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めくるめく愛の時

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 北斗が拓真に押し込まれた洗面所は、奥行が広く、入って右側の壁一面には鏡が貼ってあり、その下に設えられたダークグレーの大理石の洗面台には、洗面ボールが二つ並んでいた。
 床を挟んだ反対側の壁に、作り付けのチェストとシェルフが並び、その横にすりガラス状のドアがある。
 換気扇の音と位置的に、あれが浴室だろうと見当をつけた北斗は、拓真に出て行ってくれと言おうとした時、後ろから羽交い絞めにされ、鏡越しに見つめられて、耳元で囁かれた。
「強引なのがいいのなら、そうしてやる。全部俺のせいにしてしまえばいい」
 耳から吹き込まれた熱い吐息は、ちりちりと肌を舐める痺れに変わり、首筋から背中へと走り抜けていく。
 感覚だけならまだしも、今は目の前の鏡に、危うげな顔をした自分と、それを舌なめずりでもしそうな表情で見つめている拓真が映っている。
 振りほどこうとして身体を左右に揺すってみたが、拓真の腕は北斗をきつく抱きしめたままで放そうとしない。
全てが見えてしまうことに居たたまれなくなり、北斗は必死でもがいたが、衣服が乱れるだけで、拓真の拘束は緩むばかりか、もっときつくなった。
「放せよ!」
 上気した顔で鏡越しに睨んだら、拓真がにっと口元を上げた。
「そそる顔だ。今日は手加減しないから、覚悟しておけよ」
 突き刺さるような視線を北斗に返しながら、拓真が宣言する。
 息を飲んだ北斗の胸に湧いたのはものが何かと考える間も無く、拓真の唇で耳殻をやわやわとついばまれれば、与えられる愛撫が支配される喜びへと変わる。
 胸に湧いたものは期待だと分かり、未知への感覚が開こうとするのを、まだかすかに残っている理性が危険信号を灯して回避しようとする。
 まずい!頭では思うが、自分を羽交い絞めにしている拓真の腕に手をかけたのは、既に外すためではなく、掴まって身体を支えるための役割になっていた。
 舌が耳に差し込まれると、全神経を持っていかれそうになる。
 目をギュッと閉じて肩をすくめ、おぞ気に似た快感をやりすごした後、顔を背けて拓真を阻もうとする。だが、体格の勝る拓真から逃げることは不可能で、背の高さを利用して、顔の角度を変えた拓真の舌が、再び北斗の耳に侵入し、ねっとりと舐めあげた。
 足がわなないて腰が落ちそうになり、北斗は慌てて洗面台に手をついて、崩れるのを防ぐ。
 拓真の舌が首筋を辿るのに気が付いた時には、すでにシャツのボタンを外されていた。
 血管にそって軽く歯を立てられ息を吹きかけられると、北斗の背が堪らずに反リ返る。上半身を拓真に預けてしまったために、拓真の両手が動きやすくなり、次々とボタンを外され前が開けた。
「…‥やだ。鏡の前でこんなことするなよ」
 もう前を見ていられなくて、北斗がじんじんと疼きながら脈動する首筋を護るように顔を傾げると、その隙を狙った拓真が、手つかずの晒された柔らかい部分に舌を這わせる。
 最初に責められた首筋が敏感になり過ぎていたために、北斗は反対側に与えられる感覚を、温かく湿ったものが触れているとしか捉えられず、ホッと安心した。それも束の間、急激に先ほどと似た感覚が起こり、記憶の中の痺れと無意識に比較した途端、倍増するような快感が蘇って、ビリビリと全身に感電する。
「アァッ!」
 首を竦めたくても、身体が硬直してしまって動かせず、びくびくと身体全体が小刻みに震えてしまう。きっとどうしようもなくはしたない顔と恰好をしているのだろうと、薄目を開けて鏡を見ると、薄く色づいた胸の尖りに拓真が触れるところだった。
「やめ…‥。あっ…‥」
 くりくりと転がされて、くすぐったいような、むず痒いような変な感覚が表皮に走る。
それ以上感覚を追ったらだめだと思うのに、拓真が仕掛けた首筋のしびれが、快感なのだということを脳はもう察知していて、拓真がこねる尖りにまで甘さを見つけようとする。 突如神経が繋がったように、胸から走った甘い疼きが腰にまとわりついた。
 一度そうなると、もう振り払おうと思っても払えない。拓真の指先が動くたびに、北斗の腰が揺れる。快感を追うことしかできなくなった頭で鏡を意識すれば、蕩けるような目元と、唇を半開きにして息を弾ませる見たことのない淫らな男が映っている。
