2 / 8
1
しおりを挟む
「ふぁ~・・・眠い・・・」
一人の青年がそう気怠げに朝食を口に運んでいた。
「もう! お行儀が悪いよ! お兄ちゃん」
頬杖を突きながら箸でご飯をつつくマナーの悪い青年に、少女がそう注意する。
「あー・・・なんだっけか、なんか怖い夢を見たんだよな・・・よく覚えてないけど」
「夢? お兄ちゃん、前にもそんな事言ってなかった?」
「・・・そうだっけか?」
「ほんと、しっかりしてよ! 今日から高校生でしょ!」
青年は妹の苦言に返す言葉もなく、目を覚まそうと苦手なコヒーを口いっぱいに含み、飲み込んだ。
「ご馳走様」
そして真新しい制服を身につけて姿見の前に立つ。
「この前習ったけど、やっぱ上手く結べないな」
「お兄ちゃん不器用だからね・・・仕方ないよ」
「憐れまないでくれ、これは父さん譲りだ。んじゃ、行ってくる」
青年は鞄を持って外に出る。
「行ってらっしゃい。刹那お兄ちゃん」
妹の兎和に見送られ、秋鹿刹那は学校へと向かった。
今日で高校生になる刹那にとって街の景色は見慣れたものだったが、どこを見ても目に入る巨大な壁にはいつも辟易していた。
その壁は千年前、悪魔の軍勢より人々を守るために英雄達により建てられたものだと伝えられている。そしてそれが真実であるということも誰もが知っている事だった。
なぜならこの国にはーーー神がいるからだ。
そしてその神がそのことを明言しているのだから、信じない方がおかしいというもの。
ーーーあの向こうには今も悪魔が存在している、か・・・悪魔ってなんなんだろうな・・・
悪魔について刹那が知ることは少なかった。それは彼が一般人である事が要因だった。
この世界を救った英雄、彼らが悪魔を退けた不思議な力ーーー錬成は子々孫々と受け継がれ、その不思議な力を持った者達を総じて術師と呼んだ。そしてそうでない者は一般人と呼ばれていた。
悪魔に対抗する力を持つ術師は今もなお増え続ける悪魔共をあの壁の向こうで退治し、この世界の平和を保っていた。
しかしそんな術師達に対して刹那が抱く思いは感謝では無かった。
ーーー胸くそ悪い連中だ。
この捻くれ者かのような思想に関して追求するとするなら、この国のあり様が原因といえた。
子々孫々受け継がれる力、錬成はある日を境にその力の継承者数を著しく減少させていた。理由は簡単だ。浅ましい力のある者たちが力の広まりを抑制し、この狭い檻の中に特権階級を築くため一般人と術師との婚姻を一切禁じたからだ。
力の広まりを抑制し、自分たちの地位を強固なものとして一般人を劣等種とする術師に腹が立つのも道理といえる。
それでもそれがこの国のルールである以上、刹那が何を言ったところで変わらないし、現にその人口が十数倍以上ある一般人達が暴動を起こしたところで、無駄死にする事は火を見るより明らかだった。
なにせ大人の一般人が十人束になったところで、子供の術師一人にさえ敵わないと言われているほどに、一般人と術師との力の差は歴然だった。
だから刹那はこう呟いた。
「術師なんて、死んじまえ」
そしてそんな恨み言しか言えない自分自身が誰よりも、なによりも無価値な存在に思えていた。
一人の青年がそう気怠げに朝食を口に運んでいた。
「もう! お行儀が悪いよ! お兄ちゃん」
頬杖を突きながら箸でご飯をつつくマナーの悪い青年に、少女がそう注意する。
「あー・・・なんだっけか、なんか怖い夢を見たんだよな・・・よく覚えてないけど」
「夢? お兄ちゃん、前にもそんな事言ってなかった?」
「・・・そうだっけか?」
「ほんと、しっかりしてよ! 今日から高校生でしょ!」
青年は妹の苦言に返す言葉もなく、目を覚まそうと苦手なコヒーを口いっぱいに含み、飲み込んだ。
「ご馳走様」
そして真新しい制服を身につけて姿見の前に立つ。
「この前習ったけど、やっぱ上手く結べないな」
「お兄ちゃん不器用だからね・・・仕方ないよ」
「憐れまないでくれ、これは父さん譲りだ。んじゃ、行ってくる」
青年は鞄を持って外に出る。
「行ってらっしゃい。刹那お兄ちゃん」
妹の兎和に見送られ、秋鹿刹那は学校へと向かった。
今日で高校生になる刹那にとって街の景色は見慣れたものだったが、どこを見ても目に入る巨大な壁にはいつも辟易していた。
その壁は千年前、悪魔の軍勢より人々を守るために英雄達により建てられたものだと伝えられている。そしてそれが真実であるということも誰もが知っている事だった。
なぜならこの国にはーーー神がいるからだ。
そしてその神がそのことを明言しているのだから、信じない方がおかしいというもの。
ーーーあの向こうには今も悪魔が存在している、か・・・悪魔ってなんなんだろうな・・・
悪魔について刹那が知ることは少なかった。それは彼が一般人である事が要因だった。
この世界を救った英雄、彼らが悪魔を退けた不思議な力ーーー錬成は子々孫々と受け継がれ、その不思議な力を持った者達を総じて術師と呼んだ。そしてそうでない者は一般人と呼ばれていた。
悪魔に対抗する力を持つ術師は今もなお増え続ける悪魔共をあの壁の向こうで退治し、この世界の平和を保っていた。
しかしそんな術師達に対して刹那が抱く思いは感謝では無かった。
ーーー胸くそ悪い連中だ。
この捻くれ者かのような思想に関して追求するとするなら、この国のあり様が原因といえた。
子々孫々受け継がれる力、錬成はある日を境にその力の継承者数を著しく減少させていた。理由は簡単だ。浅ましい力のある者たちが力の広まりを抑制し、この狭い檻の中に特権階級を築くため一般人と術師との婚姻を一切禁じたからだ。
力の広まりを抑制し、自分たちの地位を強固なものとして一般人を劣等種とする術師に腹が立つのも道理といえる。
それでもそれがこの国のルールである以上、刹那が何を言ったところで変わらないし、現にその人口が十数倍以上ある一般人達が暴動を起こしたところで、無駄死にする事は火を見るより明らかだった。
なにせ大人の一般人が十人束になったところで、子供の術師一人にさえ敵わないと言われているほどに、一般人と術師との力の差は歴然だった。
だから刹那はこう呟いた。
「術師なんて、死んじまえ」
そしてそんな恨み言しか言えない自分自身が誰よりも、なによりも無価値な存在に思えていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
人生フリーフォールの僕が、スキル【大落下】で逆に急上昇してしまった件~世のため人のためみんなのために戦ってたら知らぬ間に最強になってました
THE TAKE
ファンタジー
落ちて落ちて落ちてばかりな人生を過ごしてきた高校生の僕【大楽 歌(オオラク ウタ)】は、諦めずコツコツと努力に努力を積み重ね、ついに初めての成功を掴み取った。……だったのに、橋から落ちて流されて、気付けば知らない世界の空から落ちてました。
神から与えられしスキル【大落下】を駆使し、落ちっぱなしだった僕の人生を変えるため、そしてかけがえのない人たちを守るため、また一から人生をやり直します!
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる