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マリル、作戦を決行する
魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた
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会場にこだまする不気味なシュプレヒコールを聞いて、ガルレア王妃がわざとらしく両手で身を抱きながら「まぁ、恐ろしい!」と叫んだ。
どうやらルーカスは、人の心を操る幻魔を王族には仕向けなかったらしい。そのせいで事前に何が起きるか知っていたガルレア王妃とハインツ王子以外の王族は、見せられた映像ににショックを受けて青ざめ、顔には苦悩が浮かんでいた。
パウロン王は普段目にもかけない不肖の第一王子に映像が真実かを訊ね、ハインツ王子が深刻そうに頷く。額の皺をより深く刻んだパウロン王に向かい、ガルレア王妃がこの場にそぐわないほどの生き生きした様子で語りかけた。
「このままでは暴動が起きかねなませんわ。陛下、観衆を宥めるためにも、アルバート王子を拘束させましょう」
円形競技場には、アルバート王子の処刑を望む観衆たちが「殺せ! 殺せ!」とコールしていて、その大合唱は小さくなるどころかどんどん熱を帯びて大きくなっている。
「分かった。だが、処罰は事実をきちんと調査してからだ。それまでは罪人として扱ってはならぬ。王城の嘆きの塔へ隔離して、近衛兵に護らせるように」
試合が中断してから、進行をどうするか聞きに来ていた審判役の近衛隊長が、パウロン王の指示に応えて敬礼をしてから、競技場の地面へと引き返していく。ただ、その目は罪人という獲物を捕らえる喜びで血走っていた。
「アルバート王子を捉えよ!」
近衛隊長の命令が下り、席の随所で警護にあたっていた近衛兵たちの短い返事が観客たちのコールに混じって響いた。
マリルはじっと静観していたが、観覧席の四方八方から競技場へ通じる扉へと喜び勇んで駆け下りていく近衛兵たちの様子から、例えパウロン王がアルバート王子を護ろうと出した命令であったとしても、兵隊たちが王子を包囲して連れて行く先は安全な場所ではないと察しがつく。
もう、見ていられない! アルバート王子は無実なのに、嘘の罪を着せて聴衆の晒し者にするとは許せない。
マリルは人の心を操っている幻魔の一匹に向けて光の玉を放った。
「ギャッツ!」
耳障りなだみ声の悲鳴が鼓膜を震わせ、幻魔が紫の炎を上げて燃え上がる。
「やっつけた!」
アルバート王子が叫び、マリルと顔を見合わせたのも束の間、上空に張ってあるルーカスのドーム型の結界の一番高い部分に煙が流れていって塊を作り、やがて手足が形成されて元の幻魔に戻ってしまった。
「煙が集まらないように、結界を破って方々へ散らすしかないわ」
マリルは決戦の合図である赤い花びらを、魔法学校の引率者たちの上に撒き散らした。
男性三名と女性二人の引率者は本物の教師ではなく、サンサと同じ魔力管理委員会のメンバーだ。
本来ならサンサから連絡があってから出す指令だが、アルバート王子を護るために、もう一秒だって待つつもりはなかった。
傍にいたアルバート王子が、心配そうにマリルを見る。
「白魔術では攻撃魔法をすると罰を受けるんじゃないか?」
「大丈夫。あいつらは人間じゃなくて、ルーカスが作り出した幻魔だから。殿下、なるべく私から離れていて。ルーカスの攻撃に巻き込まれるといけな……」
言い終わらないうちに蠢く紫の身体に、金属のような硬質な輝きを放つ鋭い牙と爪を持つ二足歩行の化け物が、マリルに襲いかかってきた。
きっと、あれに引っかかれたら皮膚が裂けるに違いない。覚悟しながらマリルが構える。
アルバート王子が剣を振るうが、紫の煙を潜っただけで手応えはなく、幻魔はマリルに鋭い爪を振り下ろす。
眼が眩むほどの光の玉を、至近距離からマリルに浴びせられた幻魔は、潰れたような悲鳴を上げて爆炎した。
