Silent Voice ~告白の行方~

マスカレード 

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トラブル

Silent Voice ~告白の行方~

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 次の日の十一時に、祐樹は亮来の泊まるホテルへと車で出向いた。
 テレビ局から送られてきたスケジュール表によると、ロビーでディレクターや撮影班と待ち合わせ、それから予約をしている店でランチをとることになっている。
 店は祐樹がチョイスして、予約や移動などの手配は全てKテレビに任せてある。案内役とは言ってもガイドのように街の魅力を語るのではなく、組まれたルートを、亮来と共に話をしながら歩けばいいので気は楽だ。
 山口プロデューサーから依頼を受けた時は、亮来と二人で散策するなんてとんでも無いと思ったけれど、今は一刻も早く顔を見たい。佑樹は車を駐車場に止めてから、速足でエントランスに向かった。

 ガラスに写ったのは、白いシャツの前ボタンを全て外し、中には薄いブルーグレーのカットソー、細身のグレーのパンツに黒いワーキングブーツを履いた中性的な男性だ。襟元には黒い革ひものチョーカーと亮来からもらったペンダントトップが揺れ、肩まで伸びた髪を皮紐で片側に結んでいる。
 デートじゃあるまいし、少し凝り過ぎただろうかと髪に手をやると、後ろを通り過ぎた男が、ガラス越しにウィンクを投げた。
 自分の姿をガラスでチェックするなんて、普段の祐樹では考えられない行動だ。男に色目を使われ、祐樹の頬に血が上る。こんな赤い顔を昨日の亮来は見たのだろうかと、ふとセクシャルな気持ちになった。

「ああ、ダメだ。昨日のことを思い出したら、恥ずかしくて顔をあわせられない」

 両手で頬をパシッと叩いて気持ちを入れ替えた祐樹は、ドアマンが開けた入り口から中へと入っていった。
 ところがロビーには、思いもかけない人物がいて、祐樹の足をとめさせた。
 映画『消えゆく泡の想い』のヒロイン役の如月成美が、亮来と並んでソファーに腰かけていたのだ。

 日本のテレビでは、CMやドラマに引く手あまたで、テレビの画面で見ない日はないぐらい大ブレークしているという美しい女優は、周囲に立つ数人の日本人スタッフを気遣うこともなく、亮来の方に身体を傾け、困った表情の亮来を熱心に見つめている。
 きらきらと光る大きな目、笑顔の口元からは真珠のような歯が覗き、亮来の話に相槌を打つたびに、艶のあるロングの髪がサラサラと揺れる。まさに国民的女優と呼ぶにふさわしい魅力を持っていた。

 年齢は祐樹たちよりも、五つ下の二十一歳だったろうか。顔も女優の資質の一つだが、彼女の場合は年齢に見合わないほどの演技力が評価され、端役から一気にスターダムに伸し上がったことをネットで検索した際に知った。
 でも、その忙しいはずの彼女が、どうしてここにいるのだろうか? 
 それに、あの空間だけが彼女の作った世界のようで、周囲に立って気を揉むスタッフも弾いているように見える。
違和感を感じながら、あの中に入っていく気にはなれず、祐樹は胸の中で独り言ちた。

『たまにいるんだよな。現実と空想の世界が一緒になってしまう役者って。本人たちは天才と騒がれて怖いもの無しのようだけれど、関係者からは取り扱い要注意のレッテルが貼られているのを知りもしない。多分、彼女もその類かな』

 テレビ電話で番組の趣旨などをやり取りしたディレクターの姿が見えないことから、緊急の打ち合わせか、彼女の事務所にでも連絡しているのだろう。
 さて、どうするか。もうすぐこちらの撮影スタッフと、祐樹の友人そのままの役で出演するスティーブとミッシェルが来る頃だ。
 彼らとは、レストランを選ぶふりをしているときに偶然会い、一緒に食事を摂りながら、映画の内容を聞きだす役割をしてもらう予定になっている。
 揉めないうちに声をかけて、状況を把握しておいた方がいいかもしれない。祐樹は気持ちを奮い立たせ、二人の座るソファーに近づいていった。

 まっ先に気が付いたのは亮来だった。硬かった表情がパッと輝き、片手をあげてソファーから立ち上がろうとする。美人女優よりも優先されたように感じ、祐樹はくすぐったくなった。
 その次の瞬間、成美の手がすっと伸び、腰を上げかけた亮来の腕をぐいっと引くのが見え、祐樹の見開かれた目に、亮来が尻餅をつくようにソファーに沈むのが見えた。

 スタッフも亮来も信じられないというように成美をみるが、彼女は顔色も変えずに、話の続きをしようとする。
 これは、厄介なことになりそうだと、祐樹はこちらに気が付いたスタッフたちと目で会話した。
 仕方ない。ちょっと強引にいって、相手の出方を見るか。
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