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アンドロイド・ディベロップメント
アンドロイドは恋に落ちるか
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「以前、ケンディーのコントロールボックスに触れた時に、感電したかと聞いたけれど、それと何か関係があるのかい」
杉下の身体が強張った。ビンゴだ。
そしてもう一つ思い浮かんだのは、牧田が描いたリボンをつけた少女の落書きとウィルスという言葉だ。
牧田アンディーが莉緒を相手に説明していたと奏太から聞いたが、どう考えても少女とウィルスが結びつかない。なぜ男性ではいけないのかが気になるところだ。
「君は羽柴のところで働いている牧田計也を覚えているかい」
「ええ、覚えてますよ。一度H・T・Lの事務所にコンピューターのウィルス駆除の件できてくれましたよね」
「黒石博士の発明したものはそのウィルスと関係があるんじゃないか」
「あんなちゃちな子供だましのウィルスが?」
杉下はのけ反るようにして笑った。
「ハハハ、あれは私が感染させたんです。研究所がサイバー攻撃を仕掛けられたと新見博士が勘違いすれば、ケンディーの設計図のデーターを移動させるんじゃないかと思ってね。だが、あなたは動かさなかった。アンディーを使って家に盗聴器を仕掛けましたが、あの辺を車で回っていると目だってしまうから、盗聴したものをスマホで録音するやり方に変えたんですよ。最終日にアンディーが着替えのバッグに入れるんで、回収したものを聞けば、ヒントがあるかもしれない」
「盗聴か‥‥‥だから僕が一人の時を狙えたんだな。君がこっそりアンディーに細工をしていたのは、外からアンディーを操るためだったのか」
「知っていて見過ごされるとは、よほどご自身の才能に自信をお持ちだったのですね」
小ばかにしたように鼻で笑う。
こんな奴と働いていたのかと思うと本当に腹立たしい。
それにしても、陽動作戦として事務所に使われた害のないウィルスと、牧田が半年前に開発したウィルスが同じでないのなら、牧田は杉下の仕掛けたウィルスを本当に駆除しただけになる。
タイミングが重なるだけに、アンディーに牧田が開発したウィルスのことを喋らせるのはマイナスでしかない。
杉下が自分の仕業だと白状しなかったら、事務所のパソコンに感染したウィルスは、牧田が仕掛けたものだと疑っただろう。
一体何のために、提出した研究案に目を通すよう羽柴に伝えて欲しいと、莉緒に頼んだんだ?
廊下に靴音が響き自動ドアが開く音が開いた。
白髪まじりの目つきのするどい四十代の男が入ってきて、ソファーに座った研二を上から下までじっくりと観察してから、威圧的な態度で話しかけた。
「お目覚めかな。新見博士。私は黒石といって、君と同じロボット工学を選択し、極めたものだ。君が学会で発表した論文は全て目を通しているよ。私と違って君の発明は、人類にとって無害で実に無意味なものだ」
「気の合わない者を、荒っぽく招待するのは黒石博士のご趣味なんでしょうか。この縄をいい加減解いて欲しいですね」
「いいだろう。杉下解いてやれ」
黒石博士の命令で、杉下が研二の背後に回り、ロープに手をかける。シュルリと結び目が解かれ、グルグル巻きだった縄が反対回しにロープを巻き取られていき自由になった。
研二はカチコチに固まった腕を何とか前に戻し、両腕を手でさすって凝りを解す。そっと辺りに目を走らせる研二に、黒石が釘を刺した。
「新見博士、逃げようとしても無駄だ。この研究所にはガードマンが沢山いることを忘れずに。普通のガードマンと違って身体のどこかに傷のある連中ばかりだからな」
「裏組織と繋がりがあるということですか。僕はあまり関わりたくないんですが、どうしたら帰れますかね」
「ケンディーを起動する方法を教えてくれれば、考えてもいいだろう」
「さっきから聞いていれば、ケンディーを動すことで世紀の発明がどうとかこうとか訳の分からないことを言っていますが、僕の開発したものがどう使われるのか聞かせてもらいましょうか。無断で悪用されては敵わない」
「よかろう。だが口で説明するより実際見てもらった方がいいだろう。杉下が見様見真似で作ったアンディーのできそこないロボットのせいで、まだ不完全ではあるが、画期的な発明を見せてやる。杉下、脳神経外科医の林とできそこないロボットをD室で待機させろ。博士は目隠しをして連れて来い」
杉下がスマホで部下に黒石博士の命令を伝え終えると、研二の目を布で覆った。
杉下に腕を取られてのろのろと廊下らしき場所を移動する。右、左、右と曲がる方向を頭にいれるが、何本目というのが分からないのでは役に立たないだろう。
自動ドアがスライドした途端、電子機器の音が耳に入る。目隠しを外され視界がクリアになってくると、実験テーブルに寝かされた人型のアンドロイドらしきものと、いかめつい男に腕を取られ、引きずられるようにして入り口から入ってくる壮年の男が見えた。
「乱暴は止めてくれ。あなた方の味方なんかになるつもりはない」
掴まれた腕を振って逃れようとする林医師に、黒石が苛立った声で落ち着くように言った。
「林先生は牧田の実験に同意なさったはずだ。頂いたデーターもアンドロイドに数度インストールして、既にあなたを構築済みなんだから、今更逃げようとしても遅すぎますな」
「寄生ウィルスは元来の方法で用いるべきだ。私が自分のデーターを渡したのは恐ろしい実験に加わるためじゃない」
黒石と林の会話を聞いて、研二はかなり危険なことに足を踏み入れたことを悟った。
―寄生ウィルスだって?ただのウィルスとは違うのか?一体黒石は何をしようとしているんだ?
