身体が大きくなったらおっぱいも一緒に大きくなるわよ?」
「カラダガオオキクナッタラカ? オレ、イツオオキクナル?」
「あんたがカーソンで間違いなさそうだから今13歳…そうね、あと5年ってトコかしらね?」
「5ネンッテ、ドレクライ?」
「えっとね…夜に寝て、朝起きたら1日。それを360回繰り返すと1年よ」
「360カイネテオキタライチネンカ。ソレヲ5カイダカラ……エット……1800カイ?」
「う…うん。多分そうかな? ティナ、数字の計算出来るの?」
「スウジノケイサンッテ、ナンダ?」
「計算の意味知らないのに出来るって…あんた何なの?」
「オレニキカレテモ…ワカンナイ」
「ローラ様がコイツにお与えなさった知恵って……どんくらいなんだろ?」
クリスはティナが賢いのか馬鹿なのか分からずに困った。
ティナはクリスに質問する。
「ナアクリス? イチニチッテ、モットコマカクナルノカ?」
「細かくって? …ああ、時間と分と秒の事ね?」
「ジカン? フン? ビョウ?」
「知りたい?」
「ウン、シリタイ!」
「あたし達が急いで行動していない時、ゆっくりと動く心臓の鼓動1回で1秒。心臓60回動いて1分よ」
「フンフン…」
「1分が60回続いて1時間」
「ウンウン…」
「1時間が24回で1日よ」
「ヘー…。ジャア、シンゾウガ155520000カイウゴケバ5ネンカ?」
「そんな数字あたしに聞かれても分かんないよ。ってか、何であんた分かんのよ?」
「エ? ダッテ60ガ60で3600、3600ガ24デ86400、86400ガ360デ31104000、31104000ガ5デ…」
「もういいもういい! あたしに聞かれたって分かんないから!」
「ウー…」
ティナは時間の概念が気になり、首をかしげながらクリスに聞く。
「ナアクリス? キイテモイイカ?」
「数字の事は聞かないでよ?」
「ウン。コノ、ビョウトカフンッテ、ダレガキメタコトナンダ?」
「えっとね、大昔に時の精霊が決めたらしいよ?」
「トキノセイレイ?」
「そそ。谷の誰も会った事が無い精霊だけどね、時間を司ってる精霊なのよ」
「フーン…ソウナノカ。ジャア、セイレイッテナンダ?」
「ごめん、それ以上あたしに聞かないで。イザベラ様かローラ様に聞いて」
「ウー…ワカッタ」
「これ以上あんたと話してたら陽が暮れちゃう。さ、あたしん家に帰るよ?」
「ウン」
クリスとティナは歩き出し、螺旋状の道を下りて行く。
クリスの家までもう少し、という所でティナの様子がおかしくなった。
ティナは身体をくねらせ、そわそわしだす。
クリスは後ろからティナに話しかけられ、振り向いて聞く。
「アノ……クリス」
「ん? どうしたの?」
「………エット……シタイ」
「何を? ……ああ、おしっこね? トイレはこっちよ」
両手で股間をおさえているティナの行動を察し、クリスはティナをトイレまで案内する。
クリスの家を通り過ぎ、螺旋状の道の一番下まで歩きながらクリスは話す。
「あたしん家にもトイレはあるけど、どうせなら先に場所教えといたほうがいいわね」
「トイレッテ…ナンダ?」
「うんちとかおしっこをしてもいい場所よ。そこら辺でしちゃ駄目よ?」
「ソノヘンデシチャダメナノカ?」
「当たり前でしょ。獣じゃないんだから」
「ソノトイレッテ……マダカ? オレ…デチャイソウ……」
「待て待て、我慢しなさい。ほら見えて来た、あそこがトイレよ」
螺旋状の集落の一番下、川の中に建てられた木造の小屋までやって来た2人。
谷の共同トイレはこの一番川下のトイレと兵舎のトイレの2ヶ所のみであった。
2ヶ所とも川の流れをそのまま利用した水洗式で、汚物はそのまま谷底へと流れる。
兵舎のトイレは泉から水を引き、人工的に作られた川の上に建てられ、そのまま谷底へ流し落とされる。
主に封印の場から離れられない女王2人と近衛兵達、上流に住む民が利用している。
一番川下のトイレはそれよりも下に誰も住まない場所に建てられ、中流から下流に住む民達が利用する。
それぞれの家にはトイレとして壺などに用を足し、溜まった汚物は畑の肥料や、持ち運んで来て2ヶ所の共用トイレに捨てられる仕組みであった。
クリスはティナにトイレを案内し、簡単に使い方を説明する。
「トイレの個室の床には穴が開いてて、川が見えるからそこにするのよ?」
「ウン、ワカッタ」
「くれぐれも溢さないようにね? 床を汚したら掃除しなきゃないんだからね?」
「ウン、コボサナイヨウニスル」
「……『溢さない』の意味は分かるんだ?」
「?」
「ああ、何でもない。漏らしちゃう前にしといでよ」
「ウン、モウデソウ……」
「じゃあ、ここで待ってるからね? 済んだら呼んでね?」
「ウン。デルデル……」
ティナはトイレの個室に急いで入ると、扉をパタンと閉めた。
クリスが外で待っていると、トイレの中にいるティナが叫び声を上げた。
「アァーッ!?」
「!? 何っ!?」
「アーッ! ワーッ! ギャーッ!」
ティナは個室の中で悲鳴を上げている。
クリスは慌てて個室の扉を開け、ティナに叫ぶ。
「なっ、何っ!? どうしたのっ!? 虫でも居たのっ!?」
「クリスタスケテッ! オレ、ヘンニナッテルッ! オシッコデキナイッ!」
「? 何でよ?」
ティナは涙目で振り返り、クリスに必死で訴えかける。
「ナイ! ナイッ! オシッコスルトコガナイッ!」
「無いって……ああ、おちんち……」
途中まで言いかけてクリスは言葉を飲み込み、赤面した。
ティナは真っ青な顔をして、内股でピョンピョンと飛び跳ねた。
「アーッ! モウダメッ! デルッ! デルゥーッ!」
「大丈夫っ! それ大丈夫だから落ち着いてっ!」
「アーッ! ………ア…………アハ……」
ティナは一瞬ブルッと痙攣し、恍惚の表情を浮かべた。
ティナの足元にはみるみると水たまりが出来てゆく。
クリスは谷中に響くかのような大声で叫んだ。
「あーっ!? こらーっ! 漏らすなーっ! 止めろ! とめろーっ! う、動くなぁーっ!」
「ダッテトマンナイッ! アアアーッ!」
イザベラとローラは遠くから聞こえるクリスの叫び声に、クスッと笑いながら話す。
「あら? 何かあったのかしらね?」
「あらあら、何やら下が騒がしいですわね?」
「ちょっと風の精霊で見てみたら……ティナってばおしっこ漏らしちゃってるわ」
「あらまあ、女の子がどうやっておしっこするのか、知らなかったのですわね?」
「どうやら女になって、不便なところがあったようね?」
「クスクス……そうみたいですわね」
イザベラは現在居住区で起きている騒動を、精霊魔法を使って確認する。
ローラにも状況を伝え、クスッと笑いながら扇子をパチンと閉じた。
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