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Erased Dark Green
最後の手紙
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床が見えてきた。折り重なった本はもう全てタイトルや表紙が全て確認できるはずなのに、涙でかすんで文字が読めない。
手で涙をぬぐって、濡れるのもかまわずに本をかきわけたが、一冊だけ見つからない本があった。
【みどりのゆび】
大切にしていた本。奥行の深い本棚の一番奥の縁に入れ、その前にも本を並べて、誰の目にも触れないようにしてあった宝もの。
そこには、瑠実の何年にもわたって貯めたお年玉と、お小遣いを合わせた5万円が入った封筒が挟んであった。
母に渡すと、貯金をしておくねと言われるが、いざ使いたいときにお金を請求しても、買う物に対してクレームがついてお金が下りず、泣く泣く欲しいものを諦めたことが何度もある。
瑠実は流行りの物を追いかける性格ではないので、あまり無駄遣いをしないだけに、本当に欲しいものがあるときには、何としてでも手にいれたくなる。
だから、もらったお金を隠すようになった。そして、保管したことを忘れないようにするため、一番大事な本に挟んであったのだ。
瑠実の心に流れこんで芽を吹いた緑は、今や真っ黒のドロドロした腐敗物となって瑠実を内側から壊そうとしていた。
痛み。苦しみ。不信感。花は茨の棘に変わり、ギリギリと瑠美の心を締め上げる。叫びそうになったとき、母が再度部屋を覗きに来たのが視界に入り、何とか堪えた。
「瑠美、大丈夫?何か無くなったものはある?」
「‥‥‥無い」
母の顔を見ることもなく感情を押し殺したまま、盗られたものは無いと嘘を告げた。
認めたくなかった。
俊哉が盗ったと分かったら、澱んだ心はもう浄化されることはなく壊死してしまうだろう。
手で涙をぬぐって、濡れるのもかまわずに本をかきわけたが、一冊だけ見つからない本があった。
【みどりのゆび】
大切にしていた本。奥行の深い本棚の一番奥の縁に入れ、その前にも本を並べて、誰の目にも触れないようにしてあった宝もの。
そこには、瑠実の何年にもわたって貯めたお年玉と、お小遣いを合わせた5万円が入った封筒が挟んであった。
母に渡すと、貯金をしておくねと言われるが、いざ使いたいときにお金を請求しても、買う物に対してクレームがついてお金が下りず、泣く泣く欲しいものを諦めたことが何度もある。
瑠実は流行りの物を追いかける性格ではないので、あまり無駄遣いをしないだけに、本当に欲しいものがあるときには、何としてでも手にいれたくなる。
だから、もらったお金を隠すようになった。そして、保管したことを忘れないようにするため、一番大事な本に挟んであったのだ。
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「‥‥‥無い」
母の顔を見ることもなく感情を押し殺したまま、盗られたものは無いと嘘を告げた。
認めたくなかった。
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