 残っていた羞恥心が急にぶり返し、拓真にもたれた身を起そうとするが、見抜いた拓真が北斗の唇を奪った。
 もう鏡は見えない。見えないのに、キスでどうにかなりそうだ。
 溺れてしまう。こいつに溶かされて、俺が形を変えてしまう。
 ぎゅっと拓真の背中のシャツを掴んだら、拓真が唇を離し、北斗の目を覗き込んだ。
 余裕を見せていた拓真の目にも、今は深い欲望が見て取れる。
 俺だけが溺れているわけじゃない。この男を欲情させているのはこの俺だ。自分の感じた姿が相手に与える官能を思うと余計に感じる。快感の相乗効果に酔いしれそうだ。
 拓真の唇を覆うつもりで半分開いた唇を近づけたら、拓真も反応するように唇を開き、熱い舌を入れてきた。それを押し返して、拓真を同じくらい気持ちよくさせたくて、自ら拓真の唇と歯の間や上顎を舌で弄っていたら、絡めとられてジュッと吸われた。
 北斗の口内に唾液が溢れて、鼻にかかった甘ったるい声が漏れる。
 北斗が不安を捨てて、ようやくその気になったと判断したのか、拓真の手が背を這い降りて、北斗の片方の尻を掴んで揉みしだいた。
「ん~っ。んっ」
 待って。拓真にも気持ちよくなって欲しいと言おうと思ったのに、狭間に指が忍び込んで、強弱をつけて一点を捏ね回す。
「あっ……やっ・・・」
 そこでどんな感覚を拾ったかを思い出した途端、すぼんでいるはずの部分が勝手に収縮し始めた。
「ここは覚えているみたいだな」
 笑いを含んだ声で囁きながら、拓真があやすように尻全体を撫でると、北斗の意に反して余計に収縮が激しくなり、尻全体が波打って、感じていることを拓真の指に伝えてしまう。
 その反応に気をよくした拓真が、俺もこんなんだと、既に張りつめている北斗の部分に、自分の熱くて硬い部分を擦り合わせ、前からも後ろからも刺激を与えた。
 せりあがる快感に煽られて、堪らなくなった北斗は、拓真のキスから逃れて首を振り、崩れ落ちそうになって、なす術もなく拓真の首にかじりつく。ウェスト部分にカチッと小さな振動を受けて、北斗が気が付いた時には、摩擦と共にベルトが引き抜かれていた。
 下着もろともパンツを下ろされ、シャツも剥ぐように脱がされると、そのままバスルームへと引きずり込まれ、壁を背もたれにして立たされる。
 シャワーの温度を調節した拓真が、北斗の肩へと湯をかけながら、きれいな身体だと呟いた。
「この間見たじゃないか。男同士なんだから、きれいとかおかしいだろ?」
 股間を隠そうとした北斗の手を、拓真が払って壁に押さえつける。形を変えた部分を自分だけ晒して立つのが恥ずかしくなり、拓真にも裸になるように告げた。
「男同士か……北斗は単なる同類の裸としか思わなくても、俺はお前の裸に欲情する。抑制が効かなくなるかもしれないぞ?」
「それでもいいから、脱げよ。服が濡れるだろ?」
 シャワーを止めてフックにかけると、拓真が浴室のドアをあけ、脱いだシャツを外へと放る。てらいもなくパンツも下着も脱いで裸になると、北斗の前に堂々と立って全てを見せた。
 北斗は筋肉のつきにくい細見の自分の身体と、拓真の無駄な脂肪もなく厚い筋肉に覆われた身体を見比べた。鍛えているのか、腹筋が六つに割れている成熟した男の逞しい身体に羨望のため息をつく。
「彫刻みたいだな。きれいなのは、拓真さんの方だよ。でも……」
 視線を下へと持って行き、えらの張った笠高な起立を見て、北斗は息を飲んだ。
「それ入れる気?」
「心配するな。ちゃんと解してやるから」
 拓真の言葉に、耳がチリチリと焦がされたように感じる。北斗が赤くなった顔を見られまいとそっぽを向いている間に、ボディーソープをつけたスポンジで丁寧に身体を洗われた。
 壁の方を向かされ、クルクルマッサージをするように背中を撫でられると、緊張感が解れてふぅ~とため息が漏れる。
 刺激的な言葉を投げたくせに、背中から囲うように伸びてきた拓真の手は、あっさりと前を洗い終えてしまい、離れていく指先に物足りなさを感じた北斗が、肩越しに振り返って拓真を見ると、これからだといなされた。
 髪も洗われて、湯船に浸かり、拓真の長い脚の間に抱きこまれた時には、甘やかされる幸せで北斗の全身の力が抜け、酔った時のようにフワフワとした高揚感が生まれた。
 ああ、何かこ~ゆうの良いな。恋人同士って感じがする。
 幸福感に酔いしれながら、首を後ろ斜めに捻って拓真の頬にキスをする。ふふっと照れ笑いをしたら、拓真が目を見開いた。
「今ごろワインが回ってきたのか?」
「違う。酒じゃない」
