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二幕 "邂逅"
【八話:魔力】
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「私を弟子にしてください!」
それはおおよそ4歳児が口にするには不釣り合いな言葉だった。
「……ヤシャルの娘か。いったい何の冗談だ?」
「タゴアおじさん、冗談なんかじゃないよ! 私は強くなりたいの!」
タゴアはかつて都市近郊の街、ニーヴェルハイネで魔物に右腕を奪われるまで長年兵士を務めた剣客だ。
退役後は故郷のイシュカ村にて小さな訓練場をこさえ、志願者に剣術の手解きをしていた。
オーガ襲来に際しては老いと隻腕であることから前線には立たなかったものの、その実力は村一番といわれ、今回避難の殿を任されたほどだ。
「どうしてまた……って聞くのは野暮だよな。まぁ気持ちは分からんでもないが、昨日今日魔力を宿したばかりの子どもにつける稽古はねぇ」
「そこをなんとか! お願いします!」
「……こりゃ参ったな。あぁ、なら試験を受けるか?」
「試験……?」
タゴアが訓練用の木剣を二本携えてきた。
そしてその一つを私に渡し言った。
「それを使って俺から一本取ってみろ! それを試験とする」
なんともシンプルで子どもにも分かりやすい試験だ。
だからこそこの試験が落とすことを前提としている事も容易に知れた。
なぜならーーーー
おっっっっっも!!!!
全長1.2メートルの木剣、その質量およそ1キログラム。それは可憐な幼女が振るうには無理がある代物だった。
「ん? どうした? 試験はもう始まってるぞ?」
こんのぉ……!
いくら力を入れても刃先が僅かに地面から浮く程度。これじゃ一本取るどころか、振り上げることも出来やしない。
タゴアはそれを見越してこの試験を持ちかけたのだ。
なんとも意地の悪い話だ。
『ーーなぁ主よ』
「なに……!? 今、すごく……忙しいんだけど……!?」
『あー、それは分かるんだけどさ……どうして主は魔力を纏わないんだ?』
「魔力……? なに? どういうこと?」
「おう、独り言とは余裕だな。それとも諦めたか?」
タゴアがニヤニヤと口元を緩ませた。
「まだ、だ……!」
しかしやっぱりというか、小天の声は他には聞こえていないらしい。
実際、小天の声は聴こえるという感じではなく、頭に響くような感じだった。
『主、先日の戦いを思い出すんだ。あの時主はあの魔物と対等に渡り合っていたじゃないか。無自覚だったんだろうけど、あれは魔力を身に纏うことで身体能力を向上させてたからだよ』
……魔力を纏う……?
そう言われても今はあの時のような光も、温もりも感じないし。
『大丈夫。心を落ち着かせて。魔力はすでに主の中にあるんだから』
心を、落ち着かせる……
そう言われ深く呼吸する。
すると、身体の内側に温かいものを感じた。
これか……なんだろう、これに意識を集中するとすごく安心する。もうしばらくこうして……っーーーー熱ッ!!!
『ほら、早く解き放たないと気を失うよ』
「そういうのは、先に言って……!」
呼吸を乱し、急に苦しみだす私を見てタゴアが慌てたように声を掛けてきた。
「どうしたんだ?! おい! 聞こえてるのか!!?」
タゴアの心配をよそに、俺は意識を再び内へと向けた。
身体の中の魔力を感じ、それが意識によって身体の中を動かせることが分かった。
だからあとはそれを身体の外へと向けるだけ。
「な、魔力強化だと……!? まさか……? いや、あやつらの話が事実だっただけのことか……」
青白い光、魔力が私の全身を覆う。
……あの時と同じだ。
私は木剣を軽々と持ち上げ、タゴアと向き合った。
「魔力による身体能力の底上げ……神童とはこの事か。だが試験は終わっていない! さぁ、手合わせと行こう!」
タゴアの掛け声を皮切りに、そこから凄まじい剣戟が鳴り響いた。
その一太刀一太刀の受け合いは子ども同士のごっこ遊びでは決してなく、兵士による全力の模擬戦に近かった。
『わたしめを使えば一瞬で終わるよ』
それはそうかもしれないけど、それじゃ意味がない。小天に頼っていちゃタゴアおじさんのような本当の強さは手に入らない!
タゴアの強さ、それは剣術と呼ぶに相応しい技術の高さだ。
魔力により身体能力を格段に上げた今の私は、間違いなくタゴアおじさんより力もスピードも勝っている。けれど、タゴアおじさんは私の攻撃を流れるようにいなしては、その隙をついて反撃を繰り出していた。
しかも片腕で、だ。
『けど、この人間一人じゃオーガは倒せないよ』
それは相性というか、無駄のない繊細な体捌きや相手の剣筋を逸らす剣使いから、そもそもタゴアの剣術が対人戦を想定されているからだろうと予測がつく。
「私は強くなりたい! 護りたいの!」
「かはは、その威勢や良し! それは久方ぶりに見る戦士の眼! だがーーーー」
バシッ、と鋭い一閃が私の首筋に触れた。
「試験は失格とする」
そう告げるタゴアの眼に少なからず恐怖を覚えた。
「……ありがとう、ございました」
身体から力が抜けていく。
魔力が身体から霧散していき、強烈な眠気に襲われた。
「あ……れ?」
ふらりと足から崩れ、地面に伏した。
そしてそのまま眠りについてしまった。
「魔力切れか。まったくこんな小さな少女にワシら大人が救われたとは。しかしな、まだ大人の矜持を捨てるわけにはいかねぇ。この命に代えてもこの小さな英雄を護ると誓おう。なぁ、ヤシャルよ」
それはおおよそ4歳児が口にするには不釣り合いな言葉だった。
「……ヤシャルの娘か。いったい何の冗談だ?」
「タゴアおじさん、冗談なんかじゃないよ! 私は強くなりたいの!」
タゴアはかつて都市近郊の街、ニーヴェルハイネで魔物に右腕を奪われるまで長年兵士を務めた剣客だ。
退役後は故郷のイシュカ村にて小さな訓練場をこさえ、志願者に剣術の手解きをしていた。
オーガ襲来に際しては老いと隻腕であることから前線には立たなかったものの、その実力は村一番といわれ、今回避難の殿を任されたほどだ。
「どうしてまた……って聞くのは野暮だよな。まぁ気持ちは分からんでもないが、昨日今日魔力を宿したばかりの子どもにつける稽古はねぇ」
「そこをなんとか! お願いします!」
「……こりゃ参ったな。あぁ、なら試験を受けるか?」
「試験……?」
タゴアが訓練用の木剣を二本携えてきた。
そしてその一つを私に渡し言った。
「それを使って俺から一本取ってみろ! それを試験とする」
なんともシンプルで子どもにも分かりやすい試験だ。
だからこそこの試験が落とすことを前提としている事も容易に知れた。
なぜならーーーー
おっっっっっも!!!!
