翼の民

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序章 双子の神

2 争いの発端

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 順調に生命体を増やしていた2人であったのだが、やがてお互いの行動を否定する事件が起きる。
 

 事の発端はシウスが作り出した生命体をネロスが作り出した生命体に絶滅させられた事から始まる。


 シウスはネロスに詰め寄って怒りの感情をぶつける。

「ネロスよ! 何故あの生命体を滅ぼした!」
「シウスよ、あの生命体はいずれ環境に順応出来ずに滅んだ。ならば別の生命体の糧となったほうが得策であったのだ」
「順応出来ずに滅んだとしてもだ! 最後の個体となるまで生かしてやっても良かったではないか!」
「最後の個体になるまでだと? それに何の意味があるというのだ?」
「生命体は死ぬ為に存在しているのでは無い! 生きる為に存在せねばならぬのだ!」
「甘ったれた事を抜かすなシウスよ! この星にはもっと強い生命体を早く作らねばならぬのだ!」
「何故今になってそんな事を言い出す! 手出しせずに見守ると言ったのは嘘か!」
「嘘では無い。我が作り出した生命体の近くにたまたまお前が作った生命体がおっただけだ」
「それを絶滅に追い込んだ事を手出ししたと言っている!」
「手出ししておらぬ! たわけた事を抜かすな!」


 シウスは怒りの感情を堪えながらネロスに話す。

「…何があったのだネロス? 今までこんな事などしなかったでは無いか?」
「シウスよ、父からの話を聞いたであろう?」
「…ああ、聞いた。兄達の星の生命体がとうとう進化を極め、星を飛び出して侵略を始めたのだったな」
「父から兄達へは我等の星に侵略する事を厳しく止められた。我はそれが腹立たしいのだ!」
「兄達は我等より遥か前に星へ送り出され、生命体を作っていたのだ。我等が遅いのは仕方がないではないか」
「一番上の兄が居る星の生命体は既に他の星をたった一発で消滅させるものを作ったのだぞ! そんなものをこの星に撃たれてみろ! 今までの苦労全てが水の泡ではないか!」
「だから父は我等の星に手を出すなと厳命してくれたではないか!」
「それが悔しいのだ! どうせ兄達は不出来な弟達の星などすぐに破壊出来るとほくそ笑んでおるのだぞ!」
「兄達は兄達、我等は我等で良いではないか! なぜ焦っておるのだ!」
「焦ってなどおらぬ! 我等の星も早くそこまで生命体を進化させたいのだ!」
「それを焦っておると言っている! 進化を急ぐといびつな生命体しか出来ぬ! 兄達の星の生命体が良い例ではないか!」


 ネロスは憤怒の形相でシウスを怒鳴り付ける。

いびつであろうが力は力だ! お前の言う事を聞いた我が愚かだったわ! もっと早く危険な生命体を送り込んで進化を早めるべきであったわ!」
「やめろ! 我等の生命体を脅かすな!」
「もう遅いわ! 既に作って星中にばら撒いたわ!」
「なっ…何だとっ!?」
「いずれ貧弱な生命体は瞬く間に滅ぶ! この星には強い生命体だけ残れば良い!」
「こっ…このたわけネロスっ! よくもそんな事をしてくれたな!」
「強い生命体だけ進化すれば良いのだ! 見ておれ、兄達に一泡吹かせてくれるわ!」
「兄達など関係無いっ! 我等の今までの努力を無駄にするなっ!」
「うるさいシウス! 我の邪魔をするなら貴様も滅ぼしてやる!」
「もういいネロス! 貴様がそんな暴挙に出るなら私も対抗するだけだ!」


 ネロスはシウスを嘲笑いながら話す。

「ふはは、シウスよ。弟が兄に勝てるとでも思っておるのか?」
「兄も弟も無い! 我等は双子、対等の存在だ!」
「はっ! 貴様と我が対等だと? 笑わせるな!」
「ネロスよ! 私は全力で貴様の暴挙に抵抗する! もう貴様と同じ道は歩まぬ!」
「やってみろシウス! 全力で貴様を叩き潰してくれる!」
「殺してでも止めてやる。覚悟しておけネロス!」
「良かろう。ならば貴様と我の作る生命体、どちらが生き残るか戦争といこうではないか!」
「生命体を使えるか愚か者! この場で私が貴様を滅ぼすっ!」