煙はやはり上空へ伸びていき、頂上の一点で渦を巻き形作られていく。
もう最後まで見なくても結果は分かっている。マリルは幻魔の行方を追わず、マリルは観客席の最上段に目をやった。
果たしてそこには、マリルの待ち望んだ光景があった。
白いローブを着た魔術管理委員会の魔術師たちが立ち上がり、ローブの下に隠し持っていた杖を取り出した。同じく白いローブに身を包んだ生徒たちの頭上を薙ぐ様に払ってから、掛け声と共に天を指す。
上空を見上げた三、四十人もの生徒たちの頭から、フードがはらりと後ろに垂れて現れた顔! 顔。顔に、マリルだけではなく隣にいたアルバート王子も驚いて声を上げた。
「何だ、あの子たちは? 全員同じ顔をしているぞ」
「び、びっくりした。私も初めて見るけれど、幻魔と同じであれも人じゃありません。魔術師が作った成り代わり人形なの」
マリルが説明している間にも、生徒たちを覆っていたローブや肌色の表皮が、粒子になって砂のように流れ落ちていき、あとには銀色に光る人型のボディーが連立していた。
突然ビシッと音がして、顕わになった銀色のボディーに亀裂が走る。幾重にもヒビが入り続けた身体は、やがて鋭利な刃へと分裂して、ビュンビュンと空を切る音をさせながら、次々上空へと飛んでいき、結界に突き刺さった。
百本は下らない切っ先に向け、魔術師たちが呪文を唱えて杖を突きあげる。杖の先から稲妻が走り、枝分かれしながら全ての切っ先に届いたとき、円形競技場から見える丸い青空が一瞬真っ白に輝き、いきなり風が吹き込んできた。
「おのれーっ! よくも私の結界を壊したな。幻魔たちよ、白いローブの魔術師にかかれ!」
ルーカスが紫の魔物に命令を下す。
幻魔たちが、最上階に向かって跳躍した。
「ルーカス、あなたの思い通りにはさせないわ」
マリルがいくつもの光の玉を、勢いよく幻魔に投げつける。十体にヒットして、燃え上がった身体は煙となり風に吹かれて消えて行った。
ただ、幻魔は円形競技場を覆っていた煙が分割して形を成しただけあり、どのくらいいるのか見当もつかない。消えた幻魔が操っていた観客が正気に戻ったようで、紫の魔物を見て悲鳴を上げた。
五人の魔術師たちが正気でいたのは、独自に結界を張っていたからだ。ルーカスの結界を破るために一旦解除した結界を再び張り巡らせたようで、幻魔は一定の距離から近づけずにいる。見かねたルーカスが杖を振るおうとした刹那、上空が真っ黒い影に覆われて、立っている者を吹き飛ばすほどの暴風が吹き、紫の幻魔の半数以上が消し飛んだ。
地面に足を踏ん張っていたマリルも飛ばされそうになったが、アルバート王子に腕を掴まれて引き戻され、一緒に上を見上げると、翼の端から端まで十mはありそうな大きな鷹が円形競技場の壁にとまるところだった。
羽を収めた鷹は高さが四、五メートルはあるだろうか、その肩からひょっこり顔を出したのは、マリルが待ち望んだ人だったが、いきなり雷が落ちた。
「こらっ、マリル! 私が来てから指令を出せと言っただろ。 間に合ったからいいようなもののルーカスを逃がしたらどうするつもりだった」
「お師匠様~。だって、アルバート王子がルーカスに操られた兵士に捕まっちゃいそうで焦ったんだもん。良かった~、来てくれて」
「近衛兵は正気に返ったみたいだぞ。あのものたちを操っていた幻魔が消えたんだろうな。それよりマリル、ほら、お前から頼まれていたものと、お前が前から欲しがっていたものを持ってきた。中身を確認しなさい」
四〇メートルほどの高さから、バスケットと巻物が宙を漂うようにマリルの元へと届けられた。
バスケットの中身にちらりと目をやってから、マリルは巻物の紐を一気に解いて開く。想像もしていなかったものを見て、マリルは驚きのあまり絶叫した。
「え~~~~っ! な、なんですか、これは! お師匠様、どうしてこんなときに、魔術師の認定証なんてくれるんです? 私があんなに頼んでもくれなかったのに」
「ちょっと気が変わったんだ。要らないなら戻してくれても構わないが」
「嫌です! そんなに簡単に出したり戻したりしないでくださいよ。大魔導師の認定書なんてすごい価値があるんですよ。お師匠さま、一度聞こうと思っていたんですが、自分の立場を分かってます?」
ぷんぷん怒りながら文句を言うマリルの言葉を、遮ったのはルーカスだった。
「一体いつまで師弟ごっこをしている気だ。まとめて葬ってやろうか」
「久しぶりだな。ルーカス。どうして私がここに来たか分かっているだろうな。一度目はお前が改心してくれることを願って、保護魔法で様子をみたが、二度目の闇堕ちでは酌量の余地もない。ルーカス、魔術師管理委員会はお前の大魔導師の地位と魔術を、永久に剥奪する」
黙れ! と言うや否や、ルーカスが振った杖から数百もの毒針をサンサに浴びせかける。サンサは杖の一振りで大きな磁石を出し毒針を吸いつけ、もう一振りで磁石ごと消してしまった。
「ルーカス、お前の魔術は強くて相手を圧倒するが、根底には憎しみしか感じられない。魔術師になるべきではなかったんだ」
「何を寝とぼけたことを。この世は力が全てだ。サンサだって力を持っているから大魔導師の称号を手に入れたのだろうが。私は小さなころから大魔導師になるよう、両親に厳しく教育されたのだ。体罰という苦しみを持ってな。私の身体には今も鞭や火傷の後がある。両親には私が大魔導師になったときに、奴らが大好きな魔術を使って十分に仕返ししてやったよ」
「何をしたのかは聞かないでおこう。お前の正反対がマリルなのだろうな。マリルよく聞きなさい。マリルは魔力量がありすぎたために、両親に恐れられ捨てられたのが原因で、魔力を全開できないでいる。ひょっとしたらマリルの力は、私とルーカスより強いかもしれない」
マリルは信じられないとばかりに、首を大きく振った。
「私の言葉とマリルの中に眠る力を信じなさい。本当のマリルは強い。エリザ王女の死を嘆き、アルバート王子の真実を叫び、常に人を思いやる心に溢れている。その気高い気持ちと強い信念に満ちたマリルが本気でパワーを解放すれば、敵う者はいないはず。私の跡を継ぐのはマリル、あなたしかいない。後を頼みましたよ」
―――跡を継ぐ? 頼むってどういうこと?
頭の中に浮かんだ問いは、幻魔の不意打ちで中断された。
どうやらルーカスは、人の心を操る幻魔を王族には仕向けなかったらしい。そのせいで事前に何が起きるか知っていたガルレア王妃とハインツ王子以外の王族は、見せられた映像ににショックを受けて青ざめ、顔には苦悩が浮かんでいた。
パウロン王は普段目にもかけない不肖の第一王子に映像が真実かを訊ね、ハインツ王子が深刻そうに頷く。額の皺をより深く刻んだパウロン王に向かい、ガルレア王妃がこの場にそぐわないほどの生き生きした様子で語りかけた。
「このままでは暴動が起きかねなませんわ。陛下、観衆を宥めるためにも、アルバート王子を拘束させましょう」
円形競技場には、アルバート王子の処刑を望む観衆たちが「殺せ! 殺せ!」とコールしていて、その大合唱は小さくなるどころかどんどん熱を帯びて大きくなっている。
「分かった。だが、処罰は事実をきちんと調査してからだ。それまでは罪人として扱ってはならぬ。王城の嘆きの塔へ隔離して、近衛兵に護らせるように」
試合が中断してから、進行をどうするか聞きに来ていた審判役の近衛隊長が、パウロン王の指示に応えて敬礼をしてから、競技場の地面へと引き返していく。ただ、その目は罪人という獲物を捕らえる喜びで血走っていた。
「アルバート王子を捉えよ!」
近衛隊長の命令が下り、席の随所で警護にあたっていた近衛兵たちの短い返事が観客たちのコールに混じって響いた。
マリルはじっと静観していたが、観覧席の四方八方から競技場へ通じる扉へと喜び勇んで駆け下りていく近衛兵たちの様子から、例えパウロン王がアルバート王子を護ろうと出した命令であったとしても、兵隊たちが王子を包囲して連れて行く先は安全な場所ではないと察しがつく。
