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ガルレア王妃の呼び出し
魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた
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今夜はフランセン王国から来たエリザ王女を歓迎するために、普段はばらばらの王族が一同に集まりテーブルを囲む。己の存在をアピールするために、王妃がああでもない、こうでもないと衣装を取っ替え引っ替えの真っ最中だった。
ようやく落ち着いたころになって、控えの間であくびをかみ殺していたアルバートに入室するようにと声がかかる。アルバートはやれやれという言葉を飲み込んで、済ました顔で中に入っていった。
「王妃ガルレアさまには、今日もご機嫌麗しく……」
「挨拶はよいから、エリザ王女が本物かどうか申せ」
「そうはおっしゃられましても、俺は生前の王女に会ったことも話したこともないので、今日の王女が本物かどうかは判断がつきかねます」
「用意周到なお前のことだ、コンパニオンに探りを入れるために連れだしたのではないのか? ハインツの話では最初から王女はお前に反抗的だったと聞く。事件に関して何か掴んでいるからではないか?」
アルバートは、ハインツの目にどう映ったかを確認するために、エリザ王女とマリルの言葉を思い浮かべた。
最初に怒りを顕わにして、物騒なことを口走ったのはマリルの方だ。もっとも、あの王女が本物だとしたら、マリルの怒りは当然なのだが。
馬車ごと消えてしまった王女が本物だったのか替え玉だったのか確かめる術はなく、フランセン王国がどう出るのか、この数日は眠りも浅く、食事も喉を通らぬ思いをした。
それが、まさか王女が生きていて、ブリティアン王国に向かってくることを聞き、しかもあの白い馬車で現れるなど、狐につままれた気分だった。
扉に矢傷はない。
森に潜んでいたアルバートから数十メートル離れた道の上に突然馬車が現れ、無防備にも薄桃色のドレスを着た女性がドアを開けて、たった一人で周囲を見回したからだ。
大魔導師ルーカスに聞いていた通り、スパナン王国が用意した替え玉だと思ったアルバートは、弓をつがえた。
突然マリルの声が頭に響き、アルバートは喉が絞まるような苦しさから解放されてホッと息を継ぎ、状況チェックの視点に切り替えた。
『怪我をさせないように気を付けなさいですって? 人を殺すのは平気なくせして、怪我の心配をするの? ふざけないで!』
声を潜めながらも射殺しそうな目で睨むマリルを、俺は捕まえた。
悪夢なら覚めて欲しいと何度も願っていたのに、矢に胸を射抜かれドレスを赤く染めた女性は現実だったと、思い知らせる女から全てを聞くために。
王女がどうやって助かったのか、それとも替え玉で、本物がやってきたのか、堂々巡りするこの苦しみを終わらせたかった。
肩に担ぎあげたマリルを連れていく際、無事に返すから心配ないと告げたとき、王女はかなり辛辣だった。
『さぁ、それはどうでしょう。世の中には上辺だけを取り繕って、陰で何をしているのか分からない人は大勢いますから』
何が起きたか知らない人間には、王女の言葉は反抗的というよりも、礼儀を欠いて身勝手なことをした王子を非難し、諫めたように聞こえただろう。
だが、アルバートは事件を知り過ぎるほど知っている。
あの矢傷が数日で治るとは思えない。鎧を着た屈強な戦士ではなく、瀟洒な絹のドレスを着た可憐な女性だったのだ。
目の前にいる王女はやはり本物で、アルバートの密書を鵜呑みにせずに白い馬車に替え玉を乗せ、結果殺されてしまったことに、憂いと憤りを感じているのかもしれない。
アルバートにしても、白い馬車があれほど金色の飾りで装飾され、扉にユリの紋章が描かれていなければ、あるいは間違いは起きなかったかもしれないと、言い訳にしかならない悔恨を抱えている。
あんなことが無ければ、密書で王女とやりとりしているうちに生まれた親密さを、実際に会ったときに育みたかった。
それができなくなったのは自分のせいだと分かっていて、自己嫌悪に苛まれていたのだが、まるでその気持ちをずばりと言い当てるがごとく、マリルが言ったのだ。
三人の王子の中で一番アルバートが嫌いだと。
的確な言葉があまりにも愉快で、久しぶりに大笑いした。
抑圧され、常に命を狙われている環境で過ごすアルバートにとって、裏表のないマリルは壮快そのものだったのだ。
『こんな状況でなかったら、エリザ王女とも語り合いたかったのに残念だ』
ぽろりとこぼれたアルバートの本心は、マリルに届くはずもなく、憤ったマリルが放った言葉で、アルバートはまた堂々巡りの闇に陥った。
『なんてしらじらしい! だったら、どうして王女さまを殺したの?』
王女を殺しただと? 死んだ少女は替え玉ではないというのか? ならば、先ほど会った王女の方が偽物か?
