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二幕 "邂逅"

【十五話:学長】

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「へっ、口だけは達者のようだな。なら見せてみろよ、お前さんの本気とやらを」

「いいよ。少しだけ見せてあげる」

 私は試験に用意された武器から木剣を手に取った。
 エマも覚悟を決め模造の長槍を手にした。

「ねぇ、ギュニアラ試験官。確認だけど、あなたに一撃当てる事で試験は合格。もちろん魔力の使用は有り、で合ってる?」

「あぁ、やれるもんならな!」

 私は兄達がタゴアおじさんから習っていたミカゲ流を見様見真似で模倣する。

「は! なにかと思えば古臭い田舎剣術かよ!? こりゃ笑えるぜ!」

 ミカゲ流は護りの剣術と呼ばれ、五つある極意のほとんどが後手による反撃術だ。そのため好戦的な兵士や騎士からは好まれず、あまり普及していない。
 けれど、その中に一つだけ護りを全て捨てた攻勢術が存在する。
 それがーーーー。

「ミカゲ流《一ノ極意ハタタガミ 》!」

 木剣を扱える程度に魔力を制御し、身体能力を強化。

 相手を仕留めるための最小限の力で、間違っても本気は出さないように注意してっと……

 そして余分な力を抜き、ひたすらに集中する。
 的を小さく絞り込み、その一点に剣先を定めた。

 ……嘘よね……ユナちゃんからとてつもない魔力を感じるわ。こんな幼い子が、有りえない……!?

「いくよ!」

 足に力を入れると土が抉れ、力強く踏み込み地面が揺れた。
 そして刹那、轟音と共に紫電が走り、その閃光は数十メートル離れたギュニアラの首元へと一瞬で迫る。

 おっと……!?

 その剣先が喉元に届く寸前で剣を引き、飛び跳ねた勢いを殺すように体をよじり着地した。

「……ふぅ、危ない危ない……!? 思ったより力んじゃったみたい……もっと上手く制御しないと」

 私は通り過ぎたギュニアラに近づき、軽く胴に木剣を当てた。

「これで合格、だよね? 試験官さん」

「……な、なんだ……今のは??? 魔法、か……!!?」

「なにって剣術だよ。魔力強化で身体能力は上げてたけど」

 兄達に比べれば酷く拙い不格好な出来だが、あの時よりは幾分か様になっているだろう。まぁ力技であることは否定しないが。
 結局私はタゴアおじさんから一切師事を受けていない。ただ見るだけならいいと言われ、魔力制御の基本を小天こあめから教わりながら、みんなの様子を眺めていた。それに加え、兄やリン達からこっそりコツを教わり何とか身に付けたのがこの《一ノ極意ハタタガミ 》だった。

「……ゆ、赦されない。……俺が負けた? こんな子供に? こんなことあいつらになんていえば……ダメだ、きっと殺される……は、はははははははははははは!!! いや、狼狽えることはないだろうが!? ここでは俺が全てなんだからな!!! つまりは残念でした!!! てめぇらは不合格、不合格だ!!! アハハハハハハハハハ!!!」

「……約束を破るの?」

「約束? 知るか! ここでは俺が絶対だ! 俺が不合格といえばてめぇらは不合格なんだよ! バーカ!!!」

 あーもう、なんか勝手に吹っ切れてるし、これじゃ話にならないな。というかそれは通るのか? それとも頭に血が昇り過ぎてめちゃくちゃ言ってるだけなんだろうか……?
 うーん……これはどうしたものか……

 そう悩んでいるとエマが声を張り上げた。

「ふざけないで!!! 貴方たちが私に対して何をしようと構わないわ! でも他の人を、ユナちゃんを巻き込まないでよ!!!」

「巻き込まないで……? 巻き込まれたのは俺の方だ! あの連中がてめぇを不合格にすれば大金をくれるっていうから乗ったってのに! なんだよこの化けもんみたいなガキは! 聞いてねぇぞ!」