 ネロスを両手を広げ、シウスに向けて挑発する。

「ほう? 我は既に貴様の言う危険な生命体を体内に取り込んでおるぞ? 我は抵抗する力を手に入れたが貴様はまだ手に入れてはおらぬ」
「………なん……だと?」
「ほれ、我に挑んでみよ。我に触れルとたちまチ貴様に危険な生命体ガ襲いカかルぞ?」
「……ネロス?」
「ドうしタ? 遠慮セズに早くカカッテ来い」
「ネロス…貴様……声が」
「口ダケか? 兄ニ殺さレるのが怖イのカ?」


 シウスはネロスから距離を広げながら話す。

「ネロス…貴様もしや頭までその生命体に侵されたのか?」
「何ヲ言ッテおルのダ? 我ハ我だ。我ノ作ッタ生命体ニ負ケルハズなド無…ナイ」
「いかんネロス! 自我を取り戻せ!」
「シウス…馬鹿ナ奴ダ。我ハネロス! 我コソハコノ星ノ神ゾ!」
「くっ……ネロス……」
「シウスヨ、コノ場デ死ニタクナカッタラサッサト逃ゲルノダナ?」
「ネロスよ…もう…手遅れ…なのか?」
「ソウダナ、手遅レダ。兄トシテノ情ケダ、貴様ハ我ガ直々ニ殺シテクレル」
「ネロス…今に見ておれ、私が絶対に貴様を滅ぼしてやる!」