もう、見ていられない! アルバート王子は無実なのに、嘘の罪を着せて聴衆の晒し者にするとは許せない。
マリルは人の心を操っている幻魔の一匹に向けて光の玉を放った。
「ギャッツ!」
耳障りなだみ声の悲鳴が鼓膜を震わせ、幻魔が紫の炎を上げて燃え上がる。
「やっつけた!」
アルバート王子が叫び、マリルと顔を見合わせたのも束の間、上空に張ってあるルーカスのドーム型の結界の一番高い部分に煙が流れていって塊を作り、やがて手足が形成されて元の幻魔に戻ってしまった。
「煙が集まらないように、結界を破って方々へ散らすしかないわ」
マリルは決戦の合図である赤い花びらを、魔法学校の引率者たちの上に撒き散らした。
男性三名と女性二人の引率者は本物の教師ではなく、サンサと同じ魔力管理委員会のメンバーだ。
本来ならサンサから連絡があってから出す指令だが、アルバート王子を護るために、もう一秒だって待つつもりはなかった。
傍にいたアルバート王子が、心配そうにマリルを見る。
「白魔術では攻撃魔法をすると罰を受けるんじゃないか?」
「大丈夫。あいつらは人間じゃなくて、ルーカスが作り出した幻魔だから。殿下、なるべく私から離れていて。ルーカスの攻撃に巻き込まれるといけな……」
言い終わらないうちに蠢く紫の身体に、金属のような硬質な輝きを放つ鋭い牙と爪を持つ二足歩行の化け物が、マリルに襲いかかってきた。
きっと、あれに引っかかれたら皮膚が裂けるに違いない。覚悟しながらマリルが構える。
アルバート王子が剣を振るうが、紫の煙を潜っただけで手応えはなく、幻魔はマリルに鋭い爪を振り下ろす。
眼が眩むほどの光の玉を、至近距離からマリルに浴びせられた幻魔は、潰れたような悲鳴を上げて爆炎した。
煙はやはり上空へ伸びていき、頂上の一点で渦を巻き形作られていく。
もう最後まで見なくても結果は分かっている。マリルは幻魔の行方を追わず、マリルは観客席の最上段に目をやった。
果たしてそこには、マリルの待ち望んだ光景があった。
白いローブを着た魔術管理委員会の魔術師たちが立ち上がり、ローブの下に隠し持っていた杖を取り出した。同じく白いローブに身を包んだ生徒たちの頭上を薙ぐ様に払ってから、掛け声と共に天を指す。
上空を見上げた三、四十人もの生徒たちの頭から、フードがはらりと後ろに垂れて現れた顔! 顔。顔に、マリルだけではなく隣にいたアルバート王子も驚いて声を上げた。
「何だ、あの子たちは? 全員同じ顔をしているぞ」
「び、びっくりした。私も初めて見るけれど、幻魔と同じであれも人じゃありません。魔術師が作った成り代わり人形なの」
マリルが説明している間にも、生徒たちを覆っていたローブや肌色の表皮が、粒子になって砂のように流れ落ちていき、あとには銀色に光る人型のボディーが連立していた。
突然ビシッと音がして、顕わになった銀色のボディーに亀裂が走る。幾重にもヒビが入り続けた身体は、やがて鋭利な刃へと分裂して、ビュンビュンと空を切る音をさせながら、次々上空へと飛んでいき、結界に突き刺さった。
百本は下らない切っ先に向け、魔術師たちが呪文を唱えて杖を突きあげる。杖の先から稲妻が走り、枝分かれしながら全ての切っ先に届いたとき、円形競技場から見える丸い青空が一瞬真っ白に輝き、いきなり風が吹き込んできた。
「おのれーっ! よくも私の結界を壊したな。幻魔たちよ、白いローブの魔術師にかかれ!」
ルーカスが紫の魔物に命令を下す。
幻魔たちが、最上階に向かって跳躍した。
「ルーカス、あなたの思い通りにはさせないわ」
マリルがいくつもの光の玉を、勢いよく幻魔に投げつける。十体にヒットして、燃え上がった身体は煙となり風に吹かれて消えて行った。
ただ、幻魔は円形競技場を覆っていた煙が分割して形を成しただけあり、どのくらいいるのか見当もつかない。消えた幻魔が操っていた観客が正気に戻ったようで、紫の魔物を見て悲鳴を上げた。