全長1.2メートルの木剣、その質量およそ1キログラム。それは可憐な幼女が振るうには無理がある代物だった。
「ん? どうした? 試験はもう始まってるぞ?」
こんのぉ……!
いくら力を入れても刃先が僅かに地面から浮く程度。これじゃ一本取るどころか、振り上げることも出来やしない。
タゴアはそれを見越してこの試験を持ちかけたのだ。
なんとも意地の悪い話だ。
『ーーなぁ主よ』
「なに……!? 今、すごく……忙しいんだけど……!?」
『あー、それは分かるんだけどさ……どうして主は魔力を纏わないんだ?』
「魔力……? なに? どういうこと?」
「おう、独り言とは余裕だな。それとも諦めたか?」
タゴアがニヤニヤと口元を緩ませた。
「まだ、だ……!」
しかしやっぱりというか、小天の声は他には聞こえていないらしい。
実際、小天の声は聴こえるという感じではなく、頭に響くような感じだった。
『主、先日の戦いを思い出すんだ。あの時主はあの魔物と対等に渡り合っていたじゃないか。無自覚だったんだろうけど、あれは魔力を身に纏うことで身体能力を向上させてたからだよ』
……魔力を纏う……?
そう言われても今はあの時のような光も、温もりも感じないし。
『大丈夫。心を落ち着かせて。魔力はすでに主の中にあるんだから』
心を、落ち着かせる……
そう言われ深く呼吸する。
すると、身体の内側に温かいものを感じた。
これか……なんだろう、これに意識を集中するとすごく安心する。もうしばらくこうして……っーーーー熱ッ!!!
『ほら、早く解き放たないと気を失うよ』
「そういうのは、先に言って……!」
呼吸を乱し、急に苦しみだす私を見てタゴアが慌てたように声を掛けてきた。
「どうしたんだ?! おい! 聞こえてるのか!!?」
タゴアの心配をよそに、俺は意識を再び内へと向けた。
身体の中の魔力を感じ、それが意識によって身体の中を動かせることが分かった。
だからあとはそれを身体の外へと向けるだけ。
「な、魔力強化だと……!? まさか……? いや、あやつらの話が事実だっただけのことか……」
青白い光、魔力が私の全身を覆う。
……あの時と同じだ。
私は木剣を軽々と持ち上げ、タゴアと向き合った。
「魔力による身体能力の底上げ……神童とはこの事か。だが試験は終わっていない! さぁ、手合わせと行こう!」
タゴアの掛け声を皮切りに、そこから凄まじい剣戟が鳴り響いた。
その一太刀一太刀の受け合いは子ども同士のごっこ遊びでは決してなく、兵士による全力の模擬戦に近かった。
『わたしめを使えば一瞬で終わるよ』
それはそうかもしれないけど、それじゃ意味がない。小天に頼っていちゃタゴアおじさんのような本当の強さは手に入らない!
タゴアの強さ、それは剣術と呼ぶに相応しい技術の高さだ。
魔力により身体能力を格段に上げた今の私は、間違いなくタゴアおじさんより力もスピードも勝っている。けれど、タゴアおじさんは私の攻撃を流れるようにいなしては、その隙をついて反撃を繰り出していた。
しかも片腕で、だ。
『けど、この人間一人じゃオーガは倒せないよ』
それは相性というか、無駄のない繊細な体捌きや相手の剣筋を逸らす剣使いから、そもそもタゴアの剣術が対人戦を想定されているからだろうと予測がつく。
「私は強くなりたい! 護りたいの!」
「かはは、その威勢や良し! それは久方ぶりに見る戦士の眼! だがーーーー」
バシッ、と鋭い一閃が私の首筋に触れた。
「試験は失格とする」
そう告げるタゴアの眼に少なからず恐怖を覚えた。
「……ありがとう、ございました」
身体から力が抜けていく。
魔力が身体から霧散していき、強烈な眠気に襲われた。
「あ……れ?」
ふらりと足から崩れ、地面に伏した。
そしてそのまま眠りについてしまった。
「魔力切れか。まったくこんな小さな少女にワシら大人が救われたとは。しかしな、まだ大人の矜持を捨てるわけにはいかねぇ。この命に代えてもこの小さな英雄を護ると誓おう。なぁ、ヤシャルよ」
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