 シウスはネロスに背中を向け一目散に逃げて行った。



 こうしてネロスとシウスの戦争が火蓋を切る。


 シウスはネロスの作った凶悪な生命体をこの星から駆逐すべく、まず先に生命体の理から逸脱させた特殊な生命体を作った。

 ネロスの作った凶悪な生命体は他の生命体の肉体を滅ぼし強制的に殺す事が出来る為、肉体を持たせる事は出来ない。


 精霊と名付けた肉体を持たない生命体はこの星を構成する火・水・土・風・光・闇・時の七種が作り出される。

 知恵を与え、使役しようと試みたがここでシウスは作り出した精霊の失敗に気付く。

 ネロスとの約束を反故にし、無限の命を与えたが思うように制御出来ず、最初に作り出した時の精霊には能力と自我を与え過ぎて造反されてしまう。

 攻撃力に特化させた光と闇の精霊は、星に漂うオドだけではその能力を充分に発揮出来ず、本来与えた能力を全力で引き出せなかった。

 火・水・土・風の精霊は、更に能力を抑えて星のオドだけで活動出来るように改良したが、自己判断で戦う能力に乏しくシウスが望んでいた力にはなれなかった。


 造反した時の精霊以外の精霊は、ネロスの作った凶悪な生命体と戦いを繰り広げる。

 星を構成している存在の為その自力は強く、今まで作り出した生命体の滅亡を妨げる戦果は上げるものの、神出鬼没に現れるネロスには太刀打ち出来ずに次々と消滅させられた。


 精霊を作り出しては消耗を続けるシウスはやむを得ず、強制的に知恵を与えた生命体を作ろうと決意する。

 精霊達が駆逐したネロスの生命体を収集、分析し抵抗性を持った肉体を設計する。

 そして自らの手足として使役すべく、自分の姿を反映させた『背中に翼を持つ生命体』を作り出した。

 寿命を無限にしたかったが数を作り出す事が出来ない為、長い間戦えるくらいの寿命を与えてネロスに対抗出来る存在として世に送り出した。

 シウスが作り出した生命体には精霊を使役出来る能力と自らの意思でオドを吸い取れる能力が与えられた。

 新たな生命体は徒党を組み、自らの肉体と精霊を駆使し集団でネロスと戦う。

 背中に翼を持つ生命体は、その個体をネロスに数多く殺されながらも、対峙する度にネロスを退ける戦果をあげる。


 ネロスも自分を退ける生命体を捕まえ、解剖して分析すると同様に『羽を持つ生命体』を数多く作り出す。

 ネロスとシウスの作り出した生命体は星の至る所で戦争を繰り広げ続けた。


 戦争は激化し、個体の能力に優位があったネロス側の生命体は常に勝ち続け、星の大半の地域を手中におさめた。

 シウス側の生命体は後から作り出されたネロス側の生命体に比べ、能力に劣っていた。

 ほぼ同じ身体能力であったが、シウス側の生命体はオドの保有量に差を付けられていたのである。

 ネロス側の生命体はオドの保有量を引き上げる改良が施され、長期継戦能力に差が出てしまった。

 戦争が長期化するとオドの保有量の差で戦況を維持出来ず、シウス側は敗退を繰り返した。

 最早このままではシウスの敗北まで追い詰められてしまう。



 敗北寸前まで追い詰められたシウスは、新たにオドを非常に多く保有する生命体、『人間』を作り出す。

 寿命は今まで頂点にあった捕食生命体より長く引き上げられ、知恵と驚異的なオドの回復力、そして繁殖能力を与えられた。

 人間の戦闘能力はネロス側の生命体には到底敵わない程劣っていたが、脅威ともいえるオドの回復力と繁殖能力で少しずつ個体を増やし、与えた知恵で新たな戦う力、様々な武器を作り出すとネロス側の勢力を押し返していった。

 背中に翼を持つ生命体も人間の作り出した武器を提供され、2つの種族は力を合わせて次々と戦争に勝利し、ネロス側の羽を持つ生命体を駆逐していった。



 シウスは決意し、もう二度と負けられぬと自らの肉体を捨てて十三体の分身を作り出す。

 シウスは自らの存在を精神体のみにさせてまで、ネロスの阻止をする為に十三体の分身を戦争へ投入した。



 対するネロスも人間を捕まえ、解剖して分析を行う。
 しかし、シウスは人間を簡単に分析出来ない程複雑に作っていた。

 ネロスが試作した人間は全く言う事を聞かず、作り出したネロスを憎み戦いを挑んだ。

 反逆された事に逆上したネロスは大量に試作した人間を皆殺しにする。

 そして、皆殺しにした人間の肉体と今まで作っていた捕食生命体を融合させる。

 ネロスが新たに作り出した生命体は『魔物』と名付けられ、自分の命令に従う程度の知力しか与えずに戦闘能力と繁殖能力に特化させ、シウス側の勢力に対抗すべく世に送り出した。

 元になった人間の頃の能力を残した魔物は、武器そのものを作り出せる能力こそ無いものの、人間から武器を奪い取って使う個体が存在したが、大半の魔物は素手や牙でシウス側の勢力に襲いかかった。



 戦争は翼を持つ生命体と羽を持つ生命体との殺し合いから、人間と魔物の殺し合いへと様相が変わってゆく。

 双方が最初に作った翼を持つ生命体、羽を持つ生命体は戦争で次々と命を失い、その個体数は徐々に減っていった。



 ネロスとシウスの戦争は数千年にも及び、数多の血で大地は赤く染まり、骨肉は大地へと還ってゆく。


 そして気が遠くなる程の長い戦争の末、ついにシウス側の勝利で終わる。



 地上には勝利した人間がその繁殖能力で個体数を増やし続け、敗北した魔物は洞窟や森の奥地へと追いやられながらも繁殖を続け、個体を維持していった。

 現在も尚、人間と魔物は互いを忌み続け小規模ながら星の至る所で争いを繰り広げている。


 翼を持つ生命体はかろうじて種の維持を自力で賄える程度には個体数が残った。


 戦いに敗れた羽を持つ生命体がどうなったかは誰も知らない。

 完全に滅んだとされているが、その答えを知る者は誰も居ない。




 こうしてネロスとシウス、双子の兄弟の戦争はシウス側の勝利で終わった。
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