五人の魔術師たちが正気でいたのは、独自に結界を張っていたからだ。ルーカスの結界を破るために一旦解除した結界を再び張り巡らせたようで、幻魔は一定の距離から近づけずにいる。見かねたルーカスが杖を振るおうとした刹那、上空が真っ黒い影に覆われて、立っている者を吹き飛ばすほどの暴風が吹き、紫の幻魔の半数以上が消し飛んだ。
地面に足を踏ん張っていたマリルも飛ばされそうになったが、アルバート王子に腕を掴まれて引き戻され、一緒に上を見上げると、翼の端から端まで十mはありそうな大きな鷹が円形競技場の壁にとまるところだった。
羽を収めた鷹は高さが四、五メートルはあるだろうか、その肩からひょっこり顔を出したのは、マリルが待ち望んだ人だったが、いきなり雷が落ちた。
「こらっ、マリル! 私が来てから指令を出せと言っただろ。 間に合ったからいいようなもののルーカスを逃がしたらどうするつもりだった」
「お師匠様~。だって、アルバート王子がルーカスに操られた兵士に捕まっちゃいそうで焦ったんだもん。良かった~、来てくれて」
「近衛兵は正気に返ったみたいだぞ。あのものたちを操っていた幻魔が消えたんだろうな。それよりマリル、ほら、お前から頼まれていたものと、お前が前から欲しがっていたものを持ってきた。中身を確認しなさい」
四〇メートルほどの高さから、バスケットと巻物が宙を漂うようにマリルの元へと届けられた。
バスケットの中身にちらりと目をやってから、マリルは巻物の紐を一気に解いて開く。想像もしていなかったものを見て、マリルは驚きのあまり絶叫した。
「え~~~~っ! な、なんですか、これは! お師匠様、どうしてこんなときに、魔術師の認定証なんてくれるんです? 私があんなに頼んでもくれなかったのに」
「ちょっと気が変わったんだ。要らないなら戻してくれても構わないが」
「嫌です! そんなに簡単に出したり戻したりしないでくださいよ。大魔導師の認定書なんてすごい価値があるんですよ。お師匠さま、一度聞こうと思っていたんですが、自分の立場を分かってます?」
ぷんぷん怒りながら文句を言うマリルの言葉を、遮ったのはルーカスだった。
「一体いつまで師弟ごっこをしている気だ。まとめて葬ってやろうか」
「久しぶりだな。ルーカス。どうして私がここに来たか分かっているだろうな。一度目はお前が改心してくれることを願って、保護魔法で様子をみたが、二度目の闇堕ちでは酌量の余地もない。ルーカス、魔術師管理委員会はお前の大魔導師の地位と魔術を、永久に剥奪する」
黙れ! と言うや否や、ルーカスが振った杖から数百もの毒針をサンサに浴びせかける。サンサは杖の一振りで大きな磁石を出し毒針を吸いつけ、もう一振りで磁石ごと消してしまった。
「ルーカス、お前の魔術は強くて相手を圧倒するが、根底には憎しみしか感じられない。魔術師になるべきではなかったんだ」
「何を寝とぼけたことを。この世は力が全てだ。サンサだって力を持っているから大魔導師の称号を手に入れたのだろうが。私は小さなころから大魔導師になるよう、両親に厳しく教育されたのだ。体罰という苦しみを持ってな。私の身体には今も鞭や火傷の後がある。両親には私が大魔導師になったときに、奴らが大好きな魔術を使って十分に仕返ししてやったよ」
「何をしたのかは聞かないでおこう。お前の正反対がマリルなのだろうな。マリルよく聞きなさい。マリルは魔力量がありすぎたために、両親に恐れられ捨てられたのが原因で、魔力を全開できないでいる。ひょっとしたらマリルの力は、私とルーカスより強いかもしれない」
マリルは信じられないとばかりに、首を大きく振った。
「私の言葉とマリルの中に眠る力を信じなさい。本当のマリルは強い。エリザ王女の死を嘆き、アルバート王子の真実を叫び、常に人を思いやる心に溢れている。その気高い気持ちと強い信念に満ちたマリルが本気でパワーを解放すれば、敵う者はいないはず。私の跡を継ぐのはマリル、あなたしかいない。後を頼みましたよ」
―――跡を継ぐ? 頼むってどういうこと?
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