杉下の身体が強張った。ビンゴだ。
そしてもう一つ思い浮かんだのは、牧田が描いたリボンをつけた少女の落書きとウィルスという言葉だ。
牧田アンディーが莉緒を相手に説明していたと奏太から聞いたが、どう考えても少女とウィルスが結びつかない。なぜ男性ではいけないのかが気になるところだ。
「君は羽柴のところで働いている牧田計也を覚えているかい」
「ええ、覚えてますよ。一度H・T・Lの事務所にコンピューターのウィルス駆除の件できてくれましたよね」
「黒石博士の発明したものはそのウィルスと関係があるんじゃないか」
「あんなちゃちな子供だましのウィルスが?」
杉下はのけ反るようにして笑った。
「ハハハ、あれは私が感染させたんです。研究所がサイバー攻撃を仕掛けられたと新見博士が勘違いすれば、ケンディーの設計図のデーターを移動させるんじゃないかと思ってね。だが、あなたは動かさなかった。アンディーを使って家に盗聴器を仕掛けましたが、あの辺を車で回っていると目だってしまうから、盗聴したものをスマホで録音するやり方に変えたんですよ。最終日にアンディーが着替えのバッグに入れるんで、回収したものを聞けば、ヒントがあるかもしれない」
「盗聴か‥‥‥だから僕が一人の時を狙えたんだな。君がこっそりアンディーに細工をしていたのは、外からアンディーを操るためだったのか」
「知っていて見過ごされるとは、よほどご自身の才能に自信をお持ちだったのですね」
小ばかにしたように鼻で笑う。
こんな奴と働いていたのかと思うと本当に腹立たしい。
それにしても、陽動作戦として事務所に使われた害のないウィルスと、牧田が半年前に開発したウィルスが同じでないのなら、牧田は杉下の仕掛けたウィルスを本当に駆除しただけになる。
タイミングが重なるだけに、アンディーに牧田が開発したウィルスのことを喋らせるのはマイナスでしかない。
杉下が自分の仕業だと白状しなかったら、事務所のパソコンに感染したウィルスは、牧田が仕掛けたものだと疑っただろう。
一体何のために、提出した研究案に目を通すよう羽柴に伝えて欲しいと、莉緒に頼んだんだ?
廊下に靴音が響き自動ドアが開く音が開いた。
白髪まじりの目つきのするどい四十代の男が入ってきて、ソファーに座った研二を上から下までじっくりと観察してから、威圧的な態度で話しかけた。
「お目覚めかな。新見博士。私は黒石といって、君と同じロボット工学を選択し、極めたものだ。君が学会で発表した論文は全て目を通しているよ。私と違って君の発明は、人類にとって無害で実に無意味なものだ」
「気の合わない者を、荒っぽく招待するのは黒石博士のご趣味なんでしょうか。この縄をいい加減解いて欲しいですね」
「いいだろう。杉下解いてやれ」
黒石博士の命令で、杉下が研二の背後に回り、ロープに手をかける。シュルリと結び目が解かれ、グルグル巻きだった縄が反対回しにロープを巻き取られていき自由になった。
研二はカチコチに固まった腕を何とか前に戻し、両腕を手でさすって凝りを解す。そっと辺りに目を走らせる研二に、黒石が釘を刺した。
「新見博士、逃げようとしても無駄だ。この研究所にはガードマンが沢山いることを忘れずに。普通のガードマンと違って身体のどこかに傷のある連中ばかりだからな」
「裏組織と繋がりがあるということですか。僕はあまり関わりたくないんですが、どうしたら帰れますかね」
「ケンディーを起動する方法を教えてくれれば、考えてもいいだろう」
「さっきから聞いていれば、ケンディーを動すことで世紀の発明がどうとかこうとか訳の分からないことを言っていますが、僕の開発したものがどう使われるのか聞かせてもらいましょうか。無断で悪用されては敵わない」
「よかろう。だが口で説明するより実際見てもらった方がいいだろう。杉下が見様見真似で作ったアンディーのできそこないロボットのせいで、まだ不完全ではあるが、画期的な発明を見せてやる。杉下、脳神経外科医の林とできそこないロボットをD室で待機させろ。博士は目隠しをして連れて来い」
杉下がスマホで部下に黒石博士の命令を伝え終えると、研二の目を布で覆った。
杉下に腕を取られてのろのろと廊下らしき場所を移動する。右、左、右と曲がる方向を頭にいれるが、何本目というのが分からないのでは役に立たないだろう。
自動ドアがスライドした途端、電子機器の音が耳に入る。目隠しを外され視界がクリアになってくると、実験テーブルに寝かされた人型のアンドロイドらしきものと、いかめつい男に腕を取られ、引きずられるようにして入り口から入ってくる壮年の男が見えた。
「乱暴は止めてくれ。あなた方の味方なんかになるつもりはない」
掴まれた腕を振って逃れようとする林医師に、黒石が苛立った声で落ち着くように言った。
「林先生は牧田の実験に同意なさったはずだ。頂いたデーターもアンドロイドに数度インストールして、既にあなたを構築済みなんだから、今更逃げようとしても遅すぎますな」
「寄生ウィルスは元来の方法で用いるべきだ。私が自分のデーターを渡したのは恐ろしい実験に加わるためじゃない」
黒石と林の会話を聞いて、研二はかなり危険なことに足を踏み入れたことを悟った。
―寄生ウィルスだって?ただのウィルスとは違うのか?一体黒石は何をしようとしているんだ?
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