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最悪の再会 1
揺らめくフレッシュグリーン
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学校の授業後、理花と薫子は、送迎を引き受けてくれた薫子の母親の車に乗って、区が管理する自然公園へ向かった。
薫子の母親はとても気さくな人で、車の中でセリフの練習をする理花と薫子にアドバイスをくれたりした。
演技頑張ってと二人を励ます薫子の母にお礼を言って駐車場で車を降り、矢印に従ってバーベキューコーナーへと歩いて行く。木々に囲まれた芝生を見渡す限りまだ見知った顔はなく、どうやら一番のりらしい。
6月の中旬にもなると太陽の位置もずいぶん高くなり、授業後の空はまだ十分明るい。暗くなるまでの時間がもったいないということで、キャンプファイヤーだけでなく飯盒炊爨の撮影もすることになり、キャンプの醍醐味を知っているクラスメートたちのほぼ全員が、エキストラとして参加することを喜んで引き受けてくれた。
クラス委員が仕切る中、買い出し隊も結成され、今日一日クラスメートがワイワイはしゃぐ様子を見るにつけ、理花と薫子は、どれだけみんなが楽しみにしてくれているかを知って、撮影への期待に胸を躍らせた。
そして、今二人は、司からもらった公園マップを手にして歩きながら、小高い丘を切り開いた自然公園の撮影箇所を確認している。
薫子たちの扮する幽霊が、駆け降りる小山の自然道を見終えて、木々に視界を遮られた遊歩道をバーベキューコーナーへと歩いている時、薫子がぴたりと立ち止まった。
「なんだかいい匂いがする。お肉の焼ける匂いかな?飯盒炊爨はカレーだから変だよね?」
「本当だ。今日は貸し切りになっているから、他の人はいないはずよ」
自然に理花と薫子の歩みが速まり、大きくカーブする遊歩道から芝生の広場に足を踏み入れ、匂いのする方向へとずんずん歩いていく。すると、そこには男女合わせて10名くらいのグループが、二つのかまどの上に鉄板を載せてバーベキューをやりながらはしゃいでいた。
年齢は自分たちとそう変わらないだろう。薫子が前に進んで、彼らに話しかけた。
「すみませんが、今日は私たちが、ここのかまどを全部予約しているんです。映画の撮影に使うので、申し訳ないのですが、立ち退いてもらえないでしょうか?」
薫子が丁寧に声をかけたにもかかわらず、その10名のグループは、楽しんでいたのを邪魔されて頭にきたらしく、大きな声で言い返す。
「ええ~っ!?そんなこと聞いてないわよ!」
薫子は負けじと言い返した。
「そこの看板にも書いてあるけれど、ここは区が管理していて使用するには予約が必要なの。誰の者でもないから混乱が起きないように、予約するんでしょ。今日は予約を取った私たちに使う権利があるのよ」
「うるさい女だな。あっち行けよ!あんな看板引っこ抜けばいいんだろ?今日は早いもん勝ちなんだよ!」
一人の男が脅すように立ち上がったが、手に缶ビールを持っているのを見て理花はぎょっとした。
どうみても未成年なのに、このグループは既に酔っぱらっているようだ。理花は、言い返そうとしている薫子の袖を引いて止めた。
「薫子、酔っ払いを相手にすると危ないよ。まずは大智君たちに連絡しよう」
「何だよ、告げ口するつもりかよ!?お前たち、黙っていないと怪我
するぞ!」
目つきの悪い男が、理花に向かって距離を詰める。理花も薫子も身体を翻し、芝生の広場の先にある出入口へと走り始めた。
後ろから待て!と声が聞こえ、男が追いかけてくる。酔っ払った男と女が口々に、やっちゃえ~!捕まえろ!と囃し立てるのが聞こえてきて、理花と薫子の心臓が激しく踊った。
20mもいかないうちに、理花は追いついた男に腕を取られ、引きずり倒されて悲鳴をあげた。芝生と乾いた土が舞い上がる。続いて男が薫子を捕まえ、薫子もろとも地面に倒れるのと、その背後から酔っ払いの男女が、乱暴な男に加勢するために足早に歩いて来るのが見えた。
薫子を早く助けなければと焦って理花は周囲を見回したが、管理の行き届いた公園には棒切れ一つ見当たらない。咄嗟に地面の土を掴んで、男の顔に投げつける。薫子はすぐに反応して腕で目を覆ったために無事だったが、薫子を両手で押さえつけていた男は、もろに土を食らって、うわっと叫んでのけ反った。
そのすきに、薫子が男を蹴飛ばして、理花の手に摑まりながら男の下から抜け出すと、すぐに二人して走り出す。
後方から複数の足音と声がするのを聞いて、もうだめだという思いが頭をかすめた時、木々の間を縫って歩いてくる二人の少年が見えた。
手を上げて注意を引こうとしたが、後ろから来た男に捕まって羽交い絞めにされた。だが、理花たちに気が付いた男子二人が、全速力でこちらに走ってくる。大きくなる人影が理花の大好きな人を映し出した時、理花は全力で叫んでいた。
「大智くん、助けて!」
「理花ちゃん」
酔っ払いの集団が薫子も捕まえて二人を取り囲んだが、理花の叫び声と男の声を聞き、その中の一人の女の子が反応した。
「大智?大智って瀬尾大智のこと?」
「何だよ、淳奈、あいつ知ってるのか?」
「まずいよ。同じ中学校だったの」