 でも、拓真と一緒にいる幸せに酔ったとは言えなくて、自分では気づかず、北斗は拗ねた表情を浮かべた。一度甘えると、いつも肩肘を張っているだけに、崩れるのも早い。
 好きだという気持ちが抑えきれないくらい湧いてきて、拓真の頬にもう一度キスをしようとしたら、目標がずれて、いや拓真が顔の位置を変えて、柔らかな唇と重なった。
 キスが終わると、拓真に両脇を抱えられるままに、ザバッと湯を滴らせながら湯船の中に立たされる。
 何だか拓真の顔が表情を失ったように感じるのは気のせいだろうか?北斗が振り返って確認しようとしたら、拓真に前を向くように言われた。
「滑ると危ないから、縁に手をついて身体を支えるんだ」
 背中を折り曲げられて、バスタブの縁に両手をつくと、拓真の方に尻を掲げた状態になる。あまりにも恥ずかしい体勢に起き上がろうとすると、背中を押さえられて阻止された。
「リラックスしたから、きっと解れやすくなっているだろう。少し冷たいかもしれないが我慢しろ」
 拓真がボディーソープの横に置いてあるボトルを取り上げ、手のひらにトロリとした中身をあけた。指に絡めてから北斗の狭間を探り始める。
 北斗の桃色がかっていた頭が、急に沸騰したように熱くなり、北斗は思わず腰を捻って拓真の指から逃れようとした。だが、もう片方の手で腰を掴まれているので動けない。
 拓真の指がやわやわとその部分を押してきて、また勝手にすぼまりが収縮を繰り返し、力が抜けたタイミングで指が輪をくぐる。そのままツプリと入ってきた指が、何かを探るように浅い場所を執拗に撫でまわしては引っかく動作を続けた。
「んっ…‥ああっ!」
 少し強めに押された瞬間、鋭く走った感覚に、北斗の上半身がビクッと上下に揺れる。バスタブを掴む指が白くなり、口で荒く息を吐く北斗の頬が染まっていった。
「はぁ…‥あ…‥んっ」
 風呂場に響く北斗の甘い喘ぎ声が、余計に自分を煽る役割を果たし、淫らな気分に支配されて腰を揺すると、その途端にずるっと指が抜けていく。
 思わず後を追って腰を突き出してしまい、北斗が羞恥で身を焼いていると、ローションをまとった二本の指が再びぬくりと入ってきた。人差し指と中指が開いたり閉じたりして、すぼまりを解していく。指先は中の凝りを挟むように揉みこんだ。
「やめ…て、待って……それすん…な」
 もう前はガチガチに反りかえって、腹ついている。
透明な汁がつーっと糸を引いて垂れているのが視界に入り、北斗は激しく首を振った。
 触りたい!手でこすって出したいのに、両手で体重を支えているから手が離せない。もし今、片手をバスタブから外したら、湯船の外に頭から突っ伏してしまいそうだ。
「ああ、無理、止めて、イッ…イキたい」
「イケばいい。ほら…」
 拓真が親指を戸渡にぐいっと押し込み、人差し指と中指の三本で快感の源を摘まんだとき、北斗は強烈なエクスタシーに弾き飛ばされて、堪らずに射精した。
 北斗の両手から力が抜け、つんのめった身体を、拓真の手が支える。膝を中途半端に曲げ、バスタブに肘をついた北斗は、頭の位置より臀部が高く突き出された状態を恥ずかしく思い、なんとかしようとするが、そこはまだ拓真の指に支配されている。凝りから離れない指で、再び揺さぶりをかけられた。
「やっ、もう、抜いて…出る。また…イク…ああ…ああぁ」
 腕と上半身が突っ張って、ぶるりと震えが走って、快感の高波にさらわれた。
 深く深く感じる波が北斗の内部に次々と起こり、ぎゅっとすぼまった道が拓真の指にまとわりついてうねる。北斗の激しいエクスタシーを、拓真は目と指とで感じ取った。
「出さずにイッたな」
「感じ過ぎ…る。そこ…もう…触らないで」
 北斗の俯き加減の口から、つ~と唾液の糸がひいたが、北斗の頭はもうそんなことを気にかけている余裕がない。
「もう一度ドライでイくといい」
 再び、親指を戸渡に押し込まれ、北斗が反りかえりながら咆哮した。
「アァッ!あーっ‼」
 ガクンと腕の力が抜け、北斗は洗い場へと勢いよく上半身が傾いていくのにヒヤリとしたが、拓真に支えられ、バスタブから引き上げられる。
 付着した自分のものをシャワーで洗い流された後、拓真に支えられながら風呂から出て、吸水性の高いモフモフのバスタオルで包まれた。
 肌ざわりの良さに、ほっと気持ちが緩んだ時、力強い拓真の腕に抱き上げられて、洗面所を後にする。そのまま同じフロアの客室に連れていかれ、ベッドの上に横たえられた。
 
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