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パニック 2

揺らめくフレッシュグリーン

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 一方、キャンプ場ではC組の催しものが紹介され、入場を待っていた生徒たちの耳に、徐々に大きくなる悲鳴と鳥たちの発する鋭い鳴き声が届いた。
 尋常ではない叫び声に、不安を抱いた2学年の全生徒たちが、身構えながら橋の先に続く山道を凝視する。

 揺れる光が傾斜のきつい山道を速い速度で下り、その先に悲鳴をあげながら逃げる白い襦袢の女たちが見えてきた。
 広場にいる女子生徒たちは地面から立ち上がり、もはや逃げの姿勢を取っている。
 C組の担任や男子でさえ、何が起きたかわからずに固まっていた。

 橋を転がるように逃げてくる女子たちの蒼白な顔には、恐怖が張り付いている。幽霊の恰好をしているため、緊迫感が半端なく押し寄せ、恐ろしさが伝染した生徒たちは、キャンプファイヤーの火の熱さが一瞬にして冷え切ったように感じた。
 広場にいる女子生徒たちが怖がって、その場から逃げ出そうとするところに、幽霊姿のC組の女子が駆け込んで来る。場内のあちらこちらに悲鳴が巻き起こった。

 しかも幽霊を追いかけてきた血だらけの女の顔は、本物かと思うほど恐ろしい形相をしている。生徒たちは絶叫をあげながら、蜘蛛の子を散らしたように広場を逃げ惑い、キャンプファイヤー会場は大騒ぎになった。

 パニックがパニックを呼んだようで、幽霊が側に寄ってもいないのに、竦み上がって泣き出す子、男の子に抱きつく子、男の子なのにオロオロと逃げ回る者もいる。ギャーギャー叫びながら逃げる生徒を追ううちに、C組の女子は本来の筋書きを思い出し、脅かすのを楽しむ余裕が出てきたようだった。

 明るいところに来て安心したのもあるのだろう。さっきは理花に来るなと言ったクラスメートが、理花を先頭に据えて、逃げ惑う生徒たちに悲鳴を上げさせる。

 逃げている生徒たちも、変なスイッチが入ったのか、最初は恐怖でしかなかった感情が興奮に変わり、それが次第に笑いへと変わっていった。
 いつの間にか会場中がお腹を抱えて笑う生徒の声に包まれ、辺りの空気を揺るがすほどになった。
 ラストはC組だけで歌うはずだったゲゲゲの鬼太郎を、他のクラスの生徒たちも一緒になって大声で歌い、歌詞を知らない生徒たちは、最初の歌詞がぴったりだと大笑いした。

 テンションの上がった生徒たちは、その後の出し物にも大きな声援を送って会場は多いに盛り上がり、あっという間に時間は過ぎていく。楽しいキャンプファイヤーの時間は終わりを告げようとしていた。

 最後のクラスの出し物が終わった時、とんとんと肩を叩かれた理花が振り返ると、いきなり眩しいフラッシュがたかれた。

「幽霊写真頂き!」

 驚いた理花に、またカシャカシャとシャッターを切る音とフラッシュが浴びせられる。犯人はカメラを掲げてにっこり笑うB組の真人だった。

 文句を言おうとして一歩踏み出した理花は、こっちに歩いてくる大智に気が付き、方向転換をして逃げたくなった。
 こんな顔は見られたくない!そう思うのに、目の前にやってきた大智が、身体をかがめて理花の顔を覗き込む。

「やっぱり理花ちゃんだ。すごいメイクだね。最初は誰だか分からなかったよ」

 なおもマジマジと至近距離から見つめられ、理花は知らずにまた息を止めていたようだ。

「息!吸わないと本物の幽霊になっちゃうぞ」

 ほっぺたを突かれた途端に、頬が熱を持ち、耳の奥がどくどくと脈打つて息苦しくなる。目を白黒させる理花を面白がって、大智が幽霊の百面相は迫力があると声を立てて笑った。

 笑い顔に胸がキュンとして、恥ずかしさなんて一気に吹き飛んでしまう。もっと見ていたいのに、真人が邪魔をした。

「そうだ。心霊写真撮ろうよ。大智その木にもたれて。理花ちゃんは木の陰からぬっと顔だけ出して」

「こんな感じか?」

「ああ、だめだ。大智の背が高すぎる。もっと屈めよ。理花ちゃんは大智の肩口から顔を出す感じで。大智上体は前傾しない。木にもたれる」

「さっさと撮ってくれ。スクワットの姿勢じゃ脚が辛い」

 文句を言いながらも必死でポーズをとる大智の脚が心なしか震えているようで、理花は恐ろしい顔を指示されたのに、噴き出してしまった。

「なにやってんだお前ら?」

 いつの間にか撮影を見学する人垣ができていて、人ごみをかき分けるようにして前に出た司が、呆れたように三人の顔を見比べる。真人が心霊写真を撮っていることを伝え、二人のポージングのアドバイスを頼んだ。

 何枚か撮ってから、大智がもういいか?と前方の二人に訊く。せっかくのツーショットが心霊写真なんて悲しすぎるけれど、二人で映る時間が終わってしまうことに寂しさを覚えて、理花はじっと大智に視線を注いだ。

 カシャリ。シャッター音に驚いて顔を上げると、さっそく画像をチェックした真人がいいねと声をあげる。覗き込んだ司も大きく頷いた。

「うん、いいね。まるで現実ではもう会えない人を思って見つめる幽霊みたいだ。ちょっと化粧が怖いけれどな」

 最初の言葉にドキリとした理花だったが、化粧した自分の顔を思い出し、照れ隠しもあって嘯いた。

「自分を亡き者にした犯人を見つめる図なんじゃないの」

「やめてくれ、俺は殺人犯じゃ……」

 大智が立ちあがって理花に向き直り、震えあがるフリをした。
「怖いので自首します。すみませんでした」

 見学していた生徒たちから大きな笑い声が沸き起こる。その中に、一人だけ面白くなさそうな顔をした薫子がいることを、理花は気が付けないでいた。
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