そう説明すると淳奈と呼ばれた女の子は、仲間から抜け出てバーベキューコーナーへと戻ろうとする。身元が割れてしまうと悟った仲間たちも、薫子と理花を置いて、淳奈の後を追おうとした。
薫子の母親はとても気さくな人で、車の中でセリフの練習をする理花と薫子にアドバイスをくれたりした。
演技頑張ってと二人を励ます薫子の母にお礼を言って駐車場で車を降り、矢印に従ってバーベキューコーナーへと歩いて行く。木々に囲まれた芝生を見渡す限りまだ見知った顔はなく、どうやら一番のりらしい。
6月の中旬にもなると太陽の位置もずいぶん高くなり、授業後の空はまだ十分明るい。暗くなるまでの時間がもったいないということで、キャンプファイヤーだけでなく飯盒炊爨の撮影もすることになり、キャンプの醍醐味を知っているクラスメートたちのほぼ全員が、エキストラとして参加することを喜んで引き受けてくれた。
クラス委員が仕切る中、買い出し隊も結成され、今日一日クラスメートがワイワイはしゃぐ様子を見るにつけ、理花と薫子は、どれだけみんなが楽しみにしてくれているかを知って、撮影への期待に胸を躍らせた。
そして、今二人は、司からもらった公園マップを手にして歩きながら、小高い丘を切り開いた自然公園の撮影箇所を確認している。
薫子たちの扮する幽霊が、駆け降りる小山の自然道を見終えて、木々に視界を遮られた遊歩道をバーベキューコーナーへと歩いている時、薫子がぴたりと立ち止まった。
「なんだかいい匂いがする。お肉の焼ける匂いかな?飯盒炊爨はカレーだから変だよね?」
「本当だ。今日は貸し切りになっているから、他の人はいないはずよ」
自然に理花と薫子の歩みが速まり、大きくカーブする遊歩道から芝生の広場に足を踏み入れ、匂いのする方向へとずんずん歩いていく。すると、そこには男女合わせて10名くらいのグループが、二つのかまどの上に鉄板を載せてバーベキューをやりながらはしゃいでいた。
年齢は自分たちとそう変わらないだろう。薫子が前に進んで、彼らに話しかけた。
「すみませんが、今日は私たちが、ここのかまどを全部予約しているんです。映画の撮影に使うので、申し訳ないのですが、立ち退いてもらえないでしょうか?」
薫子が丁寧に声をかけたにもかかわらず、その10名のグループは、楽しんでいたのを邪魔されて頭にきたらしく、大きな声で言い返す。
「ええ~っ!?そんなこと聞いてないわよ!」
薫子は負けじと言い返した。
「そこの看板にも書いてあるけれど、ここは区が管理していて使用するには予約が必要なの。誰の者でもないから混乱が起きないように、予約するんでしょ。今日は予約を取った私たちに使う権利があるのよ」
「うるさい女だな。あっち行けよ!あんな看板引っこ抜けばいいんだろ?今日は早いもん勝ちなんだよ!」
一人の男が脅すように立ち上がったが、手に缶ビールを持っているのを見て理花はぎょっとした。
どうみても未成年なのに、このグループは既に酔っぱらっているようだ。理花は、言い返そうとしている薫子の袖を引いて止めた。
「薫子、酔っ払いを相手にすると危ないよ。まずは大智君たちに連絡しよう」
「何だよ、告げ口するつもりかよ!?お前たち、黙っていないと怪我
するぞ!」
目つきの悪い男が、理花に向かって距離を詰める。理花も薫子も身体を翻し、芝生の広場の先にある出入口へと走り始めた。
後ろから待て!と声が聞こえ、男が追いかけてくる。酔っ払った男と女が口々に、やっちゃえ~!捕まえろ!と囃し立てるのが聞こえてきて、理花と薫子の心臓が激しく踊った。
20mもいかないうちに、理花は追いついた男に腕を取られ、引きずり倒されて悲鳴をあげた。芝生と乾いた土が舞い上がる。続いて男が薫子を捕まえ、薫子もろとも地面に倒れるのと、その背後から酔っ払いの男女が、乱暴な男に加勢するために足早に歩いて来るのが見えた。
薫子を早く助けなければと焦って理花は周囲を見回したが、管理の行き届いた公園には棒切れ一つ見当たらない。咄嗟に地面の土を掴んで、男の顔に投げつける。薫子はすぐに反応して腕で目を覆ったために無事だったが、薫子を両手で押さえつけていた男は、もろに土を食らって、うわっと叫んでのけ反った。
そのすきに、薫子が男を蹴飛ばして、理花の手に摑まりながら男の下から抜け出すと、すぐに二人して走り出す。
後方から複数の足音と声がするのを聞いて、もうだめだという思いが頭をかすめた時、木々の間を縫って歩いてくる二人の少年が見えた。
手を上げて注意を引こうとしたが、後ろから来た男に捕まって羽交い絞めにされた。だが、理花たちに気が付いた男子二人が、全速力でこちらに走ってくる。大きくなる人影が理花の大好きな人を映し出した時、理花は全力で叫んでいた。
「大智くん、助けて!」
「理花ちゃん」
酔っ払いの集団が薫子も捕まえて二人を取り囲んだが、理花の叫び声と男の声を聞き、その中の一人の女の子が反応した。
「大智?大智って瀬尾大智のこと?」
「何だよ、淳奈、あいつ知ってるのか?」
「まずいよ。同じ中学校だったの」
そう説明すると淳奈と呼ばれた女の子は、仲間から抜け出てバーベキューコーナーへと戻ろうとする。身元が割れてしまうと悟った仲間たちも、薫子と理花を置いて、淳奈の後を追おうとした。
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