あの時も思ったが、今は確信に変わっているのは、アルバートは王妃ガルレアとルーカスにまんまとはめられたということだ。
ルーカスの話では、スパナン王国が、フランセン王国の兵士と王女に扮した替え玉を、大魔導師サンサを使って森に転移させ、後から来た本物の一行を始末してから本物に成りすましてブリティアンの王城を目指すということだった。
被害を未然に防ぐため、アルバートは一時的に国境を閉鎖させ、森が道の両側に開ける辺りで、スパナン王国が送ってくる王女の馬車を木の陰に隠れて待っていた。
万が一間違いがあってはいけないと、フランセン王国側には何度も密書を送り、シンプルな白い馬車でくる約束を取り付けた。それなのに……。
スパナン王国の替え玉ではないと確信したのは、馬車が消えてから辺りを捜索して、スパナン王国の兵士を見つけられなかった時だ。
馬車は大魔導師サンサが転移したものではなく、ルーカスがフランセン王女を馬車事転移させたのだと悟った。
ルーカスは力を抑制されているため、一個隊を転移させるのは無理だと言っていたが、馬車一台分ぐらいを移動させることは可能だったのだろう。
嵌められた! 王女を殺した罪をアルバートに擦り付け、狙うは戦争の口実か。
フランセンとブリティアンが戦争になったときに、王妃が祖国に援軍を依頼したらどうなるか。かねてから危惧されてた、ジャンマン王国がブリティアン王国へ侵入する機会を容易に与えることになる。
アルバートは覚悟した。消えた馬車は今頃フランセンの元に返され、ブリティアンの矢は王女殺害の証拠品として回収されて、フランセンの王女一行を足止めするために国境を閉鎖したのは誰であるかが問われるだろう。
全て裏手に回ったアルバートに申し開きの余地はない。何より自己犠牲を覚悟して、ブリティアン王国のために来てくれるはずだったエリザ王女が哀れで、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ところが、さきがけの使者から、フランセン王国の王女がやってくるという知らせが届いたのだ。
偽物が一体何をしに? フランセン王国が裏で糸を引いているのだろうか。
考え出すときりが無かった。
マリルとの会話は、アルバ―トにしか聞こえないほどの小声か、人のいないところで話したものなので、ハインツの知るところではない。
マリルたちが事件に関して何か掴んでいるのではないかというガルレア王妃質問への答えはイエスだが、アルバートが頷けば、王女の真相や、忽然と現れ消えた馬車のからくりなどを調べる間もなく、二人の少女は殺されてしまうだろう。罪もない少女たちが、目の前で散るのはもうたくさんだ。
今後なにかが起こったときに対処するためにも、二人から真相を聞き出さなければ。
「彼女たちが事件に関与しているかどうかは、分かりません。探れるほど一緒にはいられませんでしたから。あのコンパニオンは馬車のステップを踏み外すほどそそっかしいですし、どうやら私を女性を誑かす男と勘違いしているようなので、優しく話しかけようとしても突っぱねられて会話が成り立ちません。もし事件を知っているのであれば、恐れて私に突っかかるような態度は取らないと思います。そこまで警戒しなくてもいいのかもしれません」
「そうか。気を抜かずに二人の様子を探るように。あの女たちが無害であると分かったら、ハインツを婚約者に選ぶように手を回しなさい」
アルバートは畏まりましたと頭を下げ、唇に浮かんだ皮肉な笑いを隠した。
王女がやってきたのは、ガルレア王妃が祖国のジャンマンを手引きして、フランセン王国を侵略するのを防ぐためだ。間違ってもハインツを選ぶことはない。
もちろん、あの王女が本物ならばの話だが。アルバートは謎を解くべく、もう一度マリルに接触しなければならないと思った。
ようやく落ち着いたころになって、控えの間であくびをかみ殺していたアルバートに入室するようにと声がかかる。アルバートはやれやれという言葉を飲み込んで、済ました顔で中に入っていった。
「王妃ガルレアさまには、今日もご機嫌麗しく……」