 それ、なんの正当性もないじゃん……本当何いってんだろこの人。

「こいつさえいなければ……こいつさえいなければ……!!!」

 ギュニアラは懐に忍ばせていた本物の短剣を取り出し、それを私に向けて振るう。

「死ねーーー!!!」

「ユナちゃん!!?」

 冷静さを失うって、本当に危ないね……もっとちゃんと周りを見なきゃ。まぁ人のことはいえないけどさ。

 短剣が私に届く前に、ギュニアラの動きがピタリと止まる。

「ーーーー無茶はしないでよ、ユナ」

「つまんねー試験で飽き飽きしてたんだ。今度はこの俺が相手してやるぜ、おっさん」

「ユナちゃんにそんな危険なもの向けた事、あの世で後悔してきなさい」

 ヨミお兄ちゃん、カイト、リンがギュニアラの首元に模造の剣を向けていた。
 模造といっても急所を狙われたギュニアラは、腐っても剣士というべきだろうか、危機を察知し動きを即座に止めていた。

「なんだてめぇら……!!?」

「初めまして。僕はユナの兄で、ヨミと言います」

「俺は【勇者一行ブレイバーズ】のリーダー、カイトだ! この名前覚えとけよ、おっさん!」

「私は【勇者一行ブレイバーズ】、ユナちゃん親衛隊隊長リンよ」

 なんかサラッと変な組織が増えてるんだけど!?

 彼らは決して急に現れたわけじゃない。
 私が放った一撃で発せられた爆音で、この場には人が集まり出していた。
 ギュニアラは冷静さを欠き、それにすら気付いていないようだったが。

「ってかなんでお前らも来たんだ?! ここは俺一人で十分だ!」

「ねぇヨミにぃ、剣の力緩めてくれない? このクズ殺せないんだけど?」

「そうさせないために力を入れてるんだよ。というか当てるつもりだったよね」

「……うぜぇうぜぇ、うぜぇ!!! どいつもこいつもまどろっこしい……全員殺すーーーー!!!」

 そしてギュニアラの殺意が他へと向けられた時。

「ーーーーそこまでじゃ!」

 群がる試験者たちの中から筋骨隆々な白髪の男がそう声を発した。

「かつて【双剣の達人ソウケンマスター】とも呼ばれた男が、地に堕ちたものだなギュニアラよ」

「学長……!?」

 大人の中でも頭二つ分背が高く、子供目線なら少なからず威圧が掛かる。
 けれどその優しい声に、慈愛を向けるような表情に安らぎさえ覚えた。

「そこの才ある少年少女よ。一度その剣、引いてはくれぬか?」

 兄達はその言葉に何の反抗もなく剣を下ろした。

 カイト辺りが騒ぐかとも思ったけど、杞憂だったみたい。

「ギュニアラよ。なにか言いたいことはあるかの?」

「……ありません!!! なにも……!!! 俺は……いいえ、私は……申し訳ありません!!!」

 学長の登場によりギュニアラの態度が一変した。

 これ魔法だよね、小天こあめ……?

『いいや、この人間はなにもしてないよ。強いて言えば人徳だろうね。ただまぁそれが魔法のように感じるっていうなら、あながち間違いでもないんだろうけど』

 人徳か。
 しかもそれが人を改心させるほどのものって……きっとこの人は繋がりを大切に出来る人なんだろうな。

「そうか。ライザルト、彼のことを頼めるか」

「はい! この身を賭して」

「まったく……大袈裟なやつじゃ」

 ライザルトがギュニアラを連れ学校を出て行った。
 学長がそれを見届けると、こちらに近づいて屈んだ。

「すまなかった。身内が迷惑を掛けたようじゃ」

「気にしないで、私は皆んなに護ってもらったから」

「ほっほっ、あの少年たちは君の騎士ナイトであったか。とても大事に思われておるようじゃの」

「えへへぇ」

 そう改まって人から言われると、けっこう照れるな。

「ーーーーハーヴェスト=ニューム学長ですね」

 そうエマが言った。
 学長がエマのその姿を見ると、周りの者たちを遠ざけ、場所を移した。
 だと言うのになぜかそこにはエマの要求で私も同席していた。

「久しぶりじゃのう。こんなに大きくなられて、ますます王女様に似てきたのぉ」

 ……ん?

「ニューム学長も御壮健のようでなによりです。それで、今後についてなのですが……」

「それは試験結果、ひいてはこの騎士養成学校にが通われる事についてかの? ルミエール王国第二皇女、ゼノア姫よ」

 ……姫?
 エマが、お姫様!!?

「…………」
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