「挨拶はよいから、エリザ王女が本物かどうか申せ」
「そうはおっしゃられましても、俺は生前の王女に会ったことも話したこともないので、今日の王女が本物かどうかは判断がつきかねます」
「用意周到なお前のことだ、コンパニオンに探りを入れるために連れだしたのではないのか? ハインツの話では最初から王女はお前に反抗的だったと聞く。事件に関して何か掴んでいるからではないか?」
アルバートは、ハインツの目にどう映ったかを確認するために、エリザ王女とマリルの言葉を思い浮かべた。
最初に怒りを顕わにして、物騒なことを口走ったのはマリルの方だ。もっとも、あの王女が本物だとしたら、マリルの怒りは当然なのだが。
馬車ごと消えてしまった王女が本物だったのか替え玉だったのか確かめる術はなく、フランセン王国がどう出るのか、この数日は眠りも浅く、食事も喉を通らぬ思いをした。
それが、まさか王女が生きていて、ブリティアン王国に向かってくることを聞き、しかもあの白い馬車で現れるなど、狐につままれた気分だった。
扉に矢傷はない。
森に潜んでいたアルバートから数十メートル離れた道の上に突然馬車が現れ、無防備にも薄桃色のドレスを着た女性がドアを開けて、たった一人で周囲を見回したからだ。
大魔導師ルーカスに聞いていた通り、スパナン王国が用意した替え玉だと思ったアルバートは、弓をつがえた。
突然マリルの声が頭に響き、アルバートは喉が絞まるような苦しさから解放されてホッと息を継ぎ、状況チェックの視点に切り替えた。
『怪我をさせないように気を付けなさいですって? 人を殺すのは平気なくせして、怪我の心配をするの? ふざけないで!』
声を潜めながらも射殺しそうな目で睨むマリルを、俺は捕まえた。
悪夢なら覚めて欲しいと何度も願っていたのに、矢に胸を射抜かれドレスを赤く染めた女性は現実だったと、思い知らせる女から全てを聞くために。
王女がどうやって助かったのか、それとも替え玉で、本物がやってきたのか、堂々巡りするこの苦しみを終わらせたかった。
肩に担ぎあげたマリルを連れていく際、無事に返すから心配ないと告げたとき、王女はかなり辛辣だった。
『さぁ、それはどうでしょう。世の中には上辺だけを取り繕って、陰で何をしているのか分からない人は大勢いますから』
何が起きたか知らない人間には、王女の言葉は反抗的というよりも、礼儀を欠いて身勝手なことをした王子を非難し、諫めたように聞こえただろう。
だが、アルバートは事件を知り過ぎるほど知っている。
あの矢傷が数日で治るとは思えない。鎧を着た屈強な戦士ではなく、瀟洒な絹のドレスを着た可憐な女性だったのだ。
目の前にいる王女はやはり本物で、アルバートの密書を鵜呑みにせずに白い馬車に替え玉を乗せ、結果殺されてしまったことに、憂いと憤りを感じているのかもしれない。
アルバートにしても、白い馬車があれほど金色の飾りで装飾され、扉にユリの紋章が描かれていなければ、あるいは間違いは起きなかったかもしれないと、言い訳にしかならない悔恨を抱えている。
あんなことが無ければ、密書で王女とやりとりしているうちに生まれた親密さを、実際に会ったときに育みたかった。
それができなくなったのは自分のせいだと分かっていて、自己嫌悪に苛まれていたのだが、まるでその気持ちをずばりと言い当てるがごとく、マリルが言ったのだ。
三人の王子の中で一番アルバートが嫌いだと。
的確な言葉があまりにも愉快で、久しぶりに大笑いした。
抑圧され、常に命を狙われている環境で過ごすアルバートにとって、裏表のないマリルは壮快そのものだったのだ。
『こんな状況でなかったら、エリザ王女とも語り合いたかったのに残念だ』
ぽろりとこぼれたアルバートの本心は、マリルに届くはずもなく、憤ったマリルが放った言葉で、アルバートはまた堂々巡りの闇に陥った。
『なんてしらじらしい! だったら、どうして王女さまを殺したの?』
王女を殺しただと? 死んだ少女は替え玉ではないというのか? ならば、先ほど会った王女の方が偽物か?
あの時も思ったが、今は確信に変わっているのは、アルバートは王妃ガルレアとルーカスにまんまとはめられたということだ。
ルーカスの話では、スパナン王国が、フランセン王国の兵士と王女に扮した替え玉を、大魔導師サンサを使って森に転移させ、後から来た本物の一行を始末してから本物に成りすましてブリティアンの王城を目指すということだった。
被害を未然に防ぐため、アルバートは一時的に国境を閉鎖させ、森が道の両側に開ける辺りで、スパナン王国が送ってくる王女の馬車を木の陰に隠れて待っていた。
万が一間違いがあってはいけないと、フランセン王国側には何度も密書を送り、シンプルな白い馬車でくる約束を取り付けた。それなのに……。
スパナン王国の替え玉ではないと確信したのは、馬車が消えてから辺りを捜索して、スパナン王国の兵士を見つけられなかった時だ。
馬車は大魔導師サンサが転移したものではなく、ルーカスがフランセン王女を馬車事転移させたのだと悟った。
ルーカスは力を抑制されているため、一個隊を転移させるのは無理だと言っていたが、馬車一台分ぐらいを移動させることは可能だったのだろう。
嵌められた! 王女を殺した罪をアルバートに擦り付け、狙うは戦争の口実か。
フランセンとブリティアンが戦争になったときに、王妃が祖国に援軍を依頼したらどうなるか。かねてから危惧されてた、ジャンマン王国がブリティアン王国へ侵入する機会を容易に与えることになる。
アルバートは覚悟した。消えた馬車は今頃フランセンの元に返され、ブリティアンの矢は王女殺害の証拠品として回収されて、フランセンの王女一行を足止めするために国境を閉鎖したのは誰であるかが問われるだろう。
全て裏手に回ったアルバートに申し開きの余地はない。何より自己犠牲を覚悟して、ブリティアン王国のために来てくれるはずだったエリザ王女が哀れで、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ところが、さきがけの使者から、フランセン王国の王女がやってくるという知らせが届いたのだ。
偽物が一体何をしに? フランセン王国が裏で糸を引いているのだろうか。
考え出すときりが無かった。
マリルとの会話は、アルバ―トにしか聞こえないほどの小声か、人のいないところで話したものなので、ハインツの知るところではない。
マリルたちが事件に関して何か掴んでいるのではないかというガルレア王妃質問への答えはイエスだが、アルバートが頷けば、王女の真相や、忽然と現れ消えた馬車のからくりなどを調べる間もなく、二人の少女は殺されてしまうだろう。罪もない少女たちが、目の前で散るのはもうたくさんだ。
今後なにかが起こったときに対処するためにも、二人から真相を聞き出さなければ。
「彼女たちが事件に関与しているかどうかは、分かりません。探れるほど一緒にはいられませんでしたから。あのコンパニオンは馬車のステップを踏み外すほどそそっかしいですし、どうやら私を女性を誑かす男と勘違いしているようなので、優しく話しかけようとしても突っぱねられて会話が成り立ちません。もし事件を知っているのであれば、恐れて私に突っかかるような態度は取らないと思います。そこまで警戒しなくてもいいのかもしれません」
「そうか。気を抜かずに二人の様子を探るように。あの女たちが無害であると分かったら、ハインツを婚約者に選ぶように手を回しなさい」
アルバートは畏まりましたと頭を下げ、唇に浮かんだ皮肉な笑いを隠した。
王女がやってきたのは、ガルレア王妃が祖国のジャンマンを手引きして、フランセン王国を侵略するのを防ぐためだ。間違ってもハインツを選ぶことはない。
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